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復活の厄災編
第二十七話 仲間だから②
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フォルティアの許可をもらい俺達は霊長の里に足を踏み入れた。その町の風景は遠くから見たとおり中央の一本の巨木を中心に建物が張り巡って建っていた。
その町の光景をゆっくりたしなみたかったが、近衛隊が急かしながら移動を勧めるためゆったりと町を観光など出来なかった。
「あの…皆すごいこっちを睨んでくるんですけど…。」
「仕方ねえよ、あっちからしてみれば敵を招き入れてるようなもんだ。いつでも殺れるように警戒してるのは当然だろ。」
コハクは近衛隊員達から睨む目に少し怯えながら俺に耳打ちするよう話してきた。
たしかにフォルティアの許可で入れたとはいえ、このような歓迎の仕方をされると気分が悪い。
「一応は俺達被害者なんだけどな…」と小さく呟き、先頭で歩くフォルティアを追って里の中央に佇む巨木を目指した。
「うわぁ…近くで見るとかなり大きいですね。まるで天に触れてるみたいです。」
コハクは巨木の真下から顔を見上げた、それに続いて俺達も同じように顔を上げる。
葉はついておらず、ただ一本の幹が天を貫いているような形をしていた。現実世界でもこんな巨大な木は見たことない、俺はそんな光景に目を輝かせているとフォルティアがこの里について俺達に教え始めた。
「この木は里を二つの意味で守る御神木でな。一つは君達が通ってきた守護結界、あれを保ち続けるための能力があり、二つはこの先にいるダークエルフの進行を抑えるため防護壁の役割があるのだ。」
「ダークエルフ?」
レズリィがその種族の名前を口にすると、周りの隊員達から苛立った話が飛んできた。
「神官、その名前を長に話すな。」
「奴らは私達とは真逆、思考も力も、そして志も全てが私達と相反する存在。」
「あんな欠落者共の話をするだけで反吐が出る。」
話が広がるたびにダークエルフという種族の悪口が無数に出てくる。まるで人間が悪魔を嫌うように、その関係性は最悪といってもいい。
「君達…もうその辺にしなさい、これ以上この場を暗くさせるでない。」
「はい、申し訳ありません。」
フォルティアの言葉に隊員達は謝罪を述べ軽く頭を下げた。
「君達の護衛はここまででいい、後は私と勇者達で話をする。」
「っ!?長がそうおっしゃるなら…そのように。」
怒りをかろうじて自制した隊員が、フォルティアと俺達を見送るように頭を下げたまま少し退がった。
隊員達が離れるとフォルティアが巨木に手をかざす、すると幹の一部が光だし扉を生成した。
「入りたまえ勇者達よ。」
そう言うとフォルティアは扉を開き中に入って行った。俺達もそれに続き入っていったが、ふと俺は視線を感じ後ろを振り返った。
「……。」
隊員達のその下がった頭からは、鋭い眼光で俺達を見ていた。最後まで険悪な状態を貫いた彼らを少しでも穏やかにさせようと声を出そうとしたが、今の彼らにとってそれは火に油を注ぐ行為だろう。
「悪かった…色々と。」
俺はそう隊員達に言うと少し会釈をして扉の向こうに入って行った仲間を追いかけた。
勇者達の見送りが終わると、それまで溜め込んでいた気持ちを吐き出すように隊員が愚痴を吐いた。
「ちっ、フォルティア様は何を考えているのだ!?悪魔を連れた者達を護衛なしに王室に招くなど!」
誰もがその疑問に頭を抱えながらその入口を囲うように待機した。それは長の危機に対応出来るようすぐに突入出来る体勢であり、里の住人達は物珍しそうに遠くでそれを眺めていた。
ーー霊長の里・王室
巨木から出てきた扉から中に入ると、そこは天井が淡い緑色に光るヒカリゴケが照らされた自然の美しさを表す空間が広がっていた。
「すげぇ…幻想的な部屋だな。」
周りの光景に見入って進むと、その最奥に巨木の根で作り上げた人が座れる椅子が置いてあった。そこにフォルティアが深く座り、今まで穏やかな表情が一変、真剣な眼差しで俺達を見て話を持ちかけた。
「さて、はるばるこの里にやって来た理由を聞く前に一つ…君のその姿についてだ。失礼だが名前を教えてくれるか?」
「アルノア・ノックスです。」
「いい名前だ、アルノア君。では不躾ながら君のことを教えてくれるか?」
「……。」
やはり最初に切り出したのはアルノアの姿についてだった。あそこでは敵意がないことを俺達が証明したが、アルノアの本心はまだ聞けていない。フォルティアはアルノアと俺達の証言に矛盾がないかそれを確かめるように質問したようだ。
だが肝心の答えがアルノアの口から出ることはなく沈黙が続いた。
「アルノア?」
「答えたく…ない。」
「どうしたんだよアルノア、別に皆怒ってるわけじゃないんだ。ただここで正直なことを言わないと里との関係が…」
俺はアルノアの気持ちを慰めようと手を伸ばしたその時…
パチンッ!
