推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第四十一話 希望の糸を手繰り寄せて②

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「おいおい出てこいよ臆病者!」

 そう嘲笑う悪魔の横には同じようにクロム達を下に見る同族が何体も群がっていた。
 悪魔達はまるで弱い者をいじめるかのように遮蔽壁《ウォール》に隠れてるクロム達をひたすらに攻撃して楽しんでいる。

「へっ!怖気ついて出られもしないぞあいつら。」
「ほんとマヌケだよな、自分達で墓穴を掘りにいくなんて。」

 彼らの言うとおり、移動も出来ず四方に遮蔽壁で守られているクロム達は完全に詰みな状態になっていた。
 遮蔽壁を解いて逃げようにもこの大勢の悪魔達から放たれる魔法は逃れるわけなく、仲間の救援を待とうとしても遮蔽壁が壊れるのが先となってしまう。
 だがクロム達にとって幸運なことに、遮蔽壁を補強させるために覆っていた氷の壁が外からでは見えなくさせていた。よって悪魔達からはクロム達が中で何をしているのかわからない状態でいた。

「おい、全員で仕留めるぞ!バリアごと奴らを蜂の巣にしてやろうぜ!」

 一人の悪魔の発言により、一斉攻撃の態勢をとる悪魔達。
 遮蔽壁の中では突然悪魔達の攻撃が止んだその意図を察し、クロム達は即行動に移した。

「今だコハク!上げろ!」
「はいっ!」

 コハクは腰を低く落とし両手を交差にしてクロムの足を乗せた、そして一気に両手を高く上げクロムを上へ投げ出した。
 バリーンとガラスが割れる音が響く、勇者達が隠れていた遮蔽壁が砕かれその中から一体の影が真上に飛び上がった。

「テメェは…!」

 飛び上がってきたのはクロムだ。しかしさっきと様子がまるで違う、腰を捻りながら剣を後ろにして構えているが、その剣は炎を纏っていた。

「指南書通りなら、火炎魔法を使った魔導武装の効果は…変幻自在の炎で剣が鞭状に変化する!」

 炎を纏った剣は細く何倍もの長物に変化した、俺はその鞭のような武器を体を捻りだして横薙ぎに振り払う。

「魔導武装《炎刀》!」

 第一印象では伸びて湾曲していることから相手はそれを伸びる鞭のように捉えた、だが炎の形は使用者のイメージで姿を変える。

「なっ…!?」

 クロムの真横を飛んでいた悪魔は目を疑った、横薙ぎに振り払うその炎の形はまっすぐ張っており、まるで巨大な大剣を模しているように見えた。
 炎は物体ではないため剣の重さに変わりはない、長物を振り回す際の重さや遠心力などの扱いにくい短所を全て無くした大剣は、もはやレーザーといっていい効果を発揮した。

 シュバッ!
「「ギャァァァ!」」

 左後ろから右後ろにかけて一振りした剣は1秒もかからない速度だった、その際まっすぐ伸びた炎に触れた者は斬られたような痛みと火傷を負った苦しみを同時に味合わされ悲痛な叫びをあげた。

「しゃあぁ!」

 手で軽くガッツポーズを決めた俺は地面に着地後、追撃として地上から悪魔達を炎刀で薙ぎ払い続ける。
 一人無双感を漂わせていたが、しばらくすると炎が徐々に縮み始め普通の剣に戻っていった。

「効果が切れちまったか、もう一度やってくれアルノア。」
「いや、あそこまで飛んだらお前でももう無理だ。」

 アルノアが顔でクイっと上に上げる仕草をして飛んでいる悪魔達に目を向けた。
 彼らは、俺が薙ぎ払っていた炎刀から離れようと今よりもさらに高く飛んでいた。

「あんな遠くに!あれじゃ魔法も届かないし、私の跳躍でも届かない。」

 コハクもさすがの高さにお手上げ状態だった、アルノアも所有している魔法では距離の問題で確実に避けられると悟ったのか攻撃せずに空を睨んでいた。
 だが問題はそれだけではなかった。

