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悪魔の絆編
第二十五話 真逆①
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「…さん!クロムさん!」
レズリィの叫び声による呼びかけに、俺の意識は呼び戻され視界が明るくなった。
「クロムさん!良かった…目が覚めた。」
「レズリィ…」
「やりましたねクロムさん、やっぱりクロムさんはすごいですよ!あの大勢のゴブリン達の他にもゴブリンロードまで倒しちゃうなんて!」
「コハク…あれ?どうなって…」
見渡すと燃え続けるゴブリンの集落に、俺の目覚めに喜ぶレズリィとコハクとルミールの三人、顔を横目に少し離れた場所で俺を見ているセーレの姿があった。
「なんだこれ…すげえ燃えてるじゃねえか、一体何をしたらこうなったんだ?」
「えっ…それってどういう…。」
状況が飲み込めなかった、レズリィが無事なのを見て戦いが終わったことはわかったが、どういう流れでこのような惨状になったのか記憶にない。もしかしたら俺は、あの時から気を失っていたのかと思うくらいに…。
「って、痛ただだ!動くとめっちゃ体痛え、本当に何をどうしたらこうなった!?」
少し立ち上がるだけで全身が悲鳴をあげるほどの筋肉痛が襲いかかり、まともに立てずに後ろに尻をついて倒れた。
皆は俺の体の具合を心配するよう近づいて看護したが、一人セーレだけは納得がいかない表情で俺に駆け寄り胸ぐらを掴み上げた。
「ちょっと…!」
「うおっ!勘弁してくれよセーレ、体がボロボロだから今はお前と喧嘩する気分じゃ…。」
「仲間の前だからってとぼけたふりしてんじゃないわよ!お前が動けない私を利用して大勢のゴブリンの中に放り出した、それで奴等が私を袋叩きにしている隙を狙って周りの建物を爆破したんでしょ!」
「なっ…それってどういう…!?」
「落ち着いてくださいセーレさん!第一クロムさんが仲間を切り捨てるなんてそんなこと…。」
レズリィは今まで仲間意識で戦ってきた俺のやり方とは真逆の行為をするわけがないと、困惑気味にセーレの言い分を否定した。
だがセーレの言葉や表情には冗談のような嘘が含まれていない、彼女の激情に駆られたその目はまさしく本当のことだと俺は思い知らされた。
「悪いけどこれは紛れもない事実よ、あなた達は見ていないでしょうけどこいつは私に、動けない私にはそれしか出来ないって言って自分が強くなりたいがためにゴブリン達をまとめて潰そうとした。私が巻き込まれても構わないと思えるくらいに平然と私を…」
「まっ、待て待て待てって!お前をゴブリン達の中に放り出した?この火災はゴブリン達を潰すためにやった?それを全部俺が?」
俺は頭を抱えた、少しでもいいからその時の記憶を思い出そうとしたが、まるでそこだけ切り取られているように何も思い浮かばなかない。
「全然覚えてねえ…最後に覚えてるのっていったらモルガンからもらった薬を飲んで不味いと思ったくらいしか…。」
俺は懐から赤色の強化薬が入っていた空の瓶を取り出して、何か思い出せるかまじまじと観察した。
ところがルミールが、ある台詞と俺が持っている小瓶に何か違和感を感じ俺に聞き出した。
「ちょっと待ってください、モルガン先生からもらった薬ですか?」
「ああ…これなんだけど、力に関するものを何でも強化するって言ってたな。なんか血みたいにドロっとしててめっちゃ不味かった。」
俺は空の小瓶をルミールに手渡した。ルミールは目を細め小瓶に薄っすら残る液体を見つめ、俺の証言を思い出しながらこの薬の正体を推測した。
「赤い液体…記憶が無くなるほどの身体的な強化…今とセーレさんが言っていたクロムさんの感情の変化…間違いありません、これは《きょうか薬》です。」
「えっ?だったらそれでいいんじゃないか、でも体を強化出来るデメリットが記憶が吹っ飛ぶっていうのは…」
「違います!体を強化じゃなくて、狂うに化けると書いての狂化です!クロムさんあなた、人が発狂するレベルの薬を飲んだんですよ!」
