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悪魔の絆編
第十七話 研究者モルガン①
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「モルガン…モルガン・アングイス。」
これから現れるであろうボスの登場に俺は内心動揺した。ストーリーではこの町は通り過ぎるだけなので、そんな伏線を張るようなイベントは起こらなかった。
だが現状、そんな町でストーリーに関わる人物が俺に会いに来た。そんなイベントが起こってしまった理由は一つしかない。
本来倒すべきセーレを仲間にして冒険している、ストーリーの路線を少しばかり変えてしまった事が原因だろう。
「勇者…こいつだけじゃないみたいだ。」
セーレにそう言われ振り向くと、暗闇の中から誰かが歩いてきた。
無地の黒に赤い網目の模様が入った怪しげなフード付きのポンチョ風コートを羽織り、その顔はドクロのお面を被り表情が把握できない。
そしてその者は、右手を少し掲げると同じ背丈の槍を召喚し戦闘態勢をとった。
「あんたの仲間か?すごい殺気むき出しにしてるみたいだけど。」
「だってそうでもしないと逃げられちゃうじゃないか、あの悪魔族の女の子を。」
「っ…!?」
モルガンの言葉を聞いたセーレは目を見開いた表情で彼女の方を向いた。
俺もその言葉に驚きと疑問が湧いた、セーレの姿は外見からして普通の人間と何も変わらない。背中に生えた翼をローブに隠して町を歩いていた、ローブを脱がない限り見ることは決してできないはず。
「人違いだ、あいつを悪魔呼ばわりしたら拳が飛んでくるぞ。」
隠している事がバレているような挙動で少し声を高くして話してしまった。
だが彼女は俺達を詮索せず、セーレが悪魔だという証拠を答えた。
「そんなはずないだろう、あれだけ派手に闇魔法を拳で打ち込んでいる人なんていないわ。そんな事が出来るのは悪魔族くらいしかいないと思うけど。」
「見られてたってことか…。」
予感していたのが当たってしまった。人間の魔法使いでも覚えようともしない闇魔法を扱うんだ、そのせいで彼女が人間じゃないと疑われてしまうのを恐れていた。
よりにもよってモルガンに見られてしまった、彼女ならどんな手を使ってでもセーレを殺しにくる。
俺は頭の中で必死に彼女から逃れる方法を模索した、その必死さが顔に伝わったのか無意識に苦い顔をしていた。
「別に警戒しなくていい、私は勇者パーティーが悪魔と一緒に連んでるなんて他の人に言わないから。むしろ今の関係が興味深くて、誰かに言おうとするのを躊躇うわ。」
「えっ…?」
「何故悪魔がこれほどまで人間と友好的なのか気になるし、それに生きてるサンプルを捕獲出来たら私の研究に新たな一歩が…!」
モルガンは早口で自身の探究心を話した、以外な返答に俺は緊張感が解け彼女の話を耳にしたが、その内容に俺はある嫌な予感が浮かび始めた。
「ああ…つい興奮して早口になってしまった。すまないね、研究者はこういう新たな発見を見るとこらえが効かなくなってしまうんだ。」
「ちょっと待て…モルガンはまさか、セーレを殺しに来たんじゃなくて…セーレを…。」
俺が言い終わる前にモルガンは不気味に笑みを浮かべた。その表情から察するに俺の予想は当たったようだ。
「勇者、何なんだこいつらは。」
「俺の記憶が正しければ…元ルカラン王国魔法研究者生体部門モルガン、そっちのお面の人は付き添いだろう。そんなお偉いさんはどうやらお前を欲しがってるみたいらしいぞ。」
「うわっ…研究者に身を置くとか無理だわ私。」
セーレはそれを聞いて不快な表情を見せた、モルガンは俺の意外な発言に驚きながら疑いの目をかけてきた。
「驚いたね…私の前職まで知ってるなんて、もしかして初対面って嘘だったのかしら?」
「噂で耳にしただけだ、研究サンプルを盗んで王国から追放された人がいるって。その時の名前がモルガンって人だった。」
「へぇ…私も有名人になったものね。」
もちろんこの情報はゲームの中で大賢者マリアナが口にしたモルガンの素性だ、危うく具体的な内容を喋りそうになったが噂話になら怪しまれずすみそうだ。
「さっきの話に戻るけど、もしあんたがあいつを欲しいって頼みこんで来たのなら俺じゃなくてあいつの主人に言ってくれ、それでも答えはノーって言うと思うけどな。」
