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復活の厄災編
第三十九話 挨拶代わり②
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ーー作戦開始数分前
帝国幹部シトリーの側近であるヒズミは、主人の命令で部下達の騒動を止めるため急いで遺跡の外へ飛び出した。
「なんだこれは…予想外だ。」
遺跡周りの拓けた場所には大勢の部下達がぎっしりと埋まっていた。土壁の上にも、上空にも、こちらの様子を伺う者がいれば、遺跡に入ってこようとする者まで。
この光景を見るに、シトリーが率いる大軍勢は中半端崩壊しかけていた。
「大隊長!来てくださったんですね!もう私達では抑えられません、早く彼らを鎮めてください!」
目の前には部下達を率いる部隊の隊長達が防壁魔法・遮蔽壁《ウォール》で部下達の進行を押さえている。だが彼らの必死さから見て、それはギリギリ持ち堪えているほど苦しい状況だった。
部下達はそんな隊長達の踏ん張りなど関係なく「シトリー様に会わせろ!」や「仲間を返せ!」などと叫びながら遮蔽壁を壊そうとしている。
ヒズミはそんな彼らの行動を止めようと声を張り上げた。
「お前達!嘘の情報に惑わされるな!全ては裏切り者の同胞が仕組んだ空言だ!」
ヒズミの声が届いたのか、前方で遮蔽壁を壊そうとする部下達の手が止まった。
「今現在シトリー様自ら裏切り者の対処にあたっている!それによってお前達の前に現れることが出来ないと判断して俺が送り出された!」
喚いていた部下達は裏切り者が仕組んだ噂という言葉に驚き騒ぎが小さくなっていく、だがヒズミの言葉を受け入れられない者達が声をあげて騒ぎ立てた。
「その話に根拠はあるのか!?」
「俺達は仲間の失踪に厄災魔獣が絡んでいるのか聞きたいだけだ!大隊長が話してくれるのか!?」
「裏切り者がいたっていつから?それに気づかないで俺達はそいつと戦っていたのかよ!大隊長とシトリー様は何で対処しなかったんだ!」
少数の部下達の言葉が徐々に周りの部下達に広がっていき、ヒズミが声をあげる前の状態へとまた戻ってしまった。
「駄目だ、皆興奮しすぎて話をまともに聞いてくれる様子じゃない。」
彼らの発言は的を得ていた、だからこそ真相を自分の口から話すのは怖かった。だからといってこの状況で曖昧な発言をしてしまえばもっと火に油を注いでしまう。
ヒズミはそんな葛藤に、胃から這い上がっていく気色悪さに耐えながら、必死に言葉を紡いだ。
「違うんだ皆!一度落ち着いて話を…」
大きな声を出そうと遠くの方に向かってその一声を張ったヒズミ、その土壁より遥か向こう…一瞬雷が落ちたような光景に話が止まった。
「なんだ…」
見間違いだろうか、その雷は上からではなく下からから現れた。自然現象としてあり得ない光景に疑問視したヒズミは、騒いでいる目の前の部下達より土壁の向こうへ注視した。
青い空と厚い灰色の雲、地平線のように見える高い土壁の向こうから太陽が現れた。
ありえるはずがない、なぜなら太陽はまだ左…東にある。ではアレはなんだ?何故太陽はあんなにものすごい速度で空に昇っていく?
ーー何故太陽は…昇る時より徐々に大きくなっていく?
「ああっ…!」
ヒズミはその異質な光景を目にした瞬間、これはただ事ではないことだと察し、急いで遺跡の中へ入って行った。
「大隊長!?どこへ!」
「おい!逃げたぞ!やっぱり何か隠していやがったな!」
「どきやがれ!シトリー様に会わせろ!」
ヒズミが遺跡へ戻っていく姿に驚きを見せた隊長達に追い討ちをかけるよう、部下達が強引に遮蔽壁を壊そうと入ってくる。
「ぐっ!ぬグォォォォ!」
遮蔽壁にヒビが入り始める、隊長達が力の限り注いできた最後のストッパーが、数という暴力に負け無情にも壊れ始めた。
バリィィィン!