ルミールが焦った表情で薬の効果を俺に告げた、俺や他の仲間もぽかーんと口を開けたまま唖然としており、頭の理解が追いつかなかった。
「えっ…ちょっと待って…発狂レベル?ちょっと待って…じゃあ、俺あいつの口車に乗せられて実験体にされてたっていうのかよ!」
「その前になんで飲んじゃったんですか!?明らかに危険そうな見た目してたじゃないですか!」
「仕方なかったんだよ!セーレは動けないし、あの量のゴブリンを捌ききれないし、あの薬は体を強化するってモルガンが言うもんだからてっきり強めのバフがもらえるかと思ったんだよ!」
あまりの衝撃内容に俺は頭を抱えながら空に向かって叫んだ。モルガンの説明足らずで…いや、そもそもちゃんと話していたのだ。強化《きょうか》ではなく狂化《きょうか》と、なんとも紛らわしい。
「あの野郎!人命がかかってる状況でなんつーモン渡してんだ!絶対わざとだ、あいつ俺を実験のネズミ程度しか思って…」
クラッと視界が傾き始めた、まるで綱渡りで足を踏み外したかのようにだらしなく倒れた。
「ちょっ…!クロムさん大丈夫ですか!?」
「そうだった…俺、体ボロボロで動ける体力じゃなかったの忘れてた…。」
「ごめんなさいクロムさん、この事はこっちで強く叱っておくので…。」
倒れている俺の後ろでルミールがこの件についての謝罪を述べ、レズリィとコハクは俺を起き上がらせようと必死になっている、側から見ればわがままな子供を養っているような光景だ。
そんな締まらない光景を目にしたセーレは、クロムに向けていた怒りが消え、呆れた表情で頭を抱えた。
「はぁ…おかしいと思ったわ、こんなヘタレが一人で集落を壊滅させる力を持つなんて…でも、それに助けられたのはたしかか…。」
自分を変えたのは狂気に染まったクロムであって今のクロムじゃない、だが果たして私がクロムに告げた覚悟は届いたのだろうか?その不確定さにセーレはモヤモヤし始めた。
「ああもう…調子狂うわね、あんなにコロコロと変わられると。」
愚痴を吐きながらクロムのもとに近づき、レズリィ達の代わりに彼を担いだ。
「おわっ!セーレ…」
「みっともないわよ、レズリィ様の手を煩わせる気?」
「すまない…今だけはお前の力を貸してくれ。」
「悪いけど、私だって今こうしてお前を支えてるだけで精一杯なのよ。無理矢理魔法で筋肉をいじめたせいで飛ぶこともあまり出来ないわ。」
セーレは目の前の光景を目にし顔をしかめた。建物の火は一向に収まる気配はなく、火が建物に転々と燃え移り徐々に逃げ道を塞いでいく。
「どうしましょう…レズリィさんを助けたのはいいですが、怪我人を多く抱えたままモルガンさんがいる場所まで運ぶのは…。」
「方法ならあるじゃない。クロム、せっかく手に入れた転移魔法ここで使わないでいつ使うつもり?」
「駄目だ、あれは一度行った町や村にしか効果がない。ここは一度、前の拠点のゼルビアに戻って助けを呼ぶしか。」
「馬鹿ね、転移魔法は場所を明確に想像出来ればどこでも飛べるのよ。」
「それってどういう事だ?」
「人間は一度行った町じゃないと効果は発揮しないって言うけど、それは町の印象が頭の中に残るから使えるだけなのよ。たから町以外で転移が出来ないのは、日によって風景が変わったり、逆に同じ風景続きで想像に残らないからが原因なのよ。」
記憶として想像に残らないという説明に、俺は今まで歩んで来た街や拠点を思い出した。
「たしかに…ルカラン王国には巨大な城と街が、ルーナ城には魔導兵器が備わってる城壁、ゼルビアには中の建物を守るよう壁が設置されている独特な作り、全部印象に残っている。」
「もしその仕組みで転移出来るなら、あの壊れた馬車がある所場は印象として強いはずです。」
そうコハクは言うが、セーレの言う想像だけで転移できるという不安定な仕組みを信じてもいいのだろうか?俺はそう疑いを持ち始め眉をひそめた。
だがこの状況でセーレが冗談を言うはずがない、それにここはゲームの世界ではないのなら、拠点だけに転移するということに囚われすぎているのかもしれない。
「わかったやってみる、皆俺に集まってくれ。」(たしかゲームではMPの消費量は0だったはず、今の俺の残り少ない魔力量でうまくいけるか…?)
