推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第三十七話 幹部vs元幹部②

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 ガァン!ガガッ!
 互いの武器が接触し合い火花が散る、手数で相手に重い一撃を浴びせ続けるセーレと、槍の長さを活かした中距離戦で相手の攻撃を次々と叩き落とすシトリー。
 少しでもこちらに隙ができると鋭い一撃を浴びせ、それを瞬間的な反応だけで迎撃する。お互い一歩も譲らない激戦に局面は容易に動こうとはしなかった。

「一度本気のあなたと手合わせしたかったのよね、どっちが幹部として上なのかこれではっきりできる!」
「仲間に助けられて体が鈍ってるんじゃないの?防戦一方じゃない!」
「お生憎様、あなたとの追いかけっこで体はもう温ったまってるのよ!」

 セーレの右ストレートを槍で滑せながら軌道を変えると、彼女の懐に向けそのまま槍を振り下ろした。

「デッドリー・フォース!」

 槍の先端が紅く燃え、セーレの胴体にその炎が触れる瞬間、咄嗟に左腕でガードした。
 その直後、セーレは槍を左手で掴み一歩踏み込んだ。右腕を腰に引き真っ直ぐ打ち込めばシトリーの体に直撃する、左手で槍を固定させ防御不可の攻撃を浴びせた。

「ダークインパクト!」

 ブォッ!
 空気を切り裂く音がしたのはセーレの拳ではなく、シトリーの翼だった。彼女は拳が当たる直前、槍を手放し後ろへ飛んだのだ。
 なんとかギリギリで回避したのも束の間、セーレは左手に持っていた槍を持ち直しシトリーに狙いをつけた。

「お前の大事な物でしょ、返すよ!」

 渾身の力で槍を投げようとしたところ、手に持っていた槍の感覚が無くなり大きく空振りをしてしまった。

「うわっ!」

 消えた…手の中にあった物が一瞬で。そう不思議に思っていると、無様に振りかぶった姿を見てクスッと笑うシトリーの声が聞こえた。

「ありがとう、返しもらったよ。」

 顔を上げるとさっきまで何も無かったシトリーの手に槍が携えられていた。
 瞬間移動の類いだろうかと彼女の能力を分析しようとした瞬間…

 ブゥゥゥン…
 槍が桃色に光出し、手に持ってる槍がどんどんシトリーの背後に増えていく。分身型の投擲スキル「フライングランス」だ。

 ガァン!ガァン!
 背後に増えた槍を持ち、的確にセーレに投げ続けている。セーレは一本一本槍を弾き返すが、一向にシトリーとの距離が縮まらない。先程と違い、今度はこちらが防戦一方になっていた。
 通路で受けた時と違い数的な攻撃はないが、シトリーの投げる力が相まって威力も速度も段違いになっており、ほぼ反射的に動かないと弾き返せなくなっていた。

「ちっ、私に懐に入らないように遠距離で仕留めるってわけ?接近攻撃の相手に対しては賢い選択だけど…」

 ずっと同じ攻撃を受け続け、セーレの心に苛立ちが芽生え始めた。

「つまらないね!」

 飛んでくる槍を迎撃しながらも腰を低くし、投げる際に生まれる隙を狙って飛び出した。
 距離的に二十歩程度の距離、踏み込む力が足りない今では飛び出しても左右に回避される猶予が生まれてしまう。そうなればまた同じ距離を保たれ遠距離攻撃が続いてしまうことだろう。
 だがセーレにはそんなことはどうでもよかった。一撃…たった一撃でも浴びせてやりたい、その気持ちだけが彼女の足を動かした。

「ふっ、かかった!」

 シトリーは前へ飛び出したセーレの行動を見逃さなかった。セーレは自分がどちらかに避けると考えていたのだろう。
 だがそれは間違いであった、シトリー自身もこの攻撃には飽き飽きしていた。よって彼女が下した答えは、

「アクセルスピア!」

 地面を蹴って前へ飛び出した、技の名の通り一歩力強く踏み込むだけで一瞬にしてセーレは槍の射程範囲に入った。

「速っ…!」

 一瞬にして目の前に現れたシトリーにセーレは驚きの声をあげた。脳が彼女の意外性に処理が追いつかず、ただ見開いた状態で相手を見る中、槍は徐々に迫っていき…

 ブシャ!

