推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第二十九話 魔法使い採用試験②

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 ーー残り30分…

「やった!どうですか試験官?」
「合格だ、終わるまで別室で待機していろ。」

 試験者の一人が喜びの声をあげて、用意された別室へと歩いていった。
 試験者数の約3割は魔法を唱えることができ第一次試験を突破した。あとの試験者は魔法陣を生成することはできるようになったが未だ魔法を発現する者は現れない。

「マジか…皆コツを掴んで魔法を唱えられるようになってる。どうやって形を生成できるんだ?私に足りないのはなんだ?」

 アルノアも突破出来ていない組の一人だった。最初こそ一番初めに魔法を唱えられるのは自分だと思っていたが、アルノアが生成した魔法陣では魔法は形作れず不発に終わっていた。
 火炎魔法では焦げた匂いが立ち込める黒煙が伸び、氷結魔法では冷気が発するだけであり、雷魔法では少し黄色に発光するだけだ。

「まずい…時間が足りない。もう一度…!」

 アルノアは自身の無能感に頭を抱えながらも手を動かすことはやめなかった。それもそのはず、残り時間が僅かとなった今を感じて酷く焦っていた。
 考える暇があるなら手を動かしてコツを掴めと自身に言い聞かせながら、急いで魔法陣を生成しようと試みたその時…

 ガクッ…
「あっ…。」

 急激な脱力感に見舞われ膝から崩れ落ちた。まるで緊張の糸が切れたかのように一気に疲労が全身を駆け巡った。

「くそっ…これはいつものアレか…!」

 このような経験は初めてではない、自分の中に魔力を馴染ませようとした際、過剰の魔力摂取を避けるため魔力を放出させるのだが、放出しすぎると溜まっていた力に慣れていた体が異常をきたし動けなくなってしまう。
 いわゆる軽い魔力切れだ。

「魔法陣の生成と失敗続きの魔法で魔力が削れていってたのか、夢中になりすぎて気づかなかった。」

 軽い息切れを起こしてしばらく立てない状態が続いた。試験終了時間が迫り挑戦できる回数が残り僅かだと気づいた彼女は急いで立とうとしたが…

 ドタッ…!バタッ…!