俺は一か八かこの世界が作り出した魔法に賭けることにした。額に指を当て、モルガンがいた場所の空間を脳内に映し出した。
壊れた馬車、負傷した乗客、木が周りに並ぶ開けた空間、それぞれがパズルのピースのように組み合わさった時一枚の背景が浮かび上がる。
「っ!!きたっ!」
突然頭に電気が走ったような感覚を感じ、額に当てていた指を地面に指す。すると俺を中心に魔法陣が展開され、レズリィ達の足元を照らす。
「目標、壊れた馬車区域へ!転移《トラベル》!」
魔法陣から青白い光が放たれクロム達の体を埋め尽くし、その場から消え去った。
森の中、開けた場所に壊れて動かなくなった馬車と怪我人を横に休ませている光景が広がる場所で、空間から青白い光が放たれた。
「なんだ?新手か?」
その場で居座っていたモルガンは突如出てきた光に警戒し、手から魔法陣を展開した。
キィィィィン…
光の中から複数の人影が現れ、徐々に光が消えるのと同時に人影の姿が鮮明になった。
「驚いた…まさか転移魔法で戻ってくるとは。」
モルガンはその手に開いた魔法陣を閉じ、少し笑みを浮かべてその人影に近づいた。
「やった!成功しましたよ!」
「何とか無事に戻ってきましたね、私達。」
コハクが辺りを見渡すとそこは怪我人を治療していた木々が開けた場所だった。目的の場所に帰って来たことで転移が成功したことに喜ぶ者がいるの対し、怒りを滲ませている者がいた。
「モルガンんんん…!お前なぁぁ…!」
俺は怒りで体をふるふると小刻みに震えながらモルガンのもとへと近づくが、足に力が入らずその場に倒れてしまった。
「はぁ…さっきと同じことして恥ずかしくないわけ?」
「くっそぉ…!せめて一矢だけでも…!」
俺は這いずりながらもモルガンに近づこうとするが、彼女は俺の体の状態に興味を持ったのかそっちの方から近づいてきた。
「もしかしてあの狂化薬を飲んだのかい?なるほど…全身の筋肉が疲労で動けなくなってしまうのか。これではあまり実用性がないな。」
「やっぱりお前俺のこと実験体にしてたのかよ!お前のせいでとんでもないことになって…」
「それより話は変わるが…」
「変えんな!」
話が成立しないモルガンに俺は怒りのボルテージがぐんぐん上がっていくが、唐突に彼女の手が俺の頭を少し撫で、苦労を労うように優しく語りかけた。
「よく戻ってきた、予期せぬ戦いでも仲間を誰一人欠けることなく帰ってきたとは。どうやら君が勇者に選ばれたのは間違いじゃなかったようだな。」
「モルガン…。」
思いもよらぬ人からの称賛をもらい、自分の中で怒りから戸惑いに変化した。
「って!なにいい雰囲気で場を流そうとしてんだ!お前のせいで変な疑惑は生まれるわ体はこんなになるわで大変だったんだぞ!」
まあそんな簡単に感情が揺るがるわけがなく、俺は再びモルガンに怒りの気持ちをぶつけた。
「それよりも神官君、戻ってきてすぐで悪いが君の力を貸して欲しい。」
「聞けよ人の話!」
モルガンは話が済んだかのように視線をレズリィの方へ向けた。
「見ての通り怪我人が多すぎて、治療に使う回復が薬が間に合わなくなってしまった。君の回復魔法で助けて欲しい。」
レズリィは辺りを見渡した。怪我の影響で痛みによって悶える者や、体の止血で布が赤く染まっている者など数人程度の話ではない悲惨な光景にレズリィの顔は苦悶の色を浮かべた。
「私の一人の魔力量では全員を完治させるのは不可能です、ですが軽い応急処置程度なら全員にまんべんなく行き渡れるはずです。」
「それで構わない、あとは霊長の里で本格的な治療を受けられるようにしよう。」
早速レズリィとモルガンは負傷者の回復のために周り始めた。
先程の会話から察するにレズリィの回復量では応急程度しか出来ないと聞く、なら歩けない負傷者をどのようにしてここから運び出すか?俺はそっちの問題に着目した。
「コハク、ルミール、セーレ、今動けるのは三人だけだ。あの壊れた馬車に人が乗れるように直せないか?」
「はぁ?直せないかって、私にはそんな技術なんてないわよ。無茶言わないで!」
「セーレ、完璧に直さなくていい。あれは前を牽引する動力がないと走らないタイプだ、車軸と車本体が繋がっていればまだ走れるはずだ。」
