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第33話 ワーリク侯爵邸

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サーフラお嬢様については月に何度か実家のテスカの街のワーリク侯爵邸に連れて帰るようにしている。

転移魔法があるんだから本当は毎日でも連れて行けるんだけど、それだと冒険の旅をしている感じがでないからヤダってサーフラが言うんだ。

ワーリク侯爵邸にはいいシェフがいるから行った時にいろんな料理を作ってもらうんだ。

歴代の召喚された勇者達は前世を懐かしんで結構いろいろやらかしている。

食べ物なんかでも、味噌汁だとか納豆だとかこの世界には全然似合わないものが以外と普通にある。

ワーリク侯爵邸の厨房は前世のレストランの厨房に良く似ている。

冷蔵庫やオーブンなど設置が充実している上にシェフの助手がたくさんいる。

オレが料理の内容をシェフと打ち合わせしているとみんな興味深そうに集まって来て手伝ってくれる。

そうして出来た料理をインベントリにしまい込んで旅の間小出しにするんだ。

パンだとかはたくさん持っているんだけど、同じものばっかりだとパエリの機嫌が悪くなるからね。

「ムールはなんでそんなにパエリを甘やかすのかしら。」

ってサーフラに怒られるけど、パエリが不機嫌なのっていやでしょう?

厨房から図書室に向かう途中にワーリク侯爵の執務室がある。


ここの図書室って前世の地方の図書館ほど大きくて蔵書が多い。

ここで歴史や魔法書、錬金術の本を読むのは結構楽しい。

通りがかりに執務室を覗くと侯爵と従者が3人がかりで書類の山に取り組んでいたので部屋に入って行く。

「ムールさんすみません、今手が離せなくて。」

侯爵が恐縮している。

書類の状態を見ると分類と時系列がめちゃくちゃになっている。

いろんな案件の書類がバラバラの書類の山に分かれてしまっていて判断も決裁もできないってところ。

しかも書式もないので初めっから最後まで読まないとなんのこっちゃさっぱりわからない。

さっさと分類と時系列を整えると
決裁が必要な案件は3つ程だった。

「さすがは賢者様。」

って侯爵は言うけどオレがしたのは書類の仕分けだけだからね。

だいたいこう言うものは沢山の人達が仕事のふりをするために無理矢理書類や手続きを増やして忙しがっているだけって事が多いんだ。

まあ、給金を貰うためって考えたら必要なのかもしれない。

ここで仕事の改善とか言って書式の統合だとかプロトコルの整理などと口出しするとまた仕事を増やしたり硬直化させてしまうからやめておいた方がいい。

大きなお世話をしてしまったかも。

図書室に向かう廊下で侯爵の姉、冒険者で 剣聖のジェネに会う。
サーフラのおばさんに当たる。

「ちっちゃな大賢者、人の家を我が物顔で歩いて何をしておる。」

「もうサーフラの亭主のつもりか?」

確かに厚かまし過ぎるかな?

ジュネにとっては大賢者に呪いを解いてもらった事など頼んだわけでもない知った事ではない。

かわいい姪っ子に気に入られている事をいい事に侯爵邸で好き勝手にしている事が気に入らない。

ジュネは剣を抜いてムールに突きつける。

「私も出戻りで偉そうには言えないけど一応ここは実家だからな。」

常人では見る事もできない剣速。
剣筋は鋭い。

剣聖は伊達ではない。

ムールは紙一重でかわしながら中庭に出る。

剣は容赦なく耳元や首筋近くを掠めて行く。

「なかなかの体捌きじゃないか。賢者ってのは体術まで優れているって言うのかい。」

ジュネは嬉しそうに言う。

確かにジュネ程になると相手が出来る者は限られてしまうのだろう。

「じゃあ、同じ土俵に立ってやるかな?」

そう言ってムールがインベントリから剣を取り出すとジュネがにっこりと微笑む。

このおばさんツンデレ。かまって欲しかっただけ。

まるで剣舞を舞う様にヒュンヒュンと剣を振り交わす。
互いに剣を打ち当てることはない。

この速度で剣を動かすためには剣を打ち当てた事による反りや歪みは剣筋を狂わせるので致命的だし、相互の技量を思えば折れてしまいかねない。

足捌きは宙を行くように乱れがなく足音すらしない。

剣が空気を切る音だけが聞こえている。

ムールがジュネの剣の柄を蹴って飛び退る。

「ふん。大賢者、加減したな。」

ジュネが言う。

「だが満足した。加減されなけばたちまち死んでしまう力量の差はすぐにわかったからな。私は大賢者の弟子になる。更なる剣の高みを見るためにな。」

え?弟子は募集していませんが。





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