「そう…。」
モルガンはため息混じりに一言そう言うと右手を掲げて指を鳴らす姿勢をとった。
「だったら力づくで手に入れさせてもらう。ニーナ、死なない程度に痛めつけてあげて。」
パチンと指を鳴らすとセーレの目の前で佇んでいたニーナと呼ばれるお面の人物が動き出した。
「やるっていうの?今は私を止める人はここにはいないからね、殺していくわよ。」
セーレはニーナを脅しながらその様子を探ろうとしたが、相手の行動に目を疑った。
ニーナはセーレの目の前で背を向けて後方の道に歩いて行ったのだ。
「ちょっと、逃げるっていうの?戦いに背を向けるという事がどういう事なのか教えて…。」
セーレは後ろから不意打ちを狙おうとしたが、ある違和感が彼女の足を止めた。
(何こいつ気持ち悪いわね…あれだけ殺気を出しておいて、戦うとなった瞬間に逃げようとするかしら?もし逃げるのなら、あの研究者が話している間にも出来たはず…。)
相手とセーレの距離が10メートルほど離れた所でニーナは足を止め、セーレがいる方へ振り返った。
その手に持った槍をこちらに狙い撃ちする構えをつけて。
(まさか…!?)
気づいた瞬間、左足を力強く蹴り出して右側に避けた。その0.5秒後、さっきいた場所にニーナが槍を突き出しながら通り過ぎた。
「っ!速い…!」
ただの人間だと余裕をこいていたセーレは、この初撃で一気に体中からその感覚が消え失せた。こいつは最初から全力で戦わないと駄目だと。
「はぁ!」
セーレは一気にニーナの間合いに素早く入り攻撃を仕掛けたが、ニーナはセーレの右手から放たれる強烈な正拳突きを槍の持ち手で受け止め、その衝撃で後ろに下がって間合いを広げた。
槍は近接戦では不向きな武器であるが、中距離射程に相手がいる場合無類の強さを誇る。それを示すかのようにニーナの槍が鞭のようにセーレに襲いかかる。
「こいつ…槍の使い方が素人じゃない、私が接近されないように姿勢を崩してくる!」
上下左右から突いたり振り下ろしたりする猛攻により、セーレは徐々に後ろへと下がっていく。
そして槍の攻撃が届かない場所まで後退したその時、ニーナが低い姿勢をとり凄まじい速度でこちらに突進してきた。
「あっぶないわね!へそが二つ出来るところだったじゃない!」
セーレはギリギリのところで回避し、すかさずニーナに接近した。彼女もそれがわかっていたかのようにセーレが来た瞬間槍を横に振って攻撃したが、籠手でそれを防ぎニーナの体に一発拳を当てた。
それが効いたのか少し後ろによろめくが、すぐに何もなかったかのようにもっている槍を持ち直した。
「丈夫な体ね、防具越しでもかなりいたいと思うけど…うん?」
セーレはすぐにニーナの異変に勘づいた。そのお面からは表情が見えないが、彼女の体が先程よりも殺気が立ち込めていることに。
「ちっ… イ…タイ…。」
お面越しで聞き取りずらい言葉を発した後、彼女の体がセーレに急接近した。
「っ!?」
ズガッ!ガガガガガガッ!
突如としてニーナの猛攻がセーレに襲いかかった。今まではお遊びだと感じさせるような積極性が見られ、体全体を動かした槍の攻撃は先程よりも速く、そして鋭くなっていた。
「ちょっと何!?怒ったのかしら、それとも無血な事に誇りでも持っていたのかしら?ぐっ…!」
セーレはニーナを煽るように余裕で話をしていたが、彼女の猛攻にその余裕さなど感じ取れないほど防戦一方だった。
「セーレ!うっ…!」
俺はセーレを助太刀しようと立ちあがろうとするが、なぜかベンチから立つ事が出来なかった。
「だめよ、君はここで座って見てなさい。」
「くそっ!なんだよこれ!俺に何をしやがった!?」
「そんな危機迫った顔をしなくても大丈夫よ、ただ君の服に粘着質のスライムを張り付けただけだから。私に抱きついてきたあの時にね。」
「人の服になんてものくっつけてんだこの!」
俺はベンチに触れている部分の体に触れた、それは接着剤のように粘り気のある感触があり、本当に俺の下にはスライムがいると実感が湧いた。
(モルガンと話している時は何の違和感も無かったのに、二人が戦い始めてから固定したって事は…こいつは他者の意図を読めることが出来るっていうのか。だとしたら攻撃に転じる事だって出来てしまう、急いでこのスライムを取り除かないと!)