 周りの試験者達が自分と同じように力無く倒れ続けていた。

「くそっ!あと一歩…何かが足りねぇ…。」
「はぁ…はぁ…もうダメ…集中力が続かない。」

 皆の表情にも疲労の色が窺える、休憩なしで長時間集中しているため精神的に辛くなっているそうだ。

「残り時間15分。」

 サピエルの警告が無慈悲に告げられ、残った試験者は諦めと悲観の嘆きに包まれた。

「あと15分でどうすればいいっていうんだよ…。」
「魔力回復のアイテムをくれ!あともうちょっとなんだ!魔力があれば謎が解けるんだ!」

 悔しい…できない…無理だ…そんな感情が辺りをマイナスな雰囲気にさせた。
 もうこうなってしまったら止まらない、負の連鎖が周りの試験者のやる気を削いでいく。

「ダメか…ここまできて。」
「くそっ!悔しい…こんなとこで終わるなんて…。」

 悔しいがここまでやった、頑張ったけど無理だ、試験者達はそう虚しく開き直った。

「いや…そうじゃない…」

 だが一人だけそんな空気にあてられず目の前の課題に集中している者がいた。

「大賢者も言ってた、魔力がなければ魔法も撃てないと…でも魔力がなければ魔法陣すら生成できない…だったら…。」

 アルノアはブツブツと喋り続け、床にばら撒かれた説明書を睨みつけていた。

「そうか…私は夢を大きく見すぎていたんだ。」

 周りの嘆きすら聞こえない集中力の中、アルノアは感覚で理解した。
 コレを探していた、成功へ繋がるラストピースを。

「ほんとに私は…見えてなかったんだな。」

 アルノアはあぐらをかいて座り、自身に残る魔力を両手に込めた。
 火炎魔法を唱えようと魔法陣を生成するが、いつもと違うのはその大きさだった。

「私達が覚えるのは初級魔法、だったら初級程度の火力に合わせた土台を作らないとダメだったんだ。」

 アルノアが気づいたのは魔法陣の大きさだった。魔法を放つうえで必要な土台である魔法陣に、込めるための必要な魔力量があっていないと感じたアルノアは陣を小さくさせた。

「不発…いや、威力が小さいわけだ。初級以上の魔法を今のちんけな魔力で放とうとしてたんだからな。」

 小さくさせた魔法陣はすぐ魔力が浸透し、中央から形を成して魔力の塊が出現した。

「炎よ上がれ!ファイア《火球》!」

 ブォォォ!
 握り拳程度の火球が魔法陣から生成され、頭上高く打ち上がった。

「やった…出来た。」

 アルノアは自分が放った魔法を見開いた目で見ていた。
 火球は部屋の天井に触れる瞬間、サピエルが放った氷塊により相殺され消えたが、アルノアはようやく実感した。
 自分の力で魔法を唱えることができたことを。

「合格だ。」

 サピエルはアルノアに合格を言い渡した、その言葉を聞いて彼女は勝利の雄叫びをあげた。

「よっしゃぁぁぁぁ!」

 魔力を手に入れるために1年も費やした甲斐があったというものだ。諦めずに夢を追いかけてそれが実現した感動は、最上級の幸福となり生涯忘れることはないだろう。

「フッ…。」

 サピエルは少々含み笑いをした後、懐の懐中時計を開いた。

 5…4…3…2…1…。
 カチッ…

 時計の針が終了時刻の位置に触れ、サピエルは試験者達に試験終了の宣言をした。

「時間だ、第一次試験はこれにて終了する。」

 周りでは悔しさと悲しみの声で溢れていた、その姿は夢敗れた者達の末路を表しているようなものであり、アルノアはその姿を過去の自分と重ねた。

「ああ…悔しいよな。魔法使いになれないなんて、お前達の苦しみ痛いほどわかるよ。」

 それでもアルノアは彼らを羨ましいと思ってしまった。
 彼らには魔力の才能があった、また来年がある。以前のアルノアにはなかった選択肢があり、改めて今の自分は運が良かったと言える状態だったと気付かされた。

「試験者の…アルノアだったか?」

 不思議に呆然と座っていたアルノアにサピエルが近づき話しかけた。

「お前の行動は他の試験者よりも、直向きな努力と学ぼうとする才能が見受けられた。魔法使いとしていい才能を磨いてきたようだな。」
「ははっ…ただ負けず嫌いなだけさ。」

 冗談を言うような企んだ笑みを浮かべたアルノアを、サピエルは手を貸して立ち上がらせた。
 負けず嫌い、その言葉にサピエルは別の用語でそれを大きく膨らませた。

「それ以上だ…あの時、皆は中半端諦めている状況でお前だけが最後まで諦めずに答えを導いた。それは大きな武器となる。」
「武器?」
「その集中力だよ、第二次試験もその調子で頼むぞ。」

 サピエルはアルノアにそう希望を持たすよう言い残し離れた。

「私の武器が集中力か…気づかなかったな。でもこれでわかった、私は戦える!」

 私は自分の中で魔法使いとしての才能に芽生え始める感覚に酔いしれているのだろう。何故だか次なる試験が待ち遠しく感じる。
 早くこの武器を使って実践してみたい、どこまで通用するのか試してみたいと心が弾んだ。

「見てるか大賢者、私はもう凡人じゃない!」

 大賢者の前でそう伝えるのが楽しみになった、1年前心なく自分の夢を否定したあの人に見せてやりたい、私が魔法使いになったその姿を。
 そう思いながらアルノアは部屋を後にした。

 ーー別室

「第一次試験おつかれサピエル、今年の卵達はどうだった?」

 部屋の扉を開けるとソファで横にくつろぎながらこちらに手を振るエリーの姿があった。
 サピエルは彼女の態度に少し眉をひそめる程度に反応した後、エリーと対面するよう自分もソファに腰かけ彼女の質問に答えた。

「同じだ、今年も同様半分にも満たなかった。」
「やっぱり?あの説明書もうちょっとわかりやすく書いたらどう?できないって喚いてリタイアする人がいるなんてもったいないよ。」
「いいや…今年は不満を垂れた者はいたが、リタイアする者はいなかった。全員時間切れまで足掻いていたさ。」
「マジで!?」