 二人の間から鮮血が飛び散った。
 槍はセーレの左胸に突き刺さり、勢いがついたままの突撃に彼女の体は後ろへ下がった。

「っ!」

 手ごたえはあった、あったのだが…シトリーは目の前で起きたことにありえない表情で見ていた。

 キリキリキリ…!
 セーレの鉄製の手が震えて金属が小さく当たる音が聞こえる、自身の槍を必死に掴んで離さないよう力を込めていた。
 そう…掴んでいた。槍が胸に当たった瞬間、右手で槍の柄を掴み自分の体勢を後ろにする事で槍がそれ以上刺さらないよう威力を逃していた。
 それによってセーレの左胸には刃先が2センチ程度しか刺されてない。普通ではありえない芸当、高速で突撃してくる槍を掴むことも、勢いを殺すほどに掴んだその万力のような握力に。

「速っ…かったけど…見えないほどじゃないわね。」

 セーレはやってやったような自慢げの表情を見せると、槍を下に弾きシトリーの懐に入った。

「同じ手は…!」

 さっきと同じ近距離攻撃と察しシトリーは後ろに飛び上がる。だがセーレとの間隔は離れない、彼女も前に向かって飛び上がっていた。

「さっきは…踏み込みが無かったからね!」

 セーレの右拳が後ろから前へ真っ直ぐ飛んでくる、明らかに射程範囲内、槍を戻そうにも間に合わない。
 シトリーは左腕を顔の横につけ、腹部を狙われないよう右腕でガードし、攻撃を受けることに身構えた。

 ドガァ!
「ぐっ!」

 セーレの拳がシトリーの右手首に直撃し、シトリーは苦痛で顔を歪めた。

(この悪魔ァ…!胸部がガラ空きだっていうのに、ガードしている右腕を…しかも手首を叩いてきた!)

 シトリーの目線では拳が体上部に来ると踏んでいた、だが私が腕で急所をガードした瞬間、彼女は拳の軌道を逸らした。
 それでも普通はガードしてる箇所に攻撃なんて考えない、そう普通ならしないのだ。
 彼女は自分の利き腕を壊すためにわざとそこを狙った、手首は槍を投げたり突いたりと攻撃に必要な要だ、それを潰されてしまえばこちらの力は一気に削がれる。
 改めて目の前で相対する者が誰なのか理解した、彼女は元帝国幹部という役職だけでなく、人より悪知恵が働く悪魔なのだと。

「はぁぁぁぁ!」

 シトリーは腹いせと言わんばかりに左手をセーレに殴りかかる勢いで腕を振りかぶった。
 セーレからしてみればどう見てもそれは喧嘩のパンチのような素振りだった、そんなシトリーの必死さにセーレは馬鹿にするような笑みを浮かべた。

(やり返すのはわかるけど、へっぽこパンチなんて私には効かないわ!)

 シトリーの左拳はいともたやすくセーレに掴まれた。装備している手甲は素手より大きく、開いた手の中にすっぽりと入ってしまった。

「怒りでヤケクソにでもなったのかしら、幹部っていうもんだからあいつら雑魚と違うと思ったのに…ガッカリだわ。」

 セーレは無表情で失望した表情を見せると力強くシトリーの拳を握り締めた。

「あっ!ぐぁぁぁぁ!」

 メキメキと骨がなる音が響き、苦痛の叫びをあげるシトリー。だがシトリーに降りかかる苦痛はそれだけじゃないようだ。

「さぁ…ダメ押しよ!」

 セーレの左手から徐々に黒いオーラが溢れてくる、闇魔法と強烈な物理攻撃を兼ね備えた「ダークインパクト」だ。
 そんなものをもろにくらえばひとたまりもない、さらにはシトリーは左手を固定されている、よって直撃は免れない。

「ダークインパクト!」

 セーレの渾身の一撃がシトリーに目掛けて飛んで…

 グチャァァ!

