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復活の厄災編
第三十一話 神巫の巫女①
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ーー現在、霊長の里・王室
「そうして私は…姿を隠して生きるようになった。皆怪しそうな目をしてたさ、でも魔物だとわかって殺されるようなことになるくらいなら我慢した。まだ死ねないからさ、奴を倒すまで!」
アルノアは力強く握り拳を作った、それを見てクロムは元のアルノアに戻ったと感じ静かに喜んだ。
「ああ…話してくれてよかった。お前の気持ちは俺達にちゃんと伝わったさ。」
そう言うとクロムは少し頭を下げながらアルノアの肩を掴んだ。アルノアはそれに気づきクロムの方へ顔を向けると少しやつれているような彼の横顔が見えた。
「でもよ…長いよ。」
「何が?」
「話だよ!30分も長々と話すやつあるかぁ!小説だったら2万字は軽く超えるよ!」
「はぁぁ!?長いだぁ?私の話のどこが長いっていうんだ!なぁ?」
周りの意見を聞こうと辺りを見ると、コハクとレズリィは微妙な顔をしながらアルノアから目を逸らしていた、フォルティナに限っては寝ていた。
「おいおい!話を聞きたいって言ってた本人が一番聞く耳持ってないんだけど!」
「当たり前だろ!里長っていってもおじいちゃんだぞ!話に進展なかったら寝ちゃうに決まってるだろ!」
「何を!私の話がつまんないって言いたいのか!?私が恥を忍んで嫌な過去を話したっていうのに!」
「丸ごと過去の出来事を話す馬鹿がいるか!いいんだよ重要な部分さえ話せれば、第一次試験突破が困難だったって話絶対必要ないだろ!」
「こういう大事な話は一から説明しないと分かりにくいだろうが!」
クロムとアルノアはまたつかみ合いに喧嘩に発展し、レズリィは頭を抱えてため息を吐いた。
「はぁ…もう!いい加減にしてください二人共!」
ガンッ!ガンッ!
レズリィの持つ杖が力強く二人の頭に振り下ろされ、金属音が王室内部に響き渡った。
「んあ…すまない、私としたことが寝てしまったようだ。」
ちょうどよくフォルティアがまどろみから目覚め、再び落ちそうになっているまぶたを上げるために指を押しながら刺激した。
「それで…今どういう状況なんだ?」
フォルティアの最後の記憶ではアルノアがこと詳しく説明していたはずだったが、何故か今の光景はクロムとアルノアが尻を少し上げながら顔を地面につけて倒れていた。
「クールダウンです、すぐに起き上がるので少々お待ちください。」
倒れている二人の横ではレズリィが微笑みながら事の事情を説明した。フォルティアは彼女が眉をビクビク動かして妙な笑みになっていることに疑問を持ったが聞くのは野暮だと感じ二人が起き上がるのを待った。
ーー10分後。
「…とういう経緯で私は魔物になって皆と旅をしています。」
横からクロムに何度も指摘をあげながらも、なんとかアルノアの話をまとめあげた。
「そうか…まさか彼女にやられた被害者がこうして立ち上がって戦いに赴くとは、辛く苦しい旅をしているのだな。」
「彼女にやられたって…もしかしてこの里にもそのベアルにやられた傷跡が?」
フォルティアは視線を伏せ、ゆっくりとその口から語りだした。
「昔…近衛隊員に姿を変え、この里を破壊しようと企んでいたんだ。」
その記憶に触れる度湧き上がる静かな怒りを、パーティーの全員が静かに見ていた。
「彼女の人を洗脳してしまう力を持った話術に隊員達は騙され、彼女の息がかかった隊員とそうでない隊員で激しい戦いが起こった。なんとか私が食い止めて被害を少なくさせたが、手遅れだったら壊滅状態だっただろう。」