アルノアは振り向き様に俺の手を弾き、抱え込んでいる怒りを俺にぶつけた。
「だったら…なんで私を生かした!私の過去の汚点を話せばこの里で私達の対応が変わるのか?里長が私は無害だって言えば何か変わるのか?あんなのを見せられて信用なんて出来るか!また私のせいで迷惑になるだけだろ!」
「違うって!誰もお前のせいで迷惑したなんて言ってないだろ。」
「言わなくてもわかるだろ、あんなことされて皆危うくやられそうになったんだぞ。あれのどこを見て迷惑をかけてないって言えるんだよ!答えろ!」
アルノアは俺の胸ぐらを掴み上げ、血走った目で俺を見上げた。
「ちょっと!場所をわきまえてくださ…うわっ!」
止めにかかろうとしたレズリィの前に、人魂のような小さな火球が顔を横切った。
飛んできた方向を見るとフォルティアが前方に魔法を唱えていた姿が映った。
「よい…。」と一言呟き、フォルティアはアルノアと俺の会話に聞く耳を立てた。
「フォルティアさん…ですが…。」
嫌な予感がレズリィの中で渦巻き、一刻も早く止めたいという気持ちでオロオロしていた。
「なんで…なんでお前は何も言わないんだよ!私達の気持ちを考えもせずに、なんで目の前の問題ばかり突き進もうとするんだよ!置いてけぼりになる私達の気持ちを考えたことあるのか!?」
胸ぐらを掴んでいた手は拳を握り、今度は何度も胸を叩き続け自身の気持ちを俺にぶつけた。
「なんで切り捨てないんだよ、なんでこの姿を見て何も言わないんだよ、お前ら私のせいで…こんな…。」
話し声どんどん弱々しくなってくる。自分のこの姿のせいで皆を危険な目に合わせてしまった、その自責の念が彼女の心を締め付けている。
俺はそんな彼女に勇気を振り絞って自分の言いたいことを口にした。
「アルノア…確かに俺はお前らに事情を言わずに行動していた、それで皆にも色々と迷惑をかけた、それは謝る。でも、お前のことを非難する行為は違うだろ。」
「はぁ…?」
「お前は俺にどうしてほしかったんだ、怒ってほしいのか?絶望してほしかったのか?違うだろ…お前のその抱え込んだ気持ちを知ってほしかったんじゃないのか?」
俺はアルノアの困惑した目を見つめ、その先を口にした。
「だから俺は言わない、お前を悪魔だとか裏切り者だとか、だってお前は俺のパーティーの魔法使いアルノアだ、それ以外何がある。」
「理由になってねえよ!お前がただそうじゃないって否定しても私の惨めな気持ちが消えるわけがない!これからまたこの悪魔の血のせいで皆に迷惑かけるくらいなら死んだほうが…」
パァン!
