推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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旅立ち編

第十五話 次なる道①

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 お互いの人生を賭けた契約決闘の勝利により、悪魔をこちら側に引き寄せる事に成功したクロム。
 セーレが持っている帝国の内部情報を共有するため、今日勇者パーティーのクロム、アルノア、レズリィの三人は拘束された帝国幹部セーレと共に女王がいる場所へと向かった。

 ギィィィィィ…

 衛兵が古めかしい扉を開き、女王が居座る空間に足を踏み入れる。
 最初に無礼な態度で危うく殺されかけたり、罪人として氷塊で殴られたこともあったこの空間で、俺は妙な懐かしさを感じながら女王に近づいて行った。

「来たか、勇者パーティーと帝国の幹部よ。」

 女王は少しゆとりが出来たような軽い微笑で座っており、最初に対面したような少し影のある笑みはなくなっていた。

「ちょっと女王、私だけこんな扱い酷くない?何重にも拘束具つけられて、この格好中々キツいんだけど。」

 セーレは女王に向かって不満を垂れ流しながら、ジャラジャラと体を揺らして鎖が当たる音を出している。
 彼女は手を後ろに鎖で縛られ、その上から身体と腕を巻きつけるよう何重にも鎖で縛られていた。地下の牢獄と同様、魔力を遮断させる特殊な鎖だ。

「妙な動きはするな!座ってろ!」

 セーレの動きに危機感を持った衛兵は二人がかりで彼女を取り押さえ、槍の柄で彼女が動けないように伏せた。

「痛った…何もしてないのに暴力振るうんだ、何も出来ない女の子を痛めつけて楽しいかしら?」

 セーレは痛ぶる素ぶりを見せず衛兵達を不気味に見開いた目で睨んでいた。
 その圧に衛兵達は一瞬身動ぐが、その圧を押し切るように持っている槍に力を込めた。

「ぐっ…。」
「よせ、無意味な喧嘩をするためにここに呼んだわけじゃないぞ。」

 セーレの拘束を止めるよう指示を出した女王の対応に、衛兵達は驚いた表情で顔を女王がいる方向に向けた。

「ですが…!」
「多少の軽率な態度は許してやる、じゃないと話も出来やしない。」

 女王は衛兵達に退がるよう手で指示をした。それに従うよう衛兵達は無言で悪魔を押さえていた槍を離し、数歩後ろに退がった。

「はぁ…はぁ…話が出来ないですって?対等な形で対話しようとしないその立場がいけないんじゃないの?」
「減らず口が多い悪魔だ、お前はこの国では生かす理由もない罪人なんだ、殺さずに私達と対話出来るだけでもありがたいと思え。」
「はいはいそうですか。悪魔退治しか目にない人間風情が、私達の生き方なんてわからないでしょうね。」

 一触即発の睨み合いが始まり、結局こうなるのかと俺は心で呟きながらため息をついた。

「セーレさん落ち着きましょう、事がいい方向に進めばあなたを解放出来ますし。」
「レズリィ様、やっぱり私の味方はあなただけです~。」

 なんとか穏便に対話を試みようとレズリィはセーレを落ち着かせゆっくり体を起こしてあげた。
 自分の主人に心配されてくれるのがよほど嬉しいのか、セーレは寄り添うようにレズリィに体を預けていた。

「とっ、とりあえず、セーレに情報を聞けるか話してみてくれないか?お前だけしか心を開かなそうだし。」

 悪魔と人間がイチャイチャ?している光景を見せられて誰もが渋い顔をしていた。
 話が進まない事に周りがイライラしだす前に、俺はレズリィに早く用件に入るよう耳打ちした。
 