フォルティアの口から話されたベアルの行動に皆が驚く。だがコハクは、その悪魔がどのようにして霊長の里で悪さができたのか疑問が出てきた。
「守護結界は作動しなかったんですか?変装をしてても本質が悪魔なら入ることなんて出来ないはずなのに…。」
「いや…入れる。」
隣で口元を手で隠しながらぼそっと答えるクロム、その答えを皆に思い出させるよう話を進めた。
「俺達はアルノアが魔物だと隠した状態で、この里に来る予定だった旅行者と紛れて通ってみせた。通行証があれば誰でもフリーに入れるっていうことだ。」
「その通りだ、そして敷地内に入ってくれば近衛隊がすぐに駆けつけ即退治する。はずだったんだ…」
そう、結界をうまくすり抜けても第二の障壁として近衛隊が調査として立ちはばかる。
アルノアのようにたとえ姿を隠しても、近衛隊の目は誤魔化せない。パーティーの全員はそれを目の前で見たからその観察眼の凄さはわかる。
だがフォルティアは「はずだった…」という出来なかったという言葉を残した。その言葉の意味を裏付けるよう彼は苦しい呼気から言葉を絞り出した。
「彼女は近衛隊に怪しまれぬよう、隊員の体を奪ったのだ。上位種の悪魔が使う自身の魂を他者に乗り換え支配するスキル《侵蝕》という技を使ってな。」
「そんなことが出来るんですか!?悪魔族というのは!」
レズリィは驚嘆を超えて、フォルティアの言葉に耳を疑う。
相手の体に乗り憑って自分の体として主導権を奪うなど、人としてこれほどまでに恐ろしいことはない。
まるで、町の中に堂々と悪魔が潜伏していると言われてるようだった。
「そうか…だから皆怪しまれなかったんだ。」
アルノアはフォルティアの言葉に似た現象を見たことがあった。
自分の過去を長く話した甲斐があってか、その答えがすぐ記憶の中で広がった。
「ベアトリスは本当にあそこにいた魔法使いだった、でもどこかで悪魔に体を乗っ取られて中身が悪魔となった状態で潜伏していたっていうのか。」
見た目は本当に人間だった、翼も角も無く、魔力を持ってるといっても魔法使いとなればそれは当たり前になる。
ただ奴らにとって他人の命や魂は自分の目的のために動かす部品でしかない。酷いことだ。
(吐き気がする!こんな邪悪なことがあっていいものか!)
人の体を使った変装《侵蝕》という恐ろしいスキルに、アルノアは無表情のまま内心で吠え猛る。
ベアルの存在にパーティー全員が不安感を持つ中、最初にこの話を切り出したフォルティアがいらぬ心配をさせぬようこの話を切り上げた。
「ひとまず…アルノア君がベアルの被害者だとわかれば彼らの警戒も解けるだろう。彼らも同じく彼女の被害者だった者達だからわかってくれる。」
「よかった…これでアルノアさんの無実が証明できましたよ!」
「ああ…ありがとう。」
コハクは心からアルノアの無実に喜んだが、先程までベアルの悪技に怒りを感じていた彼女にとって素直に切り替えることが出来ずに、変な笑みを浮かべてしまった。
「さて…前置きを終えたところでようやく本題に入ろう。君達勇者パーティーがはるばるこの里にやって来た理由を教えてもらいたい。ルーナ城の女王が通行証を渡すということは只事ではないのだろう。」
アルノアの話ですっかり忘れそうになっていたが、俺達は顔を合わせ今まで起きた事と、これから起きることを出し合いながらフォルティアに話した。
「なんと…!あの病魔に手を触れようとする不届き者がいるとは…。」
「俺達はその計画を止めるためにここまで来ました。ですが、帝国の勢力に俺達の力では力不足なんです。」
