推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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悪魔の絆編

第二十四話 復活の拳闘①

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 戦いは数分もかからなかった。
 まず最初に動いたのはクロムの方だ。高床の建物を崩壊させたことで逃げ道を失ったかのように見えたが、クロムは地面に氷結魔法を放ち膝上程度の高さの足場を作った。

「悪いな、お前の頭を借りるぞっと!」

氷の足場に乗ったクロムは一番背の高いホブゴブリンの頭を足蹴に飛び移り、転々とゴブリンの頭を足場にしながら今いる場所の反対側の道に着地した。

「ほらゴブリン共、捕まえてみろよ。」

 ニヤけた余裕な表情をして、左手をクイクイと招くポーズで挑発をした。それを見たゴブリン達はこれが罠だと考えず感情的な怒りを表しながら突っ込んだ。

「あーあ…これだから知恵もない馬鹿な奴等は…」

 クロムは目の前の二つの柱を斬ると、建物がゴブリン達の上から勢いよく傾れ込む。
 これによってセーレがいる場所とその反対側の建物が崩れたことにより道が塞がった。中には大勢のゴブリンが閉じ込められ、迫る炎から逃げるように苦痛な叫びをあげながら灼熱のガレキをよじ登る。ゴブリンでも火の熱さには耐えられないようだ。

「ああそうだ言い忘れてた、お前ら火をつける油とか無造作に置いておかない方がいいぞ。」

 クロムは安全な場所からゴブリン達を見下ろして助言を発した瞬間、燃えている建物がよりいっそう激しくなり、ガレキをよじ登るゴブリン達は炎に焼かれ力尽きた。
 どうやら建物の中にある引火性の油に火が移りさらに火が燃え広がったようだ。

「ほら、燃えやすくなった。それにしても可哀想だなぁ…こうやって魔物が焼かれている姿を見るのは。ああでもお前達はこういうことを平然とやってきた奴だから別にそうでもないや。アハハハ!」

 中央に集められたゴブリン達にじわじわとその炎の熱が襲いかかる光景を見て高みの見物をするように笑うクロム。
 その逆に炎の檻の外からその光景を眺めているセーレは唖然としていた。

「何よあれ…あの時のようなヘタレと違う。たった一人で戦況を一気に逆転させた…。」

 あれだけ数的有利だった大群がたった一人で、しかも無傷のまま何十体のゴブリンを余裕で屠ったその姿を見て自身の過去の姿を思い重ねた。
 仲間に頼らず自分一人で敵を蹂躙した爽快感、仲間が皆見てる中で一人魔物討伐をやり遂げてしまう快感。
 そして…勇者に私の存在意義を見せつけ、自分が雑魚だと証明させる愉悦感。それが私の思い描いた姿だった。
 だが今はどうだ?ゴブリン達に先手を打たれて死にかけた挙句、体の残っているダメージでまともに戦うことすらできない。
 無様に袋叩きにされ、死への恐怖から逃げだし、下に見ていた人物に助けを求める始末。
 私にはあいつの存在が眩しく見えた、下に見ていた人物が今は上を見上げる存在へと変わっていた。
 私の存在意義を…思い描いた姿を…クロムにすべて奪われてしまった。

「ハハっ…馬鹿みたい。弱いのは…私のほうだったのね。」

 セーレは膝を折って地面に手をつけた、その顔は壊れたように笑って涙を流していた。彼女にとって本物の敗北=死と同じくらいの絶望で、しばらくの間はまともに動くこともままならなかった。

 ゴブリン達が炎の中に囚われている光景を目にしたゴブリンロードは、それを行った一人の男に苛立ちを隠せずにいた。

「貴様ッ…!ヨクモ我々ノ仲間ヲ!呪術師ハ何ヲシテイル!?サッサトコイツを縛リアゲナイカ!!」

 崖上にいるゴブリンシャーマンに大声で合図を送るものの、一向に魔法弾や状態異常の攻撃が行われない。
 不思議に思い崖上の方へ目を凝らして見ると、シャーマン達はこちらとは違う別な方向へ魔法を放っている。
 シャーマン達も自分の命までは後回しには出来なかった、何故なら今目の前には正体不明の何者かに仲間を狩られる瞬間を見てしまったからだ。
 セーレが大勢のゴブリン達に追われる姿を見て面白かったのか、隣の仲間に共有しようと顔を横に向けたその時…。

 ギャギャ!?
 その目に仲間の首を背後から掻っ切る何者かの姿が写り、声をあげて驚いた。
 そして仲間の始末を終えたその者は後ろの木陰に素早く隠れた、それを逃さずシャーマンはその暗殺者を仕留めるよう周りのシャーマン達に注意をかけた。

 ギャァギュル!ウギャギャ!
 知らせを聞いたシャーマン達は目撃した者の指を指した方向に向けて魔法弾を放った。

 ズドドドッ!
 基本属性である火炎、氷結、雷が波状攻撃となり大きな爆発を生んだ。だが爆発した方向とは別な場所からコハクが飛び出し、魔法を放ってきたシャーマン達を得意の爪スキルで切り裂いた。

「ソニックラッシュ!」
「伏せてください!狙います!氷速弾《フリーズバレット》!」

 ルミールの手から放たれる氷の矢尻が遠方でこちらを狙うシャーマン達を狙撃した。
 近距離ではコハクの素早い攻撃をくりだし、遠距離ではルミールの魔法による正確な狙撃により次々とシャーマンの数を減らしていった。
 残っているシャーマン達も、遠くで倒れている仲間達の異常さとコハク達の戦闘に危険を察知したのか狙いをコハクに向けてきた。

