推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第三十三話 攻略会議①

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 霊長の里はかなり慌ただしい状況になっていた、近衛隊か俺達の話を盗み聞いたのかパンデモニウムが復活して東の国が滅亡するという噂が住人達の一部で広まり始めていた。
 今はただの陰謀論だと片付けられているが、いずれパニックになるのは避けられないだろう。
 この異変に不安感を持った里長であるフォルティアは、急遽異変の詳細を知っている者達を集め会議を行った。

 ーー霊長の里・王室

「皆集まったようだな。では…これより死霊の谷にいる帝国の状況について報告会議をあげる。」

 王室には長い机と出席者分の椅子が用意されている。
 会議進行のフォルティアに、近衛隊と死霊の谷へ偵察に出向いた隊、その他魔法研究に力を入れている魔導隊員達、そして帝国の情報を里の外から持ってきた者として勇者パーティーのクロムと研究者のモルガンが代表として参加した。

「フォルティア様、まずは里の状況についてお伝えします。一部の住人達がこの噂の真意を確かめるためフォルティア様にお会いしたいとおっしゃる者が多数いますがいかがなさいましょう?」
「我々近衛隊も住人達の対応に困っています、私達の言葉ではなくフォルティア様の言葉が聞きたいと言って言うことを聞いてくれないのです。」

 会議の始めに近衛隊からさっそく住人達の行動についてどうするかフォルティアに言及した。

「私も状況は把握している、だが私の言葉では住人達を安心させることはできない。そのことについて、まずは偵察班から死霊の谷の状況を皆に話してくれ。」

 フォルティアの指示を受け、偵察班のリーダーであるジアロが席を立ち皆に何があったか報告した。

「はい、こちら偵察班ではパンデルム遺跡に向かう際、死霊の谷付近に目視だけでも百を超える悪魔達を確認しました。遺跡を調査することはできませんでしたが、率いる帝国の勢力は私達の倍以上はあると思われます。」

 その報告を初めて聞いたこの場にいる者達はどよめきだした。

「本当なんですか!?死霊の谷に帝国軍がいるというのは。」
「では…パンデモニウムの復活というのは事実。奴らなら私達を潰すためにやりかねない!」
「静かに。」

 フォルティアは持っている杖を床に叩き、ざわめいていた者達を静かにさせた。そしてこの報告をもとになぜ住人達に真意を伝えられないのか難しい顔をしながら口にした。

「私もこの報告を聞いた時どうするべきか悩んだ、これから先に起きることを話すか隠すべきか。だがどちらにせよ騒動になることは避けられない。」

 ズズズ…
 フォルティアの体から魔力を帯びた威圧が出ているのを感じ、近くにいた隊員はその恐ろしさに体から汗が滲み出ていた。

「この騒動を治めるには帝国の企みを阻止するしか方法はない。まったく…あやつらが考えていることは理解できん。」

 純粋な怒りの表情を表しているフォルティア。それもそのはず、自分の国に、そこに住んでいる住人に危害を加えようしている、長として黙って見ていることなどできるはずがなかった。
 そんなフォルティアの威圧で王室がピリピリする中、子供を叱るような軽い声色が王室の中で響いた。

「その前にちょっと落ち着きなよ里長、今ここで皆に殺気を振り撒いちゃ皆怖かって話なんて出来ないだろう?」

 こんな張り詰めた空気をものともせず、手を顎に乗せ机に怠けるような姿で発言した者がいた。モルガンだ。

「お前!フォルティア様に向かってなんだその態度と発言は!無礼だぞ!」
「よい、私が熱くなってしまったことを注意されただけだ。だがモルガン、会議に出席している身であるならもう少し態度を改めてほしい。」

 近衛隊の一人がその無礼な態度に苦言をつけると、フォルティアは軽く流して自分の非を反省した。
 モルガンも相手が里長なのか、「ふーん…」と退屈そうにため息混じりに呟き椅子に深く座り込んだ。

「では…これまでの情報をまとめます。勇者達が持ってきた情報によると、その遺跡には悪魔達を束ねる幹部の存在あると報告があがっています。大勢の悪魔と幹部、そして厄災魔獣、我々の全勢力を持ってしても戦うことは不可能に近いと思われます。」
「神巫の巫女はどうだ?クロム君。」

 その名前に触れたフォルティアの問いに全員が俺に視線を向ける、隊員がまとめた報告を聞けば切り札の存在があるのか気がかりなっていることだろう。
 俺はそんな希望を感じる視線に苦しくなりながらも、アマツと話した内容を口にした。

「私にばかり頼らないで自分達でなんとかしてみなさい、とあまり協力的ではない印象でした。」

 その話を聞くと全員が息をそろえたようにため息を吐いた。巫女が参加しないという報告に絶望するんじゃないかと感じたが、まるで期待なんてしてなかったように諦めついていた。

「それでしたら、外部から救援を求むことを提案します。ここにはルカラン王国に繋がりを持つ者が二人おるので交渉には向いているかと。」
「ちょっとちょっと、私に王国に戻れっていうの?私があの国とどういう関係か知ってる癖して…どれだけあなた達私のことを嫌っているわけ?」

 隊員の提案にモルガンは嫌悪するような表情で難癖をつけた。フォルティアと違って明確な殺意を飛ばすモルガンの姿に全員が肝を冷やす。

「モルガン…落ち着け。」

 俺はモルガンがなぜ嫌な態度をとるのか共感できた。誰だって自分が嫌だった場所になど近づこうとはしない、自分の嫌な過去を掘り返されるという感覚を味わいたくないからだ。
 ゲーマーニートだった自分にもそんな境遇があった、もしあの時の俺に同じ意味の言葉を言われたらキレ返すだろう。

