27 / 93
第27話●世界樹1
しおりを挟む大森林の外縁を越えて奥深くへと入っていくと木々の密度が高くなってくる。
ドラゴンのピコがいるせいか襲おうとする魔獣も魔物もいない。
魔物たちは本能的に自分より強い相手がわかるし、強い相手には向かっていかない。
魔物たちは皆、道を譲る様に避けて行く。
木々もまたエルフの里長エタリスがいるせいなのか馬車の通り道を作るように左右に分かれる。
女性らしい二人が決死の覚悟と言った表情で両手を広げてギド達の行く先を遮っている。
一人は弓を構えている。
「この先は我らの里。何用か。」
声が震えている。
強い魔力を感じて怖いんだろう。
里長が馬車から降りて二人に近づく。
「あ。里長様」と言って彼女たちも近づいてくる。
おお、エルフだみんな耳がとがっている。
そしてとても整った顔立ちをしている。
美人さんだ。
ギド達は彼らに伴われてさらに森の奥のエルフの里に入った。
エルフはある程度育つと老化しないらしい。
しかも超長生きする。
そのせいかみんなのんびりとしている。
エルフ時間というやつで。
約束した日時と10日位遅れても何とも思わない。
また、平気で遅れてくるらしい。
実際里長も本当は10日ほど前に帰ってくる予定だったらしい。
エルフの里はぶっとい木のウロが住居として利用されていて木と木の間に縦横に吊り橋が渡されている。
上がる時は木の周りに設けられた螺旋状の階段を使い、降りるときは植物の蔓なのかローブなのかわからんものをスルスルとつたって降りてくる。
女性は主に丈の短い貫頭衣の様なものを来ているので見上げるといろいろ見えてしまう。
エルフたちは超長生きで性的なことにはほぼ無関心らしいので気にならないのだろう。
ひときわ太い木の上からローブを伝って20歳ぐらいの女性がスルスルと降りてきた。
レテがギドの目をふさいでいる。
「里長、おかえりなさい。人間を連れてきたの?」
「オールドマスターウィザードをお連れしたのよ。」
「どれ?」
里の子の目が泳いでいるよ。
まさかいくら魔力があってもこのちっこいのがマスターだとは思えないんだろうな。
木のウロとは思えない大きさの円形の広間。
天井から布をテントのように壁面に沿わせて垂らしている。
鮮やかな色で魔獣や神獣の絵がシンボル化されて描かれている。
上座の中央には金色の箔が貼られ白で人のシルエットが描かれている。
あれは神か?
「勇者だと思うわ。昔勇者がこの里に来たのよ。」
この世界にも勇者がいる?
そりゃそうだ異世界に勇者と魔王は付きものだ。
侍女らしい人が木の器を運んでくる。
ざるそばじゃないか?
「この里の名産よ。勇者が蕎麦打ちに最適な水が湧く泉を掘ったのよ。」
「おいしいね。」
「麺も美味しいし、このスープもいいわ。」
勇者は蕎麦を打つのか?
何してんだ?
レテルティアは今までに蕎麦を食べたことあるのかな?
「初めて食べたわ王都では見た事ないわ。」
なんだか里に漂う魔力が落ち着かない様子。
さっきから里のエルフのティルーンっていう子が何か言いたそうなので話しを振る。
「私達の問題だからあなたに言ってもどうかと思って。」
とティルーンは言いにくい様子。
折角来たんだからいいんじゃないのかな?と思っていると
「いいから言いなさいよ別にそばを食べに来たわけじゃないんだから。」
とレテが言う。
「えっ違ったの?」
そうか、わざわざここまでそばを食べに来るようなやつがいるんだな?