俺は深く頭を下げた、その姿を見て他の皆も同じように頭を下げた。
「お願いします!神巫の巫女に会わせてくれませんか?帝国の勢力と厄災魔獣の復活を阻止できるのは彼女しかいないんです!」
フォルティアはクロム達の話を聞いて少し唸りながら考え込んだ。
そして、無言のまま立ち上がり入口があった場所へ歩き出した。
何か失礼なことを言ったのかと心配になり、皆はフォルティアがいる場所に顔を向けた。
「フォルティア…さん?」
「神巫の巫女には会わせることはできる、今の話を彼女に聞かせれば答えを聞けるだろう。」
フォルティアは持っていた杖を地面へ叩き少し大きな魔法陣を作りだした。
「だが、彼女は人との交流を避けている。君達の話を聞いてくれるかどうかわからない、それが少し不安なんだ。」
人との交流を避けるという言葉にテレサ女王も同じことを言っていたとにアルノア達は思い返した。
「神巫の巫女…そういえばなんであの人は人との交流を絶っているんだ?」
「話を聞けるといいんですけど、もし戦うことが嫌になっているネガティブ思考になっていたらどうしましょう…。」
「ええっ!そしたら私達…。」
「大丈夫…。」
3人が巫女について心配してる中、俺は意味深な肯定文を呟いた。きっと何も考えずに言ったことだと思われているかもしれないが、俺はゲームでやってる分彼女のことをよく知っているし、人との交流を絶った理由も分かっている。
だから皆に一言安心できる言葉を言えるのだ。
「巫女なら…大丈夫だ。」
俺の一言で少し落ち着きを取り戻した皆は、小さく頷くと立ち上がってフォルティアのもと駆け寄った。
「入りたまえ、彼女がいる社に送ろう。」
展開された魔法陣に皆入ると、再びフォルティアは杖を地面に叩き魔法陣を起動した。
白い光が体を包み、耳に風が突っ切るような音が聞こえた瞬間、王室から5人の姿がフッと消えた。
「うっ…。」
真っ白で眩しい世界が徐々にクリアになっていき、目が慣れてくると今自分達が立っている場所を見て驚愕した。
「わわっ!なんですかここ!」
「高っっ!怖っっ!足すくんじまいそうだ!」
俺とコハクはお互い抱き合うような形で足元をガクガク震わせていた。
俺達5人は縦横3メートルほどの小さな足場に立っており、下を覗くと切り立った崖が恐ろしく下へ伸びていた。
「ここ…山奥の修行僧がいる場所かと思ったら、御神木のてっぺんじゃないか!?」
アルノアが驚きながらある場所へ指を指した。その場所に顔を向けると、小さく里の一部が見え、もっと遠くにはセーレとの待ち合わせに約束した湖があった。
そして、よく見ると今立っている場所も切り立った崖も全部木のような素材で出来ていることに気づいた。
「アルノア君の言う通り、ここは御神木の頂上だ。この先を登って行くと神巫の巫女が住んでいる社がある。」
俺達の背後には、階段上の先に木造の社が建っていた。
その社は日本家屋のような造りで、神社特有の鳥居や建物が赤色に染まっていることはなかった。
家…人が一人住める程度の小さく古い家だった。
「ここが…神巫の巫女がいる社ですか?社というより家に近い感じがする造りですね。」
一番近くに階段状になっている道にいたレズリィは先に少しだけ登って社の造りを観察した。もちろん階段には手すりなんてなく足を踏み外せば下へ真っ逆さまだ。
だというのに太い木の幹で作られた足場の上をレズリィはスイスイと上っていく。
俺は少し震えながらの声でレズリィの行動に驚きの言葉を話した。
「マジかよ…レズリィってもしかして高い所平気な人なのか。」
「下を見なければ大丈夫ですよ、ああでも階段はちゃんと見ないと駄目ですよ。落ちたら大変な…。」
