推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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悪魔の絆編

第十六話 クロムとセーレ①

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 ルーナ城を旅立ち、次なる目的地である霊長の里へ向かう勇者パーティー。
 クロムのレベル不足により戦闘の幅が狭まる心配を危惧していたが、魔物達の前に立つとそんな恐れも無くなってしまうほど呆気なかった。

「まったく…歯ごたえのない雑魚ばかりね。」

 戦闘を終え、燃えカスのように消えていく魔物達を見ながら物足りなさそうな顔をするセーレ。
 拳から放たれる一撃と立ち回り方といい、一見すれば武道家だと思われてもおかしくない。ローブで隠している悪魔の翼が見えなければだが。

「悔しいけどやっぱり悪魔族なんだな、正直あいつの力舐めてたわ。」
「でも仲間になった事でここまで心強い人はいません、これなら次の町まで難なく進めそうです。」

 アルノアとコハクは改めて見たセーレの戦闘に目を惹かれた。
 実際彼女の力は凄まじく、物理耐性のある硬い魔物でも薄氷のように砕き、コハクのように速さを活かした攻撃手段で敵に攻撃の隙を与えず倒す。
 その力を頼りにパーティーのメンバーは、セーレを主軸とした編成を駆使し襲いかかる魔物達を討伐し続けた。
 だが…怪我もあまりなく順調に進み続ける度、クロムの頭の中である嫌な予感が芽生え始めた。

(これ…もしかして俺必要なくね?アタッカーの枠取られちゃったら俺ただの荷物運びじゃん!この流れで進んで行ったらおそらく…。)

 俺は最悪の展開を予想した、それはパーティーとして戦力にならず仲間から見捨てられる情景だった。

「悪いなクロム、これ以上危険な目に合わせるわけにはいかないからお前との冒険はここまでだ。」
「ごめんなさい、今のクロムさんを見てると助けてくれた時のような頼れる存在には感じないんです。」

 アルノアとコハクは遠回しに戦力外と俺に突きつけ、俺の前から消えていった。

「待ってくれ二人共!俺はまだ…!」

 俺は二人がいた場所に手を伸ばすが虚無の空間が広がり続け、諦めて腕を下ろした。

「レズリィ…お前は俺をずっとサポートしてくれるって言ってくれたよな…。」

 隣にはレズリィがいつものように微笑んでいた、俺はすがるような気持ちで彼女に手を伸ばしたが…。

「ごめんなさいクロムさん…。」

 レズリィはそう言うとその場から歩き出し、その先にいる人物の前で立ち止まった。
 ローブを羽織っているため人物像は読めないが、中に着ている赤いコートと脚に装備されている漆黒のグリーヴでわかった。セーレだ…。

「私…セーレさんじゃない人と旅しても楽しめない駄目な神官になってしまいました…。」
「嘘だぁぁ!そんなNTRみたいな関係今までなかっただろぉぉ!」

 俺の言葉は届かず、レズリィはセーレの腕に抱きつき消えていった。

「まっ…まっ…。」

 孤独…その損失感に耐えきれず、俺はひどいめまいを起こし倒れ込んだ。

「うぉぉぉぉぉあわあわあわあわあわ!」

 気づくと俺は地面に倒れて痙攣しながら奇声をあげていた。

「クロムさん!?どうしたんですかクロムさん!」
「どうしたレズリィ!?」

 レズリィの不安気な声が仲間達の耳に入りこちらに駆け寄ってきた。

「急に倒れてブルブルと震えているんです!まさか…毒!?」

 そう言うとレズリィは杖を握りしめて魔力を込めた、彼女の魔力と共鳴し杖から青色の光が溢れ出した。

「解毒《ピュアリー》!」

 解毒魔法《ピュアリー》、毒や麻痺などの状態異常を治す魔法だ。本当に毒で患っていたのならここで安静になるのだが、クロムの痙攣は止まらない。

「嘘っ…解毒魔法が効かない。」
「違いますレズリィ様!これは強烈な食あたりです!」

 困っているレズリィの後ろから走ってこちらに向かってくるセーレ、そしてそのままの勢いでクロムの上にまたがり、クロムの腹を何度も叩きつけた。

「この馬鹿勇者!だから拾い食いはやめろって言ったんだ!出せ!毒になるもの全部出せ!帰ってこい勇者ーー!」

 俺は腹を殴られながらセーレの言った言葉に疑問が浮かんだ。もちろん俺は拾い食いなどしない、得体の知れない物を口に運ぶ馬鹿はどこにいるのだろうか?
 そして何故こんな形でも俺を助けようとしてくれるのか?彼女なら無視して遠くから笑っていてもおかしくないはず。
 ああ…なんとなくわかった気がする。セーレはただ俺を攻撃したくて食あたりを口実に殴っていただけだ。

「殺す気かぁぁぁぁぁぁぁ!」
「おお!生き返った。」

 俺は喉元から何かが這い上がってくるモノを感じながら苦しみの叫び声をあげた。
 仲間は俺が助かった事に安堵していたが、セーレは安堵とは掛け離れているスッキリしたような顔つきで微笑んでいた。

「おまっ…ぜってぇ…許さ…な…。」

 霞む視界の中でセーレの笑顔を見て終わりたくない、俺は彼女に攻撃しようと手を伸ばすが事切れて気絶した。
 そんなやりとりをしつつ、俺達は冒険者達の拠点である町《ゼルビア》にたどり着いた。
 壁に囲まれたその町は、おもにこれから先を旅する冒険者に安らぎを与えるため、宿屋や食料品が揃う店がいくつか建っている。
 さらにお金さえ注ぎ込めば、ここから目的地に運んでくれる馬車も存在する。
 俺達はその馬車を利用して霊長の里まで送ってもらう予定だったのだが…。

