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第27話●世界樹1

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大森林の外縁を越えて奥深くへと入っていくと木々の密度が高くなってくる。

ドラゴンのピコがいるせいか襲おうとする魔獣も魔物もいない。

魔物たちは本能的に自分より強い相手がわかるし、強い相手には向かっていかない。

魔物たちは皆、道を譲る様に避けて行く。

木々もまたエルフの里長エタリスがいるせいなのか馬車の通り道を作るように左右に分かれる。

女性らしい二人が決死の覚悟と言った表情で両手を広げてギド達の行く先を遮っている。

一人は弓を構えている。

「この先は我らの里。何用か。」
声が震えている。

強い魔力を感じて怖いんだろう。

里長が馬車から降りて二人に近づく。

「あ。里長様」と言って彼女たちも近づいてくる。

おお、エルフだみんな耳がとがっている。
そしてとても整った顔立ちをしている。
美人さんだ。

ギド達は彼らに伴われてさらに森の奥のエルフの里に入った。

エルフはある程度育つと老化しないらしい。
しかも超長生きする。
そのせいかみんなのんびりとしている。

エルフ時間というやつで。
約束した日時と10日位遅れても何とも思わない。
また、平気で遅れてくるらしい。
実際里長も本当は10日ほど前に帰ってくる予定だったらしい。

エルフの里はぶっとい木のウロが住居として利用されていて木と木の間に縦横に吊り橋が渡されている。

上がる時は木の周りに設けられた螺旋状の階段を使い、降りるときは植物の蔓なのかローブなのかわからんものをスルスルとつたって降りてくる。

女性は主に丈の短い貫頭衣の様なものを来ているので見上げるといろいろ見えてしまう。

エルフたちは超長生きで性的なことにはほぼ無関心らしいので気にならないのだろう。

ひときわ太い木の上からローブを伝って20歳ぐらいの女性がスルスルと降りてきた。

レテがギドの目をふさいでいる。

「里長、おかえりなさい。人間を連れてきたの?」

「オールドマスターウィザードをお連れしたのよ。」

「どれ?」

里の子の目が泳いでいるよ。
まさかいくら魔力があってもこのちっこいのがマスターだとは思えないんだろうな。

木のウロとは思えない大きさの円形の広間。

天井から布をテントのように壁面に沿わせて垂らしている。

鮮やかな色で魔獣や神獣の絵がシンボル化されて描かれている。

上座の中央には金色の箔が貼られ白で人のシルエットが描かれている。

あれは神か?

「勇者だと思うわ。昔勇者がこの里に来たのよ。」

この世界にも勇者がいる?
そりゃそうだ異世界に勇者と魔王は付きものだ。

侍女らしい人が木の器を運んでくる。
ざるそばじゃないか?

「この里の名産よ。勇者が蕎麦打ちに最適な水が湧く泉を掘ったのよ。」

「おいしいね。」

「麺も美味しいし、このスープもいいわ。」

勇者は蕎麦を打つのか?
何してんだ?

レテルティアは今までに蕎麦を食べたことあるのかな?

「初めて食べたわ王都では見た事ないわ。」

なんだか里に漂う魔力が落ち着かない様子。

さっきから里のエルフのティルーンっていう子が何か言いたそうなので話しを振る。

「私達の問題だからあなたに言ってもどうかと思って。」

とティルーンは言いにくい様子。

折角来たんだからいいんじゃないのかな?と思っていると

「いいから言いなさいよ別にそばを食べに来たわけじゃないんだから。」
とレテが言う。

「えっ違ったの?」

そうか、わざわざここまでそばを食べに来るようなやつがいるんだな?