だから何よと呟きそうに首を傾げるセーレに対し、ルミールはクロムが伝えたかった話の内容が伝わり行動に移そうとした。
「クロムさんのやりたい事がわかりました、やりましょう皆さんで。僕が馬車の点検するので、お二人は横転した馬車を戻す作業をお願いします。」
「ちょっと待ちなさいよ、私にはあの馬車を直す意味がわからないんだけど、それにいつ私が協力すると言って…」
「お願いしますセーレさん、これは負傷者をここから運び出すために必要なことなんです。」
ルミールはセーレの目をじっと見つめ、クロムが考えている内容を詳しく伝えた。
「この負傷者の数を動けている僕達で担いでいくのは不可能です、ですが負傷者を馬車に乗せてヒュドラで牽引させれば安全に運び出す事が出来ます。」
「そんなもの、あいつの転移魔法を使えば済む話じゃない。」
「ここにいるのが全員ならな、あっちの方で2台目に乗ってた乗客が待ってる。いつまでもあんな所で待たせるわけにはいかないだろ。」
俺は両手を地面につけ四つん這いな姿勢になった、体がうまく動かせない今の俺に出来る精一杯のお願いだ。
「頼むセーレ、レズリィも頑張ってるんだ。俺達もそれに応えてやらないと…。」
「はぁ…ああもう!レズリィ様の名前を出すとか卑怯よ!」
そう言うと、俺の四つん這いの姿に目もくれず振り返って壊れた馬車に向かった。
「貸しとくわよ!」
そう俺に叫んだセーレの後ろ姿は悪魔のような邪悪さはまったく感じなかった。
レズリィの叫び声による呼びかけに、俺の意識は呼び戻され視界が明るくなった。
「クロムさん!良かった…目が覚めた。」
「レズリィ…」
「やりましたねクロムさん、やっぱりクロムさんはすごいですよ!あの大勢のゴブリン達の他にもゴブリンロードまで倒しちゃうなんて!」
「コハク…あれ?どうなって…」
見渡すと燃え続けるゴブリンの集落に、俺の目覚めに喜ぶレズリィとコハクとルミールの三人、顔を横目に少し離れた場所で俺を見ているセーレの姿があった。
「なんだこれ…すげえ燃えてるじゃねえか、一体何をしたらこうなったんだ?」
「えっ…それってどういう…。」
状況が飲み込めなかった、レズリィが無事なのを見て戦いが終わったことはわかったが、どういう流れでこのような惨状になったのか記憶にない。もしかしたら俺は、あの時から気を失っていたのかと思うくらいに…。
「って、痛ただだ!動くとめっちゃ体痛え、本当に何をどうしたらこうなった!?」
少し立ち上がるだけで全身が悲鳴をあげるほどの筋肉痛が襲いかかり、まともに立てずに後ろに尻をついて倒れた。
皆は俺の体の具合を心配するよう近づいて看護したが、一人セーレだけは納得がいかない表情で俺に駆け寄り胸ぐらを掴み上げた。
「ちょっと…!」
「うおっ!勘弁してくれよセーレ、体がボロボロだから今はお前と喧嘩する気分じゃ…。」
「仲間の前だからってとぼけたふりしてんじゃないわよ!お前が動けない私を利用して大勢のゴブリンの中に放り出した、それで奴等が私を袋叩きにしている隙を狙って周りの建物を爆破したんでしょ!」
「なっ…それってどういう…!?」
「落ち着いてくださいセーレさん!第一クロムさんが仲間を切り捨てるなんてそんなこと…。」
レズリィは今まで仲間意識で戦ってきた俺のやり方とは真逆の行為をするわけがないと、困惑気味にセーレの言い分を否定した。
だがセーレの言葉や表情には冗談のような嘘が含まれていない、彼女の激情に駆られたその目はまさしく本当のことだと俺は思い知らされた。
「悪いけどこれは紛れもない事実よ、あなた達は見ていないでしょうけどこいつは私に、動けない私にはそれしか出来ないって言って自分が強くなりたいがためにゴブリン達をまとめて潰そうとした。私が巻き込まれても構わないと思えるくらいに平然と私を…」
「まっ、待て待て待てって!お前をゴブリン達の中に放り出した?この火災はゴブリン達を潰すためにやった?それを全部俺が?」
俺は頭を抱えた、少しでもいいからその時の記憶を思い出そうとしたが、まるでそこだけ切り取られているように何も思い浮かばなかない。