「お願いしますセーレさん、あなた達の目的と仲間の情報を教えてくれませんか?」

 尋問には向いていない優しい質問に、普通なら受け答える奴はいないだろう。だが、セーレは「いいですよ~。」と軽い返事をして、淡々と話し始めた。

「帝国はこの世界に蔓延る多くの人間達を服従させ、悪魔族がこの世界の頂点に属するよう行動しているの。だけど私達には敵が多すぎる、だから私達は強くなるために魔力を求めて狩りをしてるのよ。」
「魔力…ですか?」
「魔物は魔力を接種すればするほど、より強力な力に進化する。帝国界隈で言えば幹部に成り上がれると言えばいいか?」
「そうよ…まぁ、ただ強いだけじゃ幹部という肩書きは貰えないけどね。」

 女王の言う通り、この世界に長く生きている魔物は全て強力だと言っていい程の力を持っている。それは長い時の中で魔力を溜め続けた努力の賜物であり、自身の証明ともなる。
 だが魔物の中では、魔力を求めて短期間で強くなる奴もいる。
 それは強い魔物に流れる魔力を喰らったりする「捕食者」の存在だ。
 ゴブリンやオークなど野蛮な者もいれば、悪魔のような知恵を持った種族などがそれに挙げられる。
 俺はゲームのストーリーで知っていながらも、そのように強くなった帝国の主戦力について聞き出した。

「じゃあ、今帝国にはその幹部は何人いるんだ?」
「今帝国にいる幹部は4人…」

 話し出した帝国の戦力を記録しようと、女王の側にいた書記官がペンを走らせた。

 ◆帝国随一多くの部隊を率いるリーダー「シトリー」
 ◆重力魔法を得意とした戦い方をする黒騎士「ザレオス」
 ◆魔石の研究と数多くの人間を魔物にしてきた狂人「ベアル」
 ◆圧倒的な火力で強者を喰らい続け最強に成り上がった「ベリス」

「特にベリスとベアルは、先代勇者クロノスがいた時代の前からその幹部の座に居座っている、ヘラのナンバー2とも言えばいいわ。」
「ちっ、あの戦争の生き残りがいたのか、クロノスも詰めが甘いことだ。」

 20年前に起こった王国と帝国との戦争、ヘラグランデの撃退と多く悪魔を討伐した事で事実上悪魔族が衰退するかと思われた。
 だが帝国はこの短期間で力をつけ、人間達が住む場所を侵略するほどの戦力を携えてきた。
 ヘラを除き、幹部の二人がそれを成し遂げる力を持っているとするならばかなりの脅威になる。
 女王はそう考え、次の質問に移ろうと話を聞き出そうとしたその時…

(あいつが…)

 女王の視界に入る者の心の声が響く。
 テレサ女王のパッシブスキルは視界に入る者の思考読み、そのスキルの段階を上げると記憶を見る事が出来る思考透視に移り変わる事が出来る。
 女王は今までの会話の中で彼らの心の声が重ねて聞こえてきたが、その中で妙な思いを抱えている人物に注目した。

(会いたかったぜベアル…お前だけは私がこの手で…!)

 恨みを込めた声で悪魔の討伐に奮起していたのはアルノアだった。
 何故彼女だけそのような気持ちを抱いているのか気になり、思考透視のスキルによる紅い目が輝くが…

「野暮だな…。」

 そう呟くと右眼に輝く紅い光が消え、元の青色の瞳に戻った。
 ふぅ…と一呼吸おいた後、女王は次の質問に切り出した。

「では…二つ目の質問だ。パンデルム遺跡が帝国の手の中にあるというのは本当か?」
「っ…!?」

 俺は女王が言った質問の内容に少し驚いた、パンデルム遺跡というのはゲームのストーリー上避ける事が出来ないメインイベントの舞台であるからだ。
 そしてその遺跡が帝国に占領されている情報も当たっている、だがそれは後の一大事件が起きてしまった時に発覚するはずだったのだが。

(そうか…あの時の思考透視で見ていたのか、これから起きる大事件の事を。だとしたらこれはまずいんじゃないのか!?)