「ええ…!もう馬車は出ないのか!?」
「すまないのぉ、ここから霊長の里まで拠点となる町や村がないんじゃ。乗客を送って帰ってくるだけでも時間がかかってしまうから、夕方には運行をやめざるおかなくてのう。」

 俺は予定外なことに「まじか…」と呟き頭を掻いた。
 ゲームなら歩いてレベリングという選択肢に入るが、現実はそう単純な話ではない。ゲームのように無限の体力で歩き続ける力もなければ、死んでも復活できるという安心もない。
 現実同様やるかやられるかの一発勝負、安易な選択ミスが命取りになる事をルーナ城の一件で知り、慎重に旅を進めるよう自分の教訓として受け入れていた。

「お前さんら、里に行きたいのなら明日の朝にしとくんじゃな。ここから先、歩いて行く冒険者はそうそういない、魔物も蔓延り、道も最悪じゃ。着く頃には深夜になるじゃろう。」
「わかったよ爺さん、明日の出発時刻を教えてくれ。」

 受付のお爺さんからもらった忠告を聞き入れ、素直に明日の馬車に乗る提案にのった。
 これでいい、まずは霊長の里に無事に着く事が大事、レベリングはそっちに行っても出来ることだ。
 俺はその考えを皆に共有し、ここで一晩休む事を伝えた。

「ひとまずここで一晩過ごそう、ここから先は人がいる拠点がないから無理して行く必要もない。」
「まったく…どっかの誰かが食中毒なんて起こさなかったら足止めくらわずすんだのに…」
「お前の荒治療でダウンしたことも含まれているよなそれ。」

 セーレがため息混じりに俺の愚痴をこぼし、俺はその言葉に反論するよう顔をしかめた。

「でも食当たりって、クロムさんは拾い食いはしてないって言ってますけど、一体何に当たったのでしょうか?」
「ああ…それならたぶん昼に食べたレズリィのシチューだろうな。」
「でもクロムさんだけ毒に当たったってそんなこと…全員同じ物を食べていたのなら私達にも症状が出るはずなのに。」

 俺の食中毒について仲間達は議論していた。それはセーレの嘘でただ俺を殴りたかった事だと口に出して言いたかったが、そうなれば何故俺が痙攣していたのかという話になってくる。
 そんな恥ずかしい話は避けたい、俺は食中毒の話を終わらせようと話を切り出したその時…

「理由はたぶんあれだろ、セーレが持ってきたキノコ。あれを細かく刻んでクロムの方に全部入れたんだ、生焼けだから普通変だと気づくと思うんだけどな…。」

 アルノアは普通に会話するトーンでサラッと恐ろしい事実を口にした。
 時が止まったかのように皆は一瞬固まり、セーレがいる方向にゆっくり顔を向けた。

「えっ?は?セーレ…お前…。」
「ああ思い出した。たしかあのキノコ、ゲンカクダケだったわ。強い幻覚の症状が出るっていう毒キノコ。」

 セーレはとぼけたような口調で自分が犯人だと証言する内容を話した。そして呆気にとられている俺の肩に手を乗せ満面の笑みで平謝りした。

「ごめんごめん!良かれと思ったけどまさか毒だったなんてね、まぁでも復活できて良かったじゃん。」
「良くねえよ!お前盛ってたのかよ!ていうか知ってたのなら教えろよアルノア!」
「いや私は、気づいた時のお前のリアクションを楽しみにしてただけだし。」
「死ぬぞ俺!!」
「「大丈夫だお前は死なない。」」
「なんでこういう時だけ息ぴったりなのコイツら、すげえ腹立つんだけど!」

 二人は打ち合わせしたかのように話が合い、俺の怒りの叫びを難なく回避していた。その光景はまるで人に向かって吠える動物のような存在だった。
 タンッ!!
 突然金属製の物体を強く打ちつける音が響き、俺と二人の会話を遮った。
 その音がする方向に振り向くと、レズリィが杖の持ち手の先を地面につけていた。それを見てさっきの音の正体は杖を地面に強く叩いて出た音だと理解した。

「なるほど…私の作った料理に毒を仕込んで、それを側から見て楽しんでいたわけですね。」

 レズリィが淡々と二人の供述をまとめると二人に向かって笑った表情を見せた。
 だがこの場にいた誰もが同じ気持ちを抱いた、彼女の笑みの中から隠しきれない怒りが表れていることに。

「二人共…歯食いしばってください。」

 ガン!ガン!

 自身の持っている杖で二人の頭を叩いた。音を聞いただけでもわかるくらいにその痛みは強烈だ。

「食中毒の件はこれで不問します、次やったらあなた達にご飯は作りませんよ!」
「「はい…すいません。」」
「私じゃなくてクロムさんに!」
「「はい…すいません。」」
「おっ…おう…許すよ。」

 二人は叩かれた部分を押さえ苦い表情をしており、レズリィの説教を受け深く頭を下げた。
 俺は急な対応についていけず戸惑いながら二人の謝罪を受け止めた。

(リアルに怖え…やっぱり温厚な人がキレるのって一番怖いんだな。)

 俺はゲームで見せなかったレズリィの姿に新鮮味を感じたのと同時に、自分の中で怒らせてはいけない人物リストにレズリィの名前をつけた。
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