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復活の厄災編
第三十話 夢が堕ちた日②
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バクン…!バクン…!
「はぁ…はぁ…!なんだよ…なんだよこれ!止まらない!心臓が…!」
無我夢中に走るたび心臓が速く動き、痛みもその動き合わせてどんどん増えていく。
それと一緒に体に流れる血液も速くなり体温が異常なまでに上がっていく、私は急激な体温上昇で歩くことすらままならないほどまで状態が悪化していた。
「熱い…体を冷やさないと…このままじゃ…。」
走り続け大図書館の外へ出たアルノアは膝をついて倒れた。
風邪を引いた時のような高熱に苛まれ、まともに立つことすらできない。
それでも逃げなければ…自分の体を他の奴らに見られるわけにはいかない。その気力を使って這いずりながらその場を後にしようとした。
「あっ、あれって…。」
少し遠くに庭園の噴水が見えた、今すぐ逃げなきゃいけないのに高熱を出している体が冷やしたいと願って自分の逃走を拒んでいた。
「ああ…あぁぁぁぁあ!!」
その体に従うよう力を振り絞って勢いよく起き上がり駆け出した、まるで何日も彷徨い歩いた者が目の前のご馳走に飛びつくように必死にそこまで走り出した。そして…
バチャン!
水面に思いっきり顔をつけ、その次に手、胴体、足と体全てに冷たい水を行き渡せた。
周りから見れば非常識だと思われてもおかしくなかった、噴水の中に人が入るなどよほどの馬鹿しかいない。
それでもこの自分の身を焦がすような体温を静めるためならなんでもしたかった、例えその馬鹿者だと見られる事になっても。
ザバァァン!
「はぁ…はぁ…。」
水面から顔を上げ自分の体に酸素を送り込んだ、荒げた呼吸が少し落ち着くとさっきまでのような熱と激しく痛み出していた胸の苦しみがスッ…と消えていた。
「何なんだよ…これ…。」
突然胸の激痛と高熱に苛まれていた体の
異常がピタリと治ったこと。「普通の…」という言葉では片付けられない事象に原因を考えていると、その答えが目の前に映し出された。
「えっ…。」
体を動かさず居座っていたことにより、波立つ水面がだんだんと鏡のように自分の顔が揺らめきながら映し出された。
いつも鏡で見ていた黒い瞳は緋色に染め上がり怪しく光っている。
特徴的なウェーブがかかった長い赤髪は水が滴り痩せている、その髪の中から何か尖ったモノが二本頭に生えていた。
サピエルの「やはり…」という言葉から何となく察しがついていた。それでもそうじゃないって、ただの発作なんだって、そう自分に言い聞かせて最悪な結果から目を背けていた。
「あ…ああ…あぁぁぁ…!」
だが現実はいつもその結果を正直に突きつけてくる、水面に映し出していたものはアルノアの形をした悪魔の姿そのものだった。
「なんで…!?何なんだよこれ!今までなんてことなかったのにどうして急に!これじゃまるで…」
「化物みたいだ…かな?」
絶望感を強調した叫び声をあげる中で、笑みを含んだ女性の声が聞こえた。
アルノアはその声がする方向に顔を向けると見知った顔の人が佇んでいた。
「やあ、アルノアだっけ?1年ぶりだね。」
久しぶりに顔を合わせる友人のように接してきたのは、赤いストレートヘアを両側に垂らした女性で、着慣れていない紫と黒のしま模様のローブを着ている。
その顔には見覚えがあった、私に夢を与えてくれた人、私に可能性を見い出してくれた人。
忘れるはずはない…彼女はベアトリスだ。
「ベアトリス!?おいこれはどういうことだよ!」
