推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第三十二話 疑惑と告白①

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 ーー霊長の里・宿屋
 
「悪い…少し遅れちまった。」

 走って息を切らしながらクロムは宿屋の戸を開けた、中では待合室の椅子に座っているパーティーの皆が待っていた。

「おっ、やっと来たなクロム。お前が遅いからレズリィがいかがわしい店にでも行ってるんじゃないかって心配してしおしおになってるぞ。」
「いやそれアルノアさんが冗談で言ったからじゃないですか!クロムさんのせいにしないでください。」

 俺の声に反応したアルノアは軽く軽蔑するような目でこちらを見ていた。
 その隣では魂が抜けたように無気力な状態で椅子の背もたれに体を預けているレズリィの姿があった。
 ただ少し遅れただけでどうしてこうなってしまったのか不思議に思いながら、アルノアの言った話にため息混じりに否定した。

「ったくよ…俺がそんな女の子に会う為に仕事を抜け出す変態に見えるか?そんな薄情なことしねえって。」
「だったら確かめてみようぜ。コハク、あいつの体を嗅いで女の匂いがしないか確かめてみろ。」
「ええっ?私そんな疑いをかけることはしたくないんですけど。」
「お願いしますコハクさん、私も知りたいです。」

 戸惑っているコハクの背後からレズリィが掠れた低い声でそう口に出した。
 振り向いた先に見えたその陰を纏ったレズリィの姿にコハクは驚いて俺に抱きついてきた。

「ひぃっ!」
「怖っ!何これ!?ちょっと遅れただけなのに何この扱い!」

 この修羅場になりそうな雰囲気に、俺達以外に泊まりに来た客がこっちに注目し始めた。

「そうだ!確かめろ!」
「男ってホント最低。」
「外野は引っ込んでろ!」

 ギャラリーから野次が飛び交う中、俺はしかめた顔で唸った。だがこのままほっとけば俺は見覚えのない汚行をしたと勘違いされ余計な面倒事が起きる。それだけ避けなければならない。

「はぁ…やってくれコハク、ここまで話が大事(おおごと)になっちまったんだ。これ以上面倒事が増える前に俺の疑いを晴らしてくれ。」
「ううっ…ごめんなさいクロムさん。」

 コハクは申し訳なさそうに俺の体に付着している匂いを嗅ぎ続けた。すごい近くでコハクが鼻を動かしている、まさぐられる感覚でくすぐったくなるが、それと同時に恥ずかしくなってくる。

「えぇ…何この絵面、女子が懸命に男の体の匂いを嗅いでるんだけど。普通にやってる側も見ている側も恥ずかしくねぇかこれ!」

 ギャラリーが集まる場所で男の体の匂い嗅ぐ女性という絵面を見てどう思うだろうか?完全な変態と思われてもおかしくないだろう。
 だがコハクはそんなことを気にせず俺の体を嗅ぎ続けた。数秒後、懐の部分でコハクはおもむろに首を傾げながら重点的に嗅いでる。

「あれ?私達の匂いの他に何か混じってる。」

 匂いの違和感に気づいたコハクは疑問の言葉を口にする。一瞬沈黙が流れたが、その言葉にアルノア達や野次を飛ばしていた他の人達がどよめきだした。

「ああやったなあいつ、獣人族で見破られちゃお終いだな。」
「男ってホント最低。」
「ちがっ…!まだ女って決まったわけじゃないだろ!っていうかいつまで見てんだ!」

 何故?どうしてこうなった?少し遅れただけなのに…聞いた話じゃアルノアの冗談から始まったことなのに…
 完全に周りからの信頼を失った感じがした。何も悪いことをしていない分、かなり心を抉られる気分になる。