「ん?なんだあそこ、妙な光が地面から出てるぞ。」
「敵の本陣かもな、もうこいつらを相手するより直接敵陣を叩いた方が敵の襲撃を防げるんじゃねぇのか?」
「お前そういうとこだけ頭いいよな。」

 話を終えた二人の悪魔は魔導隊がいる後方へと飛んでいった。それに続いて他の悪魔も二人を追いかけようと翼を広げてついて行った。

「まずい!高く飛んだから後方で動いている魔導隊の存在に気づいた!」
「戻るぞ、俺達に興味を無くしたらもう足止めどころじゃなくなる!」

 俺達は急いで隊員達が集まっていたあの場所へ戻ろうとした。あそこには魔導隊の他に盾として役割を果たしている近衛隊がいる、簡単には守りは崩れないと思うが、俺達が足止めしていた悪魔達が加われば被害は甚大になってしまう。

「まずいまずい!前に出すぎた!辿り着く前に隊員達が悪魔と鉢合わせちまう!」

 やはり《第二の矢》が機能していないのは本当に痛い誤算だった、それでも俺はこれを想定して色々なプランを考えてきた訳だが、確率で成功する確証など微塵もなかった。
 事前の準備期間もなく即席で作られた作戦内容、協力性に欠ける隊員達、そして何より現状を覆すほどの戦力となる人物がいない。
 最初から駄目だったのだ、失敗した結果を取り戻そうと俺達はどんどん最悪な結末という泥沼に足を踏み入れ続けていた。足掻いても足掻いても決して成功という陸地に上がれないほどに、俺達は深みにはまってしまっていた。

「くそっ!厄災魔獣どころか幹部のシトリーにすら戦わずに負けるのかよ!何かないか?あいつらの侵攻を防ぐ策は…!」

 目の前の枯れ木を避けて走りながら頭をフル回転させた。だが何度思いついても絶対に上手くいかないという考えが脳裏にちらつき、まともな策など生み出せずただ走っている自分に嫌気がさしてきた。

「駄目だ…いくら考えても俺達が行ったところで何も変えられない…。」

 少ししか走っていないのに息苦しく感じて足を止めそうになる。
 「敗北」、その結末が見えて俺の戦闘意欲が削れていくのを感じた。

「うわぁぁぁぁ!」

 突如、上から何者かの叫び声が聞こえ俺の意識が覚醒した。

 ドジャァ!
 骨が折れる音と肉が潰れる二つの不快な音を出して目の前に人が落ちてきた。
 よく見るとそれは黒い翼を生やした化物、悪魔だった。その悪魔はこちらに苦痛に歪めた表情を見せて塵となって消えていった。

「ひいぃ!」

 レズリィは悲鳴を抑えつつ落ちてきた悪魔を見て腰を抜かしていた。
 さすがの俺も敵ながらこの衝撃の光景を目にしたことに戦慄した、だが悪魔が塵となって消えた後に残った物を見てそんな感情は薄れていった。

「これって…矢か?」

 物珍しそうに落ちている矢を見てクロムはすぐ周りを見渡した、今この戦場で矢を使った戦い方をするのは近衛隊しかいない。
 彼らが持っている折りたたみ式の小さな弓では通常の弓とは違って射程距離も短い、飛行している悪魔の胴体を射抜けるとしたら下から狙ったとしか考えられない。

「いた!おーい!ここだーー!」

 クロムは自分の今いる位置を大声で叫んだ、すると枯れ木の間から見慣れた森林色のケープを着た近衛隊達がこちらに向かって来た。

「勇者!こんなところで会えるなんて、一体何があった?」
「後で話す、隊員の数はこれだけか?」
「はい、あとは右側に行った隊がいますが、一度合流をかけましょうか?」