「どういう事って…もしかして魔物になった事を責めているの?それって自身の器に魔力を詰め込み過ぎた結果なんじゃないの。それは君が一番わかっていたことじゃない、魔力の過剰摂取で魔物になるって。」
ベアトリスの言葉にはまるで私には非がないと言わんばかりに、研究者の理論を話す感じに責任から逃げていた。
「そんな姿になって…皆に知られたら殺されちゃうよ。でも大丈夫、私は君がどんな姿になっても助けるよ。」
ベアトリスはアルノアに向かって手を伸ばす、まるで救世主が現れたかのように微笑みながらアルノアを労った。
「困っている人がいたら手を差し伸べたくなるのが私だからね、君のその姿を治せるように私が…」
「おい…。」
ベアトリスの話を遮り、アルノアは紅く染まった不気味な目で彼女を睨みつけた。
「お前…何笑ってんだ…こんな姿を見て、お前が私に提案してきた実験が失敗して、なんで笑っていられるんだ…。」
気に入らない…気持ち悪い…あの笑顔が。
「最初からおかしい話だった…なんであの時、あの場にお前が現れた?なんで私の悩みにすぐ手を差し伸ばせた?」
口に出すとその違和感が強調された、冷静に考えればおかしかった…それは今もそうだ…今も前も私が絶望した時に彼女が現れた。
「偶然にしては出来すぎだ、お前は最初から私が無能力者だって知っていたんだろ!それで私を実験に利用した、お前の説が正しいのか証明するために!」
こいつは…自分の実験のために私を利用した、何も知らない私を…絶望した心を…こいつは弄んだ!
許されるわけがない!笑っていいはずがない!直感的に感じた、この人間はここにいてはいけないということを。
「だけどもう終わりだ、こんな姿にさせた狂気の実験を大賢者に報告する。私もろともお前の人生を道連れにしてやる!」
「ぷふっ…!あははは!」
「何がおかしい!」
彼女がしたことを告発すると言ったのに、ベアトリスは吹き出して笑っていた。
その気狂いな対話に恨みや怒りで満ちていたアルノアに恐怖という寒気が芽生えた。
「狂気の実験かぁ…面白いこと言うね君は。あんな無力な人間が魔力を持てるようになったんだよ。あんなに魔法使いになりたいって騒いでいたからさせてあげたんだよ。」
「なっ…!」
その恐怖の原因が分かりかけてきた、ベアトリスから異様な黒い邪気がまとわりついているのが見えたのだ。
そしてその黒い邪気は着ていたローブを黒く染め上げ形を再構築するよう別な形に変形した。
全身を黒を基調とした騎士風の戦闘服になり変わり、背中に黒い翼を生やした。
素顔は変わらず狂気的な笑みを浮かべているが、半目で覗く紅い眼光は見る者の背筋を凍らせた。
人間でも…魔法使いでもない…悪魔だ。
「外見が変わったから何?君は魔法使いになれたんだから別にいいと思うけど。むしろ私に感謝すべきじゃない?魔法使いにさせてくれてありがとうって。」
「悪魔…!お前っ!王国に潜伏してやがったのか!」
「ふふっ、ベアトリスって名前、実際にいた魔法研究者から取ったものなんだよ。偶然私と容姿が似ていたからね、少し体を借りさせてもらったんだ。」
その悪魔は踊り始めるような優雅な姿勢でお辞儀した。
「ベアル…これが私の本名。」
「名前なんて聞いてねぇ!私の夢も人生も踏み躙ったんだ!ここで死んで地獄で詫びやがれ!」
怒りの叫びと共にアルノアが伸ばした右手から魔法陣が展開される。騙してきたことや利用していたこと、何よりあの憎たらしい笑みがアルノアの中で殺意という力を目指めさせ、試験で放った魔法より大きな力を放出できた。
「ファイア《火球》!」
ゴォォォォ!
人の体の半分ほどの火球がベアルに向かって飛んでくる、それでも彼女は余裕そうにお辞儀をしていた。
迫ってくる火球の存在が知らないわけじゃない、ただ…
「ファイア《火球》。」
ビュュン!