「全然覚えてねえ…最後に覚えてるのっていったらモルガンからもらった薬を飲んで不味いと思ったくらいしか…。」
俺は懐から赤色の強化薬が入っていた空の瓶を取り出して、何か思い出せるかまじまじと観察した。
ところがルミールが、ある台詞と俺が持っている小瓶に何か違和感を感じ俺に聞き出した。
「ちょっと待ってください、モルガン先生からもらった薬ですか?」
「ああ…これなんだけど、力に関するものを何でも強化するって言ってたな。なんか血みたいにドロっとしててめっちゃ不味かった。」
俺は空の小瓶をルミールに手渡した。ルミールは目を細め小瓶に薄っすら残る液体を見つめ、俺の証言を思い出しながらこの薬の正体を推測した。
「赤い液体…記憶が無くなるほどの身体的な強化…今とセーレさんが言っていたクロムさんの感情の変化…間違いありません、これは《きょうか薬》です。」
「えっ?だったらそれでいいんじゃないか、でも体を強化出来るデメリットが記憶が吹っ飛ぶっていうのは…」
「違います!体を強化じゃなくて、狂うに化けると書いての狂化です!クロムさんあなた、人が発狂するレベルの薬を飲んだんですよ!」
ルミールが焦った表情で薬の効果を俺に告げた、俺や他の仲間もぽかーんと口を開けたまま唖然としており、頭の理解が追いつかなかった。
「えっ…ちょっと待って…発狂レベル?ちょっと待って…じゃあ、俺あいつの口車に乗せられて実験体にされてたっていうのかよ!」
「その前になんで飲んじゃったんですか!?明らかに危険そうな見た目してたじゃないですか!」
「仕方なかったんだよ!セーレは動けないし、あの量のゴブリンを捌ききれないし、あの薬は体を強化するってモルガンが言うもんだからてっきり強めのバフがもらえるかと思ったんだよ!」
あまりの衝撃内容に俺は頭を抱えながら空に向かって叫んだ。モルガンの説明足らずで…いや、そもそもちゃんと話していたのだ。強化《きょうか》ではなく狂化《きょうか》と、なんとも紛らわしい。
「あの野郎!人命がかかってる状況でなんつーモン渡してんだ!絶対わざとだ、あいつ俺を実験のネズミ程度しか思って…」
クラッと視界が傾き始めた、まるで綱渡りで足を踏み外したかのようにだらしなく倒れた。
「ちょっ…!クロムさん大丈夫ですか!?」
「そうだった…俺、体ボロボロで動ける体力じゃなかったの忘れてた…。」
「ごめんなさいクロムさん、この事はこっちで強く叱っておくので…。」
倒れている俺の後ろでルミールがこの件についての謝罪を述べ、レズリィとコハクは俺を起き上がらせようと必死になっている、側から見ればわがままな子供を養っているような光景だ。
そんな締まらない光景を目にしたセーレは、クロムに向けていた怒りが消え、呆れた表情で頭を抱えた。
「はぁ…おかしいと思ったわ、こんなヘタレが一人で集落を壊滅させる力を持つなんて…でも、それに助けられたのはたしかか…。」
自分を変えたのは狂気に染まったクロムであって今のクロムじゃない、だが果たして私がクロムに告げた覚悟は届いたのだろうか?その不確定さにセーレはモヤモヤし始めた。
「ああもう…調子狂うわね、あんなにコロコロと変わられると。」
愚痴を吐きながらクロムのもとに近づき、レズリィ達の代わりに彼を担いだ。
「おわっ!セーレ…」
「みっともないわよ、レズリィ様の手を煩わせる気?」
「すまない…今だけはお前の力を貸してくれ。」
「悪いけど、私だって今こうしてお前を支えてるだけで精一杯なのよ。無理矢理魔法で筋肉をいじめたせいで飛ぶこともあまり出来ないわ。」
セーレは目の前の光景を目にし顔をしかめた。建物の火は一向に収まる気配はなく、火が建物に転々と燃え移り徐々に逃げ道を塞いでいく。
「どうしましょう…レズリィさんを助けたのはいいですが、怪我人を多く抱えたままモルガンさんがいる場所まで運ぶのは…。」
「方法ならあるじゃない。クロム、せっかく手に入れた転移魔法ここで使わないでいつ使うつもり?」
「駄目だ、あれは一度行った町や村にしか効果がない。ここは一度、前の拠点のゼルビアに戻って助けを呼ぶしか。」