 ズドドドッ!
 こちらに向かってくる魔法弾にいち早く察したコハクは、木々の向こうに隠れ魔法弾の攻撃から逃れた。

「コハクさん、もう闇討ちは難しそうです。ここは隠れながら僕の狙撃で…」
「いえ、姿を現さないと引きつけてる意味がありません。集落のあの火災がクロムさんの策ならゴブリンロードもきっと引きつけることに成功したはず。なら私達はクロムさんがシャーマン達に狙われないよう全力で引きつける…」

 コハクは少し深呼吸をした後、木陰から身を出しシャーマン達にその姿を晒した。その姿は勇ましく、目線の先はシャーマン達しか見えていなかった。

「いえ…全員倒します!」

 コハクは姿勢を落とし睨みつけながらそう言葉を放つと、瞬間的な加速力で地面ギリギリを滑空するよう突き進みシャーマンの体をそのままの勢いで突き飛ばした。
 他のシャーマンもコハクの動きを止めようと麻痺魔法や毒魔法など状態異常魔法で応戦するが、スピードを上げたコハク相手では当てるのは至難の業だった。

「うわぁうわぁうわぁぁぁ!速い速い速すぎます!」
「ルミールさん振り落とされないようにしっかり私に掴まってください!」

 崖上で行われている、獣人とシャーマンの予想外な戦いにゴブリンロードは苛立ちをふつふつと湧き立たせていた。

「チィ!他ノ仲間に気ヲ取ラレヤガッテ!」
「一人じゃ寂しいか?王様よぉ!」

 ゴブリンロードが目線を他に向けている隙に、俺は相手の間合いに入り込み素早く十時状に斬撃をいれる《ダブルスラッシュ》をくらわせた。

「人間風情ガ…我ニ傷ヲツケルトハイイ度胸ダ!」

 ゴブリンロードは左腕で俺を払うのと同時に、身の丈ほどの大きな剣を背後の赤い建物から磁石に吸い寄せられるように手に収まった。
 俺は奴が装備した武器よりも斬撃を入れた体に目を向けた。奴の間合いに入り込み確かに斬撃を入れた、奴の体にもその痕跡があった。だが…

「丈夫な肉体だな、薄皮一枚とか萎えるんだが?」
「今ノ攻撃デ確信シタ、オマエハ我ニ深傷ヲ負ワセル力ハナイ。オマエハ人間!叩ケバ壊レル脆イ存在ダ!」

 ゴブリンロードは大剣を大きく振りかぶり前に振り下ろした、俺が横に避けるとその大剣は地面に深く減り込みその破壊力が示される。

「当たれば即死、俺の攻撃はイマイチ程度、奴がどんな攻撃を使ってくるかわからない以上長期戦は厄介だな。そんな時は…」

 俺は目に魔力を流し込み相手を分析する鑑定《アナライズ》を発動させた。するとゴブリンロードの能力値が書かれた黒いパネルが浮かんできた。

 
「なるほどな、ゴブリンのくせに中々良いスキル持ってるじゃん。どおりで俺の斬撃が効かないわけだ。」

 ゴブリンロードは俺にめがけて大剣を何度も振りかざした。軽々と大剣を振り回す戦い方で俺は避けることしか出来なかった。

「長物の武器は近距離戦に弱い、セーレとニーナの戦いを見ててよかったぜ!攻略法が頭に湧いて出る!」

 ゴブリンロードが縦に大剣を振り下ろした直後、ギリギリで横に回避しながら奴に突っ込んだ。

「バーストクラッシュ!」

 対象に鋭い突きを与え、確率でクリティカルの大ダメージを狙える剣術スキルを放った。
 衝撃にゴブリンロードは4歩後退ったが、剣を突いた腹にはダメージらしき傷が少ししか入っていなかった。

「軽イナ!」

 ゴブリンロードはすかさず俺の片腕を掴み空中に放り投げた、そして片腕で大剣を持ち上げ空中にいる俺に攻撃をくりだした。

「ちぃ!」

 バキィィィン!
 体を大剣がくる方向にむけて正面から攻撃を受けた、空中にいる俺は攻撃を押し返す踏みどころが無いため激しい金属音と共に俺の体は投げ出された。

「フハハ!貴様ノ力ナド所詮コノ程度ダ、オマエヲ片付ケレバ後ニツカエテイル仲間達モ容易ク済ミソウダ。」
「ぐっ…。」

 体がビリビリと痺れている、こんな感覚はセーレとの契約決闘以来だ。
 強化薬を使っても奴のレベルには行き届かない、普通の俺なら諦めている頃だろう。

「ハハっ、何勝った気でいやがる。俺はまだまだピンピンだよ!」

 何故か俺は笑っていた、こんなイジメレベルの強さの魔物を相手にして楽しんでいた。
 この窮地を楽しめば楽しむほど頭がどんどん冴えてくる。こんな技を試してみたい、こいつを倒して強くなりたい、自分の限界を越えてみたい…
 負けという単語は俺の脳内に一文字も入っていなかった。

「それに俺はお前の攻略方法がわかった。叩いて叩いて叩きまくればいいんだ、防御体質《プロテクトボディ》は魔力を使ってダメージを抑えているスキル、だったらお前の魔力が尽きるまで何度も何度も叩きまくってやるよ!」
「馬鹿ガ考エタ作戦ダナ、ドンナ策ヲ練ロウトオマエハ我ニハ勝テナイ。何故ナラ…」

 ゴブリンロードは片手で大剣を振り回し地面に突き刺した。そして大剣を手放すと振り返り、赤い建物に向かって走っていった。
 逃亡?新しい武器の調達?いや、あの中には…レズリィがいる。

「ちっ!」

 俺は舌打ちをしながら奴が逃げていった赤い建物に入っていった。



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