ベアルの前に魔法陣が展開されゴルフボールほとの小さな火球を射出した。
驚くことにアルノアの放った大きな火球を貫通させ、そのままの勢いでアルノアの体にめがけて飛んできた。
そう…ベアルにとってアルノアとは眼中にもならない存在だった。弱過ぎる…それは強者だけが感じる退屈しのぎの感覚だった。
バジュゥゥ!
「うわぁぁぁぁ!」
アルノアの目線から見れば、急に火球が飛んできたかのように見えただろう。そんなものは避けられるはずもなく、腹に被弾し皮膚が溶けるような感覚を味わいながら悶え苦しんだ。
「あぐぁ…!熱い!あぁぁぁ!!」
「馬鹿だねぇ…君って怒ると周りが見えなくなるタイプでしょ。たかが数時間魔法勉強したくらいで私に挑もうなんて意気込み、普通ならしないけどね。こういうのなんて言うんだっけ?」
ベアルは苦しんでいるアルノアの前に膝を曲げて座り、相手を小馬鹿にするよう目を細めた笑みを浮かべてその答えを話した。
「おこがましいにもほどがある、ってね。」
「うがぁぁぁぁ!」
アルノアが手を伸ばせばベアルの顔に手が届く位置にいた。耐えがたい火傷の痛みを気力に変えベアルに飛びかかったが…
ゲシッ!
「がはっ!」
アルノアの手が届く前にベアルは反射的に腕を動かし、鋭い裏拳が左頬に直撃した。
「うるさ…近くで叫ばないでよ。」
横向けに倒れたアルノアの横腹にはベアルが放った火球が衣服を破って素肌を晒していた。
そして、追い打ちをかけるようその部分にめがけてベアルは勢いよくブーツで踏みつけた。
ガッ!
「がぁぁぁ!」
まるで刃物が刺さるような激痛が広がり、アルノアは苦痛に顔を歪ませながらも必死に足を退かそうと抵抗した。
それを見て高揚したのか、ベアルはニヤニヤした顔をしながら足をぐりぐりと押しつけ悟るように話始めた。
「君を助けてあげるって話、まだ有効なのわかる?その姿になったら自分の居場所は無くなるし、自分の夢すら絶たれちゃう。まったく…不公平な世界だよね。」
「お前が…作ったことだろ…!がはっ!」
「私達の所に来なよ…誰も君を敵視したりしないし、新しい夢を作ることだって出来る。君の恨み…私達は欲しいな。」
ベアルは力欲しさにささやくよう誘いだし、そして抵抗出来ないように痛めつけ、アルノアの答えを待った。
「かはぁ…!はぁ…!」
その答えを表すかのようアルノアはベアルに向かって火炎魔法を唱えた。
死んでもお前の思い通りになんてならない!とそう伝わり、ベアルの表情が冷たく豹変した。
「何?まだやるつもり?」
ゲシッ!
唱えようと伸ばしたアルノアの腕を蹴り上げ、詠唱完了していた火炎魔法は異なる方向へと飛んでいった。
「そういう反抗心、へし折ってやりたいけど時間がないから無理矢理にでも連れて行くわ。歯を食いしばっておきなさいね!」
「ぐぁぁ!はぁ…へへっ…。」
力強く火傷した箇所を踏みつけ更にいっそう体中に激痛が走った。だがアルノアは最初こそ苦しんだが、勝ち誇ったかのよう笑みをこぼしベアルに吐き捨てた。
「言ってろ…お前に…勝てない…なら…連れてくるまでだ…!」
「はぁ?何言って…」
ダァァン!
突然の破裂音と共にベアルの体が後方に吹き飛んだ。
「ぐっ…!」
ベアルの胸には焼け焦げた風穴が空けられていた、彼女がアルノアに向けて撃った火球と同じ要領の魔法だった。
だが違うのは彼女が撃った魔法とは比べ物にならないその威力、こんな芸当が出来る者にベアルは一人心当たりがあった。
「ははっ…大賢者か!命拾いしたねアルノ…」
ズダダダダダダ!