「落ちるって言葉使わないで今!ピリピリしてるから!」
「ダッセェな、高い所が苦手な勇者とか恥ずかしいにもほどがあるぞ。」
「お前こそさっきから顔が引きつってるぞ、嫌なら嫌で素直に認めれば後で楽になると思うぞ。」
アルノアの口が片方だけ上がって妙な笑顔を作っていた。俺の指摘に不満を持ったのか俺の肩を掴んで大きく揺らしやり返した。
「やめろ!マジで馬鹿か!こんな場所でふざけてる場合かよ!」
二人のつかみ合いを後ろで見ていたフォルティアは軽く咳払いし、こちらに意識を向けるようにした。
「すまないが、私は先に戻ってやることをすませなければならない。帰り道はこの魔法陣を用意しておくからくれぐれも気をつけるようにするんだぞ。」
そう皆に伝えるとフォルティアは杖の先を俺とアルノアの二人がいる場所に向け、先程の注意と同じ喚起で仲裁に入った。
「特にそこの二人、喧嘩はほどほどにな。」
二人はつかみ合いのままフォルティアに顔を向け、唖然とした状態で何度も縦に首を振った。
それを見終えた後、フォルティアは断崖絶壁である御神木の頂上から勢いよく外へ飛び出した。
修道服を模した真っ白な正装が風に揺られながら降下し、最終的には針の穴状になって見えなくなった。
「喧嘩はほどほどにだとよ、またレズリィにゲンコツくらわせられる前にさっさと上るしかねえなこれ。」
そう言って先に行ったレズリィを追いかけようと階段に足をかけた瞬間、両脇腹を手で掴まれ驚いて変な奇声をあげてしまった。
「にゃひぃぃ!おまっ!どこ掴んでんだ!?」
「つ…掴むところないんだ!そのくらい察しろ!」
アルノアは頭を下にしてどういう表情か見せようとしないが、足元を見ると僅かながら服が動いていた。
明らかに震えて腰を抜かしてしまっている、こいつはなんでこんな状態でも強気なんだと呆れながら心に呟き、アルノアに歩幅を合わせながら慎重に階段を上って行った。
「たくっ…行くぞ。」
「そうして私は…姿を隠して生きるようになった。皆怪しそうな目をしてたさ、でも魔物だとわかって殺されるようなことになるくらいなら我慢した。まだ死ねないからさ、奴を倒すまで!」
アルノアは力強く握り拳を作った、それを見てクロムは元のアルノアに戻ったと感じ静かに喜んだ。
「ああ…話してくれてよかった。お前の気持ちは俺達にちゃんと伝わったさ。」
そう言うとクロムは少し頭を下げながらアルノアの肩を掴んだ。アルノアはそれに気づきクロムの方へ顔を向けると少しやつれているような彼の横顔が見えた。
「でもよ…長いよ。」
「何が?」
「話だよ!30分も長々と話すやつあるかぁ!小説だったら2万字は軽く超えるよ!」
「はぁぁ!?長いだぁ?私の話のどこが長いっていうんだ!なぁ?」
周りの意見を聞こうと辺りを見ると、コハクとレズリィは微妙な顔をしながらアルノアから目を逸らしていた、フォルティナに限っては寝ていた。
「おいおい!話を聞きたいって言ってた本人が一番聞く耳持ってないんだけど!」
「当たり前だろ!里長っていってもおじいちゃんだぞ!話に進展なかったら寝ちゃうに決まってるだろ!」
「何を!私の話がつまんないって言いたいのか!?私が恥を忍んで嫌な過去を話したっていうのに!」
「丸ごと過去の出来事を話す馬鹿がいるか!いいんだよ重要な部分さえ話せれば、第一次試験突破が困難だったって話絶対必要ないだろ!」
「こういう大事な話は一から説明しないと分かりにくいだろうが!」
クロムとアルノアはまたつかみ合いに喧嘩に発展し、レズリィは頭を抱えてため息を吐いた。
「はぁ…もう!いい加減にしてください二人共!」
ガンッ!ガンッ!
