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復活の厄災編
第二十八話 どん底で見る夢①
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「頭は冷えたかな?」
「はい…色々とすみませんでした。」
「気にする事はない、私としても良いものを見させてもらった。このような絆をあの子達にもわかってほしいものだ。」
フォルティナは頭を悩ますように彼らのことを思いつめた、長がここまで悩むほどに近衛隊のやり方に不安があるのだろう。
「では…辛いと思うが君の無実を証明するため話してもらえるだろうか?帝国に属していないのに何故悪魔の姿になっているのか。」
アルノアは顔を下に向けたが、先程のように沈黙せず喋るのを躊躇いながらも口を開いた。
「私は…ある悪魔の仕業でこんな姿にさせられたんです。」
ーー4年前。
ルカラン王国魔法研究大図書館、大賢者マリアナを率いる研究者達が魔法の研究と製作に取り掛かっている場所。
ここでは年に一度、魔法使いを目指すための試験が行われており、大勢の見習い魔法使いが夢を追うためにそこに足を運んでいる。
私もそこで、大賢者のような魔法使いになるという夢を叶えるためにその場所に出向いた。
「よし…!これが私の魔法使いとしての第一歩だ!」
黒いとんがり帽子に黒いローブを身にまとい、子供の絵本に出てくるような黒魔術師のような姿をして気合いを入れてきたアルノア。
子供の頃からの憧れであった魔法使いという職業が目の前にあり、興奮が治ることがないまま大図書館の中へと足早に入った。
中のロビーでは列を作って試験者の受付を行なっていた、受付を終えた試験者は奥の図書館へと向かっており、アルノアはチラッとその図書館の中を覗いた。
「おぉ…めっちゃワクワクしてきた!早く魔法を覚えてぇな。」
中はオレンジの暖かい光に照らされ、大量の本に囲まれている図書館と呼ぶべきに相応しい場所だった。
だがアルノアにとって場所は重要じゃない。ようやく魔法を手にすることができるという興奮、あの図書館の中には一体どれだけの魔導書があるのかという探究、それが待ち遠しくて仕方がないのだ。
「こんにちは、まずはあなたのお名前をこちらに。そして、この水晶玉こちらに手をかざしてください。」
そう思いふけてる間に受付の番となったアルノアは、受付係から渡された書類に名前を書き、白く薄曇った水晶玉に手をかざした。
「こちらにかざした水晶玉は、あなたの中に流れる魔力を測るものです。この水晶玉が青く光れば素質アリと認定し、隣りの図書館へとご案内します。」
アルノアは手を力みながら水晶玉に力を流し込むようなイメージをした。
「…あれ?」
水晶玉は何も反応せず白く薄曇ったままだった。
やり方を間違えているのか、今度は両手で水晶玉をかざした。だが結果は同じで何も変わらないままだった。
「あの…すみませんが…。」
「大丈夫だから!すぐ光るからもう少し待てって!」
アルノアの顔が徐々に焦りの表情が浮かぶ。
何故?何故光らない?きっと何かの間違いだ、この水晶が壊れてるんだ、私はずっと魔法に意気込んでいたんだ、こんな本質もわからない診断方法で私の未来を潰させてたまるか!
そうプライドの高い人のような考えをして水晶玉に向き合っていると、受付係は無言のまま水晶玉をずらしてアルノアの魔力診断を中止させた。
「あっ…おい!私はまだ…」
「アルノア・ノックスさん、あなたは魔法適性がありません。」
「えっ?あのいや…」
「残念ですが、あなたの体から魔力反応が表れませんでしたので試験には不参加ということで…」
受付係は哀しくも残念そうな表情でアルノアに現実を突きつけた。
「あっ…えっ…」
アルノアは目の前で話をしている受付係の声が聞こえにくくなっていた。自分の嫌な情報を脳に流さないように無意識に感情を無にしていた。
だが、どんなに感情を無にしてもあの台詞だけはアルノアの心に深く刺さった。
「あなたは魔法使いにはなれません。」
……。
「えっ…?」
気づくとアルノアは大図書館の入口に立っていた、周りを見渡すと受験者達の姿が見当たらず自分だけがただ一人佇んでいた。
「私だけ…何で…魔法使いに…なれない?嘘だろ…こんな簡単に終わるのかよ。」
アルノアは放心した状態のままよろよろと歩きだすが、道の段差につまづいて糸が切れた人形のように倒れた。
「夢だろこれ…悪い夢に決まってる…ありえないだろ、なんで私だけなんだ!こんなの間違ってるだろ!夢を追いかける奴がなんでこんな惨めな思いしなきゃ…」
絶望感に浸ってる最中、遠くである人物が瞳の中に映った。
白色の長い三つ編みの髪が背中を隠すほどに伸び歩く度に左右にゆらりと揺れる女性、痩せ気味の体にゆったりした紫と黒の鮮やかな縞模様のローブに包んだその姿は、まさに見る人を呆然とさせるオーラが出ているようだ。そんな彼女が大図書館の周りに広がる庭園を歩いていた。
アルノアのような見習いの魔法使いでもその姿は誰もが知っている、ルカラン王国を大昔から守ってきた大魔法使い。
「マリアナ…大賢者様?」
アルノアの中で何か邪な感情が湧いた、普通なら怒られるだけじゃ済まされないかもしれない。
それでもあの人に会いたい。会って自分のこの苦しみを打ち明けたい。
その感情が放心した体を突き動かした。
マリアナは庭園をゆっくり散歩し終わった後、自分達が入ってきた大図書館の入口とは違う場所に入って行った。
そこは受験者達がいた部屋とは違い、月のような薄暗く神秘的な光で図書館の中を照らし出していた。
見たことがない研究資材と見た目からしてヤバそうな魔導書に目がくらんでいると、目の前が氷の棘に包まれた。
「うわっ!」
「研究所に忍び込んで何をする気かしら?」
マリアナはアルノアを見ずに的確な位置に氷結魔法を放った。氷によって床と服が強固に粘りつき動きづらくなっている、それどころか氷が身体を包むようにどんどん伸びていく。
死が迫っていくのを感じてアルノアは咄嗟に事の事情を説明した。
「ちっ、違うんだ大賢者様!決して悪気があって来たわけじゃない!」
「ここに忍び込む事じたい普通じゃないの、ここに入りたかったらちゃんとした手続きをしてもらわないと困るのよね。」
「あがっ…!」
「あなたを信用出来なくなる。」
四肢と胴体が凍りつき、身動きが出来なくなった身体へトドメを刺そうと氷の棘がこちらに伸びてくる。
予感めいていた…ここはルカラン王国の心臓部といってもいい、そんな所に無断で侵入してきたのだ。敵だと思われて始末されてもおかしくない。
「一つだけ…一つだけ質問させてくれ!それを聞いたら帰るから!悪いと思ってた、でも…それでもあなたに会いたかった!私の人生がかかってるんだ!」
アルノアは命乞いに混じった願望を大声で叫び伝えた。その言葉が届いたのか氷の棘の成長が止まった、あと数センチ遅ければ首を突かれていたことだろう。
「いいわ…一つだけよ。」
マリアナはそう言うと、指を鳴らしてアルノアの首に伸びていた氷の棘を破壊した。
話しやすい体勢になったことでアルノアは息を整えるよう何度も呼吸し、先程の勢いで自分の中で突っかかる疑問をマリアナに話した。
「魔力がない人間でも、大賢者様のような魔法使いになれるか…あなたの意見が聞きたいんだ。」
「私のようになりたい?」
「私には夢がある、大賢者様のように万能な魔法を使いこなして世界が驚くような強い魔法使いになる、それを志して今日この日をずっと待っていたんだ。なのに、受付の人になれないって言われて、そんな簡単に夢を否定されて、まだ何もしていないのに諦めろだなんてそんなの認めるわけにはいかないんだ!だからあなたに聞きたい、私には可能性があるのかないのか?あなたの意見なら私は素直に受け入れる。」
マリアナはアルノアの話を静かに聞いていた、側から見れば偉い人からの話でしか聞き入れないという厄介なお客さんを相手にしているような感じであったが…
「話はわかったわ、要は魔法をかじってなさそうな相手から自分の夢を否定されたからその実を私に確かめに来たってことね。」
彼女はそこに指摘はせずきちんとアルノアの相談にのった。だがマリアナの表情は出会ってからずっと無表情のままであり、ずっと変化しない表情にアルノアは心の中で嫌な予感が芽生え始めた。
そしてそれは無慈悲にマリアナの口から放たれた。
「残念だけど、その受付の子は何の非もない。あなたは魔法使いにはなれない。」
「なっ…。」
「魔法使いは才能がものを言う職業、今のその状態で魔力が1すら無いのならもうそれ以上伸びる事は決してない。あなた人間、普通の人間だったってことよ。」
普通の人間…魔法使いにとってそれは死亡宣告のようなものだった。素直に受け入れると言ったが、受付人のように簡単に結論付けられてしまったことを受け、思わず反論してしまった。
「だけど!そんな普通の人間でも魔法を使ってる奴は大勢いるだろ?私はそういう人達を見たことがあるんだ。」
「あなたが見たのは武器に込められた魔石の恩恵によるもの、たしかに外付けの魔力器官があれば多少の魔法なら使えるでしょう。でも、あなたの言う私のような魔法使いになるとなれば明らかな力不足。」
マリアナはアルノアに向けて指を指し、指の先端から小さな火球を放った。火球はアルノアの周りを回り始め、凍った体を溶かしていった。
「魔力は魔法のエネルギー源、たとえ初級魔法を覚えても自分の中にある魔力がなければ何も生み出さない。でもそれは人間として当たり前のこと、何もできないのが普通なのよ。」
無表情で淡々と話すマリアナの姿が恐ろしいほどに不気味だった。苦しんでいる者に助けを述べたり、共感しながらも自身の理由を告げるのが相談のはずだが…
「それでも普通から抜け出したいのかしら?例え人間を辞めてしまってでも魔法を会得したいのかしら?それでのちに後悔してしまうのなら、あなたは魔法を侮辱してるのと一緒なのよ。」
無慈悲に結論だけを告げられるマリアナの話にはどんな人達よりも説得力があった。
そしてそれは、今見せられた火炎魔法にもそれが伝えられていた。ただ自分の周りにある氷を溶かすだけでなく、体に火傷を負わないようギリギリの距離で火球を正確に動かしている。
それはまさにーー《魔石を使った魔法ではこのような力は出せない…諦めろ。》というそのような意図が込められているようだった。
「現実を見なさいルーキー、夢は時に自分を壊す狂気にもなる。魔力がないなら潔く諦めなさい、私はね…一般人に扱えない武器を持たすようなことはしたくないからこうした試験を考えたのよ。」
「あ…くっ…!」
私は相談してくれたマリアナにお礼も言わずにその場から逃げるように離れた。
苦しかった…わかっていた…それでも大賢者に頼べば何かが変わると思っていた。
だがその結果、大賢者に惨めな姿を見せられ、夢だった魔法を侮辱していると思われてしまった。
こんなにも死にたいと思ったのは生まれて初めてだった、憧れの人からどん底に叩き落とされるというのがこれほどまでに残酷だったとは、無垢な私には想像もつかなかった。
「魔法にあてられたのね…もうこういう事が無いよう次から面接でもするべきかしら?」
マリアナは走って大図書館を出ていくアルノアを眺め終えると、机の上に置いてある魔導書に手を触れながらこれからの事を思いふけた。その表情は一瞬可哀想な目で見るような哀しい顔をしていた。
「人間は普通なのが当たり前だというのが、どれほど幸せなのかどうしてわからないのかしら…。」
「はい…色々とすみませんでした。」
「気にする事はない、私としても良いものを見させてもらった。このような絆をあの子達にもわかってほしいものだ。」
フォルティナは頭を悩ますように彼らのことを思いつめた、長がここまで悩むほどに近衛隊のやり方に不安があるのだろう。
「では…辛いと思うが君の無実を証明するため話してもらえるだろうか?帝国に属していないのに何故悪魔の姿になっているのか。」
アルノアは顔を下に向けたが、先程のように沈黙せず喋るのを躊躇いながらも口を開いた。
「私は…ある悪魔の仕業でこんな姿にさせられたんです。」
ーー4年前。
ルカラン王国魔法研究大図書館、大賢者マリアナを率いる研究者達が魔法の研究と製作に取り掛かっている場所。
ここでは年に一度、魔法使いを目指すための試験が行われており、大勢の見習い魔法使いが夢を追うためにそこに足を運んでいる。
私もそこで、大賢者のような魔法使いになるという夢を叶えるためにその場所に出向いた。
「よし…!これが私の魔法使いとしての第一歩だ!」
黒いとんがり帽子に黒いローブを身にまとい、子供の絵本に出てくるような黒魔術師のような姿をして気合いを入れてきたアルノア。
子供の頃からの憧れであった魔法使いという職業が目の前にあり、興奮が治ることがないまま大図書館の中へと足早に入った。
中のロビーでは列を作って試験者の受付を行なっていた、受付を終えた試験者は奥の図書館へと向かっており、アルノアはチラッとその図書館の中を覗いた。
「おぉ…めっちゃワクワクしてきた!早く魔法を覚えてぇな。」
中はオレンジの暖かい光に照らされ、大量の本に囲まれている図書館と呼ぶべきに相応しい場所だった。
だがアルノアにとって場所は重要じゃない。ようやく魔法を手にすることができるという興奮、あの図書館の中には一体どれだけの魔導書があるのかという探究、それが待ち遠しくて仕方がないのだ。
「こんにちは、まずはあなたのお名前をこちらに。そして、この水晶玉こちらに手をかざしてください。」
そう思いふけてる間に受付の番となったアルノアは、受付係から渡された書類に名前を書き、白く薄曇った水晶玉に手をかざした。
「こちらにかざした水晶玉は、あなたの中に流れる魔力を測るものです。この水晶玉が青く光れば素質アリと認定し、隣りの図書館へとご案内します。」
アルノアは手を力みながら水晶玉に力を流し込むようなイメージをした。
「…あれ?」
水晶玉は何も反応せず白く薄曇ったままだった。
やり方を間違えているのか、今度は両手で水晶玉をかざした。だが結果は同じで何も変わらないままだった。
「あの…すみませんが…。」
「大丈夫だから!すぐ光るからもう少し待てって!」
アルノアの顔が徐々に焦りの表情が浮かぶ。
何故?何故光らない?きっと何かの間違いだ、この水晶が壊れてるんだ、私はずっと魔法に意気込んでいたんだ、こんな本質もわからない診断方法で私の未来を潰させてたまるか!
そうプライドの高い人のような考えをして水晶玉に向き合っていると、受付係は無言のまま水晶玉をずらしてアルノアの魔力診断を中止させた。
「あっ…おい!私はまだ…」
「アルノア・ノックスさん、あなたは魔法適性がありません。」
「えっ?あのいや…」
「残念ですが、あなたの体から魔力反応が表れませんでしたので試験には不参加ということで…」
受付係は哀しくも残念そうな表情でアルノアに現実を突きつけた。
「あっ…えっ…」
アルノアは目の前で話をしている受付係の声が聞こえにくくなっていた。自分の嫌な情報を脳に流さないように無意識に感情を無にしていた。
だが、どんなに感情を無にしてもあの台詞だけはアルノアの心に深く刺さった。
「あなたは魔法使いにはなれません。」
……。
「えっ…?」
気づくとアルノアは大図書館の入口に立っていた、周りを見渡すと受験者達の姿が見当たらず自分だけがただ一人佇んでいた。
「私だけ…何で…魔法使いに…なれない?嘘だろ…こんな簡単に終わるのかよ。」
アルノアは放心した状態のままよろよろと歩きだすが、道の段差につまづいて糸が切れた人形のように倒れた。
「夢だろこれ…悪い夢に決まってる…ありえないだろ、なんで私だけなんだ!こんなの間違ってるだろ!夢を追いかける奴がなんでこんな惨めな思いしなきゃ…」
絶望感に浸ってる最中、遠くである人物が瞳の中に映った。
白色の長い三つ編みの髪が背中を隠すほどに伸び歩く度に左右にゆらりと揺れる女性、痩せ気味の体にゆったりした紫と黒の鮮やかな縞模様のローブに包んだその姿は、まさに見る人を呆然とさせるオーラが出ているようだ。そんな彼女が大図書館の周りに広がる庭園を歩いていた。
アルノアのような見習いの魔法使いでもその姿は誰もが知っている、ルカラン王国を大昔から守ってきた大魔法使い。
「マリアナ…大賢者様?」
アルノアの中で何か邪な感情が湧いた、普通なら怒られるだけじゃ済まされないかもしれない。
それでもあの人に会いたい。会って自分のこの苦しみを打ち明けたい。
その感情が放心した体を突き動かした。
マリアナは庭園をゆっくり散歩し終わった後、自分達が入ってきた大図書館の入口とは違う場所に入って行った。
そこは受験者達がいた部屋とは違い、月のような薄暗く神秘的な光で図書館の中を照らし出していた。
見たことがない研究資材と見た目からしてヤバそうな魔導書に目がくらんでいると、目の前が氷の棘に包まれた。
「うわっ!」
「研究所に忍び込んで何をする気かしら?」
マリアナはアルノアを見ずに的確な位置に氷結魔法を放った。氷によって床と服が強固に粘りつき動きづらくなっている、それどころか氷が身体を包むようにどんどん伸びていく。
死が迫っていくのを感じてアルノアは咄嗟に事の事情を説明した。
「ちっ、違うんだ大賢者様!決して悪気があって来たわけじゃない!」
「ここに忍び込む事じたい普通じゃないの、ここに入りたかったらちゃんとした手続きをしてもらわないと困るのよね。」
「あがっ…!」
「あなたを信用出来なくなる。」
四肢と胴体が凍りつき、身動きが出来なくなった身体へトドメを刺そうと氷の棘がこちらに伸びてくる。
予感めいていた…ここはルカラン王国の心臓部といってもいい、そんな所に無断で侵入してきたのだ。敵だと思われて始末されてもおかしくない。
「一つだけ…一つだけ質問させてくれ!それを聞いたら帰るから!悪いと思ってた、でも…それでもあなたに会いたかった!私の人生がかかってるんだ!」
アルノアは命乞いに混じった願望を大声で叫び伝えた。その言葉が届いたのか氷の棘の成長が止まった、あと数センチ遅ければ首を突かれていたことだろう。
「いいわ…一つだけよ。」
マリアナはそう言うと、指を鳴らしてアルノアの首に伸びていた氷の棘を破壊した。
話しやすい体勢になったことでアルノアは息を整えるよう何度も呼吸し、先程の勢いで自分の中で突っかかる疑問をマリアナに話した。
「魔力がない人間でも、大賢者様のような魔法使いになれるか…あなたの意見が聞きたいんだ。」
「私のようになりたい?」
「私には夢がある、大賢者様のように万能な魔法を使いこなして世界が驚くような強い魔法使いになる、それを志して今日この日をずっと待っていたんだ。なのに、受付の人になれないって言われて、そんな簡単に夢を否定されて、まだ何もしていないのに諦めろだなんてそんなの認めるわけにはいかないんだ!だからあなたに聞きたい、私には可能性があるのかないのか?あなたの意見なら私は素直に受け入れる。」
マリアナはアルノアの話を静かに聞いていた、側から見れば偉い人からの話でしか聞き入れないという厄介なお客さんを相手にしているような感じであったが…
「話はわかったわ、要は魔法をかじってなさそうな相手から自分の夢を否定されたからその実を私に確かめに来たってことね。」
彼女はそこに指摘はせずきちんとアルノアの相談にのった。だがマリアナの表情は出会ってからずっと無表情のままであり、ずっと変化しない表情にアルノアは心の中で嫌な予感が芽生え始めた。
そしてそれは無慈悲にマリアナの口から放たれた。
「残念だけど、その受付の子は何の非もない。あなたは魔法使いにはなれない。」
「なっ…。」
「魔法使いは才能がものを言う職業、今のその状態で魔力が1すら無いのならもうそれ以上伸びる事は決してない。あなた人間、普通の人間だったってことよ。」
普通の人間…魔法使いにとってそれは死亡宣告のようなものだった。素直に受け入れると言ったが、受付人のように簡単に結論付けられてしまったことを受け、思わず反論してしまった。
「だけど!そんな普通の人間でも魔法を使ってる奴は大勢いるだろ?私はそういう人達を見たことがあるんだ。」
「あなたが見たのは武器に込められた魔石の恩恵によるもの、たしかに外付けの魔力器官があれば多少の魔法なら使えるでしょう。でも、あなたの言う私のような魔法使いになるとなれば明らかな力不足。」
マリアナはアルノアに向けて指を指し、指の先端から小さな火球を放った。火球はアルノアの周りを回り始め、凍った体を溶かしていった。
「魔力は魔法のエネルギー源、たとえ初級魔法を覚えても自分の中にある魔力がなければ何も生み出さない。でもそれは人間として当たり前のこと、何もできないのが普通なのよ。」
無表情で淡々と話すマリアナの姿が恐ろしいほどに不気味だった。苦しんでいる者に助けを述べたり、共感しながらも自身の理由を告げるのが相談のはずだが…
「それでも普通から抜け出したいのかしら?例え人間を辞めてしまってでも魔法を会得したいのかしら?それでのちに後悔してしまうのなら、あなたは魔法を侮辱してるのと一緒なのよ。」
無慈悲に結論だけを告げられるマリアナの話にはどんな人達よりも説得力があった。
そしてそれは、今見せられた火炎魔法にもそれが伝えられていた。ただ自分の周りにある氷を溶かすだけでなく、体に火傷を負わないようギリギリの距離で火球を正確に動かしている。
それはまさにーー《魔石を使った魔法ではこのような力は出せない…諦めろ。》というそのような意図が込められているようだった。
「現実を見なさいルーキー、夢は時に自分を壊す狂気にもなる。魔力がないなら潔く諦めなさい、私はね…一般人に扱えない武器を持たすようなことはしたくないからこうした試験を考えたのよ。」
「あ…くっ…!」
私は相談してくれたマリアナにお礼も言わずにその場から逃げるように離れた。
苦しかった…わかっていた…それでも大賢者に頼べば何かが変わると思っていた。
だがその結果、大賢者に惨めな姿を見せられ、夢だった魔法を侮辱していると思われてしまった。
こんなにも死にたいと思ったのは生まれて初めてだった、憧れの人からどん底に叩き落とされるというのがこれほどまでに残酷だったとは、無垢な私には想像もつかなかった。
「魔法にあてられたのね…もうこういう事が無いよう次から面接でもするべきかしら?」
マリアナは走って大図書館を出ていくアルノアを眺め終えると、机の上に置いてある魔導書に手を触れながらこれからの事を思いふけた。その表情は一瞬可哀想な目で見るような哀しい顔をしていた。
「人間は普通なのが当たり前だというのが、どれほど幸せなのかどうしてわからないのかしら…。」
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