推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第三十三話 攻略会議②

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 ーー数時間前。

「……?」

 懐が妙に熱くなり目線を下に向けると服越しから黄色に光っているのが見えた。
 懐に手を入れ光る存在を外に出す、俺の手に握られていたのはセーレから受け取ったマジックダイヤルだった。

「セーレか?そっちはどういう状況だ。」
「かなりまずい状況ね、聞いて驚いて腰抜かすんじゃないわよ。」

 俺の声に反応し、中からセーレの声が外に流れる。第一声から何やら不穏な状況を告げるセーレの話に不安感を持ちながら耳を傾けた。

「奴ら、パンデモニウムの魔力が目当てじゃない、パンデモニウムを復活させようとしている。」
「ああくそっ、なんて事考えやがるあいつら。」

 最悪だ…予想していた最悪の出来事が起きてしまった。
 ストーリー上、ボス戦であるパンデモニウムに辿り着くまでの道中で帝国軍は現れない。後に帝国幹部のシトリーから厄災魔獣の魔力を奪取するのに失敗して、復活したのちに撤退したと聞かされる。
 それを知っていたからルーナ城の襲撃はラッキーだと思っていた。たった一日で帝国の企みを阻止し、幹部のセーレも仲間にできた、これならパンデモニウムの復活を阻止できるかもしれないと考えたからだ。
 だが後になってその考えが徐々に不安を募らせていった、俗に言う…上手く出来すぎていると。
 その不安を払拭するため、その不安の根源が何なのか考え続けた。
 その中で一番考えたくなかった予想がある、俺達を危険視してパンデモニウムを意図的に復活させてしまうかもしれないということだ。

「いい、パンデモニウムの復活は魔力よ。封印されてる結界を壊すために力を蓄えないといけないの。この死霊の谷じゃ十分な魔力源はない、だから完全に復活なんてありえないの。」

セーレが続けて潜入調査で手に入れた報告を話し出している、心の整理をする暇もない。

「えっと…ってことは、奴らは外部から魔力源を差し出してるってことか?」
「最初はそうだったみたいよ、でもそれだけじゃ足りないって気づいてシトリーは部下の命を使うことにしたみたいよ。」

 セーレの口からオブラートに包んだかのようなやばい単語が流れた。
 部下の命を差し出した、それはつまり…

「それって…」
「生贄ってやつよ、私達の命の源である魔石なら強い力を持ってる。シトリーの部下の場合そんなのが周りにゴロゴロいるの、今でも一人また一人って生贄に駆り出されてる。」

いかにも悪魔らしい考え方だ、だがそれを聞いて再び不安感が体中を巡った。
命の源である魔石なら強い魔力を持っている、もしそんなものを取り込み続ければ復活の間隔が早くなる。
 時間がなくなるのはまずい、俺は内心祈りながらセーレにどんな状況か聞いた。

「なぁ…セーレから見て、パンデモニウムの復活はいつ頃になる?」

 せめて時間があれば…仲間を集めたりと戦場で使える武器を増やすことができる。せめて三日…欲をかけば四日、そう言って欲しいと願いながらセーレの答えを待った。

「昨日より毒素が強くなってきている、このままのペースでいけば…」

 ーー現在

「昨日より毒素が強くなっているみたいで、このままの勢いだと、もって二日…早くて明日です。」

 そう報告をした俺の目の前は、王室内が凍りつく沈黙の光景が広がった。
 聞いたことがある、人は予想もしなかった出来事を前にすると頭を整理するためにそこだけに力を入れてしまい五感が効かなくなると。
 皆衝撃の真実に混乱していた、Xデーたる厄災魔獣の復活による滅亡の日がもう目の前に来ているということに。

「そんな馬鹿な…早すぎる!」
「勇者の身分であっても冗談じゃ済まされないぞ!一体そのスパイという奴は誰なんだ!?」
「だけど話に信憑性があります、悪魔の命を捧げられるのなら魔力源のないあの谷でも厄災魔獣に魔力を注げられる。数百の悪魔がそこにいるなら、早いペースで復活することが可能かと。」
「だったら早く救援を求めないと!時間がありません!」