ガラスが割れる音と同時に雪崩のように遺跡へ襲いかかる悪魔の塊、目を血走らせながら遺跡へ向かって走ると誰もがその不思議な感覚に足を止めた。
「なんだ?この光は…」
先頭の悪魔が遺跡の扉に手をかけようとした瞬間、強烈な暑さと光に包まれたような感覚を感じ、恐る恐る振り返った。
「おい!なんだあれ!」
背後の光景と同時に後方から危機感を促す声が聞こえ絶句した。
火球が…とてつもなく大きな火球がこちらに向かって迫ってきていた。
ーー数十秒前
遺跡の中に入ると外の騒ぎとは違う荒々しい戦闘音が下から聞こえてくる。
「音が大きい、まだお嬢様はあそこで戦っている!」
地下四層までショートカットとして作られた床穴はシトリーの氷結魔法によって塞がれていた。
ヒズミは腰から曲刀を抜くと、剣の周りに砂埃が巻き始めた。
「魔導武装《風斬|かぜきり》!」
暴風の音が聞こえると同時に大きく氷床にむかって振り下ろした。剣術スキル《ドラゴンリープ》に風を纏った混合斬撃《ウィンドリープ》だ。
バギィィィィン!
氷床が砕かれたのと同時にヒズミは第二層へと落下した、そこには両者至る所に傷を負いながらも激しく戦闘をしている姿があった。
「お嬢様!アージェント!」
「っ!わかった!」
(アージェント)、シトリーとヒズミの間で使われる、部下達を持ってしても解決できない案件を言う。
ヒズミはシトリーにその単語を叫ぶと、シトリーの表情が今まで以上に危機迫る顔へと変化し地上へと飛び立った。
「どこに行く!」
セーレもシトリーを追って飛びあがろうとすると、懐から声が聞こえていることに気づき、セーレは苛立ちを表しながら懐に手を伸ばした。
「ちっ!何よこんな時に!」
魔力に反応して通話ができるマジックダイヤルが起動していた。魔力を活かした戦いをしていたからだろう、戦闘音があっちに聞こえてこちらを心配して連絡してきたに違いない。そのせいで奴には逃げられた。
「お前のせいで取り逃しちゃったじゃない!どうしてくれる…」
「話は後だ!今どこにいる?」
通話越しであるクロムに焦りの声が聞こえてきた、どうやら私の心配より別用らしく何がなんだかわからない彼女は素直にそれを答えた。
「はぁ?遺跡の中、今シトリーの部下に睨まれているところ。」
「なら今すぐ地下に逃げ込め、そこにいると爆破に巻き込まれて死ぬぞ!」
「ちょっ!?それどういうことよ!」
突然言い放った先のない未来の話に困惑していると、遺跡内がうなりをあげるような音を出して揺れだした。
「何…この地響きは…?」
「お嬢様…」
ドガァァ!