なんでもティルーンが言うにはこの半年ぐらい世界中の葉が落ち続けているそうだ。

植物が弱れば葉は落ちる。
世界樹が弱っていると思うよね普通。

世界樹が弱くなると、守られて来た木々も弱ってしまう。

それは里が失われてしまう事につながる。
木々や森と共に生きてきたエルフにとっては死活問題だろう。

エリクサーなら治るのでは?エルフの里なんだから里にいくらでもあるじゃないかな?それで治せばいいんじゃないか。

「それが治らないのよ。今までどんな怪我や病気でもエリクサーで治して来たからエルフには他の手立てがないわ。でも世界樹はエリクサーでは治せないの。」

「何で世界樹にエリクサーが効かないの?」

世界樹はエリクサーで出来ているからね。

「あれっ?エリクサーって世界樹の葉と賢者の石と月の雫で錬成するんじゃなかったっけ。」

イサンドロが言う。

錬金術師でもないのに良く知っている。

「それで出来ない事はないけど、そんなややこしいことしなくても幹に傷をつければ出て来るのよ。」

「むやみに世界樹に傷をつけたくないから里の一部の者しか知らないけれど。」

「お土産物屋で売っているよ。」

とりあえず現場に来てみた。
とてつもなく世界樹はでかい。

これで苗なん?

幹だけでも両端が見えない壁のようで見上げるとかろうじて先が細くなって木だということがわかる。

そして空を覆う枝葉。
これが影をつくって周囲では紫外線に弱い草やキノコなどの菌類が育つ。

この菌類が古くなって倒れた木を分解する。

これを虫の幼虫が食べる。

虫が排泄して草木の養分になる。

こうして多様な生き物が生きていく。

ギデは世界樹の幹にもたれている。
幹の中を流れる水や魔力の脈動を感じる。

何か少し流れの滞ったところがある。

根っこのほうかな?

ルトラウデに抱かれていたピコが下りて来て幹に小さな手をメガホンの形にして当てる。

そこに口をつけて「ガオー。」と言うと幹の中の脈動が大きく揺れ動く。

ピコがギデの手を引いて世界樹からはなれると上の方からなんか大きなものが落ちてきた。

でっかい蝉の幼虫みたいなやつ。
こいつが世界中の樹液を吸って弱らせていたのか?

でっかい奴はもぞもぞと細い脚を動かして幹にとりついた。

また、樹液を吸うのか?と思って見ていると背中に細い筋が入りはじめた。

羽化するのか?

するとピコがギドの背後に向かってブレスを吐く。

ギドの髪の毛の先が少し焦げた。

レテが飛んできてピコをつまみあげて。

「なんてことするのよ?」
と言うと。

真っ黒に焦げたおっちゃんがぽとっと落ちて来た。

「また、君たちか、なんで邪魔をするんだ。」

あ、使徒さんだ。

「知らないわよ。あんた誰?」

使徒さんは周りをきょろきょろ見回して「ま、いいか。」といってパッと消えた。

ピコのブレスでもちょっと黒くなっただけだし、変な術式の転移を使うので今のところ追跡できない。
何者なんだろう?

使徒さんに気をとられているうちに幼虫の背中の切れ目はどんどん広がってきた。

ポンっと音がして切れ目が開くと眩いばかりの光があふれだした。

そしてその中で小さな羽虫のような形の光の粒が無数に舞っている。

ギドの頭の上に光の粒がたくさん乗っかっている。 

小さいけど人の形をしていて翅が生えている。

妖精だ。妖精が羽化した。

なんと幻想的な。

と思っていると世界樹の花が咲いた。

真っ白の雪のような花がエルフの里全体を舞っている。

別に悪いことが起っていた訳じゃ無かったんだ。

世界樹が花をつけたのを聞きつけて里のエルフ達が集まってくる。
重箱に料理を詰めて敷物を持って花見に集まってきた。

その内露店なども出てお祭りの様になった。

「平和だね。一件落着かな。」

重箱の料理をふるまわれながらの花見。
里の人が歌を歌ったり踊ったりしている。

「わしもひとつ踊りを披露してやろう。」

いつの間にか『ジュ』様がいる。

『ジュ』様の周りに鈴を掲げた巫女と楽師が現れる。

ポーンポーンと鼓の音。

ぴょーっピョーっと笛の音。

しゃーんしゃーんっと鈴の音。

白い衣装が閃くように舞う。

妖精がまとわりついて流れる様に光る。

精霊が集まって細い高い声で歌う。

光が、祈りが、祝福が地に空に満ちる。

いつの間にかさらさらと音がするように舞う世界樹の花びらにまぎれて『ジュ』様はいなくなった。








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