レズリィの持つ杖が力強く二人の頭に振り下ろされ、金属音が王室内部に響き渡った。
「んあ…すまない、私としたことが寝てしまったようだ。」
ちょうどよくフォルティアがまどろみから目覚め、再び落ちそうになっているまぶたを上げるために指を押しながら刺激した。
「それで…今どういう状況なんだ?」
フォルティアの最後の記憶ではアルノアがこと詳しく説明していたはずだったが、何故か今の光景はクロムとアルノアが尻を少し上げながら顔を地面につけて倒れていた。
「クールダウンです、すぐに起き上がるので少々お待ちください。」
倒れている二人の横ではレズリィが微笑みながら事の事情を説明した。フォルティアは彼女が眉をビクビク動かして妙な笑みになっていることに疑問を持ったが聞くのは野暮だと感じ二人が起き上がるのを待った。
ーー10分後。
「…とういう経緯で私は魔物になって皆と旅をしています。」
横からクロムに何度も指摘をあげながらも、なんとかアルノアの話をまとめあげた。
「そうか…まさか彼女にやられた被害者がこうして立ち上がって戦いに赴くとは、辛く苦しい旅をしているのだな。」
「彼女にやられたって…もしかしてこの里にもそのベアルにやられた傷跡が?」
フォルティアは視線を伏せ、ゆっくりとその口から語りだした。
「昔…近衛隊員に姿を変え、この里を破壊しようと企んでいたんだ。」
その記憶に触れる度湧き上がる静かな怒りを、パーティーの全員が静かに見ていた。
「彼女の人を洗脳してしまう力を持った話術に隊員達は騙され、彼女の息がかかった隊員とそうでない隊員で激しい戦いが起こった。なんとか私が食い止めて被害を少なくさせたが、手遅れだったら壊滅状態だっただろう。」
フォルティアの口から話されたベアルの行動に皆が驚く。だがコハクは、その悪魔がどのようにして霊長の里で悪さができたのか疑問が出てきた。
「守護結界は作動しなかったんですか?変装をしてても本質が悪魔なら入ることなんて出来ないはずなのに…。」
「いや…入れる。」
隣で口元を手で隠しながらぼそっと答えるクロム、その答えを皆に思い出させるよう話を進めた。
「俺達はアルノアが魔物だと隠した状態で、この里に来る予定だった旅行者と紛れて通ってみせた。通行証があれば誰でもフリーに入れるっていうことだ。」
「その通りだ、そして敷地内に入ってくれば近衛隊がすぐに駆けつけ即退治する。はずだったんだ…」
そう、結界をうまくすり抜けても第二の障壁として近衛隊が調査として立ちはばかる。
アルノアのようにたとえ姿を隠しても、近衛隊の目は誤魔化せない。パーティーの全員はそれを目の前で見たからその観察眼の凄さはわかる。
だがフォルティアは「はずだった…」という出来なかったという言葉を残した。その言葉の意味を裏付けるよう彼は苦しい呼気から言葉を絞り出した。
「彼女は近衛隊に怪しまれぬよう、隊員の体を奪ったのだ。上位種の悪魔が使う自身の魂を他者に乗り換え支配するスキル《侵蝕》という技を使ってな。」
「そんなことが出来るんですか!?悪魔族というのは!」
レズリィは驚嘆を超えて、フォルティアの言葉に耳を疑う。
相手の体に乗り憑って自分の体として主導権を奪うなど、人としてこれほどまでに恐ろしいことはない。
まるで、町の中に堂々と悪魔が潜伏していると言われてるようだった。
「そうか…だから皆怪しまれなかったんだ。」
アルノアはフォルティアの言葉に似た現象を見たことがあった。
自分の過去を長く話した甲斐があってか、その答えがすぐ記憶の中で広がった。
「ベアトリスは本当にあそこにいた魔法使いだった、でもどこかで悪魔に体を乗っ取られて中身が悪魔となった状態で潜伏していたっていうのか。」
見た目は本当に人間だった、翼も角も無く、魔力を持ってるといっても魔法使いとなればそれは当たり前になる。
ただ奴らにとって他人の命や魂は自分の目的のために動かす部品でしかない。酷いことだ。
(吐き気がする!こんな邪悪なことがあっていいものか!)