 あの時…俺が商人から奪った鍵の件と連れてきたセーレの事について尋問された時、女王が俺の記憶を透視したあの瞬間…
 その時の女王はまだ俺の事を知らない状況だった、そんな時にあの事件の記憶を見て知ってしまったのなら考えられる行動は決まっている。
 流れた記憶が本当なのか確かめるべく、帝国の作戦を頭に入れているセーレに直接問いただす。
 俺が本当に預言者なのか、この先の未来を本当に見据えているのか確かめるために。

(盲点だった…ゲームのストーリー上起こるのは間違いないが、時期が少し後になる。もしセーレがやられた事を知ったヘラが、シトリーにその遺跡に行くよう命令されたのなら、セーレ自身わかるわけがない。そうなれば俺が嘘をついていたと思われてしまう。)

 急に心臓の音が速くなる、俺はセーレがシトリー達が行う作戦の事を知っていて欲しいと願いながら横目で彼女を伺った。

「ええ…私がここの魔導兵器の強奪を頼まれるように、そこにはシトリーがパンデモニウムの魔力を求めて向かっていたわ。」

 衛兵達はセーレの口から語られた厄災魔獣の名前にどよめいていた。
 アルノアもレズリィも衛兵達と同様驚いていたが、逆に俺は助かったような気持ちで安堵のため息をついた。

「パンデモニウムって、厄災魔獣に指定されているあの…!?」
「ひとたび現れれば、その一帯が病巣と化してしまう魔物か。そんな強い魔物の魔力を帝国が手に入れたらまた強くなっちまうな。」
「いや…そうはならない。」

 女王はレズリィとアルノアの会話に入り込み、彼女達に別な予測をたてた。

「相手は厄災魔獣だ、舐めてかかればその凶悪な力に呑まれる事になるだろう。もし万が一解き放たれてしまえば、魔物も人間も住める場所ではなくなる。」

 女王はこちらに目配りするよう、顔を少し上げる素振りを見せた。
 俺はその素振りを知っていた、「話を合わせろ」…あの牢獄で伝えてきた視覚言語だ。

「こうしちゃいられないな、これで俺達の次の目的地が決まった。パンデルム遺跡に行ってシトリー達の企みを阻止しよう。」

 俺は皆に宣言するよう次なる目的地を告げた、俺の記憶を見て理解した女王も俺と同じ考えをしていた。
 病魔パンデモニウムの復活で大勢の人間が病死する惨劇を阻止する!

「待てよ、あの悪魔の話を聞く限りじゃ、その幹部はあの襲撃以上の悪魔達を率いているんだろ?私達四人で戦うなんて無謀すぎる。」

 アルノアが俺の話に待ったをかけるよう今の現状を伝えた。
 たしかに相手は百を超える悪魔達だ、このパーティーで勝負できるほど強くなった頃にはもうパンデモニウムが復活されてる事だろう。

「それもそうだな、ルカラン王国から援軍を連れて来させないと。」
「いや、そんな事しなくてもあいつに事情を聞かせれば百人分の働きをしてくれるだろう。」
「あいつとは?」
「先代勇者と共に多くの悪魔達を屠った、神巫の巫女アマツ・サギリだ。」

 女王の口から告げられた人物はアルノアとレズリィを驚愕させた。

「アマツ・サギリって…えっ、あの人生きてたのかよ!?」
「たしかアマツさんって、あの20年前の戦争以降滅多に姿を現していないので死亡説が浮上していますが…。」
「あいつは人との交流を絶って、人が出入り出来ない場所にいる。」
「何故人との交流を拒んでいるのですか?」
「知らん、そういうのは本人に聞けばいい。」

