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旅立ち編
第九話 驚愕
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ルーナ城の地下、囚人達を収容する牢獄に鎖が触れ合う音が響き渡る。
ジャラ…ジャラ!
上半身を鎖で何重にも巻かれ足をばたつかせる事しか出来ない彼女は怒りをあらわにする。
「ぐっ…鎖で巻きすぎなのよ!跡がついたらどうするのよ!」
彼女は帝国の命よりルーナ城を襲撃に来た幹部のセーレである。周辺の土地に到着して早々妙な攻撃をくらい、それを確かめるべく城に単独侵入したが薄透明な結界に衝突し、気を失ってる隙に捕らわれた、ある意味不幸な女性悪魔である。
「ねぇ!誰かいるの!?この私をどうするつもり!変な事したらただじゃおかないんだから!」
彼女は猛々しい声をで自身を脱するよう叫ぶが、返ってくるのは無情なことに自身の声だけだった。
「ちっ…」
彼女が巻かれている鎖には魔法を遮断する能力があり、何度も魔法陣を形成するが失敗に終わってしまう。誰かが助けに来てくれるか望みを賭けたが、作戦の要となる自分がこうなっている以上部隊のほとんどはおそらく全滅だろう。
自身が着ている装備は赤いコートだけであり、攻撃に使う腕や脚の甲冑は剥がされている。側から見れば丸腰と見えるだろう。
彼女は今出来る事を全てやり終え、諦めつくような大きなため息を吐いた。何も出来ず顔を下に向けていたその時、奥のほうから誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。
彼女はすぐに顔を上げ、暗闇からこちらに歩いてくる人物を目を細めながら特定しようとした。
歩き慣れているブーツに腕と胴には最低限の鎧が施されてる装備、近づいて顔が鮮明に浮かんできた、白髪の男顔、ここらの衛兵ではなさそうだ。
「よう、帝国のお偉いさん…あんな怪我でも生きてるなんて思わなかったよ。」
「お前は…そうか勇者か。いいところに来てくれたじゃない、ここの城主に私を解放するよう説得してくれないかしら?」
「……。」
クロムは彼女の質問に答える事なく、彼女の目線と同じ高さになるよう座り込んだ。
「ちょっと、聞いてるのお前?」
「返事はしないぞ、それはお前の能力だろ?」
「なっ!?」
「スレイブボイス、お前の質問に答える奴を一時的に使役下におく事が出来る。条件は、お前より弱い奴限定だったか?」
自分の能力が見破られた事に彼女は少し驚きの表情を見せた。初見の相手にこの能力を使って力を見せつけるのが私のやり方だったが、まさかやらせてもらえないとは。
「驚いたわね、私の能力をよく知ってるなんて…どこから聞いた?」
「……。」
「もう!話にならないじゃない!」
「じゃあ能力使うのやめろよ、俺も話が出来ねえよ。」
俺は彼女が足をバタつかせながら悔しい表情をしている姿を呆れた目つきで眺めた。
そんな二人を遠目に、緊張した表情でこちらを伺う衛兵と腕を組みながら壁に背をつけて佇む女王がいた。
「ほっ、ほんとに大丈夫なのでしょうか?上位種の悪魔と対話するなんて、即刻始末してしまえば帝国の戦力を削ぐ事が出来るのに…。」
「お前が心配するか?どちらにせよあいつの不備を始末するのは私なんだ。」
女王は少し猫背な状態の衛兵に近づき、衛兵の不安を無情な目つきをしながら指摘した。
「だからそんな怯えた姿勢を見せるな、不愉快だ。」
「わっ、分かりました!すみません!」
衛兵は小さくため息を吐いて再びクロムとセーレがいる場所へ振り返った。心の内では怯える原因があなたにもある、と嫌そうな声で呟いた。
ふぅん…とため息混じりの殺意が後ろから流れ込んできて、同時に衛兵は顔に「しまった」という諦めが流れてくる。
「あっ…申し訳ありません!」
衛兵は先程よりも大きな声で謝罪をして深く礼をした。
「静かにしろ!護衛役として勝手について来て粗相を犯すな!」
挙動不審な態度と漏れた心の声に女王は口に出したくなるほど気持ちがぶれていた。
その声はクロムの耳にも届いてるみたいで、困惑と哀れみな表情が隠しきれずに微笑していた。
(何やってんだあの人達…。)
その表情を見ていたセーレは、この勇者が悪魔を尋問させるのはおそらく初めてな事だろうと悟った。普通はあり得ないはずなのだ、悪魔は出会えば殺すという人間の考えをこの男は否定して対話を望んでいる。
彼女はこの気の抜けた空間に緊張が解け、クロムとの対話を望んだ。
