魔法大全 最強魔法師は無自覚

第87話●マーリン1

結局ギドはファルコ・イエンツに抱えられて猫の様に頭を撫でられている。

隣に座ったレテは歯軋りをして悔しがっている。

最終的にはファルコが作ったモンシロチョウがひらひらとレテの死角から鼻の上に止まったところで決着がついた。

この蝶に攻撃的な魔法が仕込まれていたら一巻の終わりだからね。

魔法使いとしては負け。

魔法師同士の戦いでは行使される魔法の強さで押し切るのはあまり喜ばれない。

芸がないし、楽しくないから。

精緻な制御と意表を突いた工夫が魔法の真骨頂だね。

「レテも凄かったよ。年の功でなんとか私の勝ちって所ね。ここ200年の間で最高に楽しかったわ。」

ファルコが言う。

「うー。もう一工夫足りないのはわかったけど、そのひと工夫が果てしなく遠いのよ。」

そう言うふうに違いがわかってどうすればいいのかすぐにわかって実行出来るレテはやっぱり凄い。

ファルコの膝の上でギドは関心している。

レテはまだまだ伸びる。
その才能と感受性が努力したと感じさせないスマートさが彼女の可能性をどんどん先へと押しやるのだ。

それはギドにない、とても羨ましいことだけど。

ただギドにはたくさんの時間がある。

インベントリの中では時間は無限だからね。

そして倦くことのない限りない好奇心が。

「面白い事しているじゃないの。」

どこからか黒い猫がギドの目の前のテーブルの上に現れる。

「あ、コラ、ダメ、はなせ。なんで急にしっぽをつかむ？」

あ。

ギドが無意識に猫のしっぽをつかんでしまう。
これは習性なので仕方がないのだ？

「かっこいい事を言おうとしていたのに忘れちゃったじゃないか。」

「普通、猫のしっぽなんか掴んだら噛まれたり、引っ掻かれたり大惨事なんだぞ。」

黒い猫は人化してお姉さんになった。