「馬鹿ね、転移魔法は場所を明確に想像出来ればどこでも飛べるのよ。」
「それってどういう事だ?」
「人間は一度行った町じゃないと効果は発揮しないって言うけど、それは町の印象が頭の中に残るから使えるだけなのよ。たから町以外で転移が出来ないのは、日によって風景が変わったり、逆に同じ風景続きで想像に残らないからが原因なのよ。」
記憶として想像に残らないという説明に、俺は今まで歩んで来た街や拠点を思い出した。
「たしかに…ルカラン王国には巨大な城と街が、ルーナ城には魔導兵器が備わってる城壁、ゼルビアには中の建物を守るよう壁が設置されている独特な作り、全部印象に残っている。」
「もしその仕組みで転移出来るなら、あの壊れた馬車がある所場は印象として強いはずです。」
そうコハクは言うが、セーレの言う想像だけで転移できるという不安定な仕組みを信じてもいいのだろうか?俺はそう疑いを持ち始め眉をひそめた。
だがこの状況でセーレが冗談を言うはずがない、それにここはゲームの世界ではないのなら、拠点だけに転移するということに囚われすぎているのかもしれない。
「わかったやってみる、皆俺に集まってくれ。」(たしかゲームではMPの消費量は0だったはず、今の俺の残り少ない魔力量でうまくいけるか…?)
俺は一か八かこの世界が作り出した魔法に賭けることにした。額に指を当て、モルガンがいた場所の空間を脳内に映し出した。
壊れた馬車、負傷した乗客、木が周りに並ぶ開けた空間、それぞれがパズルのピースのように組み合わさった時一枚の背景が浮かび上がる。
「っ!!きたっ!」
突然頭に電気が走ったような感覚を感じ、額に当てていた指を地面に指す。すると俺を中心に魔法陣が展開され、レズリィ達の足元を照らす。
「目標、壊れた馬車区域へ!転移《トラベル》!」
魔法陣から青白い光が放たれクロム達の体を埋め尽くし、その場から消え去った。
森の中、開けた場所に壊れて動かなくなった馬車と怪我人を横に休ませている光景が広がる場所で、空間から青白い光が放たれた。
「なんだ?新手か?」
その場で居座っていたモルガンは突如出てきた光に警戒し、手から魔法陣を展開した。
キィィィィン…
光の中から複数の人影が現れ、徐々に光が消えるのと同時に人影の姿が鮮明になった。
「驚いた…まさか転移魔法で戻ってくるとは。」
モルガンはその手に開いた魔法陣を閉じ、少し笑みを浮かべてその人影に近づいた。
「やった!成功しましたよ!」
「何とか無事に戻ってきましたね、私達。」
コハクが辺りを見渡すとそこは怪我人を治療していた木々が開けた場所だった。目的の場所に帰って来たことで転移が成功したことに喜ぶ者がいるの対し、怒りを滲ませている者がいた。
「モルガンんんん…!お前なぁぁ…!」
俺は怒りで体をふるふると小刻みに震えながらモルガンのもとへと近づくが、足に力が入らずその場に倒れてしまった。
「はぁ…さっきと同じことして恥ずかしくないわけ?」
「くっそぉ…!せめて一矢だけでも…!」
俺は這いずりながらもモルガンに近づこうとするが、彼女は俺の体の状態に興味を持ったのかそっちの方から近づいてきた。
「もしかしてあの狂化薬を飲んだのかい?なるほど…全身の筋肉が疲労で動けなくなってしまうのか。これではあまり実用性がないな。」
「やっぱりお前俺のこと実験体にしてたのかよ!お前のせいでとんでもないことになって…」
「それより話は変わるが…」
「変えんな!」
話が成立しないモルガンに俺は怒りのボルテージがぐんぐん上がっていくが、唐突に彼女の手が俺の頭を少し撫で、苦労を労うように優しく語りかけた。
「よく戻ってきた、予期せぬ戦いでも仲間を誰一人欠けることなく帰ってきたとは。どうやら君が勇者に選ばれたのは間違いじゃなかったようだな。」
「モルガン…。」
思いもよらぬ人からの称賛をもらい、自分の中で怒りから戸惑いに変化した。
「って!なにいい雰囲気で場を流そうとしてんだ!お前のせいで変な疑惑は生まれるわ体はこんなになるわで大変だったんだぞ!」
まあそんな簡単に感情が揺るがるわけがなく、俺は再びモルガンに怒りの気持ちをぶつけた。