重い遺跡の石扉を破壊し外に出るシトリー、その先で見たものはあまりにも衝撃的な光景で思わず目を見開いた。
「っ!」
視界のほとんどは巨大な火球に覆い尽くされていた、徐々に近づいてくるそれは、もうまもなくこの場所に着弾することが確定しているようだった。
「ちっ!サプライズにしては悪趣味過ぎるわね!」
相手は巨大火球、周りはあまりの驚きで戸惑っている自身の部下達が多くいる。逃げろとその単語が喉まできていたが、あんな火球が落ちればその計り知れない威力でこの辺りが焦土と化してしまうだろう。
それだけは絶対に避けなければならない、彼女は自分の背中に部下達の命を背負い、その重みのある槍を召喚させた。
「出力最大、形状特大!」
手元から召喚した槍は大きく変化し、両手で下を支えるほどに巨大化した。
「シトリー様!?」
「まさか…止めようっていうのか!?」
遠くからでも見えるその巨大な紅い槍は、部下達の心にある変化をもたらした、シトリーが助けに現れたのだと。どんなに彼女に対して恨み辛みがあろうと、彼らにとって彼女は皆を導く幹部であることを改めて知った。
「右手に力が入らない…!だからって止められない理由にならない!」
セーレにやられた右手の痛みに耐えながらも目標である火球に標準を合わせると、シトリーは足腰に力を入れ、迫り来る火球へ紅く輝く雷光を飛ばした。
「デーモンロードスティンガー!!」
神が雷を落とすように槍を敵に投擲させる槍スキル最上位技《ライトニングスティンガー》を模した、シトリーが編み出した自分だけの槍スキル。
悪魔の怪力と槍に込められた高濃度の魔力によって放たれる一閃はあらゆる物を破壊する、その後に残されたのは悪夢が通り過ぎたような悲惨な道が広がるというそういう意味が込められていた。
バリィィィ!!
稲光走る紅い槍が迫る火球に衝突した、火球は槍の勢いでそれ以上の落下を防いだが未だその火力は維持したままだ。
「ハァァァァァ!」
目の前の火球を吹き飛ばそうと言わんばかりにシトリーは絶叫した。更に両手を前に掲げ槍に魔力を込め続け、槍の威力を底上げするが火球の勢いは落ちない。
パワーが足りない…今の自分ではこれが限界だ。
「くっ…まだっ…!捻り出せっ!もっと!」
心にそう叫ぶが、そう都合よくパワーが上がるわけなく自身の中からどんどん魔力が削られる感覚が襲いかかる。
ドゴォ…
高い土壁が火球に触れて一部が崩れ落ちた、それは火球が落ちてきている証拠だった。
「まだ…まだ…諦めて…」
虚しく力が散っていくのを感じつつもシトリーは諦めぬ気持ちを呟く。
だがそれは側から見ると弱々しく立ってるのがやっとの姿だった。
「シトリー様…。」
これが自分達の見たかった姿なのだろうか?自分達を騙した者の末路としていい気味だと誰が思うだろうか?自分達のために力を尽くして守ろうとする人物をただ黙って見続けるのは…
ーー何故こんなにも苦しくなるのだろうか?
…スッ
「っ?」
シトリーの背後に何かが触れた、彼女は背後を振り向くとそこには部下達が自分の背中を押している姿があった。
「あなた達…。」
「シトリー様!俺も戦います!俺の力を使ってください!」
部下のその言葉に続いて「俺も」、「私も」と賛同し始めシトリーの背中に触れていった、触れる場所が無くなった者は仲間の肩に触れて列を作っていった。
すべては先頭で戦うシトリーに魔力が伝わるように。
「皆…すまない!」
シトリーの体にもらった魔力がどんどん溶けて入っていく、気力だけで頑張ってきた頃とは比べ物にならない力を手にし、一気に目の前の火球に向けて解き放った。
「ハァァァァァ!」
自身の魔力と繋がっている巨大な槍は大量の魔力に反応して赤黒く光出す。それと同時に火球にも変化が現れた、球体を保っていた表面がボコボコと凹凸を繰り返している。
「飲み込め!レッドグングニル!」
仕上げと言わんばかりにシトリーがそう叫ぶと、紅い槍が火球の中に潜り込んだ。
プツン…
音が聞こえなくなった、激しい衝突音で小さな音が聞こえづらくなっていたためか、その場にいる全員は火球のマグマのような沸騰音すら聞こえなくなっていた。
火球はその沸騰音をたてながら徐々に小さくなっていった。そしてシトリーの槍と同じ紅い色に染まると沸騰音はどんどん大きく聞こえ始め…
「まずい!逃げ…」
ドゴォォォォォォ!!