 そう言うと、女王は手元から光の球体を作り出し、俺に向けて弧を描くように投げた。

「うおっ!」

 俺はゴルフボール程の大きさの光玉を慌ててキャッチした。

「そいつが鍵になる、場所は霊長の里の深部、そこの社に彼女はいる。」
「あっ…ありがとうございます。」

 そうして女王は念を押すように俺達のこれからの目的を告げた。

「万が一でもパンデモニウムを解放なんてさせるな、国の命運はお前達にかかっている。」

 女王の目からは最初に出会ったような見下す視線は無くなっていた。互いに信頼する者として、これからを見据える真っ直ぐな視線として俺達を見ていた。

「クロム…」
「クロムさん…」

 アルノアとレズリィが俺の判断を伺っている、もちろん答えは決まっている。

「ああ…絶対止めてやろう!」

 握った拳を前に出し、厄災を止める事を皆に宣言した。
 その覚悟を見届けた女王は、玉座から立ち上がり旅立つ俺達の成功を祈るよう女王なりの言葉で送った。

「では行くがいい、お前達の活躍に期待している。」

 俺達は女王に深く礼をし、拘束されたセーレと周りの衛兵達と共に入口の扉に向かった。

「勇者クロム!」

 背後から女王が俺の名前を呼び、その声に反応して俺は女王がいる方向に振り返った。

「ありがとう…。」

 女王は胸に手を置き、女王が発しなさそうな優しい声でお礼を言った。
 そこには今までの行いを詫びる事と一緒に国を救ってくれた感謝が含まれているのだろう、女王が発したたった一言にはそれだけの感情が感じられた。

「もったいないお言葉ありがとうございます。」

 俺は女王に敬意を払うように考えられるお返しのお礼の言葉を言ってその場を後にした。

「ふん…糞餓鬼が。」

 求めていた答えに不服なのか、女王は玉座に座りクロムを貶した。
 鼻で笑った笑みをこぼして…。

 女王との対話を終え、セーレを含めたパーティー全員は部屋に集められた。
 そして俺は、部屋に入る前に渡された拘束具の鍵を使ってセーレを解放していた。

「ちょっといつまで手こずっているのよ。」
「しょうがねぇだろ、この鎖かなりお前に巻きついてるんだから。」

 何重にも巻かれた鎖を解くと、絡まった部分が解け多重の金属音と共に床に落ちた。

「はぁ…やっと自由になれた。」

 セーレは肩を回して体をほぐしながら解放された自由を味わっていた。
 そんな敵である悪魔が目の前にいても、悠々としている今の関係にアルノアは妙な気持ちになっていた。

「なんだか実感湧かないな、帝国の奴と一緒に旅するなんて。」
「お前達の旅とか興味ないわ、私はレズリィ様を守れれば。」

 セーレは強引にレズリィを引き寄せ、腕に絡みついた。

「あうぅ…とりあえずこのローブを着てその翼を隠してください。人目についたらまずいですよ。」
「ブゥゥゥ…別に透過魔法で翼消せるし。」

 セーレは不満そうに頬を膨らませながら唇を尖らせたが、主人の厚意をありがたく思うよう渡されたローブを羽織った。

「レズリィ、お前はこいつを信じるのか?背中から刺されるかもしれないんだぞ。」
「はぁ?私がレズリィ様を裏切るって言ってんの?ふざけた事言ってんじゃないわよこのフード野郎!」
「なっ!もういっぺん言ってみろ!」

 二人は近づきお互いが手を出しそうな瞬間、俺とレズリィが二人の体を引っ張り体裁させた。

「ああもう、落ち着けってアルノア!」
「うるさい!私はこいつに言わなきゃ…ってどこ触ってんだ!」

 アルノアを抑えこんでた俺は何をどこを触れたのかも知らずに、腹にエルボーをくらった。

「おぅぇぇ…肩掴んだだけだろ、どこが悪いって言うんだ…?」
「喧嘩は駄目です!落ち着いてください!」
「ダメですレズリィ様!このフード野郎、私とレズリィ様の関係を絶とうと…」
「そんな事言ってませんから!アルノアさんだって私を心配して話してくれただけですから!」