 肉が飛び散るようなグロテスクな音が響いた。

「な…に…!?」

 驚愕の叫びをあげ、その悪魔は血しぶきと一緒に地面へ倒れた。そして、貫かれた手のひらを痛々しく片方の手で掴むと、未だ宙を飛んでいる悪魔を恨めしそうに睨んだ。

「忘れてたよ…確か瞬間移動できるんだっけ?その槍。いや…召喚って言えばいいかしら。シトリー。」

 手の肉がえぐられ血を流していたのは、セーレだった。
 彼女が見たその驚きの光景を説明するよう、シトリーは少し疲弊した表情をしながら口を開いた。

「私の槍は召喚で作られる魔法の槍、私がそうしたいと願えばこの槍は応えてくれる。炎を出したい、何本も増やしたい、槍を伸ばしたいってね。」

 シトリーの説明でセーレはその身に何が起こったのか理解できた。
 あの時、シトリーの左拳を受け止めていたセーレの右手から突然、シトリーが持っていた紅い槍が飛び出してきた。
 その自分の手が貫かれた驚きと衝撃によりセーレは手を離すと、槍はその柄を伸ばしてシトリーを後方に追いやりセーレとの間合いから離れたのだ。
 だが一つ、セーレには腑に落ちない疑問があった。

「魔法の槍ですって?私の黒腕は並の魔法ですら傷はつけられないのよ、闇魔法を上回る魔法がその槍に眠ってるっていうの?」

 自分の魔法には自身があった、闇魔法は相手の力を呑み込むことに特化した魔法である。
 黒という色は他の色には混ざらない絶対的な単一色であり。それは魔法も同様、基本の三属性たる火炎、氷結、雷はその闇という黒には混ざらない。
 つまり、他の属性を闇に染め上げることで威力をうち殺しているのだ。
 だがそれが今破られた、槍が燃えあがるところを見て基本の属性で構成された魔力の槍だと思っていた。
 自分の想像を超えた能力がその槍にある、悔しいが自分の頭ではそれを解き明かすことが出来なかった。
 セーレは探りを入れるようシトリーに問いただすと素直に彼女は答えた。

「あなたと違って私は親切だから教えてあげるわ。私の槍は高密度の魔力を宿した特殊な魔石から作り出している。あなたの闇魔法がどれだけ強いかなんて関係ないわ、魔力量の差で押し負けた、ただそれだけの話だからね。」

 魔力量の差で押し負けた、あの槍が自分よりも強い力を持っているという解釈にセーレは認めないと怒り散らすことだろうとシトリーは思っていた。
 実際彼女は貫かれた右手を押さえてながら小刻みに震えている、顔を下に向けているところも見ると相当悔しそうに見えた。

「ははっ…何?そんなに私を下に見せたいわけ?要は槍が強いだけじゃない。安心したよ、その槍がお前の力を底上げてる能力じゃなくて。それ無しじゃ私に太刀打ちできないもんね。」

 セーレは煽るように笑みを浮かべながら反論した、震えも顔を下に向けていたのも悔しさから出たものじゃなかった。
 彼女は馬鹿にしてるよう笑いを必死に抑えていたのだ。下にいるのに見下されてるような感覚に、シトリーの中で怒りのボルテージが沸々と高まっていく。

「勘違いしてるみたいだから言っておくけど…私、まだ本気で戦ってないから。」
「そんな言葉使わない方がいいよ、その怪我がお遊びでつけられたなんてわかったらすごいダサいから。」

 互いの目には影をおとすよう恐ろしい殺意で相手を見ていた。
 武器で勝るシトリー、体術で勝るセーレ、互いの長所を活かし互角の勝負にケリをつけようと考えていた。

「そう…じゃあ仕切り直しといきましょう。今度は潰す勢いで。」
「緩いんじゃない?潰すじゃなくて殺すでしょ。」

 シトリーは左手に槍を持ち、空中で壁を蹴るようにセーレに向かって突撃する。
 セーレは左手に力を込め、翼の羽ばたきと合わせ飛び上がる。
 周りの状況など気にしない、ただそこにあるのは目の前の悪魔を屠りどちらが強い悪魔か証明するために闘う。
 殺し合いだ。

「「上等!お前には…死んでも負けない!」」



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