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第30話 予感
しおりを挟むリリックは嬉しさ半分、怖さ半分で帰った。
たった1日の弟子。
元々魔法師なんて他人に構われるのが嫌いだからね。
それに悪い事って言ったって何が悪いのか基準がわからないだろうしね。
「帰っちゃったのね。」
ツッピが空になった僕のカップにコーヒーを注ぐ。
「もったいぶって時間をかけて教えてあげればよかったんじゃない。」
チェリが言う。
「そんなことしてわかってしまえばもったいぶった事がばれてしまうから余計に恥ずかしいよ。」
テトがそう言いながらコーヒーを飲む。
なんだか急に寂しい感じ。
「元々リリックには宮廷魔法師の一族から縁談が来ているわ。魔法にこだわったのもそのせいかも。」
アディッサが調べた事を話す。
「可哀想なご主人様。やっと人間の女の子にモテたと思ったら利用されただけって。」
たった一人のことだし、たった1日の事だったのにね。
まあ、いつもといっしょになっただけだね。
ペトロが少し肩を落としている様に見える。
チェリは以前ペトロが自分の中に引きこもって出てこなくなった時の事を思い出す。
300年ぐらい前の事。
まだ勇者が召喚されていない頃の事だ。
いつものように眠ってしまったペトロのお腹に頭を乗せる。
心臓の音が聞こえる。
魔法を極めて、巨大な力を持って、長い年月を生き続ける暗冥の王でも私達と同じに心臓があって生きている。
儚い様な温かみ。
私達使い魔は元はただのネズミ、ペトロの魔法で力や知恵を得て人の姿にもなる。
それが私達にとって良い事なのかどうかは考える事も出来ない。
いつの間にか私達もいつものように浅い眠りに入る。
翌日、お昼過ぎ迄ペトロは起きない。
私達も浅い眠りを繰り返して起きない主人と共にいる。
それも私達の役目だから。
アディッサがパタパタと羽ばたいて現れる。
ペトロが眠っているのを見ると枕元に降りて来てペトロの頭を抱えて眠ろうとする。
アディッサもその主人が目覚めるまで起こそうとはしない。
たとえ、その間に事件が進展し誰が何人死んでしまうことになってもそれは彼女達には関係のない事だから。
ペトロが目覚めて私達を押し退けて起きあがろうとする。
眠ったふりをして起き上がるのに少し抵抗をする。
ペトロは一人一人を起こさない様に静かに抱き上げてずらして何故か頭を撫でる。
私達使い魔の大切な時間の一つ。
ゴーレム達がペトロの周りに集まって頭を整えたり、服を着せたりする。
アディッサが先に起き上がりペトロにまとわりつきながら調査した事の報告をする。
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