 サピエルの言葉に衝撃を受け、エリーはソファを飛び上がって食いつくように話を聞いた。

「ある試験者が皆を鼓舞してくれたみたいでな、可能性は0じゃないということを皆に証明した。ああいう魔法使いを見るのは久しぶりだ。」
「へぇ…いい人材を見つけたじゃない、第二次試験に期待が高まるわね。」

 そう試験で起きた出来事を語り合っていると、扉をノックする音が聞こえ二人はそちらに意識を向けた。

「失礼します、休憩中のところすみません。」

 入ってきたのはこの試験で受付を担当している者だった。左手に一枚の紙を持ち、少し困っている表情をしていた。

「何用だ?」
「ある試験者のことでお聞きしたく、まずこれを見てください。」

 受付係は対面する二人の間にあるテーブルの上に一枚の紙を置いた。

「これは…。」

 その紙は試験者達の名前が書かれてる名簿であり、その中で赤く丸がつけられている名前が一人いた。

「アルノア・ノックス…」
「この方、1年前に魔力ナシと判定され試験不可となっていました。ですが今年は魔力アリと判定され試験に参加されているそうです。」
「嘘っ!?たった1年で…っていうか魔力0の一般人が魔力を持つことなんて出来るの?」

 エリーは驚きの声をあげる、サピエルも同じように叫びたくなるほど信じがたい事実に耳を疑った。

「ありえない…人が魔力を蓄えられる器を持っているか持っていないかは生まれた時に決まってしまうこと。一般人で生まれてしまったらどんなに頑張ろうと一般人のままなはずなんだ。」

 部屋の中に不穏な空気が流れる、アルノアが不思議な人である前に二人の頭の中にはある言葉が同時に浮かんできた。

 ーー敵か…味方か…

 ギシッ…
 サピエルはこの事実の真意を確かめるべく、部屋を後にしようと動きだした。

「ひとまずこの件は大賢者に報告しておけ、この試験者は私が見張っておこう。」
「いやいやいや、今聞き出すべきでしょ!監視なんて逆効果だよ!」
「あの試験者の動向を見てみたい、もし魔物が化けているという線でいくと何か引っかかるんだ。」
「何かって何よ?」

 エリーの質問に答えずサピエルはドアノブに手をかけた。
 今ここで話を大きく膨らましてしまえば試験に支障が出てしまう、彼らはこの試験のために人生を捧げて来ている、そんな彼らの前でたった一人の試験者の動向で変更なんてしたら騒ぎになるだろう。
 だからこその監視、危険と判断した場合即刻対処、試験者達の未来を考えてのたどり着いた選択肢だった。

「エリーは第二次試験に集中していろ、こっちの件は私の管轄だ。」
「ちょっ…!話してくれたっていいでしょ!秘密のまま試験に…」

 ガチャン
 扉を閉めると部屋の中からドタバタと暴れる音が聞こえてきた。
 サピエルはすぐ扉から離れ、小難しい顔しながら廊下を歩く。
 道中、頭の中で引っかかると感じた原因を言葉にしながら自分で推理をしていた。

「たった1年で魔力持ちに…魔物が化けて潜入している?いや、私の感触じゃ…あの試験者は紛れもなく人間だった。」

 もし魔物なら…何故ここに来た?目的はなんだ?
 もし魔物なら…諦めずに抗ったあの熱い気持ちはなんだったのだ?
 もし魔物なら…

「…いや、まだ魔物と確定してるわけじゃないのに考え過ぎた。余計な思想は顔に出る、いつもと同じ試験官の顔でいろサピエル。」

 情報が少なすぎるため彼女が魔物だと証明をするには無理があり過ぎた。
 サピエルは一旦彼女が魔物だという予測から離れ、他の試験者達を対等に審査する頭に切り替えた。

「まったく…こういう神秘は不気味で仕方ないな。」

 研究者でも知らない現象、謎を追い求めてしまうその性は体に染み込んでおり、考えこむ仕草が無意識に現れていた。

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