シトリーの言葉は間に合わず、強烈な爆風が周囲に漂っているガスと、そこにいた悪魔達を吹き飛ばした。
帝国幹部シトリーの側近であるヒズミは、主人の命令で部下達の騒動を止めるため急いで遺跡の外へ飛び出した。
「なんだこれは…予想外だ。」
遺跡周りの拓けた場所には大勢の部下達がぎっしりと埋まっていた。土壁の上にも、上空にも、こちらの様子を伺う者がいれば、遺跡に入ってこようとする者まで。
この光景を見るに、シトリーが率いる大軍勢は中半端崩壊しかけていた。
「大隊長!来てくださったんですね!もう私達では抑えられません、早く彼らを鎮めてください!」
目の前には部下達を率いる部隊の隊長達が防壁魔法・遮蔽壁《ウォール》で部下達の進行を押さえている。だが彼らの必死さから見て、それはギリギリ持ち堪えているほど苦しい状況だった。
部下達はそんな隊長達の踏ん張りなど関係なく「シトリー様に会わせろ!」や「仲間を返せ!」などと叫びながら遮蔽壁を壊そうとしている。
ヒズミはそんな彼らの行動を止めようと声を張り上げた。
「お前達!嘘の情報に惑わされるな!全ては裏切り者の同胞が仕組んだ空言だ!」
ヒズミの声が届いたのか、前方で遮蔽壁を壊そうとする部下達の手が止まった。
「今現在シトリー様自ら裏切り者の対処にあたっている!それによってお前達の前に現れることが出来ないと判断して俺が送り出された!」
喚いていた部下達は裏切り者が仕組んだ噂という言葉に驚き騒ぎが小さくなっていく、だがヒズミの言葉を受け入れられない者達が声をあげて騒ぎ立てた。
「その話に根拠はあるのか!?」
「俺達は仲間の失踪に厄災魔獣が絡んでいるのか聞きたいだけだ!大隊長が話してくれるのか!?」
「裏切り者がいたっていつから?それに気づかないで俺達はそいつと戦っていたのかよ!大隊長とシトリー様は何で対処しなかったんだ!」
少数の部下達の言葉が徐々に周りの部下達に広がっていき、ヒズミが声をあげる前の状態へとまた戻ってしまった。
「駄目だ、皆興奮しすぎて話をまともに聞いてくれる様子じゃない。」
彼らの発言は的を得ていた、だからこそ真相を自分の口から話すのは怖かった。だからといってこの状況で曖昧な発言をしてしまえばもっと火に油を注いでしまう。
ヒズミはそんな葛藤に、胃から這い上がっていく気色悪さに耐えながら、必死に言葉を紡いだ。
「違うんだ皆!一度落ち着いて話を…」
大きな声を出そうと遠くの方に向かってその一声を張ったヒズミ、その土壁より遥か向こう…一瞬雷が落ちたような光景に話が止まった。
「なんだ…」
見間違いだろうか、その雷は上からではなく下からから現れた。自然現象としてあり得ない光景に疑問視したヒズミは、騒いでいる目の前の部下達より土壁の向こうへ注視した。
青い空と厚い灰色の雲、地平線のように見える高い土壁の向こうから太陽が現れた。
ありえるはずがない、なぜなら太陽はまだ左…東にある。ではアレはなんだ?何故太陽はあんなにものすごい速度で空に昇っていく?
ーー何故太陽は…昇る時より徐々に大きくなっていく?
「ああっ…!」
ヒズミはその異質な光景を目にした瞬間、これはただ事ではないことだと察し、急いで遺跡の中へ入って行った。
「大隊長!?どこへ!」
「おい!逃げたぞ!やっぱり何か隠していやがったな!」
「どきやがれ!シトリー様に会わせろ!」
ヒズミが遺跡へ戻っていく姿に驚きを見せた隊長達に追い討ちをかけるよう、部下達が強引に遮蔽壁を壊そうと入ってくる。
「ぐっ!ぬグォォォォ!」
遮蔽壁にヒビが入り始める、隊長達が力の限り注いできた最後のストッパーが、数という暴力に負け無情にも壊れ始めた。
バリィィィン!