 クロムは隊員達の装備を一通り目を通した。人数は20人程度、所持している矢も決して多いとはいえない。今までどおり悪魔が飛行して侵攻していくのなら、矢の無駄な消耗は避けたいところだ。

「いやいい、それより氷結魔法で皆が乗れる高台を作ってくれないか?」
「高台?一体何を。」
「この枯れ木の間から飛行している悪魔を狙うのは難しすぎる、だから少しでも奴ら狙えるポイントを作りたい。」

 今も一体、二体と悪魔が俺達の上を通り過ぎていく。隊員達も遠距離攻撃しか有効打は与えられないと悟り、クロムの策に乗った。

「ここを前哨地にするということか?」
「ああ、そして真打に魔導隊が悪魔達を殲滅させる魔法を準備している。ここで俺達は向かってくる悪魔達を迎撃して時間を稼ぐ。それがこの場を切り抜ける作戦だ。」

 具体的な作戦内容を把握し、近衛隊との協調性が高まる。

「よし、やろう皆!」
「「おうっ!」」
「サンキューお前ら!マジで助かる!」

 近衛隊は早速クロムの言う高台を作り始めた、全員が地面に氷結魔法を唱え3メートルほどの壁を作り出す。
 彼らが迎撃の準備をしている中、こちらも行動に移した。

「アルノア、さっきの頼む。」
「クロム、わかっているのか?あの炎の剣の射程はどこまでも伸びるわけじゃないんだぞ。」
「わかってる、今回は奴らの気を引きつけるために使う。力を貸してくれ、絶対に成功させてみせるから。」

 そう言い添えてから俺は剣をアルノアの方へ向けた。考えがあるような表情に負け、アルノアはため息を吐きながら剣刃を握った。

「ああわかったよ!私だって覚悟決めてやる!」

 アルノアは苦痛の表情を浮かべて剣刃を持った手から血を流した、俺は彼女にそんな苦しい行為をしてしまったことに胸が苦しくなり、「すまない…」と掠れた声で呟く。

「やるからには…きっちり結果出せよこの野郎…。」

 アルノアは痛みを我慢しながら必死に強気な笑みを作って俺を見た、その言葉に応えるよう俺は大きく頷いた。

「上げてくれコハク!」
「はいっ!」

 俺の声にコハクはさっきと同じく姿勢を落として体を投げる体勢に入った、そしてコハクの手に足を乗せると強い力で一気に自分の体が上へ飛び出した。

「よっと…!」

 飛んだ先にある高い枯れ木にしがみつき、枝に手をかけながらよじ登って周りが一望できるてっぺんに足を乗せた。

「あいつら、左右から挟み込んで後方部隊を潰すつもりか。」

 上から見るまではわからなかった、隊で引き連れている百を超えた数の悪魔達は、左右から周り道をして後方にいる魔導隊に向かって侵攻していった。
 戦っていて妙な違和感があった、大軍勢とは言ったもの俺達が出会ってきた悪魔の数が決して多いとはいえない数だった。
 それに気づかず前で足止めしていたら、おそらく全滅は避けられなかったのだろう。

「さて…流石にあの距離は俺の魔導武装でも届かないな、どうやってこっちに振り向かせようか…。」

 距離はおそらく200か300メートル、俺が放つ魔導武装の斬撃の射程を遥かに超えている。それにそれほど遠距離では豆粒状になっている俺に気づくのはおそらく難しいだろう。

「はぁ…原始的だけどこの方法で呼び出すしかないな。」

 俺はやりたくない気持ちが表に出てしまい凄い嫌な顔をした、下では皆が様子を伺うようにこっちを見上げている。これほどまでに恥ずかしいと思うのはいつぶりだろうか?

「スゥーー…」

 俺は恥ずかしさを押し殺し、目一杯空気を吸い込むと喉が張り裂けるくらいの大声で叫んだ。

「おーい!こっち見ろよー!この雑魚悪魔共ー!」

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