 部屋の中では二人の子供のような言い争いが続き、それを止めようと後ろで奮闘している俺とレズリィの姿を部屋に入ってきた衛兵が呆然と見ていた。

「あの…ここでの争いはおやめください。」

 衛兵の声に気づいたのか、四人は時が止まったように静止し、俺とレズリィの謝罪の言葉がハモった。

「「すっ…すいませんでした…。」」

 なんとか二人を落ち着かせ、テーブルを挟むよう皆は互いに座った。そこに衛兵が少し大きめの箱をテーブルの中央に置き、その箱の中身を説明した。

「女王から、この国を救ってくれた者に褒美を与えたいと女王が自ら選んだ代物を持ってきました、どうぞ遠慮なさらず受け取ってください。」

 その箱の中には、杖と小手、装飾された小さな箱が入っていた。
 アルノアはすぐ箱の中にあった杖に手を伸ばし喜びをあらわにした。

「杖だ!やっぱり魔法使いにはこれがなくっちゃな。」
「これは…いいのですか?こんな高価な物を受け取って…。」

 レズリィも目の前にあった杖を手に取った、武器屋に行けば数万エルカは掛かる代物に申し訳なさを感じていた。

「もちろんです、私達の感謝のお礼なのですからお気になさらないでください。」
「わかりした、そういう事ならありがたく使わせてもらいます。」

 衛兵に頭を軽く下げ、褒美を受けた事に感謝を述べた。そして自身が持つ杖を掲げ、その代物をまじまじと見つめた。
 自身の背丈ほどの長さの銀色のロッドに先端が三日月の装飾が施されており、その空いている箇所にぴったりはまるよう青い宝石が組み込まれていた。
 アルノアの杖は木の根が巻き付くような形をしており先端の丸いくぼみには赤い宝石が組み込まれていた。
 アルノア自身新しい武器が手に入ったことが嬉しかったのか、杖を回したり、俺の顔めがけて魔法を撃とうとしていた。

「俺に向けんな危ねえだろ!」

 俺は杖が向けられた事に気づきその場から立ち上がった、それを見たセーレは残念そうな顔で呟いた。

「惜しかったわね…。」
「おい聞こえてるぞセーレ、何が惜しかっただよ!?」

 セーレは俺の質問に耳をかさず、箱の中にあった手甲を手にした。それは捕まった際に没収された装備であり、それを彼女は履き慣れている感覚で装備し自身の武器が戻ってきたことの実感を感じていた。

「話がわかる女王じゃない、武器を取り返すために人間を使役する手間が省けたわ。」
「はぁ…あまり自分勝手な行動はやめてくださいセーレさん。」

 佇む衛兵が少しだけ後退りした、セーレの口走った言葉に恐怖したのか、レズリィはダメ元な感覚でセーレの行動や言動を制限するように注意した。
 そんなセーレとレズリィの対話を見ていた俺は、特にセーレの装備した手甲を観察していた。
 周りの部分を黒一色に染めたその手甲は、二の腕の部分まで守られている構造であり、武闘家のような素手で戦う者にとって攻守に優れた武器だろう。

「あの武器で殴られたら3分ももたなかっただろうな…」

 セーレと真っ正面から戦った俺だからわかる、素手ですら人間を吹き飛ばす力もあるのに、そこに武器なんて装備されたら即死レベルだろう。
 俺はあの戦いを思い出しながら「よく生きてたなぁ」と呟き、自分が今この場で生きている事に安堵した。

「いやいや、考えるのはよそう。今は貰える報酬に喜ぶべきだ。」

 そう呟き、箱の中にある一つだけ残った箱を手に取った。

「それじゃあ…俺の報酬は…。」

 杖に小手と入っていた箱を見て俺の報酬がこれだと最初から分かっていた。問題はこの装飾が施された小箱に何が入っているのか、俺はその中身にワクワクしながら箱の蓋を開けた。