張り付いているスライムをどう剥がすか考えていた時、モルガンの両手が俺の顔に触れ、ぐいっと彼女の方に顔を向けさせた。
「おい!やめろ…!」
モルガンは俺の顔をまさぐるように触り、物珍しいそうな反応をしていた。
「ふーん…瞳が紅く染まってないし、そこら辺にいる冒険者と変わらない魔力。まさかこんな貧弱そうな子が勇者だなんて…。」
「やめろって言ってるだろ!一体何なんださっきから!?」
俺はモルガンの手を振りほどくと、彼女の目的を問いただした。
「知らないの?歴史の中で最も強い人間の特徴、白髪に紅い瞳、そしてなんと言っても強大な魔力量。あの先代勇者クロノスもそれに当てはまっていた。だから今代の勇者はどんな人物なのか気になっていたのだけれど…。」
「悪かったな弱くて、まだ成長期なんだよ。」
「私は弱いなんて言ってないわ、むしろ君に興味が湧いているの。」
「えっ?」
そう言うとモルガンはセーレとニーナが戦っている場所に顔を向けた。
「あの悪魔、どう見ても君より強いよね。どうやってあんな子を仲間に出来たの?なぜ悪魔を仲間になんてしたの?それが気になるんだよね。」
俺は答えにしにくい質問に口ごもって顔を下げた。何故悪魔を仲間にするのか?そんな質問はルーナ城にいた時から聞かせられた。
そしてその質問に答えた結果は決まってる、常人には理解しがたいと思われ非難される。それほどまでに異端な行為なのだろう、悪魔と人間が手を組むというのは。
「まぁ別に答えなくてもあの子から聞ければいいかな。」
俺の答えを待たずにして彼女はそう告げた、その理由がわかるよう二人が戦っている場所から苦痛の叫びが聞こえた。
これから現れるであろうボスの登場に俺は内心動揺した。ストーリーではこの町は通り過ぎるだけなので、そんな伏線を張るようなイベントは起こらなかった。
だが現状、そんな町でストーリーに関わる人物が俺に会いに来た。そんなイベントが起こってしまった理由は一つしかない。
本来倒すべきセーレを仲間にして冒険している、ストーリーの路線を少しばかり変えてしまった事が原因だろう。
「勇者…こいつだけじゃないみたいだ。」
セーレにそう言われ振り向くと、暗闇の中から誰かが歩いてきた。
無地の黒に赤い網目の模様が入った怪しげなフード付きのポンチョ風コートを羽織り、その顔はドクロのお面を被り表情が把握できない。
そしてその者は、右手を少し掲げると同じ背丈の槍を召喚し戦闘態勢をとった。
「あんたの仲間か?すごい殺気むき出しにしてるみたいだけど。」
「だってそうでもしないと逃げられちゃうじゃないか、あの悪魔族の女の子を。」
「っ…!?」
モルガンの言葉を聞いたセーレは目を見開いた表情で彼女の方を向いた。
俺もその言葉に驚きと疑問が湧いた、セーレの姿は外見からして普通の人間と何も変わらない。背中に生えた翼をローブに隠して町を歩いていた、ローブを脱がない限り見ることは決してできないはず。
「人違いだ、あいつを悪魔呼ばわりしたら拳が飛んでくるぞ。」
隠している事がバレているような挙動で少し声を高くして話してしまった。
だが彼女は俺達を詮索せず、セーレが悪魔だという証拠を答えた。
「そんなはずないだろう、あれだけ派手に闇魔法を拳で打ち込んでいる人なんていないわ。そんな事が出来るのは悪魔族くらいしかいないと思うけど。」
「見られてたってことか…。」