ガラスが割れる音と同時に雪崩のように遺跡へ襲いかかる悪魔の塊、目を血走らせながら遺跡へ向かって走ると誰もがその不思議な感覚に足を止めた。
「なんだ?この光は…」
先頭の悪魔が遺跡の扉に手をかけようとした瞬間、強烈な暑さと光に包まれたような感覚を感じ、恐る恐る振り返った。
「おい!なんだあれ!」
背後の光景と同時に後方から危機感を促す声が聞こえ絶句した。
火球が…とてつもなく大きな火球がこちらに向かって迫ってきていた。
ーー数十秒前
遺跡の中に入ると外の騒ぎとは違う荒々しい戦闘音が下から聞こえてくる。
「音が大きい、まだお嬢様はあそこで戦っている!」
地下四層までショートカットとして作られた床穴はシトリーの氷結魔法によって塞がれていた。
ヒズミは腰から曲刀を抜くと、剣の周りに砂埃が巻き始めた。
「魔導武装《風斬|かぜきり》!」
暴風の音が聞こえると同時に大きく氷床にむかって振り下ろした。剣術スキル《ドラゴンリープ》に風を纏った混合斬撃《ウィンドリープ》だ。
バギィィィィン!
氷床が砕かれたのと同時にヒズミは第二層へと落下した、そこには両者至る所に傷を負いながらも激しく戦闘をしている姿があった。
「お嬢様!アージェント!」
「っ!わかった!」
(アージェント)、シトリーとヒズミの間で使われる、部下達を持ってしても解決できない案件を言う。
ヒズミはシトリーにその単語を叫ぶと、シトリーの表情が今まで以上に危機迫る顔へと変化し地上へと飛び立った。
「どこに行く!」
セーレもシトリーを追って飛びあがろうとすると、懐から声が聞こえていることに気づき、セーレは苛立ちを表しながら懐に手を伸ばした。
「ちっ!何よこんな時に!」
魔力に反応して通話ができるマジックダイヤルが起動していた。魔力を活かした戦いをしていたからだろう、戦闘音があっちに聞こえてこちらを心配して連絡してきたに違いない。そのせいで奴には逃げられた。
「お前のせいで取り逃しちゃったじゃない!どうしてくれる…」
「話は後だ!今どこにいる?」
通話越しであるクロムに焦りの声が聞こえてきた、どうやら私の心配より別用らしく何がなんだかわからない彼女は素直にそれを答えた。
「はぁ?遺跡の中、今シトリーの部下に睨まれているところ。」
「なら今すぐ地下に逃げ込め、そこにいると爆破に巻き込まれて死ぬぞ!」
「ちょっ!?それどういうことよ!」
突然言い放った先のない未来の話に困惑していると、遺跡内がうなりをあげるような音を出して揺れだした。
「何…この地響きは…?」
「お嬢様…」
ドガァァ!
