推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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悪魔の絆編

第十八話 危険な取引②

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 どれほどの時間が経ったのか、俺はどうなったのか、頭にもやがかかっていてうまく考える事が出来ない。

「…ん。なんだ…ここは?」

 俺は暗闇の中で目を覚ました、辺りを見渡しても在るのはただ完全な闇が広がるだけ。
 だがそんな闇の中、妙にぼんやりとした光を発している場所があった。
 その不思議な光に吸い寄せられるように歩き出す、周りには何もない闇が広がるためかその光に近づいているのかすらわからない。
 俺は目を凝らしてその光の正体を探ろうとした瞬間、激しい頭痛が起こりその場で立ち止まった。

「いっ…!痛い!頭がかち割れそうだ…!」

 頭痛が治ることなく俺は苦痛の叫びをあげながら、不思議な闇の世界から目を閉じた。

 ビシッ…ビシッ…
「痛い…痛い…。」

 幻覚でも見ていたような感じがした、今でもその頭痛は絶え間なく続いている。
 ビシッ!ビシッ!
「痛いって…やめろ…。」

 頭に何度も打ちつけられるのが不快と感じたのか、俺の意識が一気に覚醒した。
 ビシッ!ビシッ!
「痛ってぇなこの…!やろう…。」
「あっ…起きたのね。怒らないでよ、今すぐ起こしてって言われたから仕方なく…。」

 横になって寝ている俺の目線の先にいたのは、ニーナが俺の頭を何度も叩いて起こしている姿だった。
 そして俺は、今の彼女の姿に目を丸くしてさっきまでの不快な感情が嘘のように消えていった。
 彼女はさっきまでのような怪しげな黒い装束ではなく白い半袖のインナーと黒のスパッツを身にまとっている姿であり、男に見せるその無垢な可愛さもまたギャップ萌えで良い。

「や…ちょっ!こっち見ないで!」

 自分の姿を呆然と見ていた事に気がついたのか、俺を窒息させる勢いで枕を顔に押し込んだ。

「うごご!ぐるじいぐるじいギブギブ!」

 枕を引き剥がそうともがいた時に俺の体が今どういう状況なのか理解した。手首と両足が思うように動かない、いや固まっていると言えばいいだろう、拘束魔法で縛られてベットに寝かせられていた。

「ブハッ!くそっ…!またこれかよ!」

 俺は文句を言いながらもがいていると、部屋の入り口からモルガンが入ってきた。

「静かにね、隣の部屋の客人に迷惑がかかる。」

 そう注意を受けるとニーナは枕の押し込みを止めその場に座った。モルガンも俺の隣にあるもう一つのベットに座り、悠々と暖かいコーヒーを飲んでいた。

「まず聞いていいか?なんで俺縛られてるの、まさかセーレの代わりで捕まえたって言わないよな。」
「それはこれから話すよ、まずは君の話を聞きたい。ニーナ、彼を起こしてあげて。」

 ニーナは俺の腕を掴むとすごい力で俺を起き上がらせ、ベットの上で正座のような座り方を強いられた。

「なぁ…気にはなっていたんだけど、お前ってどこからそんな力出してるんだ?」
「私じゃなくてモルガン先生の話を聞いて。」

 俺の話に気にもせず俺の右後ろに座り込んだ。まるで逃げられないように監視しているようだった。

「じゃあ早速聞かせてもらうか、さっき君が言っていた厄災魔獣が帝国によって解き放たれるというのは事実なのかい?」
「ああ…その解き放たれるっていうのは俺達が考える最悪の予想だ、実際セーレが帝国の内部情報として言ったのは、膨大な魔力を求めて帝国幹部と多数の軍勢と共にパンデルム遺跡に向かったっていうことだ。」
「あの悪魔…やはり帝国の者だったか。だったら彼女が裏切って嘘の情報を流すということも考えられるが。」
「あいつは俺のパーティーの神官に忠をつくしてる、契約決闘に勝利してあいつの全てをもらったからな。嘘偽りは話すことはできない。」
「契約決闘に勝ったとは…にわかには信じられないが、ああやってお前と関わっていたということは本当のようだな。」
「信じるのか?」
「例え証言が嘘だとしても、向かうべき場所があの遺跡なのなら十中八九厄災魔獣絡みだろう。完全復活なんてされればここら一帯は人間や魔物は住めなくなってしまうんだ、帝国として勇者やそこに群がる人間達を殺す策としては十分あり得る。」