予感していたのが当たってしまった。人間の魔法使いでも覚えようともしない闇魔法を扱うんだ、そのせいで彼女が人間じゃないと疑われてしまうのを恐れていた。
よりにもよってモルガンに見られてしまった、彼女ならどんな手を使ってでもセーレを殺しにくる。
俺は頭の中で必死に彼女から逃れる方法を模索した、その必死さが顔に伝わったのか無意識に苦い顔をしていた。
「別に警戒しなくていい、私は勇者パーティーが悪魔と一緒に連んでるなんて他の人に言わないから。むしろ今の関係が興味深くて、誰かに言おうとするのを躊躇うわ。」
「えっ…?」
「何故悪魔がこれほどまで人間と友好的なのか気になるし、それに生きてるサンプルを捕獲出来たら私の研究に新たな一歩が…!」
モルガンは早口で自身の探究心を話した、以外な返答に俺は緊張感が解け彼女の話を耳にしたが、その内容に俺はある嫌な予感が浮かび始めた。
「ああ…つい興奮して早口になってしまった。すまないね、研究者はこういう新たな発見を見るとこらえが効かなくなってしまうんだ。」
「ちょっと待て…モルガンはまさか、セーレを殺しに来たんじゃなくて…セーレを…。」
俺が言い終わる前にモルガンは不気味に笑みを浮かべた。その表情から察するに俺の予想は当たったようだ。
「勇者、何なんだこいつらは。」
「俺の記憶が正しければ…元ルカラン王国魔法研究者生体部門モルガン、そっちのお面の人は付き添いだろう。そんなお偉いさんはどうやらお前を欲しがってるみたいらしいぞ。」
「うわっ…研究者に身を置くとか無理だわ私。」
セーレはそれを聞いて不快な表情を見せた、モルガンは俺の意外な発言に驚きながら疑いの目をかけてきた。
「驚いたね…私の前職まで知ってるなんて、もしかして初対面って嘘だったのかしら?」
「噂で耳にしただけだ、研究サンプルを盗んで王国から追放された人がいるって。その時の名前がモルガンって人だった。」
「へぇ…私も有名人になったものね。」
もちろんこの情報はゲームの中で大賢者マリアナが口にしたモルガンの素性だ、危うく具体的な内容を喋りそうになったが噂話になら怪しまれずすみそうだ。
「さっきの話に戻るけど、もしあんたがあいつを欲しいって頼みこんで来たのなら俺じゃなくてあいつの主人に言ってくれ、それでも答えはノーって言うと思うけどな。」
「そう…。」
モルガンはため息混じりに一言そう言うと右手を掲げて指を鳴らす姿勢をとった。
「だったら力づくで手に入れさせてもらう。ニーナ、死なない程度に痛めつけてあげて。」
パチンと指を鳴らすとセーレの目の前で佇んでいたニーナと呼ばれるお面の人物が動き出した。
「やるっていうの?今は私を止める人はここにはいないからね、殺していくわよ。」
セーレはニーナを脅しながらその様子を探ろうとしたが、相手の行動に目を疑った。
ニーナはセーレの目の前で背を向けて後方の道に歩いて行ったのだ。
「ちょっと、逃げるっていうの?戦いに背を向けるという事がどういう事なのか教えて…。」
セーレは後ろから不意打ちを狙おうとしたが、ある違和感が彼女の足を止めた。
(何こいつ気持ち悪いわね…あれだけ殺気を出しておいて、戦うとなった瞬間に逃げようとするかしら?もし逃げるのなら、あの研究者が話している間にも出来たはず…。)
相手とセーレの距離が10メートルほど離れた所でニーナは足を止め、セーレがいる方へ振り返った。
その手に持った槍をこちらに狙い撃ちする構えをつけて。
(まさか…!?)