「何…これ?」

 唖然とした物言いで口に出してしまうほど中身がぱっとしないものだった。その箱には黄色と青色の手にひらにのるくらいの結晶が納められていた。

「それは魔法や技を習得する魔石です、砕く事であなたの中でそれを使う事が出来ます。」

 衛兵が丁寧にその用途を伝えるが、ゲームをやってきた俺にとってはそんな事は分かっていた。
 このゲームはポ〇モンのように外部から覚えるスキルが存在する、しかもその技の付与には許容限度がなくいくつものスキルを覚えることが出来るのだ。
 もらっておいて損はないが、報酬品として与えられた箱の中で唯一俺だけ武器じゃない事に少しハズレ感を感じていた。
 それでも使えるものにとって戦いの役に立つことに変わりはない、俺は魔石と一緒に同封されていたこの魔石の効果が書かれている紙を読んだ。

「えっと、黄色が鑑定《アナライズ》、相手の能力をみやぶる事が出来る。ただし、自身と相手との強さに差があればあるほど見えにくくなる。」

 たしかに便利なスキルだ、相手の弱点や能力値を把握することができる。でも、ゲームの設定上ボスに鑑定をしても弱点はずっと不明なままだし、雑魚敵にしても分かる前に倒してしまう。
 つまり…使いどころが限られているためあまり多様はしない。

(自分と相手との強さに差があればって…絶対ボス戦じゃ使えないやつじゃん!一番欲しい情報はそれだろ!?)

 駄目だ駄目だ、こんな調子で進んだら次の魔石も不満で溢れてしまう。
 俺は気を取り直して青色の魔石の効果を調べた。

「青は転移魔法《トラベル》、一度行った街や村に飛ぶことができる。」

 その魔石の効果に耳にしたセーレが俺にようやく口を開いた。

「へぇ、すごいじゃないひよこ勇者、転移魔法ってレアな魔法なのよ。」
「レアな魔法だと?いいよなぁ…お前にそんな魔法がもらえて、ひよこの癖に。」
「ちょっとアルノアさんそれにセーレさんも!あまりクロムさんをひよこ呼ばわりしてはいけませんよ!」
「別に私はほんとの事言ってるだけだし~。」

 セーレは口笛を吹きながらそっぽを向き、アルノアは自分の杖を眺めながらレズリィの話を話半分で聞いていた。
 するとレズリィは俺の方向に指を指し、表情の変化を伝えた。

「もう!そういう態度するからクロムさん泣いちゃったじゃないですか!」

 泣いているという言葉に反応し、皆が俺の顔を見た。そこには目元から濡れた線が顎の部分まで伸びており、無表情なまま魔石を見つめている俺の姿があった。

「うわっ!何泣いてんだよお前!?」
「わかんない。」
「えぇ…なんかごめん…。」

 アルノアは俺に申し訳なく謝っていたが、俺は別にそんな事で悲しくなったわけじゃない。ただ虚しい気持ちで無意識に涙が出てしまっただけなのだ。

(えぇ…なんで?なんでこんなショボいの?俺命懸けで頑張ったじゃん!国の不正も暴いたじゃん!なのにこれが報酬?アルノアやレズリィなんて武器貰ってるじゃん!俺の武器ボロボロだよ?こいつに殴られてボロボロだよ?俺のワクワクしていた心もボロボロだよ!)

 パキン!
 なんの感情もなく俺は両手に持った魔石を握って割った。
 喜び合い、他愛な会話をしていた部屋は静かになっており、魔石を割った音だけが虚しく響いていた。

「とりあえず…行こうか?」

 俺の呼びかけにより皆、葬式ような暗い気持ちになったまま席を立った。
 席を立った後でも俺は、魔石を割った時のポーズをしており、皆で俺の背中を優しく押しながら部屋を後にした。

「あの…ちょっと…なにこれ?」

 部屋に取り残された衛兵は、嵐のように去って行った勇者パーティーに困惑していた。
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