「ちょっ!クロムさん!」
レズリィ達が驚くのも無理ない、俺はアルノアの頬を平手打ちしていた。
アルノアの陰鬱な言葉にカッとなり無意識に手を出してしまった。もう後には引けないが、それでも俺が感じた怒りの気持ちを彼女にぶつけた。
「さっきから聞いてれば迷惑迷惑って…悪魔の血がなんだ?周りの目がなんだ?どうしてそこで戦おうとしないんだ!戦わずに自分だけいなくなろうだなんてそっちの方が迷惑だ!」
「っ…!」
「お前、悔しいんだろ?そんな体にされて苦しいんだろ?お前がここで折れたらお前をこんな風にさせた奴はずっと嘲笑ってるままだぞ!」
クロムの言葉に感化されアルノアの脳内に過去の記憶が鮮明に蘇る。
あの…人をあざける憎たらしい笑顔、狂気な行為を平然と行い口ずさむ人柄。人生を狂わされたあの悪魔が私の見えないところで嘲笑っている、それを考えただけで怒りが湧き上がり歯をギリギリと鳴らした。
「お前は悪魔になんて負けない、周りの目になんて負けない、自分の弱さになんて負けない。お前が作った迷惑なんていくらでも応えてやる、俺が…俺達が…後悔させたまま死なせたりなんて絶対させない!」
「クロム…。」
「アルノア君、君の辛い気持ちは私にもお仲間さんにも伝わったと思う。どんな形であれど自分の悩みに向き合ってくれる人など、人生でそうそう出会えるものではない。君は幸せものなんだぞ。」
「私が…幸せものだって?」
フォルティアが発したその言葉の意味をアルノアは理解した。
自分のそばに集まって心配そうな表情をするレズリィとコハク、正面から自身の悩みに応えてくれるクロム。
周りを見渡せばそこにいたのだ、自分を支えてくれる仲間達の姿が。
「アルノアさん…。」
「いなくなるなんて言わないでください、アルノアさん。」
コハクとレズリィは片方づつアルノアの手を握って、ここに残って欲しいと懇願するような目で見てきた。
そしてその二人後ろではクロムが真剣な眼差しでこちらを見ていた、二人の話に合わせるかのよう彼はコクリと頷いた。
誰も迷惑だなんて思っていなかった、ただ自分がそう考え込んでしまっただけだった、こうして正面からぶつかってくれる仲間がいたから気付かされた。
自分に正直になっていい場所が、こんなにも胸が軽くなることを。
「はぁ…なんなんだよもう!なんで皆こんなにお節介なんだよ!これじゃ惨めとか死にたいとか言ってた私が恥ずかしいだろ!」
その気持ちに気付かされたことで、アルノアの中に膨れ上がる熱い感情が目尻から流れ出した。
(ちくしょう…ちくしょう…なんでお前らこんなにいい奴なんだよ!やめてくれよ…私を慰めるなよ…。)
そんな顔を見せないように仲間を背に流れ続ける感情を拭い続けた。そして震える声を絞り出し、自分の正直な気持ちを答えた。
「でも…向き合ってくれて…ありがとう。」
日頃の強気でいたずら気質が嘘のように抜け落ちた声が聞こえ、一瞬ドキッとしたが彼女の本音に応えるよう俺もそれに返す言葉をシンプルに告げた。
「当たり前だろ、俺達は仲間だからな。だから…」
俺はアルノアの前に手を差し伸べた。
「これからもよろしく頼む、アルノア。」
「クロム…。」
アルノアはゆっくりとクロムの方に振り向いた、彼は朗らかな笑みを浮かべながらこちらに手を伸ばしている。
アルノアはその手を握ろうと自身の右手をその手に合わせようとしたが、急にその手はクロムの顔に吸い込まれるよう拳となって直撃した。
「やっぱ無理ぃぃ!」
「ぐぬぅぅおぁぁ!!」
アルノアは涙を流したことで顔が赤くなっていることに気づき、恥ずかしさのあまり思わずクロムの顔面を殴った。
「見んなよ私の顔!しばらくそうしてろ!」
「ざっけんな!ここにきて恥ずかしい感情とかいらねぇだろうが!」
「やっぱお前私の気持ちわかってねぇだろ!」
さっきまでの雰囲気はどこへいったのか、いつもの掴み合いと口喧嘩に戻ってしまいレズリィは呆れてため息を吐いた。
「ああ…やっぱりこうなっちゃうんですね。」
「でもよかったです、アルノアさんが元気になって。」
コハクはそう安堵した束の間、クロムの頭から黒煙が上がり彼の怒りに混じる叫びが響いた。
「熱っっつ!お前魔法使いだからってなんでもしていいってわけじゃねぇぞ!」
「うるせぇ!ここでわからせないと駄目だ!お前のその馬鹿な頭に私達を叩き込んでやる!」
掴み合いがエスカレートしようとした時、俺とアルノアの体の間に風が渦巻き始めた。
ブォォォ!