「はぁ…お前もこの状況に至っては初めての経験みたいね、一体どういう経緯でこうなったか説明してくれる?」
「能力を使っても無駄だぞ、俺を操ってもそれを打ち消せる人がいるんだ…」
「ハイハイ分かってるわよ、こんなんじゃ埒があかないわ。で、どうして私を捕えたわけ?言っておくけどお前達が何をしようが私は口を割らないわよ。」
うーん…と唸りながら彼は目を閉じて過去の状況を思い出していた。だが彼の脳内では彼女の衝撃の出会いが強く印象に残っているのか、彼女の真っ白なパンツしか記憶に残らなかった。
「お前と会った時は俺も驚いたよ、パンツ丸出しで木の上に吊るさられていたんだから…」
「ちょ!ちょっと待って!それ私?私の事言ってるの!?」
俺が言い終わる前にセーレは慌て驚き自身が経験した事なのか問いただした。
「大丈夫だって、俺は人のパンツ見て興奮する変態じゃない…」
「お前の心配なんてしてないわ!ていうか見るんじゃないわよ!」
「お前がこんな姿になった経緯を教えろって言ったから言ったんだぞ。」
「パンツの話しか入ってこなかったわよ…」
彼女は耳まで顔が赤くなり、彼にその顔を見せないように限界まで顔を埋めた。その影響だからなのか最後の言葉はクロムに聞こえるかわからないくらいの小声だった。
「ああもう!で、私を拘束してどうするつもりよ?まぁ、展開は読めてるけど…」
吹っ切れたかのよう顔を上げ、キッと目つきを鋭く俺を睨みつけた。俺も先程のような気の抜けた表情から真面目な表情に移り変わった。
「お前の予想通り、帝国の情報をもらいにきた。でも俺達だって馬鹿じゃない、お前は死んだってその情報を教えたりなんてしない事くらいわかってる。」
そうだと言わんばかりにセーレはそっぽを向いた、彼女の表情から見て、騙して情報を取ることも出来そうだが種族間の秘密はそう簡単に口を割らない。悪魔族なら尚更だ。
だから俺は、人間達が今までやってこなかった…いや、やろうともしなかった事をする。
「だから…セーレ、お前を俺達の仲間にする!」
「はっ…ハァァァァァ?」
さすがに彼女も同様を隠せないだろう、困惑な叫びが牢獄中に響き渡った。
彼女の表情を見ていると、パーティーも同じリアクションをとっていたなと俺は少し過去にふけた。
時は少し遡り、ルーナ城応接室。
奴隷売買の裏取引の話題が白熱する中、その証拠たる物がクロムの口から発せられた。
「奴隷売買の真相を知るにはある資料が必要だ。」
「ある資料?」
「商人達の売り上げ表、追加で売ろうとする人物の詳細表、この二つだけは処理せずにとっておかないといけない。」
「では、その商人の仕事場からそれらを取って女王に届ければ悪質な奴隷売買も終わるという事ですね。」
「だったら話は早い、早くそこに乗り込んで頂いちまおう。バックに女王が命じてるって伝えたらあいつらだって好き勝手できないさ。」
「それは無理だ。」
女王はアルノアの話に待ったをかけた。
「より数多くの国との交渉のために商人の数は十数人はいる、そして奴隷達の管理のために雇い兵も数人いる、そんな場所に乗り込めば誰かがその証拠を隠す事は十分ありえる。だからといって私が出向いたり名前を出して脅せばより逆効果だ。」
「逆効果?どうしてですか。」
「もし私が関われば問題はすぐ解決するだろう、だがそれは私がそれを知っていたから来たという事になってしまう。知っていたのに何故止めなかった?そんな批判が表れれば衛兵も住人も私との関係性は地に落ちる。」
さりげなく自身の地位を心配している事を聞いて、パーティーの全員は心配するところはそこじゃないと心の中で感じた。かくいう俺もそうだが、冷静に考えればこれは一番最悪なパターンといえる。信頼を失った国民は、例え今代の王が辞めてもその不信感は次代に継がれても消える事がない。女王は今、国の衰退という棺桶に片足が入っている。これを防ぐには、女王はこの密売事件に関与しないと言うしかないだろう。
だが今はそんな事を考えるほうがおかしい人だと思われる、ほとんどの人はやった事には責任を取れと思うのが常識なのだから。それを体現するかのようにコハクは女王に自身のやった事の重大さを述べた。
「今更自分地位を心配するんですか!?元はと言えばあなたが奴隷売買なんてしなかったら、私達のような市民が売り飛ばされる事は無かったんですよ!」
「その不備を認めようとも、この制度による稼ぎで私達は何不自由なく生きられるんだ。お前ならよく知っているだろう?この国の者でもない者達に朝食を無償で渡してくれることに。」
「うっ…」