人の体を使った変装《侵蝕》という恐ろしいスキルに、アルノアは無表情のまま内心で吠え猛る。
ベアルの存在にパーティー全員が不安感を持つ中、最初にこの話を切り出したフォルティアがいらぬ心配をさせぬようこの話を切り上げた。
「ひとまず…アルノア君がベアルの被害者だとわかれば彼らの警戒も解けるだろう。彼らも同じく彼女の被害者だった者達だからわかってくれる。」
「よかった…これでアルノアさんの無実が証明できましたよ!」
「ああ…ありがとう。」
コハクは心からアルノアの無実に喜んだが、先程までベアルの悪技に怒りを感じていた彼女にとって素直に切り替えることが出来ずに、変な笑みを浮かべてしまった。
「さて…前置きを終えたところでようやく本題に入ろう。君達勇者パーティーがはるばるこの里にやって来た理由を教えてもらいたい。ルーナ城の女王が通行証を渡すということは只事ではないのだろう。」
アルノアの話ですっかり忘れそうになっていたが、俺達は顔を合わせ今まで起きた事と、これから起きることを出し合いながらフォルティアに話した。
「なんと…!あの病魔に手を触れようとする不届き者がいるとは…。」
「俺達はその計画を止めるためにここまで来ました。ですが、帝国の勢力に俺達の力では力不足なんです。」
俺は深く頭を下げた、その姿を見て他の皆も同じように頭を下げた。
「お願いします!神巫の巫女に会わせてくれませんか?帝国の勢力と厄災魔獣の復活を阻止できるのは彼女しかいないんです!」
フォルティアはクロム達の話を聞いて少し唸りながら考え込んだ。
そして、無言のまま立ち上がり入口があった場所へ歩き出した。
何か失礼なことを言ったのかと心配になり、皆はフォルティアがいる場所に顔を向けた。
「フォルティア…さん?」
「神巫の巫女には会わせることはできる、今の話を彼女に聞かせれば答えを聞けるだろう。」
フォルティアは持っていた杖を地面へ叩き少し大きな魔法陣を作りだした。
「だが、彼女は人との交流を避けている。君達の話を聞いてくれるかどうかわからない、それが少し不安なんだ。」
人との交流を避けるという言葉にテレサ女王も同じことを言っていたとにアルノア達は思い返した。
「神巫の巫女…そういえばなんであの人は人との交流を絶っているんだ?」
「話を聞けるといいんですけど、もし戦うことが嫌になっているネガティブ思考になっていたらどうしましょう…。」
「ええっ!そしたら私達…。」
「大丈夫…。」
3人が巫女について心配してる中、俺は意味深な肯定文を呟いた。きっと何も考えずに言ったことだと思われているかもしれないが、俺はゲームでやってる分彼女のことをよく知っているし、人との交流を絶った理由も分かっている。
だから皆に一言安心できる言葉を言えるのだ。
「巫女なら…大丈夫だ。」
俺の一言で少し落ち着きを取り戻した皆は、小さく頷くと立ち上がってフォルティアのもと駆け寄った。
「入りたまえ、彼女がいる社に送ろう。」
展開された魔法陣に皆入ると、再びフォルティアは杖を地面に叩き魔法陣を起動した。
白い光が体を包み、耳に風が突っ切るような音が聞こえた瞬間、王室から5人の姿がフッと消えた。
「うっ…。」
真っ白で眩しい世界が徐々にクリアになっていき、目が慣れてくると今自分達が立っている場所を見て驚愕した。
「わわっ!なんですかここ!」
「高っっ!怖っっ!足すくんじまいそうだ!」
俺とコハクはお互い抱き合うような形で足元をガクガク震わせていた。