「それよりも神官君、戻ってきてすぐで悪いが君の力を貸して欲しい。」
「聞けよ人の話!」
モルガンは話が済んだかのように視線をレズリィの方へ向けた。
「見ての通り怪我人が多すぎて、治療に使う回復が薬が間に合わなくなってしまった。君の回復魔法で助けて欲しい。」
レズリィは辺りを見渡した。怪我の影響で痛みによって悶える者や、体の止血で布が赤く染まっている者など数人程度の話ではない悲惨な光景にレズリィの顔は苦悶の色を浮かべた。
「私の一人の魔力量では全員を完治させるのは不可能です、ですが軽い応急処置程度なら全員にまんべんなく行き渡れるはずです。」
「それで構わない、あとは霊長の里で本格的な治療を受けられるようにしよう。」
早速レズリィとモルガンは負傷者の回復のために周り始めた。
先程の会話から察するにレズリィの回復量では応急程度しか出来ないと聞く、なら歩けない負傷者をどのようにしてここから運び出すか?俺はそっちの問題に着目した。
「コハク、ルミール、セーレ、今動けるのは三人だけだ。あの壊れた馬車に人が乗れるように直せないか?」
「はぁ?直せないかって、私にはそんな技術なんてないわよ。無茶言わないで!」
「セーレ、完璧に直さなくていい。あれは前を牽引する動力がないと走らないタイプだ、車軸と車本体が繋がっていればまだ走れるはずだ。」
だから何よと呟きそうに首を傾げるセーレに対し、ルミールはクロムが伝えたかった話の内容が伝わり行動に移そうとした。
「クロムさんのやりたい事がわかりました、やりましょう皆さんで。僕が馬車の点検するので、お二人は横転した馬車を戻す作業をお願いします。」
「ちょっと待ちなさいよ、私にはあの馬車を直す意味がわからないんだけど、それにいつ私が協力すると言って…」
「お願いしますセーレさん、これは負傷者をここから運び出すために必要なことなんです。」
ルミールはセーレの目をじっと見つめ、クロムが考えている内容を詳しく伝えた。
「この負傷者の数を動けている僕達で担いでいくのは不可能です、ですが負傷者を馬車に乗せてヒュドラで牽引させれば安全に運び出す事が出来ます。」
「そんなもの、あいつの転移魔法を使えば済む話じゃない。」
「ここにいるのが全員ならな、あっちの方で2台目に乗ってた乗客が待ってる。いつまでもあんな所で待たせるわけにはいかないだろ。」
俺は両手を地面につけ四つん這いな姿勢になった、体がうまく動かせない今の俺に出来る精一杯のお願いだ。
「頼むセーレ、レズリィも頑張ってるんだ。俺達もそれに応えてやらないと…。」
「はぁ…ああもう!レズリィ様の名前を出すとか卑怯よ!」
そう言うと、俺の四つん這いの姿に目もくれず振り返って壊れた馬車に向かった。
「貸しとくわよ!」
そう俺に叫んだセーレの後ろ姿は悪魔のような邪悪さはまったく感じなかった。
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我が家に子犬がやって来た!
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【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
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とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
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聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
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ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
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