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第8話 滅亡
しおりを挟む「なんだ。魔国チェルゴスに行った兵士はどこに消えたんだ?」
ミルグラス国王ダクマルはイライラしている。
100人もの兵士が1人も残さず消えてしまった。
どうしてなのか?
どこへ行ってしまったのか誰も答えられない。
そんな事があるか?
差し向けた魔族の村に兵士達をどうにか出来る力なんかない事はわかっている。
勇者はダンジョンアタックをしているから関わっていない。
こいつも俺の言うことを聞く気がない。
王国が召喚した事にしているが、こいつは勝手に召喚魔法陣から現れたのだ。
性格が破壊的ではないから良かったものの出鱈目に強い。
国軍でどうにか出来る様なレベルではない。
コイツの頭がおかしかったら世界が滅びる。
魔王や邪神に立ち向かおうってぐらいだからそうなんだろうけど権力者的には役に立つどころか目障り極まりない。
それでなくても全く言う事を聞かない教会、そして聖女エリミリア。
コイツもめちゃくちゃで、もう3000年以上も生きている。
民の支持が絶対的で国王以上。
こいつに手を出すと王国の民どころか大陸中の民を敵にまわす事になる。
しかも大陸共通通貨がエリミリア金貨って意味がわからん。
何にも自由にならない王って一体なんなんだ。
最近になって貴族が一家丸ごと消えてしまう事件も続いている。
本当に根こそぎ邸ごと消えてしまうのだ。
全く訳がわからん。
城の最下層地下牢。
通常は政治犯が閉じ込められて放置されるところだ。
生かしておく気がない時に使われる。
そうでなければ塔に幽閉する。
湿度が高く、温度は低い。
そして暗い。
ただここにいるだけで病んで来そうだ。
ここは今は王の遊び場になっている。
魔国や市井から攫ってきた子供達が暗い中にじっとしている。
動いても叫んでも、もうどうにもならない事がわかってしまったから。
出来るだけ苦痛が続かないことを願うだけ。
ガチャガチャと扉が開けられる音がして足音が近づく。
次に連れて行かれるのは誰なのかと子供達は恐怖に慄く。
ずっと暗い所にいるので魔法の光は眩し過ぎて近づいて来た者が誰なのかはわからない。
ここは魔法が封じられているはず。
子供達は不思議そうに顔をあげる。
入って来たのは見た事のない少年。
魔法使いですっていうかっこをしている。
ぐるりと子供達のいる部屋を見渡すと青い顔をして「うえっ」とうなる。
光に照らされて現れたのはお決まりのような拷問部屋。
人を傷つけ苦しみを与える器具。
それも直近に使われた事を示す血に濡れている。
少年がさらに「オエっ」と言うと部屋の中は真っ白な光に溢れる。
子供達の失われた腕や足が、抉られた目が、千切られた耳が再生し、痛みは癒される。
「なんだお前、何している。」
ダクマルは明る過ぎる部屋に驚く。
「誰だお前。」
少年はダクマルに向き直ると「ウエーっ。」と声を上げてゲロを吐いた。
「こっちを向いてゲロを吐くなー。」
「チェリお水ちょうだい。」
少年の保護者の様な女性がどこからか水の入ったコップを出して少年に渡す。
「ふうっ」
と息をつくと少年はダクマルを見て何か言おうとするが再び嘔吐感に見舞われた様子。
それを見たチェリと呼ばれた女性が仕方なく言う
「暗冥の王 闇の魔法師ペトロニウス・グローヴズ様よ。」
「なんだと、王の前で王を僭称するとはいい度胸じゃないか。」
「まあ役割が違うからいいんじゃないか?」
数人の武装した兵士が集まって来る。
チェリに子供を連れて聖女の所に行くように合図する。
「もう片付けちゃうね。」
「勇者のせいにしちゃえばいいしね。」
ダクマル王だけではなく、王城全てを黒い小さな生き物が覆い尽くす。
この日ミルグラス王朝は滅びた。
そんな事が出来るならもっと早く助けに来いって思うよね。
子供達に恨まれているようで怖い。
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