 徐々に近衛隊から魔導隊にかけて焦る話が王室内に飛び交う。
 フォルティアも、もうこうなってしまっては静かにと指示を出しても治ることはないと感じ行動に移した。

 ヒュン…!スタッ!
 フォルティアは自分の椅子から飛び上がり、モルガンが座っている机の上に着地した。
 その行動にざわめいていた隊員達は驚いて静まり、フォルティアが降り立った場所に目を向けた。

「モルガン、唯一この状況で冷静さを保っていられる君に問いたい。今日と明日を含めて外部からの救援に期待できると思うか?」

 フォルティアの問いにモルガンは少し口角を上げながら鼻で笑う。

「それは無理な話だ、今日まで平和ボケしている衛兵達に明日厄災魔獣を倒しに行こうって誘おうとしてるんだぞ。そんな急に死地に向かえだなんて、心の準備も無しに人を集めたところでなんの戦力にもならない。人を動かしたいのなら時間が必要だ。」

 言い方はまるで人の心がこもっていないそれだが、人の心理をついたような答え方だった。
 具体的な策も何もない、ただ突撃したいから兵力を集めているなどの愚策では誰も頷こうとはしない。
 無駄死に…必然的にその単語が頭に出てきてしまい、本能的に拒絶してしまうのだ。

「ふむ、やはりか…どうやら私達は一手遅れたようだ。」

 少し険しい顔をしてフォルティアは机から降りた。
 そして、目の前に人影がいなくなったことでモルガンは改めて隊員達に救援側の気持ちを伝えた。

「お前達もそうだろう?こんな話をされて動くほど都合のいい人形や機械じゃない、生きてる者として死にたくないと思うのは人の性。諦めたほうがいいと思うね。」

 その言葉を理解した隊員達は苦しい表情をしてうつむいた。
 憎いモルガンから正論を言われた悔しさと、勝ち目のない戦いに挑まなければならない絶望さ、その両方が相まって皆かける言葉を失っていた。

「じゃあ…どうすればいいっていうんだ!たった一日で帝国に立ち向かう力をどうやって集めれば…!」
「一つだけあります…。」

 一人の隊員の叫びに俺はそう言葉をこぼすと、場の空気が一気に張り詰き皆がこちらを見つめてきた。フォルティアも自分が座っていた席まで歩いていた足を止め振り返った。
 無策となった案を超える何かがあると思われているのだろう、救世主のような立ち位置となった俺に重い重圧が乗しかかる。

(やっ…やべぇ…タイミングミスったかも。でも今しか言える時間がないし、言ったところで納得なんてしてくれるか?)

 仲間達と情報を出し合い一晩考えた最も勝率が高い作戦。だがこれを話すのはこれが初めてであり、皆の反応が顔に出てしまう恐怖を感じていた。
 こんな作戦ならどうでしょうか?みたいな軽い気持ちの状況で話すことを想定していたのだが、完全に俺の話に甲乙つけるような展開になっていた。

「あっ…えっと…。」

 自分の案を全員から冷たく指摘をされるのが嫌だった。「やっぱりなんでもない…」その言葉が喉まで来ているのだが、それを中々言い出せず口が半開きになっている。
 まるで大事な劇の途中で台詞を忘れたような緊張している状態だ。

「心配せずとも何か案があるのなら言ってくれ、今はこのような無策な状況だ。勝率が上がる策なら私達は君の言葉を受け入れよう。」
「フォルティアさん…。」

 皆が俺を期待するような目で見る中で、フォルティアが励ますよう優しくそう言葉を告げると場の空気が少しだけ緩んだ。
 そうだ…勝つために遠慮や失態を怖がってはダメだ。それが一歩ずつと道となって作られていくのだから。

「外部の救援に頼らず、残り僅かな時間の中で今いる戦力で帝国軍に渡り合える策があります。馬鹿げた作戦ですけど、うまくいけば圧倒的多数の帝国軍に形勢逆転できます。」

 フォルティアの言葉に背中を押され、俺は顔を上げ堂々と皆に自分が考えているものを主張した。
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