「うわっ!」
「うぐっ!」
二人がそれを認識した瞬間爆風が起き二人の体が離れた、レズリィはその一部始終を見てアルノアの魔法ではないと理解した時、後ろからフォルティアの声が耳に入った。
「喧嘩はそのへんに、そしてここは里の者でも立ち入ることは出来ない特別な空間だということを忘れずに。」
フォルティアの笑みには薄っすらと怒りの色が染まっており、突然起こった爆風にタジタジになっている二人に代わってレズリィとコハクが謝罪のため頭を下げた。
その後、俺とアルノアは正座をさせられレズリィにこっぴどく説教させられた。
その町の光景をゆっくりたしなみたかったが、近衛隊が急かしながら移動を勧めるためゆったりと町を観光など出来なかった。
「あの…皆すごいこっちを睨んでくるんですけど…。」
「仕方ねえよ、あっちからしてみれば敵を招き入れてるようなもんだ。いつでも殺れるように警戒してるのは当然だろ。」
コハクは近衛隊員達から睨む目に少し怯えながら俺に耳打ちするよう話してきた。
たしかにフォルティアの許可で入れたとはいえ、このような歓迎の仕方をされると気分が悪い。
「一応は俺達被害者なんだけどな…」と小さく呟き、先頭で歩くフォルティアを追って里の中央に佇む巨木を目指した。
「うわぁ…近くで見るとかなり大きいですね。まるで天に触れてるみたいです。」
コハクは巨木の真下から顔を見上げた、それに続いて俺達も同じように顔を上げる。
葉はついておらず、ただ一本の幹が天を貫いているような形をしていた。現実世界でもこんな巨大な木は見たことない、俺はそんな光景に目を輝かせているとフォルティアがこの里について俺達に教え始めた。
「この木は里を二つの意味で守る御神木でな。一つは君達が通ってきた守護結界、あれを保ち続けるための能力があり、二つはこの先にいるダークエルフの進行を抑えるため防護壁の役割があるのだ。」
「ダークエルフ?」
レズリィがその種族の名前を口にすると、周りの隊員達から苛立った話が飛んできた。
「神官、その名前を長に話すな。」
「奴らは私達とは真逆、思考も力も、そして志も全てが私達と相反する存在。」
「あんな欠落者共の話をするだけで反吐が出る。」
話が広がるたびにダークエルフという種族の悪口が無数に出てくる。まるで人間が悪魔を嫌うように、その関係性は最悪といってもいい。
「君達…もうその辺にしなさい、これ以上この場を暗くさせるでない。」
「はい、申し訳ありません。」
フォルティアの言葉に隊員達は謝罪を述べ軽く頭を下げた。
「君達の護衛はここまででいい、後は私と勇者達で話をする。」
「っ!?長がそうおっしゃるなら…そのように。」
怒りをかろうじて自制した隊員が、フォルティアと俺達を見送るように頭を下げたまま少し退がった。
隊員達が離れるとフォルティアが巨木に手をかざす、すると幹の一部が光だし扉を生成した。
「入りたまえ勇者達よ。」
そう言うとフォルティアは扉を開き中に入って行った。俺達もそれに続き入っていったが、ふと俺は視線を感じ後ろを振り返った。
「……。」
隊員達のその下がった頭からは、鋭い眼光で俺達を見ていた。最後まで険悪な状態を貫いた彼らを少しでも穏やかにさせようと声を出そうとしたが、今の彼らにとってそれは火に油を注ぐ行為だろう。
「悪かった…色々と。」
俺はそう隊員達に言うと少し会釈をして扉の向こうに入って行った仲間を追いかけた。
勇者達の見送りが終わると、それまで溜め込んでいた気持ちを吐き出すように隊員が愚痴を吐いた。
「ちっ、フォルティア様は何を考えているのだ!?悪魔を連れた者達を護衛なしに王室に招くなど!」
誰もがその疑問に頭を抱えながらその入口を囲うように待機した。それは長の危機に対応出来るようすぐに突入出来る体勢であり、里の住人達は物珍しそうに遠くでそれを眺めていた。
ーー霊長の里・王室
巨木から出てきた扉から中に入ると、そこは天井が淡い緑色に光るヒカリゴケが照らされた自然の美しさを表す空間が広がっていた。
「すげぇ…幻想的な部屋だな。」
周りの光景に見入って進むと、その最奥に巨木の根で作り上げた人が座れる椅子が置いてあった。そこにフォルティアが深く座り、今まで穏やかな表情が一変、真剣な眼差しで俺達を見て話を持ちかけた。
「さて、はるばるこの里にやって来た理由を聞く前に一つ…君のその姿についてだ。失礼だが名前を教えてくれるか?」
「アルノア・ノックスです。」
「いい名前だ、アルノア君。では不躾ながら君のことを教えてくれるか?」
「……。」
やはり最初に切り出したのはアルノアの姿についてだった。あそこでは敵意がないことを俺達が証明したが、アルノアの本心はまだ聞けていない。フォルティアはアルノアと俺達の証言に矛盾がないかそれを確かめるように質問したようだ。
だが肝心の答えがアルノアの口から出ることはなく沈黙が続いた。
「アルノア?」
「答えたく…ない。」
「どうしたんだよアルノア、別に皆怒ってるわけじゃないんだ。ただここで正直なことを言わないと里との関係が…」
俺はアルノアの気持ちを慰めようと手を伸ばしたその時…
パチンッ!