重い遺跡の石扉を破壊し外に出るシトリー、その先で見たものはあまりにも衝撃的な光景で思わず目を見開いた。
「っ!」
視界のほとんどは巨大な火球に覆い尽くされていた、徐々に近づいてくるそれは、もうまもなくこの場所に着弾することが確定しているようだった。
「ちっ!サプライズにしては悪趣味過ぎるわね!」
相手は巨大火球、周りはあまりの驚きで戸惑っている自身の部下達が多くいる。逃げろとその単語が喉まできていたが、あんな火球が落ちればその計り知れない威力でこの辺りが焦土と化してしまうだろう。
それだけは絶対に避けなければならない、彼女は自分の背中に部下達の命を背負い、その重みのある槍を召喚させた。
「出力最大、形状特大!」
手元から召喚した槍は大きく変化し、両手で下を支えるほどに巨大化した。
「シトリー様!?」
「まさか…止めようっていうのか!?」
遠くからでも見えるその巨大な紅い槍は、部下達の心にある変化をもたらした、シトリーが助けに現れたのだと。どんなに彼女に対して恨み辛みがあろうと、彼らにとって彼女は皆を導く幹部であることを改めて知った。
「右手に力が入らない…!だからって止められない理由にならない!」
セーレにやられた右手の痛みに耐えながらも目標である火球に標準を合わせると、シトリーは足腰に力を入れ、迫り来る火球へ紅く輝く雷光を飛ばした。
「デーモンロードスティンガー!!」
神が雷を落とすように槍を敵に投擲させる槍スキル最上位技《ライトニングスティンガー》を模した、シトリーが編み出した自分だけの槍スキル。
悪魔の怪力と槍に込められた高濃度の魔力によって放たれる一閃はあらゆる物を破壊する、その後に残されたのは悪夢が通り過ぎたような悲惨な道が広がるというそういう意味が込められていた。
バリィィィ!!
稲光走る紅い槍が迫る火球に衝突した、火球は槍の勢いでそれ以上の落下を防いだが未だその火力は維持したままだ。
「ハァァァァァ!」
目の前の火球を吹き飛ばそうと言わんばかりにシトリーは絶叫した。更に両手を前に掲げ槍に魔力を込め続け、槍の威力を底上げするが火球の勢いは落ちない。
パワーが足りない…今の自分ではこれが限界だ。
「くっ…まだっ…!捻り出せっ!もっと!」
心にそう叫ぶが、そう都合よくパワーが上がるわけなく自身の中からどんどん魔力が削られる感覚が襲いかかる。
ドゴォ…
高い土壁が火球に触れて一部が崩れ落ちた、それは火球が落ちてきている証拠だった。
「まだ…まだ…諦めて…」
虚しく力が散っていくのを感じつつもシトリーは諦めぬ気持ちを呟く。
だがそれは側から見ると弱々しく立ってるのがやっとの姿だった。
「シトリー様…。」
これが自分達の見たかった姿なのだろうか?自分達を騙した者の末路としていい気味だと誰が思うだろうか?自分達のために力を尽くして守ろうとする人物をただ黙って見続けるのは…
ーー何故こんなにも苦しくなるのだろうか?
…スッ
「っ?」
シトリーの背後に何かが触れた、彼女は背後を振り向くとそこには部下達が自分の背中を押している姿があった。
「あなた達…。」
「シトリー様!俺も戦います!俺の力を使ってください!」
部下のその言葉に続いて「俺も」、「私も」と賛同し始めシトリーの背中に触れていった、触れる場所が無くなった者は仲間の肩に触れて列を作っていった。
すべては先頭で戦うシトリーに魔力が伝わるように。
「皆…すまない!」
シトリーの体にもらった魔力がどんどん溶けて入っていく、気力だけで頑張ってきた頃とは比べ物にならない力を手にし、一気に目の前の火球に向けて解き放った。
「ハァァァァァ!」
自身の魔力と繋がっている巨大な槍は大量の魔力に反応して赤黒く光出す。それと同時に火球にも変化が現れた、球体を保っていた表面がボコボコと凹凸を繰り返している。
「飲み込め!レッドグングニル!」
仕上げと言わんばかりにシトリーがそう叫ぶと、紅い槍が火球の中に潜り込んだ。
プツン…
音が聞こえなくなった、激しい衝突音で小さな音が聞こえづらくなっていたためか、その場にいる全員は火球のマグマのような沸騰音すら聞こえなくなっていた。
火球はその沸騰音をたてながら徐々に小さくなっていった。そしてシトリーの槍と同じ紅い色に染まると沸騰音はどんどん大きく聞こえ始め…
「まずい!逃げ…」
ドゴォォォォォォ!!
シトリーの言葉は間に合わず、強烈な爆風が周囲に漂っているガスと、そこにいた悪魔達を吹き飛ばした。
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