気づいた瞬間、左足を力強く蹴り出して右側に避けた。その0.5秒後、さっきいた場所にニーナが槍を突き出しながら通り過ぎた。
「っ!速い…!」
ただの人間だと余裕をこいていたセーレは、この初撃で一気に体中からその感覚が消え失せた。こいつは最初から全力で戦わないと駄目だと。
「はぁ!」
セーレは一気にニーナの間合いに素早く入り攻撃を仕掛けたが、ニーナはセーレの右手から放たれる強烈な正拳突きを槍の持ち手で受け止め、その衝撃で後ろに下がって間合いを広げた。
槍は近接戦では不向きな武器であるが、中距離射程に相手がいる場合無類の強さを誇る。それを示すかのようにニーナの槍が鞭のようにセーレに襲いかかる。
「こいつ…槍の使い方が素人じゃない、私が接近されないように姿勢を崩してくる!」
上下左右から突いたり振り下ろしたりする猛攻により、セーレは徐々に後ろへと下がっていく。
そして槍の攻撃が届かない場所まで後退したその時、ニーナが低い姿勢をとり凄まじい速度でこちらに突進してきた。
「あっぶないわね!へそが二つ出来るところだったじゃない!」
セーレはギリギリのところで回避し、すかさずニーナに接近した。彼女もそれがわかっていたかのようにセーレが来た瞬間槍を横に振って攻撃したが、籠手でそれを防ぎニーナの体に一発拳を当てた。
それが効いたのか少し後ろによろめくが、すぐに何もなかったかのようにもっている槍を持ち直した。
「丈夫な体ね、防具越しでもかなりいたいと思うけど…うん?」
セーレはすぐにニーナの異変に勘づいた。そのお面からは表情が見えないが、彼女の体が先程よりも殺気が立ち込めていることに。
「ちっ… イ…タイ…。」
お面越しで聞き取りずらい言葉を発した後、彼女の体がセーレに急接近した。
「っ!?」
ズガッ!ガガガガガガッ!
突如としてニーナの猛攻がセーレに襲いかかった。今まではお遊びだと感じさせるような積極性が見られ、体全体を動かした槍の攻撃は先程よりも速く、そして鋭くなっていた。
「ちょっと何!?怒ったのかしら、それとも無血な事に誇りでも持っていたのかしら?ぐっ…!」
セーレはニーナを煽るように余裕で話をしていたが、彼女の猛攻にその余裕さなど感じ取れないほど防戦一方だった。
「セーレ!うっ…!」
俺はセーレを助太刀しようと立ちあがろうとするが、なぜかベンチから立つ事が出来なかった。
「だめよ、君はここで座って見てなさい。」
「くそっ!なんだよこれ!俺に何をしやがった!?」
「そんな危機迫った顔をしなくても大丈夫よ、ただ君の服に粘着質のスライムを張り付けただけだから。私に抱きついてきたあの時にね。」
「人の服になんてものくっつけてんだこの!」
俺はベンチに触れている部分の体に触れた、それは接着剤のように粘り気のある感触があり、本当に俺の下にはスライムがいると実感が湧いた。
(モルガンと話している時は何の違和感も無かったのに、二人が戦い始めてから固定したって事は…こいつは他者の意図を読めることが出来るっていうのか。だとしたら攻撃に転じる事だって出来てしまう、急いでこのスライムを取り除かないと!)
張り付いているスライムをどう剥がすか考えていた時、モルガンの両手が俺の顔に触れ、ぐいっと彼女の方に顔を向けさせた。
「おい!やめろ…!」
モルガンは俺の顔をまさぐるように触り、物珍しいそうな反応をしていた。
「ふーん…瞳が紅く染まってないし、そこら辺にいる冒険者と変わらない魔力。まさかこんな貧弱そうな子が勇者だなんて…。」
「やめろって言ってるだろ!一体何なんださっきから!?」
俺はモルガンの手を振りほどくと、彼女の目的を問いただした。
「知らないの?歴史の中で最も強い人間の特徴、白髪に紅い瞳、そしてなんと言っても強大な魔力量。あの先代勇者クロノスもそれに当てはまっていた。だから今代の勇者はどんな人物なのか気になっていたのだけれど…。」
「悪かったな弱くて、まだ成長期なんだよ。」
「私は弱いなんて言ってないわ、むしろ君に興味が湧いているの。」
「えっ?」
そう言うとモルガンはセーレとニーナが戦っている場所に顔を向けた。
「あの悪魔、どう見ても君より強いよね。どうやってあんな子を仲間に出来たの?なぜ悪魔を仲間になんてしたの?それが気になるんだよね。」
俺は答えにしにくい質問に口ごもって顔を下げた。何故悪魔を仲間にするのか?そんな質問はルーナ城にいた時から聞かせられた。
そしてその質問に答えた結果は決まってる、常人には理解しがたいと思われ非難される。それほどまでに異端な行為なのだろう、悪魔と人間が手を組むというのは。
「まぁ別に答えなくてもあの子から聞ければいいかな。」
俺の答えを待たずにして彼女はそう告げた、その理由がわかるよう二人が戦っている場所から苦痛の叫びが聞こえた。
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