俺達5人は縦横3メートルほどの小さな足場に立っており、下を覗くと切り立った崖が恐ろしく下へ伸びていた。
「ここ…山奥の修行僧がいる場所かと思ったら、御神木のてっぺんじゃないか!?」
アルノアが驚きながらある場所へ指を指した。その場所に顔を向けると、小さく里の一部が見え、もっと遠くにはセーレとの待ち合わせに約束した湖があった。
そして、よく見ると今立っている場所も切り立った崖も全部木のような素材で出来ていることに気づいた。
「アルノア君の言う通り、ここは御神木の頂上だ。この先を登って行くと神巫の巫女が住んでいる社がある。」
俺達の背後には、階段上の先に木造の社が建っていた。
その社は日本家屋のような造りで、神社特有の鳥居や建物が赤色に染まっていることはなかった。
家…人が一人住める程度の小さく古い家だった。
「ここが…神巫の巫女がいる社ですか?社というより家に近い感じがする造りですね。」
一番近くに階段状になっている道にいたレズリィは先に少しだけ登って社の造りを観察した。もちろん階段には手すりなんてなく足を踏み外せば下へ真っ逆さまだ。
だというのに太い木の幹で作られた足場の上をレズリィはスイスイと上っていく。
俺は少し震えながらの声でレズリィの行動に驚きの言葉を話した。
「マジかよ…レズリィってもしかして高い所平気な人なのか。」
「下を見なければ大丈夫ですよ、ああでも階段はちゃんと見ないと駄目ですよ。落ちたら大変な…。」
「落ちるって言葉使わないで今!ピリピリしてるから!」
「ダッセェな、高い所が苦手な勇者とか恥ずかしいにもほどがあるぞ。」
「お前こそさっきから顔が引きつってるぞ、嫌なら嫌で素直に認めれば後で楽になると思うぞ。」
アルノアの口が片方だけ上がって妙な笑顔を作っていた。俺の指摘に不満を持ったのか俺の肩を掴んで大きく揺らしやり返した。
「やめろ!マジで馬鹿か!こんな場所でふざけてる場合かよ!」
二人のつかみ合いを後ろで見ていたフォルティアは軽く咳払いし、こちらに意識を向けるようにした。
「すまないが、私は先に戻ってやることをすませなければならない。帰り道はこの魔法陣を用意しておくからくれぐれも気をつけるようにするんだぞ。」
そう皆に伝えるとフォルティアは杖の先を俺とアルノアの二人がいる場所に向け、先程の注意と同じ喚起で仲裁に入った。
「特にそこの二人、喧嘩はほどほどにな。」
二人はつかみ合いのままフォルティアに顔を向け、唖然とした状態で何度も縦に首を振った。
それを見終えた後、フォルティアは断崖絶壁である御神木の頂上から勢いよく外へ飛び出した。
修道服を模した真っ白な正装が風に揺られながら降下し、最終的には針の穴状になって見えなくなった。
「喧嘩はほどほどにだとよ、またレズリィにゲンコツくらわせられる前にさっさと上るしかねえなこれ。」
そう言って先に行ったレズリィを追いかけようと階段に足をかけた瞬間、両脇腹を手で掴まれ驚いて変な奇声をあげてしまった。
「にゃひぃぃ!おまっ!どこ掴んでんだ!?」
「つ…掴むところないんだ!そのくらい察しろ!」
アルノアは頭を下にしてどういう表情か見せようとしないが、足元を見ると僅かながら服が動いていた。
明らかに震えて腰を抜かしてしまっている、こいつはなんでこんな状態でも強気なんだと呆れながら心に呟き、アルノアに歩幅を合わせながら慎重に階段を上って行った。
「たくっ…行くぞ。」
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