大量の火球がベアルの体を貫き、虫食いされた葉っぱのような体にされたところでベアルはピクリとも動かなくなった。
「はぁ…はぁ…!なんだよ…なんだよこれ!止まらない!心臓が…!」
無我夢中に走るたび心臓が速く動き、痛みもその動き合わせてどんどん増えていく。
それと一緒に体に流れる血液も速くなり体温が異常なまでに上がっていく、私は急激な体温上昇で歩くことすらままならないほどまで状態が悪化していた。
「熱い…体を冷やさないと…このままじゃ…。」
走り続け大図書館の外へ出たアルノアは膝をついて倒れた。
風邪を引いた時のような高熱に苛まれ、まともに立つことすらできない。
それでも逃げなければ…自分の体を他の奴らに見られるわけにはいかない。その気力を使って這いずりながらその場を後にしようとした。
「あっ、あれって…。」
少し遠くに庭園の噴水が見えた、今すぐ逃げなきゃいけないのに高熱を出している体が冷やしたいと願って自分の逃走を拒んでいた。
「ああ…あぁぁぁぁあ!!」
その体に従うよう力を振り絞って勢いよく起き上がり駆け出した、まるで何日も彷徨い歩いた者が目の前のご馳走に飛びつくように必死にそこまで走り出した。そして…
バチャン!
水面に思いっきり顔をつけ、その次に手、胴体、足と体全てに冷たい水を行き渡せた。
周りから見れば非常識だと思われてもおかしくなかった、噴水の中に人が入るなどよほどの馬鹿しかいない。
それでもこの自分の身を焦がすような体温を静めるためならなんでもしたかった、例えその馬鹿者だと見られる事になっても。
ザバァァン!
「はぁ…はぁ…。」
水面から顔を上げ自分の体に酸素を送り込んだ、荒げた呼吸が少し落ち着くとさっきまでのような熱と激しく痛み出していた胸の苦しみがスッ…と消えていた。
「何なんだよ…これ…。」
突然胸の激痛と高熱に苛まれていた体の
異常がピタリと治ったこと。「普通の…」という言葉では片付けられない事象に原因を考えていると、その答えが目の前に映し出された。
「えっ…。」
体を動かさず居座っていたことにより、波立つ水面がだんだんと鏡のように自分の顔が揺らめきながら映し出された。
いつも鏡で見ていた黒い瞳は緋色に染め上がり怪しく光っている。
特徴的なウェーブがかかった長い赤髪は水が滴り痩せている、その髪の中から何か尖ったモノが二本頭に生えていた。
サピエルの「やはり…」という言葉から何となく察しがついていた。それでもそうじゃないって、ただの発作なんだって、そう自分に言い聞かせて最悪な結果から目を背けていた。
「あ…ああ…あぁぁぁ…!」
だが現実はいつもその結果を正直に突きつけてくる、水面に映し出していたものはアルノアの形をした悪魔の姿そのものだった。
「なんで…!?何なんだよこれ!今までなんてことなかったのにどうして急に!これじゃまるで…」
「化物みたいだ…かな?」
絶望感を強調した叫び声をあげる中で、笑みを含んだ女性の声が聞こえた。
アルノアはその声がする方向に顔を向けると見知った顔の人が佇んでいた。
「やあ、アルノアだっけ?1年ぶりだね。」
久しぶりに顔を合わせる友人のように接してきたのは、赤いストレートヘアを両側に垂らした女性で、着慣れていない紫と黒のしま模様のローブを着ている。
その顔には見覚えがあった、私に夢を与えてくれた人、私に可能性を見い出してくれた人。
忘れるはずはない…彼女はベアトリスだ。
「ベアトリス!?おいこれはどういうことだよ!」
「どういう事って…もしかして魔物になった事を責めているの?それって自身の器に魔力を詰め込み過ぎた結果なんじゃないの。それは君が一番わかっていたことじゃない、魔力の過剰摂取で魔物になるって。」