なんでもティルーンが言うにはこの半年ぐらい世界中の葉が落ち続けているそうだ。
植物が弱れば葉は落ちる。
世界樹が弱っていると思うよね普通。
世界樹が弱くなると、守られて来た木々も弱ってしまう。
それは里が失われてしまう事につながる。
木々や森と共に生きてきたエルフにとっては死活問題だろう。
エリクサーなら治るのでは?エルフの里なんだから里にいくらでもあるじゃないかな?それで治せばいいんじゃないか。
「それが治らないのよ。今までどんな怪我や病気でもエリクサーで治して来たからエルフには他の手立てがないわ。でも世界樹はエリクサーでは治せないの。」
「何で世界樹にエリクサーが効かないの?」
世界樹はエリクサーで出来ているからね。
「あれっ?エリクサーって世界樹の葉と賢者の石と月の雫で錬成するんじゃなかったっけ。」
イサンドロが言う。
錬金術師でもないのに良く知っている。
「それで出来ない事はないけど、そんなややこしいことしなくても幹に傷をつければ出て来るのよ。」
「むやみに世界樹に傷をつけたくないから里の一部の者しか知らないけれど。」
「お土産物屋で売っているよ。」
とりあえず現場に来てみた。
とてつもなく世界樹はでかい。
これで苗なん?
幹だけでも両端が見えない壁のようで見上げるとかろうじて先が細くなって木だということがわかる。
そして空を覆う枝葉。
これが影をつくって周囲では紫外線に弱い草やキノコなどの菌類が育つ。
この菌類が古くなって倒れた木を分解する。
これを虫の幼虫が食べる。
虫が排泄して草木の養分になる。
こうして多様な生き物が生きていく。
ギデは世界樹の幹にもたれている。
幹の中を流れる水や魔力の脈動を感じる。
何か少し流れの滞ったところがある。
根っこのほうかな?
ルトラウデに抱かれていたピコが下りて来て幹に小さな手をメガホンの形にして当てる。
そこに口をつけて「ガオー。」と言うと幹の中の脈動が大きく揺れ動く。
ピコがギデの手を引いて世界樹からはなれると上の方からなんか大きなものが落ちてきた。
でっかい蝉の幼虫みたいなやつ。
こいつが世界中の樹液を吸って弱らせていたのか?
でっかい奴はもぞもぞと細い脚を動かして幹にとりついた。
また、樹液を吸うのか?と思って見ていると背中に細い筋が入りはじめた。
羽化するのか?
するとピコがギドの背後に向かってブレスを吐く。
ギドの髪の毛の先が少し焦げた。
レテが飛んできてピコをつまみあげて。
「なんてことするのよ?」
と言うと。
真っ黒に焦げたおっちゃんがぽとっと落ちて来た。
「また、君たちか、なんで邪魔をするんだ。」
あ、使徒さんだ。
「知らないわよ。あんた誰?」
使徒さんは周りをきょろきょろ見回して「ま、いいか。」といってパッと消えた。
ピコのブレスでもちょっと黒くなっただけだし、変な術式の転移を使うので今のところ追跡できない。
何者なんだろう?
使徒さんに気をとられているうちに幼虫の背中の切れ目はどんどん広がってきた。
ポンっと音がして切れ目が開くと眩いばかりの光があふれだした。
そしてその中で小さな羽虫のような形の光の粒が無数に舞っている。
ギドの頭の上に光の粒がたくさん乗っかっている。
小さいけど人の形をしていて翅が生えている。
妖精だ。妖精が羽化した。
なんと幻想的な。
と思っていると世界樹の花が咲いた。
真っ白の雪のような花がエルフの里全体を舞っている。
別に悪いことが起っていた訳じゃ無かったんだ。
世界樹が花をつけたのを聞きつけて里のエルフ達が集まってくる。
重箱に料理を詰めて敷物を持って花見に集まってきた。
その内露店なども出てお祭りの様になった。
「平和だね。一件落着かな。」
重箱の料理をふるまわれながらの花見。
里の人が歌を歌ったり踊ったりしている。
「わしもひとつ踊りを披露してやろう。」
いつの間にか『ジュ』様がいる。
『ジュ』様の周りに鈴を掲げた巫女と楽師が現れる。
ポーンポーンと鼓の音。
ぴょーっピョーっと笛の音。
しゃーんしゃーんっと鈴の音。
白い衣装が閃くように舞う。
妖精がまとわりついて流れる様に光る。
精霊が集まって細い高い声で歌う。
光が、祈りが、祝福が地に空に満ちる。
いつの間にかさらさらと音がするように舞う世界樹の花びらにまぎれて『ジュ』様はいなくなった。
1
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界転移は分解で作成チート
キセル
ファンタジー
黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。
そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。
※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。
1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。
よろしければお気に入り登録お願いします。
あ、小説用のTwitter垢作りました。
@W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。
………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。
ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる