推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第二十六話 障壁①

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「あっ、見てくださいあれ!遠くに町が見えてきましたよ。」

 荷車から体を乗り出したコハクは遠くに見える町を眺めた。それを追うように他の皆もコハクが眺めている場所に顔を向けた。
 緑が広がる高原に大きな木の幹が一本立っており、その木を中心に細々とした建物が建てられている。あれこそが俺達の目的地である霊長の里だ。

「ちっ、守護結界を張ってるわね。」

 セーレは遠くにある里から目を離しパーティーの皆の顔を見ながら話を切り出した。

「悪いけど私はあの町には行けない、外にいるから用があるならあの湖で落ち合いましょう。」

 セーレが指を指す方向には、緑の高原を切り出したような青色に染まった湖があった。このあとの待ち合わせにあの場所は目印としてわかりやすい。

「セーレさんは行けないって、それってどういう事ですか?」
「いいよ、あの湖な。」

 俺だけが彼女の行動を理解し、彼女をここでパーティーから抜けることに賛成した。
 そうしてセーレは池に向かって飛び出して行った。走るというよりかは、地面スレスレで滑空している姿だったので正体がバレるか心配になった。

「ちょっ、あんの馬鹿!普通に走れ!」
「おい!誰かすごい速さで走って行ったぞ!」
「ああ気にしないで!ただのトイレだから!我慢できなくて全力疾走してる人ってあんな感じだから!」

 荷車に一緒に乗っていた乗客は飛び出したセーレを不思議に思ったのか目で追ったが、すぐ俺は彼らの前に遮りトイレだと誤魔化した。
 乗客の彼らはそれに納得し、騒ぎになることはなかった。俺は彼らの落ち着きを見て、疲れからため息を吐いた。

「はぁ…あの野郎、隠し通す俺達の身にもなってくれ…。って言っても、さすがにあの里に入ればセーレを隠し通す事は無理だろうけど。」
「クロムさん、セーレさんは何故突然行けないと言い出したんですか?それって、さっき言ってた守護結界と何か関係が?」

 俺とレズリィは周りの乗客に話し声が聞こえないよう荷車の端に座り、セーレがここから離れた理由を話した。

「霊長の里は魔物にとって敏感な場所でな、周りに張ってる守護結界はあの里が指定した魔物が触れれば浄化の光でダメージを受ける。だから通行証が必要だったんだ。」

 俺は懐からルーナ城を出る際にテレサ女王からもらった光る球体をレズリィに見せた。

「それって、テレサ女王からもらった…それが通行証ですか?」
「この光る玉には、この守護結界専用に作られた封印魔法、魔法妨害《マジックジャマー》が入っている。だからコハクのような獣人の魔物でもこうして入れるんだ。」
「そこまで徹底した魔物対策、この先に一体何があるのでしょう。」
「さあな、でも障壁はまだ存在する。あの守護結界よりもっと厄介なやつが…。」

 俺はそう言って顔を横に向けると、少しだけ青みかかっている景色が近づいてくるのを見かけた。
 守護結界、遠くからだと青空に同化して分からなかったが、その結界は里からまだ距離がある場所で広範囲に展開されており、その土地丸ごと里の敷地内だと証明するような作られ方だった。

 フゥゥゥ…
 無事に守護結界を通り抜け、ついに霊長の里に足を踏み入れたクロム達。それを遠くから見ていた里の守衛者は腰掛けた木の枝から飛び降り、馬車が向かって来る方向を眺めた。

「異質な魔力を感じる…私達以外の魔物が入り込んで来たか。」

 守衛はそう呟くと、尖った長耳につけられた装置に手を当て話し出した。

「総員、西側に集まれ。」

 その言葉を聞きつけた他の守衛がクロム達が乗っている馬車に向かって走り始めた。

 ガチャン!
「うおっ!なんだ?急に止まったぞ。」

 前の馬車が急に止まり、牽引していた荷車が惰性で馬車にぶつかった。
 何かあったのかと乗客は身を乗り出して前の方を確認していた。アルノアも同じように前の方を確認しようとした途端、クロムに肩を掴まれた。

「えっ?」
「外を見るな、フードを深く被ってじっとしてろ。」
「わっ、わかった…。」

 突然真剣な表情をしたクロムに驚き、アルノアは思わず頷きクロムの言ったとおり身を隠すように座り込んだ。

「運転手そこで止まれ、中を改めさせてもらおう。」

 魔物の鱗で作られた身軽な鎧を身に纏い、森林色のケープを上から羽織った金髪の男性エルフが出迎えた。その手には弓矢を持ち、背中には鉄製の剣を携えている。
 その姿からして、ここを巡回している警備の者だとすぐ気づいた。

(やべえな…まさか勘づかれたか?いや、危険物がないかのチェックだろ?そうであってくれ…!)

 森で治療した時にわかるとおりアルノアは人型の魔物だ、それも口では言えない人々が恐れるレベル級である。
 俺は騒ぎにならないよう祈りながら、エルフが馬車の中を確認する姿をじっと見続けていた。

「これは…一体何があった!?」

 巡回兵のエルフが馬車の扉を開けると、横になって倒れている乗客達が目に飛び込み、一体何があったのかガイドのメルトルに問いただした。

「運送中に事故が起こってしまい怪我人が多数いる状況です、すぐに医療場に向かいたいので手短にお願いいたします。」
「運送中に事故か…よかろう、怪我人を連れてここを通れ。モルガン…お前も協力するんだ。」
「そんなピリピリするなよ、私が怪我人を放って置いて自分の研究室にこもる悪人に見えるか?」

 エルフは馬車の中で座っていたモルガンを睨みつけ、反対にモルガンはその圧をものともせずニヤニヤしていた。
 全く臆することないモルガンの態度に呆れたのか、エルフは手を振って馬車を行かせるよう合図をだした。

「ガイド君、行っていいという合図が出た。運転手に動かすよう頼んでくれ。」
「分かりました。」

 エルフは馬車から2、3歩離れると、ゆっくりと馬車は動き出した。俺やアルノアはエルフと目を合わさずにそのまま通り過ぎてほしいと願いながらじっと座った。
 心臓の鼓動が速くなり、嫌な汗が流れ始めた。
 エルフがすぐ目の前に来た、彼は視線や顔を一切動かさず馬車が通り過ぎるのを待った。
 あと1メートル…あと50センチ…もうすぐ通り過ぎる…。

 ガシッ!
「っ!?」

 エルフは俺達が乗っている荷車の端を掴み飛び上がって荷車の上に乗った。
 乗客達は一体何事か全員がエルフの行動に注目していた。俺も彼の行動に胸騒ぎが止まらなかった、聞き出そうと声をかけようとしたが間に合わず彼の口が先に動いた。

「そこの赤いフードを被っている者よ、この馬車から降りるんだ。」
「……。」

 乗客はざわめきだしアルノアに目線を向ける、アルノアは無言を貫いたまま動こうとはしない。エルフは続けざま話を切り出した。

「では質問を変える、そのフードを取って顔を見せるんだ。それくらいは出来るだろう?」
「……。」

 沈黙の中、エルフは何かを察し背中に背負った剣を抜こうと手を回した。その瞬間アルノアはゆっくりと立ち上がり乾いたかすれ声を漏らした。

「悪い皆、ちょっと抜けるわ。」
「えっ、ちょっと!」

 アルノアは荷車から飛び降りた、そしてその場から離れずエルフが来るのを待っていた。

「人がいる場所では取れないか、いいだろう。」

 エルフも荷車から飛び降り、アルノアの方へ歩いていく。
 遅れてクロム達も荷車から降り、アルノアの方へ向かった。

「私はそこの赤いフードの者に用があると言ったのだが、何故君達も降りる?」
「俺の仲間だ、一緒にいても問題はないだろう?」
「まあいい…君、名前はなんだ?」
「まずは自分から名乗るのが礼儀なんじゃないのか?エルフ。」
「そうか…失礼した、私はこの霊長の里の近衛隊団長ジアロと申す。」
「アルノア…アルノア・ノックス。」
「ではアルノア、先程も言ったがそのフードを外し顔をよく見せてもらえるか?」
「……。」

 自己紹介を経て今まで何気なく話していたアルノアだったが、ジアロの質問を受けた途端急に黙り込み、彼や俺達もアルノアの返事を待っていた。

「どうした?何故外さない?別にどんな醜い顔でも私は何も言わないし興味もない。それとも絶対に外せない理由があるとか?たとえば…人間に化けた魔物だったり。」
「っ…。」

 俺とコハクは咄嗟にジアロから目を逸らした。あの事故で見てしまったアルノアの正体、果たして言うのが正解なのだろうか?その不安感に二人は口ごもることしか出来なかった。

「ちょっと憲兵さん、まだ見てもないのにそう決めつける言い方はよくないと思うのですが。」

 だがレズリィはその話に待ったをかけた、その一歩前を出した勇気に俺達は呆然と彼女を眺めた。

「では神官よ、このような言葉は知っているだろう?人はやましい事があれば身を隠すために素顔を晒せなくなると。」
「アルノアさんを悪人扱いするってことですか?」
「これは仕事なんだ、この里を守るため不審な人物が現れないよう見張ることが。だから私はアルノアの素性を確認する権利があるのだ、君から何と言われようとこれは里の掟、異論は認めん。」
「私が証言します!アルノアさんは魔法使い採用試験の時からずっと一緒にいたので分かります!試験の際に魔法が暴発してひどい火傷を負ってしまって、その後遺症を人に見られるのが嫌なだけなんです!わかってください彼女の気持ちを!」

 レズリィの話を聞いて、俺とコハクは哀しい目でアルノアを見た。彼女の手は強く握って震えており、今にも感情が溢れ出しそうな勢いだった。
 見ているこっちも辛く感じる、アルノアの姿がバレるのを防ぐためとはいえ嘘をつくのは仕方ないが、その嘘でこんなにも純粋に気遣われると心が痛くてしょうがなかった。

「神官、あなたの気持ちは痛いほど理解出来た。だがそうなると彼女の行動に違和感を感じるんだ。」
「違和感?」
「火傷のせいで顔を見られたくないのならなぜ自分から言わない?何故そのような事で乗客が乗っている馬車から降りなければならない?失礼だが、行動がただ顔を見られたくないという理由にしては少し行き過ぎていると思うが。」

 ジアロの言うことはごもっともだ、意味深な行動をして今更火傷のせいだったと言うには無理な言い訳感がある。
 レズリィもそれがわかってぐうの音も出ない苦しい表情をしていた。

「ですが…!ですが…」
「もういいレズリィ、私のために説得してくれてありがとう。だけどこれ以上皆に迷惑はかけられない。」

 アルノアは乾いた声を発しながらレズリィより前に出た、レズリィの目にはアルノアが通り過ぎた一瞬こちらに申し訳なさを伝える視線が向けられたことを感じ、呆然とアルノアの姿を追った。

「アルノア…さん。」

 後ろから向けられる苦しい視線を感じながら、アルノアはゆっくりと赤いフードを外した。
 フードの中から赤く長い髪が揺らぎ、その髪色とはまた違う黒い何かがレズリィの目に入った。

「これが私の姿だ、何か文句はあるか?」

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