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第16話 勇者エリア2
しおりを挟む「だから、先に話しを聞きなさいって言ったじゃないの。」
諦めたようなエリミリア大聖女のため息。
魔王は侵略なんかしていなかった。
人族は魔王領にあるミスリル鉱の鉱山が欲しかった。
魔族の人外の能力に嫉妬しただけ。
元々魔族は人族に対して圧倒的に数が少ない。
魔族は人族に何も求めてはいなかった。
勇者は人族の王に利用された。
魔王が居なくなって魔族は国を失い弱体化して散り散りになった。
人族に差別され弾圧されるようになってしまった。
勇者の心は病んだ。
ある日、目前で王族の1人が魔族の子供を足蹴にするのを見てキレた。
勇者の爆発的な力で王城は跡形もなくなった。
エリミリアが別の王朝を立ち上げてなんとか亡国を防いだ。
それから勇者は他国であっても軍事行動をする国々を片っ端から滅ぼした。
「だから、なんだって言うの?私は何もわからないままで魔王を殺してしまった。」
「圧倒的に数が多い人族は放っておくとすぐに少数の種族をいじめる。」
「人族は競争を、争いを、闘いを、戦争を求めて止まない。」
「私は滅ぼす相手を間違えた。」
いつからか勇者の行方はわからなくなった。
役割を終えて元の世界に帰ったなどと言うものもあったが、おそらくそれはない。
そこから再度召喚されるまで私が何をしていたのかはわからない。
ただ再びこの世界に来てすぐに魔王の魔力を感じた。
魔王が復活していることはすぐにわかった。
今度こそ、今度こそ......。
なのにこの目の前のこの世界の有り様はなんなの。
つまらない魔障結界が張られ、貧弱な手枷、足枷をつけられて。
民衆は熱狂して「人族の裏切り者。」「王族殺し。」などと叫んで石を投げつけて来る。
そんな物で勇者の私を傷つけられると思っているの?
沸々と怒りが力となって膨れ上がって来る。
この国も世界も滅ぼしてしまえ。
「エリアー。何してんだー。帰るぞー。」
民衆の向こうから声が聞こえる。
マヨルの声、小さな魔王の声が。
グッと胸の奥が熱くなった、怒りよりも安堵感が勇者を包む。
魔障結界も手枷も足枷も弾け飛んだ。
隣にいたハイデギアが驚いている。
慌てて護衛の騎士の後ろに隠れた。
勇者は一足飛びに、集まった民衆の頭の上を飛び越えた。
勇者はもう2度と失いたくないものの腕の中に飛び込んだ。
と思ったけど大きさ的にそれは無理だった。
魔王が自分の腕の中にあった。
小さな、柔らかな子供。
自分が守るべきものがなんだったのか初めてわかった。
「くく、くるしい。エリアはなして死んじゃう。」
「ジャッドも今、反ハイデギア派が助けているところだよ。」
魔王は転移魔法で一気に魔王城に移動した。
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