「それでどうなんだコハク、女か?女なのか?」

 アルノアは急かすようにコハクからの結果を聞き出していた、冗談から始まった事なのに意外な展開に発展したことで彼女は興奮している。

「お前なぁ…!」

 アルノアの話に怒りを覚え無意識に拳を作った右手が震えていた。
 だがその怒りの感情は、周りの状況を遮断させるには十分すぎる隙だった。

「クロムさん…?」

 いつの間にかレズリィが俺の背後に立っていた、怒りで周りが見えずにいたため彼女が瞬間移動したのではないかと恐怖を感じた。

「な、なぁ…違うんだよ!俺は少し…」
「わかっています、正直に話してくれれば怒りませんから。」

 そう暗いトーンの声色で喋ったレズリィは俺の肩に手を置き、爪が食い込むんじゃないかという力で掴んだ。

 ギリギリっ…!
「痛い痛い痛い!力入れんな!っていうかレズリィ力強いって!」

 俺の苦しむ姿を見てギャラリー達はほくそ笑んでいる。
 よくテレビで男女関係の騒ぎを特集しているのを見て笑っていたが、実際やられてみるとギャラリー達に殺意が湧いてくる。
「お前らにこの気持ちを分けてやりたい」と、喉までその言葉が来ていた。

「この匂い…懐から匂います、何か貰いましたね。」
「お前やっぱり会ってたんじゃねえか!証拠を出せ証拠を!」
「クロムさん…。」
「違うって!誤解だ!って痛い痛い!食い込んでるって…!」

 色んなことに手一杯な俺に向かってコハクが手を伸ばす。
 懐にある謎の匂いの正体を探るべくコハクは俺の懐を探っていると、何か固い物に触れ掴み取った。

「これって…マジックダイヤル?でもこれは…。」

 コハクの手には、アマツとの会話で使われた通信用の魔石が握られていた。
 あの家に置いてあった魔石とは作りも違ければ、匂いもこの場にいる皆のものとはまるで別なものだった。
 誰かから貰った、そうコハクは考えたがこの魔石から出る匂いに少し親近感を感じ、誰の匂いだったか思考を巡らせた。
 反対に通信用の魔石が懐から出てきたことにより、アルノアはさらに話し詰めようと俺の体を揺さぶった。

「お前これで女と会話しようと…!」
「なんでそうやって女と結びつけようとするんだよ!セーレ!さっきセーレから貰ったんだよ!」

 叫び混じりに彼女の名前を口にすると、俺に掴んでいた彼女達の手が緩んだ。

「セーレだって?」
「そうです!この匂いの正体はセーレさんで間違いないと思います!彼女と会ったんですか?」
「ああ、とりあえず話をする前にこの状況をどうにかしてくれ。特にアルノア!お前の冗談から始まったんだからちゃんと落とし前つけろよ!」
「はぁぁぁ!?」

 アルノアはいかにも面倒くさそうな顔をして驚いていた、だが俺以外にもコハクやレズリィがじろっと半眼で睨んでいたこともあり、いつもの噛みつくような反抗はなく素直にギャラリー達に謝罪をした。

「えっと…てっきりこいつがいかがわしいお店に行ったと冗談言ってしまいましたが、正しくは元カノに会ってきたという事でした。すいませんでした!」
「お前マジで蹴り飛ばすぞ。」
「アルノアさんそれはないですよ。」
「明日のご飯は抜きということでよろしいですね?」

 クロム達の強めの圧に負け、アルノアは誠心誠意謝罪をした。見物人は皆面白いものが見れたと満足そうな顔して散っていき、いつもの待合室の風景に戻った後でも俺達はしばらくその場に立ち続けた。

「まぁ、とりあえず…全員集まったことだしさっさと作戦会議するぞ。」
「切り替え早ぇよ!気持ちの整理ついてないのにすぐに出来るか!」

 俺は咄嗟にアルノアのさっきの騒動をなかったことにするような切り替え方にツッコミをいれた。

「でも…なんだかホッとしました。そうですよね、クロムさんがそんな破廉恥な事を好む変態な訳ありませんよね。私凄く焦っちゃいました。」
「いや…凄く焦ったの俺のほうなんだけど、お前に殺されかけたんだけど。」

