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第93話●世界は終わらない
しおりを挟む「これって何の目的があるの?」
クロウラが言う。
エリミリアは少し困った顔をして答える。
「目的がないわけじゃないけど。」
「多分、じきにわかるわ。」
「魔女ってこんなにたくさんいたのね。」
レテが新月の夜空を見上げて言う。
星々が埋め尽くす夜空に黒いシルエットもまた夜空を埋め尽くしてコウテン山をぐるぐると旋回している。
空を舞う天灯を目印にするかのように続々と魔女が集まって来る。
空中に含まれる魔素濃度がどんどん上がって来る。
普通の人間なら魔素酔いを起こしてしまうだろう。
久しぶりに会った魔女達はまるで引きこもっていた間の研鑽の成果を発表するかのように各々のとっておきの魔法で花火を上げる。
もちろん、これでも本当の手の内をさらしてはいないのだから奥深い。
コウテン山は派手な花火大会の様相を呈している。
濃度を増した魔素に惹かれて精霊達も集まって来る。
「タルソ兄、これいったいどうなるのよ。」
エリミリアが珍しく焦っている。
今は神の1柱だがエリミリアの兄で魔法師。
錬金術としての方が有名かもしれない。
前任の神様の気まぐれで今は神様になってしまった。
「今って全体的に空気中の魔素がすごく少なくなっているんだよ。」
それで魔法大全に記載されているほどの効果があがらないんだ。
ギドには思い当たる節がある。
魔石に魔力を溜め込むのにも時間がかかるし。
魔女がいた頃、魔法大全が編纂された頃はもっと空中の魔素がたくさんあったんだ。
「魔素はどこへいってしまったの?」
タルソ・イェンゼンはド派手に上げられている花火を指差した。
「一部は魔女達の研究の為に使われて魔法陣や術式の中に固定された。」
「そして魔物や精霊などの体に。」
「使われない事で不活性化が進んで沈殿してしまったものも。」
魔素は消費されるのではなく固定化されるのか?
そしてそれは不活性化して世界に沈殿する。
「そうだよ、この世界が魔法の世界である為にはその固定化したり沈殿している魔素を解放して撹拌、活性化する必要があるんだよ。」
「サバトはその為の儀式なんだね!」
ギドはとっても深い世界の真理を知った様な気がした。
神妙な顔をしているギドを見てタルソがふきだす。
「あーっ。いや、すまん。」
タルソ・イェンゼンが申し訳なさそうに言う。
「言い訳なんだよ。魔女達を引っ張り出すための」」
「あいつら何かに没頭するとのめり込んで引きこもって全然、世の中に出てこないんだ。君もわかるだろ。」
ギドも同じなのでとっても良くわかる。
「だから、魔素を口実に大宴会をする事にしたんだ。だからこれはただの魔女達の宴会。魔女子会ってどう?」
ちょっと微妙。
「うーい。異端尋問してみろよ。」
アルテラット神官長が酔っ払いの魔女に絡まれている。
ファイヤーボールでジャグリングしている酔っ払い魔女もいる。
精霊達も酔っ払ってぐるぐる回っている。
セラフィムやケルビムの歌声も酔っ払っているせいかちょっと音程がおかしい。
神様達は面倒くさくなったのかお酒を生成して空中からザーザー川の様に流して飲みたい放題にしているし。
境内には露店が立ち並んでいる。
魔法の花火は終わらない。
こんなことでいいの?
「楽しくないかい?」
まだお酒は飲めないけど雰囲気は悪くない。
「これでかなり魔素濃度が上がるから魔法で出来る事は増えるよ。だから、まだまだ楽しめるよ。」
「世界はまだまだ終わらないよ。」
タルソ・イェンゼンは世界が活性化していくのが嬉しいんだね。
ゲームのストーリーが終わってエンドロールが流れてもこの世界は続くんだ。
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