アルノアは振り向き様に俺の手を弾き、抱え込んでいる怒りを俺にぶつけた。
「だったら…なんで私を生かした!私の過去の汚点を話せばこの里で私達の対応が変わるのか?里長が私は無害だって言えば何か変わるのか?あんなのを見せられて信用なんて出来るか!また私のせいで迷惑になるだけだろ!」
「違うって!誰もお前のせいで迷惑したなんて言ってないだろ。」
「言わなくてもわかるだろ、あんなことされて皆危うくやられそうになったんだぞ。あれのどこを見て迷惑をかけてないって言えるんだよ!答えろ!」
アルノアは俺の胸ぐらを掴み上げ、血走った目で俺を見上げた。
「ちょっと!場所をわきまえてくださ…うわっ!」
止めにかかろうとしたレズリィの前に、人魂のような小さな火球が顔を横切った。
飛んできた方向を見るとフォルティアが前方に魔法を唱えていた姿が映った。
「よい…。」と一言呟き、フォルティアはアルノアと俺の会話に聞く耳を立てた。
「フォルティアさん…ですが…。」
嫌な予感がレズリィの中で渦巻き、一刻も早く止めたいという気持ちでオロオロしていた。
「なんで…なんでお前は何も言わないんだよ!私達の気持ちを考えもせずに、なんで目の前の問題ばかり突き進もうとするんだよ!置いてけぼりになる私達の気持ちを考えたことあるのか!?」
胸ぐらを掴んでいた手は拳を握り、今度は何度も胸を叩き続け自身の気持ちを俺にぶつけた。
「なんで切り捨てないんだよ、なんでこの姿を見て何も言わないんだよ、お前ら私のせいで…こんな…。」
話し声どんどん弱々しくなってくる。自分のこの姿のせいで皆を危険な目に合わせてしまった、その自責の念が彼女の心を締め付けている。
俺はそんな彼女に勇気を振り絞って自分の言いたいことを口にした。
「アルノア…確かに俺はお前らに事情を言わずに行動していた、それで皆にも色々と迷惑をかけた、それは謝る。でも、お前のことを非難する行為は違うだろ。」
「はぁ…?」
「お前は俺にどうしてほしかったんだ、怒ってほしいのか?絶望してほしかったのか?違うだろ…お前のその抱え込んだ気持ちを知ってほしかったんじゃないのか?」
俺はアルノアの困惑した目を見つめ、その先を口にした。
「だから俺は言わない、お前を悪魔だとか裏切り者だとか、だってお前は俺のパーティーの魔法使いアルノアだ、それ以外何がある。」
「理由になってねえよ!お前がただそうじゃないって否定しても私の惨めな気持ちが消えるわけがない!これからまたこの悪魔の血のせいで皆に迷惑かけるくらいなら死んだほうが…」
パァン!