 モルガンとの話はスイスイと進んでいく、そこには疑問や考えるような仕草もなく、まるで聞いている風に話を進めているように見えた。
 そんな違和感だらけの会話に、俺は何か詐欺にあっているかのようなモヤモヤした気持ちになっていた。

「うん、事情はわかった…。勇者君、君の言う通り厄災魔獣でも対抗出来る薬を作ってやろうとじゃないか。」
「本当か?じゃあなんで俺を拘束しなきゃならないんだよ。」
「タダで仕事を請け負うほど私は優しくないさ、もし厄災魔獣に出会わず帝国を討ち倒してしまったら私の頑張りは無駄になってしまうだろう。」

 嫌な予感がした、ただの交渉なら手足を縛る必要がない。俺は恐る恐るこの状態について冗談混じりに聞いた。

「まさか…この状態にしたのって体で払えって意味じゃないよな?」
「おお、やっぱり君は勘がきくみたいだね。」
「えっ?マジ?冗談で言ったのにマジで言ってるの!?」

 モルガンはニヤニヤしながら俺の慌てる姿を見ていた。それを見て満足したのか、「じゃあ見せてあげよう…」と小さく呟き指を鳴らした。
 パチン!

「うぉっ!なんだ急に。」

 後ろに座っていたニーナがこちらに近づき、俺の両肩に手を置いた。この事について聞こうとしたその時、モルガンは不気味な笑みを浮かべながら話を始めた。

「突然だけど忠告させてもらう、ついさっき君が気絶していた間に毒を体に入させてもらった。」
「どっ…毒!?んぐっ!」
「静かにしてって言ったよね、話を最後までちゃんと聞いて。」

 俺は驚いて高く声をあげた、それに気づいたニーナは素早く俺の口に手を当て黙らせた。

「おそらく君は、私が君の体に毒を入れたことを疑っているのだろう。残念ながら本当なんだな、ニーナ見せてあげるんだ。」
「わかった。」

 ニーナは俺の素肌をさらけ出すよう服をたくし上げた。

「おっ…おい!」
「見える?君の右脇腹にある緑の斑点、ここにモルガン先生が埋め込んだ毒があるの。」

 ニーナの言われた所には確かに気色の悪い色をした直径3センチ程度の模様が出来ていた。毒を入れられた、その現実を突きつけられ俺は青ざめた顔をした。

「嘘だろ…。」
「制限死毒《カウントダウンデス》。君の体の中には私が作り上げた毒魔法がかかっている、その毒は今は無害だが4日後の夜にそれは牙を剥く。その毒は肉に触れた瞬間に腐り落ちて骨すら残らなくなる、もちろん私特性の毒だ、私にしか治せないから一切の解毒を受け付けない。」
「くっ…治すために対価を支払えってことかよ。」
「話が早くて助かるよ、私が求めてるのは病魔パンデモニウムの一部、それさえ持ってくれれば解毒薬を渡してあげよう。」
「ちょ…ちょっと待て、最初は俺が提案した事なのに何自分が提案したみたいな事にしてるんだ!?しかも俺の命まで握ってるなんてやり方が汚いだろ!?」
「ふふ…やり方が汚いだって?君は私の正体を知っているんだからそれくらいわかってると思っていたのだけれど…。」

 モルガンは立ち上がり笑みを浮かべながら俺を下に見た。その目はいつもの細い目つきとは違い、不気味に見開いていた。
 その目をよく見ると人間とは思えない縦に伸びた瞳孔に翡翠色の目をしていた。まるで巨大な蛇に睨まれているような恐怖を感じた。

「私はね…それはそれは悪ーーい魔法使いなんだよ。私の世界に足を踏み入れた以上、私の言うことは聞いてもらうよ。可愛いネズミ君。」

 その言葉を聞いた俺は初めて選択ミスをしたと心の中で後悔した。
 こいつはやばい…もし世の中にゲームのようなセーブとロードがあったら巻き戻してやり直したい。
 そう思って目を固く閉ざし、これは夢だと言い聞かせたが、モルガンのほどけた感じの笑い声が俺の耳から離れなかった。
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