ベアトリスの言葉にはまるで私には非がないと言わんばかりに、研究者の理論を話す感じに責任から逃げていた。
「そんな姿になって…皆に知られたら殺されちゃうよ。でも大丈夫、私は君がどんな姿になっても助けるよ。」
ベアトリスはアルノアに向かって手を伸ばす、まるで救世主が現れたかのように微笑みながらアルノアを労った。
「困っている人がいたら手を差し伸べたくなるのが私だからね、君のその姿を治せるように私が…」
「おい…。」
ベアトリスの話を遮り、アルノアは紅く染まった不気味な目で彼女を睨みつけた。
「お前…何笑ってんだ…こんな姿を見て、お前が私に提案してきた実験が失敗して、なんで笑っていられるんだ…。」
気に入らない…気持ち悪い…あの笑顔が。
「最初からおかしい話だった…なんであの時、あの場にお前が現れた?なんで私の悩みにすぐ手を差し伸ばせた?」
口に出すとその違和感が強調された、冷静に考えればおかしかった…それは今もそうだ…今も前も私が絶望した時に彼女が現れた。
「偶然にしては出来すぎだ、お前は最初から私が無能力者だって知っていたんだろ!それで私を実験に利用した、お前の説が正しいのか証明するために!」
こいつは…自分の実験のために私を利用した、何も知らない私を…絶望した心を…こいつは弄んだ!
許されるわけがない!笑っていいはずがない!直感的に感じた、この人間はここにいてはいけないということを。
「だけどもう終わりだ、こんな姿にさせた狂気の実験を大賢者に報告する。私もろともお前の人生を道連れにしてやる!」
「ぷふっ…!あははは!」
「何がおかしい!」
彼女がしたことを告発すると言ったのに、ベアトリスは吹き出して笑っていた。
その気狂いな対話に恨みや怒りで満ちていたアルノアに恐怖という寒気が芽生えた。
「狂気の実験かぁ…面白いこと言うね君は。あんな無力な人間が魔力を持てるようになったんだよ。あんなに魔法使いになりたいって騒いでいたからさせてあげたんだよ。」
「なっ…!」
その恐怖の原因が分かりかけてきた、ベアトリスから異様な黒い邪気がまとわりついているのが見えたのだ。
そしてその黒い邪気は着ていたローブを黒く染め上げ形を再構築するよう別な形に変形した。
全身を黒を基調とした騎士風の戦闘服になり変わり、背中に黒い翼を生やした。
素顔は変わらず狂気的な笑みを浮かべているが、半目で覗く紅い眼光は見る者の背筋を凍らせた。
人間でも…魔法使いでもない…悪魔だ。
「外見が変わったから何?君は魔法使いになれたんだから別にいいと思うけど。むしろ私に感謝すべきじゃない?魔法使いにさせてくれてありがとうって。」
「悪魔…!お前っ!王国に潜伏してやがったのか!」
「ふふっ、ベアトリスって名前、実際にいた魔法研究者から取ったものなんだよ。偶然私と容姿が似ていたからね、少し体を借りさせてもらったんだ。」
その悪魔は踊り始めるような優雅な姿勢でお辞儀した。
「ベアル…これが私の本名。」
「名前なんて聞いてねぇ!私の夢も人生も踏み躙ったんだ!ここで死んで地獄で詫びやがれ!」
怒りの叫びと共にアルノアが伸ばした右手から魔法陣が展開される。騙してきたことや利用していたこと、何よりあの憎たらしい笑みがアルノアの中で殺意という力を目指めさせ、試験で放った魔法より大きな力を放出できた。
「ファイア《火球》!」
ゴォォォォ!
人の体の半分ほどの火球がベアルに向かって飛んでくる、それでも彼女は余裕そうにお辞儀をしていた。
迫ってくる火球の存在が知らないわけじゃない、ただ…
「ファイア《火球》。」
ビュュン!