女王は表情を変える事なくコハクの怒りの叫びを論破した。たしかにこの国の者でもない人に無償で朝食を食べさせてくれるのはここしかないだろう。この国で犯罪が起きても、誰かが飢えて死ぬという貧しさは起こっていない。
言葉では駄目だと定義しても、見えないところでそういう恩恵を受けている時点で俺達に撤廃の権利などないのだ。
「私はその稼ぎを私利私欲に使用したりしない、この国が豊かに過ごせるならこの制度を止める気はない。」
「ですが…!」
コハクと女王の間で話が平行線になってきている、これでは協力するどころか話が進まない。気持ちは痛むが俺はコハクの話を呼び止めた。
「コハク、話がズレてるぞ。」
「ズレてるって、だって私達の仲間が…」
「そう、仲間が囚われている。コハクがあの時動いたのは仲間を助け出したいって気持ちだろ?国の制度を止めることなら後ででも出来る。」
「あっ…」
「今は協力し合うのが一番、女王だって被害者の一人なんだから。」
俺はコハクの昂る感情を抑えて本来の目的を思い出すよう話した。コハクが一番悔しいのは当事者の俺だからわかる、手を伸ばせば助けられる所にいたんだ、俺でも仲間を助けたいという気持ちでいっぱいになるだろう。
俺は改めて女王に協力を申し出た、俺が予言したからじゃない、助け出したいという皆の気持ちは一緒だからというのを示したかった。
「女王、もしあなたが俺達と同じ気持ちなのなら協力してくれませんか?あなたは元の制度に正すために、俺達は囚われた人を助けるために…。」
女王は黙って俺の話を聞き、少し頷くように顔を縦に動かすと覚悟を決めたかのように口を開いた。
「分かった、お前達の話に賭けようじゃないか。」
「ありがとうございます。」
「だが、さっきも言ったがその仕事場には何人の人がいる、その中でどうやってその証拠を見つけ出すというんだ?」
ここまで来るのにかなり話が伸びてしまったが本題はここからだ、最初から俺達と商人との関係性があった以上ゲームシナリオのように仕事場に侵入して数人倒すというわけにはいかないだろう。
でも、ゲームシナリオではなかったイレギュラーを考えて対策すればそこに隙が生まれる、俺はその生まれる隙について皆に話した。
「沢山いるなら、その数を減らせばいいんです。」
「拳でわからせるのか?」
「うん、違うよ。」
拳を握った手を上げたアルノアの話を軽く流した。
「女王、ここには冒険者達の腕試しとして対人闘技場が設備されてますよね?」
「ああ、本来冒険者達の決闘大会が行われている、そこでどうする気だ?」
この国で開催される冒険者の腕試し大会に使われる闘技場、ゲームの背景では観客席に攻撃の余波が届かないように特殊な防壁が設置されていたはず。あの場所なら一般人は恐ろしい相手でも、酒を片手に悠々自適に観戦するだろう。
俺はそれを考え、人間の好奇心を逆手にとった危険な作戦を口にした。
「女王、商人や雇い兵にカマかけてくれませんか?今日、闘技場でどちらかの人生を賭けた狂気の試合があると、相手は…俺と捕まえた悪魔だ。」
彼女達は俺の話に目を大きく見開いた、最初に口火を切ったこはアルノアだった。彼女は全員の気持ちを代弁するかのよう俺に不安の心情を伝えた。
「なっ…本気かよ!」
「本気だ、例え商人がその気でなくてもそんな前代未聞な戦い見ない訳はないだろ。それに俺が悪魔と戦っている間なら仕事場にいる人は極力減ることになるし。」
「違う、私が言いたいのはどうして悪魔と戦う必要があるのかって話だ…」
アルノアは瞬間思い出した、クロムが牢獄にいた時に言っていたのは奴隷の救出でもこの国を良くしようとする事じゃない。帝国の情報を手に入れる、最初からクロムのやる事は変わらなかった。
そして人生を賭けた狂気の試合という話でようやくクロムのやりたい事がわかるようになった。
「まさか…お前あいつと契約決闘《エンゲージバトル》をやるっていうのか?奴をこっち側に引き寄せるために…」
「契約決闘?」
コハクとレズリィは、アルノアが話していた契約決闘という単語が分からず、それは何かと聞き出そうとしていた。
だがクロムとアルノアは二人の質問を耳にしておらず、二人だけの世界で会話していた。
そしてクロムの放った話が、アルノアとその会話の世界を外から見ていた二人を驚愕させる。
「察しがいいなアルノア。そうだ、俺はあいつを従順な奴隷にする。いわば、パーティー五人目の仲間はあいつだ。」
「えええっーー!?」
少し誇張させすぎたのかもしれない。そう心の中で思ったが、逆に妙な好奇心が奥底で芽を出した。
(仲間…あっ、仲間に出来るじゃん!)