「嫌なら俺が行くから、今ここで皆に殺気を振り撒いたら皆怖かって話なんて出来ないだろ。だから落ち着け。」

 モルガンに視線を合わさず目の前に座っている隊員達を見つめながらそう言葉をこぼした。
 本当ならフォルティアの威圧を指摘した彼女の堂々さを真似したかったが、彼女の蛇に睨まれるような視線に体がすくんでしまっていた。

「そうか…すまないな。」
「はぁ…わかってくれたなら…むぐっ!」

 モルガンから殺気が消え、いつもの調子に戻ったと感じた俺は隣に座っているモルガンに顔を向けると、素早くモルガンは俺の頬を掴み引き寄せた。

「だがその台詞どこかで聞いたことがあるような気がするのだが?私だな、私の台詞をパクったな、同じことをしたから同じ言葉で話そうと?私を引き立て役にしてカッコよくなった自分を感じて満足かな?」

 モルガンの気に触れたのか早口で言葉を述べ始め、 されるがままに俺の顔を左右に振り回し続けた。

「なんでそうなるんだよ!落ち着けって!」(めんどくせぇよコイツ!自分の恥ずかしさを俺に押し付けて道連れにしようとしてるよ!)
「フォルティア様、何故この蛇女をこのような場所に呼んだのですか?」

 大事な会議中に横槍を入れるモルガンに、二人の呆れ模様を見せたことについて明らかに会議の邪魔だと意味づける質問を隊員の一人が口にすると、俺はモルガンの手を離し隊員に答えた。

「里長は関係ない、俺が呼んだんだ。彼女はこれからの戦いで重要になるから。」
「この蛇女がか?ふん、自分の目的のために人とも思えぬ実験を繰り返したこの狂人に何を信じる?」

 相手を小馬鹿にするような言い方をつけられ、モルガンの癇(かん)に障った。

「ははっ、未知の世界に歩むことがどれだけ過酷なことなのかわからないお前じゃ、私の世界は理解できないさ。幼稚なエルフよ。」
「なんだと…!」

 笑みの中にある静かな怒りを見せ、逆に相手を煽り返す。まるでこの場にいるエルフ達を敵に回すような言い方で、冷たい視線がこちらに向けられる。

「よせ、対立するなら後で好きにやればいい。クロム君、彼女を連れて来た理由を教えてもらえるか?」

 フォルティアが仲裁に入りなんとかその場を治めたが、未だに怒りを滲ませた目つきでこちらを睨む隊員達を見て俺はモルガンと仲間達との関係性を聞いた。

「おい、一体何したらこんなに嫌われるんだ?」
「んー、ちょっとした価値観の違いさ。男でいうと巨乳派か貧乳派かで喧嘩してるようなものだよ。」
「例えがしょうもな!絶対違うだろ。」
「クロム君、モルガンを連れて来た理由を教えてほしいのだが。」

 モルガンとの話に気を取られフォルティアの質問を聞いていなかったことに謝り、俺は冷たい目線を送る隊員達にモルガンの重要性を伝えた。

「モルガンには今、対パンデモニウム用に対抗薬を作っています。帝国の目的はパンデモニウムを復活させること、もし何かのきっかけで復活してしまったら止めないといけませんが、なんの対抗策もなしで突っ込めば死にます。」
「復活前に悪魔達を倒せばいいだけだ、要らぬ心配をする前に目の前の敵をどうするか考えるべきだろう。」

 当たり前のことのように近衛隊員がそう言うと、周りからクスッと鼻で笑う声が聞こえた。
 俺の考えに反対するほかにモルガンの存在を否定されているかのように、隊員達の中では戦えばどうにかなると思いこんでいた。
 そう、余裕があるのだ。

「残念ですけど、そんな悠長に考えている時間はないんです。」

 俺はそんな隊員達にそう一言を告げ、懐からセーレからもらったマジックダイヤルを目の前の机に置いた。
 その行動を見た隊員達は以外なものを見るようにこちらに注目し沈黙した。

「頼れる自分の仲間から報告がありましてね、今パンデルム遺跡で内部調査した情報を教えてくれました。」

 俺の発言によりさっきまで小声で笑っていた人達は声をあげ王室内が騒然となった。

「馬鹿な!偵察班ですら遺跡にたどり着けなかったのにどうやって?それに、そのような偵察のプロごいたのならどうして私達と協力させなかった?」

 偵察班の隊員が立ち上がって俺に抗議した、でっちあげた報告だと皆が俺を責め立てる中…

「違うな偵察班の隊員よ、勇者君は偵察とは言っていない、内部調査と言ったんだ。そういう隠密に潜入して情報を得る者達をなんと言うか知っているか?スパイというのだ。」
「スパイだと…。」

 モルガンは急な俺の話に合わせ偵察班達を黙らせた。

「しかしまぁ気になるなぁ…数百の悪魔を潜り抜けて遺跡の核心部までたどり着いたそのプロのスパイの姿を。」

 だがその後モルガンの知りたい欲求が出て、机をコツコツ指で叩きニヤニヤしながら聞かせてほしいとせがんできた。
 生憎彼女の言葉は騒然としている皆には届かず面倒な悶々になることはないが「ノーコメントだ」と一言告げた。

「静かに!クロム君、そのスパイから受け取った情報を教えてくれるか?」

 フォルティアの言葉で静まった隊員達の前で俺は少し前にセーレから受け取った報告を話した。
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