「ちょっ!クロムさん!」
レズリィ達が驚くのも無理ない、俺はアルノアの頬を平手打ちしていた。
アルノアの陰鬱な言葉にカッとなり無意識に手を出してしまった。もう後には引けないが、それでも俺が感じた怒りの気持ちを彼女にぶつけた。
「さっきから聞いてれば迷惑迷惑って…悪魔の血がなんだ?周りの目がなんだ?どうしてそこで戦おうとしないんだ!戦わずに自分だけいなくなろうだなんてそっちの方が迷惑だ!」
「っ…!」
「お前、悔しいんだろ?そんな体にされて苦しいんだろ?お前がここで折れたらお前をこんな風にさせた奴はずっと嘲笑ってるままだぞ!」
クロムの言葉に感化されアルノアの脳内に過去の記憶が鮮明に蘇る。
あの…人をあざける憎たらしい笑顔、狂気な行為を平然と行い口ずさむ人柄。人生を狂わされたあの悪魔が私の見えないところで嘲笑っている、それを考えただけで怒りが湧き上がり歯をギリギリと鳴らした。
「お前は悪魔になんて負けない、周りの目になんて負けない、自分の弱さになんて負けない。お前が作った迷惑なんていくらでも応えてやる、俺が…俺達が…後悔させたまま死なせたりなんて絶対させない!」
「クロム…。」
「アルノア君、君の辛い気持ちは私にもお仲間さんにも伝わったと思う。どんな形であれど自分の悩みに向き合ってくれる人など、人生でそうそう出会えるものではない。君は幸せものなんだぞ。」
「私が…幸せものだって?」
フォルティアが発したその言葉の意味をアルノアは理解した。
自分のそばに集まって心配そうな表情をするレズリィとコハク、正面から自身の悩みに応えてくれるクロム。
周りを見渡せばそこにいたのだ、自分を支えてくれる仲間達の姿が。
「アルノアさん…。」
「いなくなるなんて言わないでください、アルノアさん。」
コハクとレズリィは片方づつアルノアの手を握って、ここに残って欲しいと懇願するような目で見てきた。
そしてその二人後ろではクロムが真剣な眼差しでこちらを見ていた、二人の話に合わせるかのよう彼はコクリと頷いた。
誰も迷惑だなんて思っていなかった、ただ自分がそう考え込んでしまっただけだった、こうして正面からぶつかってくれる仲間がいたから気付かされた。
自分に正直になっていい場所が、こんなにも胸が軽くなることを。
「はぁ…なんなんだよもう!なんで皆こんなにお節介なんだよ!これじゃ惨めとか死にたいとか言ってた私が恥ずかしいだろ!」
その気持ちに気付かされたことで、アルノアの中に膨れ上がる熱い感情が目尻から流れ出した。
(ちくしょう…ちくしょう…なんでお前らこんなにいい奴なんだよ!やめてくれよ…私を慰めるなよ…。)
そんな顔を見せないように仲間を背に流れ続ける感情を拭い続けた。そして震える声を絞り出し、自分の正直な気持ちを答えた。
「でも…向き合ってくれて…ありがとう。」
日頃の強気でいたずら気質が嘘のように抜け落ちた声が聞こえ、一瞬ドキッとしたが彼女の本音に応えるよう俺もそれに返す言葉をシンプルに告げた。
「当たり前だろ、俺達は仲間だからな。だから…」
俺はアルノアの前に手を差し伸べた。
「これからもよろしく頼む、アルノア。」
「クロム…。」
アルノアはゆっくりとクロムの方に振り向いた、彼は朗らかな笑みを浮かべながらこちらに手を伸ばしている。
アルノアはその手を握ろうと自身の右手をその手に合わせようとしたが、急にその手はクロムの顔に吸い込まれるよう拳となって直撃した。
「やっぱ無理ぃぃ!」
「ぐぬぅぅおぁぁ!!」
アルノアは涙を流したことで顔が赤くなっていることに気づき、恥ずかしさのあまり思わずクロムの顔面を殴った。
「見んなよ私の顔!しばらくそうしてろ!」
「ざっけんな!ここにきて恥ずかしい感情とかいらねぇだろうが!」
「やっぱお前私の気持ちわかってねぇだろ!」
さっきまでの雰囲気はどこへいったのか、いつもの掴み合いと口喧嘩に戻ってしまいレズリィは呆れてため息を吐いた。
「ああ…やっぱりこうなっちゃうんですね。」
「でもよかったです、アルノアさんが元気になって。」
コハクはそう安堵した束の間、クロムの頭から黒煙が上がり彼の怒りに混じる叫びが響いた。
「熱っっつ!お前魔法使いだからってなんでもしていいってわけじゃねぇぞ!」
「うるせぇ!ここでわからせないと駄目だ!お前のその馬鹿な頭に私達を叩き込んでやる!」
掴み合いがエスカレートしようとした時、俺とアルノアの体の間に風が渦巻き始めた。
ブォォォ!
「うわっ!」
「うぐっ!」
二人がそれを認識した瞬間爆風が起き二人の体が離れた、レズリィはその一部始終を見てアルノアの魔法ではないと理解した時、後ろからフォルティアの声が耳に入った。
「喧嘩はそのへんに、そしてここは里の者でも立ち入ることは出来ない特別な空間だということを忘れずに。」
フォルティアの笑みには薄っすらと怒りの色が染まっており、突然起こった爆風にタジタジになっている二人に代わってレズリィとコハクが謝罪のため頭を下げた。
その後、俺とアルノアは正座をさせられレズリィにこっぴどく説教させられた。
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