 レズリィは胸に手を押さえホッとため息を吐いた。いつもの青髪の清楚な神官に戻ったのだが、陰を纏っている彼女を見てからかその笑顔が怪しく見えて怖くなっていた。

 ーー宿屋・部屋

 一悶着が収まり、俺達は持ってきた資料を部屋に運び入れた。宿屋には客が休むための最低限のものしか置いておらず、6畳の部屋にベット一つと机しか置かれていない。そこに4人が入るとかなり狭い、密着しながら話し合いをするようになってしまう。

「この部屋に4人はさすがに狭すぎるな。とりあえずクロム、お前は机の下にある椅子に座っとけ。」
「えぇ?なんだよいいな、皆ふかふかのベットの上に座るのかよ。」
「お前女子に挟まれて話し合いなんてできるか?ナニが立って集中出来なくなるから私が配慮してあげてるんだろ。」

 アルノアの言葉から妙な下ネタが飛んできたことにツッコミを入れようとしたが、彼女の言葉はあながち間違っていなかった。ナニが立つかなんて知らないが女子に密着して座りながら話せるほど陽キャではないが…

「まぁ…たしかにそうだけどさ。いい加減俺を変態扱いするのやめてもらえる?一体俺のどこに変態要素があるって言うんだよ。」
「全身。」
「お前、マジで覚えとけよ…。」

 憤怒の目でアルノアに視線を向け、高速で歯ぎしりに乗せて唸った。

「もう!そんな事で揉めないでください。クロムさん、私達に内緒でセーレさんに会いに行ったと言いましたが一体彼女と何を話したのか聞かせてくれませんか?」

 レズリィが機転を利かせて、話の本題に着目させた。
 俺は皆にセーレとどういう話をしたのか話すと、皆は頭の上で「?」が浮かんでいるような難しい表情をしていた。

「セーレさんがパンデルム遺跡の潜入調査に?」
「ああ…ここから送られた先鋒隊じゃ、死霊の谷にいる帝国の規模しか情報を貰ってこないだろうからな。本当に知りたい情報はもっと奥にあるから。」
「本当に知りたい情報というのは?」

 皆が俺が言う話に興味を持って体が少し前のめりになっていた。
 クロムの話には思いもよらない角度から矢で的を得るような意外性がある、本当に彼と話しているとなぜ?という感情が尽きない。
 だからこそ…気になっていた違和感が膨れてきた。

「パンデモニウムが今どんな状況か、それが分かれば俺達がここで準備できる時間が把握できる。」
「わかるんですか?もしかしたら帝国はまだ厄災魔獣の存在に辿り着いていないかもしれませんよ。」
「多分、俺達は早すぎた。もし俺が帝国のボスだったらその早さに危機感を感じて急いで仕留めようと命令を出すかもな。」
「早すぎた?それって…」

 そう、不気味なほど先を読みすぎている。
 皆はその先が知りたいと感じてその違和感に誰も聞こうとはしない。
 でも…私は言う、結果よりも先にどのような過程があったのか知りたくなっていた。

「待てレズリィ、一回私に話させてくれないか?」

 レズリィの話を止めるため彼女の前にアルノアは手を伸ばして遮った。

「アルノアさん、また揉め事や冗談だったら許しませんよ。」
「いや…真剣な話だ。」

 俺の目の前でアルノアは真剣でありながらも、話すのにどこか躊躇っている表情を見せた。
 こんな表情は見た事がない…怒って自分の気持ちをぶつける顔とは違って、言い出したらもう後には引けないとそんな感じがした。

「アルノア…?」
「ずっと…違和感を感じてたことがある、なんだか分からなかったがさっきの話でようやくその違和感の正体に気がついた。」

 ゆっくりとアルノアは話始めた。俺はアルノアが話したい事に大体の予想がつき、静かにその内容を聞き入れた。

「お前の持ってるその予知魔法…本当に予知なのか?」
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