ベアルの前に魔法陣が展開されゴルフボールほとの小さな火球を射出した。
驚くことにアルノアの放った大きな火球を貫通させ、そのままの勢いでアルノアの体にめがけて飛んできた。
そう…ベアルにとってアルノアとは眼中にもならない存在だった。弱過ぎる…それは強者だけが感じる退屈しのぎの感覚だった。
バジュゥゥ!
「うわぁぁぁぁ!」
アルノアの目線から見れば、急に火球が飛んできたかのように見えただろう。そんなものは避けられるはずもなく、腹に被弾し皮膚が溶けるような感覚を味わいながら悶え苦しんだ。
「あぐぁ…!熱い!あぁぁぁ!!」
「馬鹿だねぇ…君って怒ると周りが見えなくなるタイプでしょ。たかが数時間魔法勉強したくらいで私に挑もうなんて意気込み、普通ならしないけどね。こういうのなんて言うんだっけ?」
ベアルは苦しんでいるアルノアの前に膝を曲げて座り、相手を小馬鹿にするよう目を細めた笑みを浮かべてその答えを話した。
「おこがましいにもほどがある、ってね。」
「うがぁぁぁぁ!」
アルノアが手を伸ばせばベアルの顔に手が届く位置にいた。耐えがたい火傷の痛みを気力に変えベアルに飛びかかったが…
ゲシッ!
「がはっ!」
アルノアの手が届く前にベアルは反射的に腕を動かし、鋭い裏拳が左頬に直撃した。
「うるさ…近くで叫ばないでよ。」
横向けに倒れたアルノアの横腹にはベアルが放った火球が衣服を破って素肌を晒していた。
そして、追い打ちをかけるようその部分にめがけてベアルは勢いよくブーツで踏みつけた。
ガッ!
「がぁぁぁ!」
まるで刃物が刺さるような激痛が広がり、アルノアは苦痛に顔を歪ませながらも必死に足を退かそうと抵抗した。
それを見て高揚したのか、ベアルはニヤニヤした顔をしながら足をぐりぐりと押しつけ悟るように話始めた。
「君を助けてあげるって話、まだ有効なのわかる?その姿になったら自分の居場所は無くなるし、自分の夢すら絶たれちゃう。まったく…不公平な世界だよね。」
「お前が…作ったことだろ…!がはっ!」
「私達の所に来なよ…誰も君を敵視したりしないし、新しい夢を作ることだって出来る。君の恨み…私達は欲しいな。」
ベアルは力欲しさにささやくよう誘いだし、そして抵抗出来ないように痛めつけ、アルノアの答えを待った。
「かはぁ…!はぁ…!」
その答えを表すかのようアルノアはベアルに向かって火炎魔法を唱えた。
死んでもお前の思い通りになんてならない!とそう伝わり、ベアルの表情が冷たく豹変した。
「何?まだやるつもり?」
ゲシッ!
唱えようと伸ばしたアルノアの腕を蹴り上げ、詠唱完了していた火炎魔法は異なる方向へと飛んでいった。
「そういう反抗心、へし折ってやりたいけど時間がないから無理矢理にでも連れて行くわ。歯を食いしばっておきなさいね!」
「ぐぁぁ!はぁ…へへっ…。」
力強く火傷した箇所を踏みつけ更にいっそう体中に激痛が走った。だがアルノアは最初こそ苦しんだが、勝ち誇ったかのよう笑みをこぼしベアルに吐き捨てた。
「言ってろ…お前に…勝てない…なら…連れてくるまでだ…!」
「はぁ?何言って…」
ダァァン!
突然の破裂音と共にベアルの体が後方に吹き飛んだ。
「ぐっ…!」
ベアルの胸には焼け焦げた風穴が空けられていた、彼女がアルノアに向けて撃った火球と同じ要領の魔法だった。
だが違うのは彼女が撃った魔法とは比べ物にならないその威力、こんな芸当が出来る者にベアルは一人心当たりがあった。
「ははっ…大賢者か!命拾いしたねアルノ…」
ズダダダダダダ!
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