敵は仲間にする事は出来ない、というゲームのシナリオの都合上出来なかった事が今出来るようになろうとしている。
こんな場面なのに、出てきてしまった興味と好奇心は抑える事は出来なかった。
ジャラ…ジャラ!
上半身を鎖で何重にも巻かれ足をばたつかせる事しか出来ない彼女は怒りをあらわにする。
「ぐっ…鎖で巻きすぎなのよ!跡がついたらどうするのよ!」
彼女は帝国の命よりルーナ城を襲撃に来た幹部のセーレである。周辺の土地に到着して早々妙な攻撃をくらい、それを確かめるべく城に単独侵入したが薄透明な結界に衝突し、気を失ってる隙に捕らわれた、ある意味不幸な女性悪魔である。
「ねぇ!誰かいるの!?この私をどうするつもり!変な事したらただじゃおかないんだから!」
彼女は猛々しい声をで自身を脱するよう叫ぶが、返ってくるのは無情なことに自身の声だけだった。
「ちっ…」
彼女が巻かれている鎖には魔法を遮断する能力があり、何度も魔法陣を形成するが失敗に終わってしまう。誰かが助けに来てくれるか望みを賭けたが、作戦の要となる自分がこうなっている以上部隊のほとんどはおそらく全滅だろう。
自身が着ている装備は赤いコートだけであり、攻撃に使う腕や脚の甲冑は剥がされている。側から見れば丸腰と見えるだろう。
彼女は今出来る事を全てやり終え、諦めつくような大きなため息を吐いた。何も出来ず顔を下に向けていたその時、奥のほうから誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。
彼女はすぐに顔を上げ、暗闇からこちらに歩いてくる人物を目を細めながら特定しようとした。
歩き慣れているブーツに腕と胴には最低限の鎧が施されてる装備、近づいて顔が鮮明に浮かんできた、白髪の男顔、ここらの衛兵ではなさそうだ。
「よう、帝国のお偉いさん…あんな怪我でも生きてるなんて思わなかったよ。」
「お前は…そうか勇者か。いいところに来てくれたじゃない、ここの城主に私を解放するよう説得してくれないかしら?」
「……。」
クロムは彼女の質問に答える事なく、彼女の目線と同じ高さになるよう座り込んだ。
「ちょっと、聞いてるのお前?」
「返事はしないぞ、それはお前の能力だろ?」
「なっ!?」
「スレイブボイス、お前の質問に答える奴を一時的に使役下におく事が出来る。条件は、お前より弱い奴限定だったか?」
自分の能力が見破られた事に彼女は少し驚きの表情を見せた。初見の相手にこの能力を使って力を見せつけるのが私のやり方だったが、まさかやらせてもらえないとは。
「驚いたわね、私の能力をよく知ってるなんて…どこから聞いた?」
「……。」
「もう!話にならないじゃない!」
「じゃあ能力使うのやめろよ、俺も話が出来ねえよ。」
俺は彼女が足をバタつかせながら悔しい表情をしている姿を呆れた目つきで眺めた。
そんな二人を遠目に、緊張した表情でこちらを伺う衛兵と腕を組みながら壁に背をつけて佇む女王がいた。
「ほっ、ほんとに大丈夫なのでしょうか?上位種の悪魔と対話するなんて、即刻始末してしまえば帝国の戦力を削ぐ事が出来るのに…。」
「お前が心配するか?どちらにせよあいつの不備を始末するのは私なんだ。」
女王は少し猫背な状態の衛兵に近づき、衛兵の不安を無情な目つきをしながら指摘した。
「だからそんな怯えた姿勢を見せるな、不愉快だ。」
「わっ、分かりました!すみません!」
衛兵は小さくため息を吐いて再びクロムとセーレがいる場所へ振り返った。心の内では怯える原因があなたにもある、と嫌そうな声で呟いた。
ふぅん…とため息混じりの殺意が後ろから流れ込んできて、同時に衛兵は顔に「しまった」という諦めが流れてくる。
「あっ…申し訳ありません!」
衛兵は先程よりも大きな声で謝罪をして深く礼をした。
「静かにしろ!護衛役として勝手について来て粗相を犯すな!」
挙動不審な態度と漏れた心の声に女王は口に出したくなるほど気持ちがぶれていた。
その声はクロムの耳にも届いてるみたいで、困惑と哀れみな表情が隠しきれずに微笑していた。
(何やってんだあの人達…。)
その表情を見ていたセーレは、この勇者が悪魔を尋問させるのはおそらく初めてな事だろうと悟った。普通はあり得ないはずなのだ、悪魔は出会えば殺すという人間の考えをこの男は否定して対話を望んでいる。
彼女はこの気の抜けた空間に緊張が解け、クロムとの対話を望んだ。
「はぁ…お前もこの状況に至っては初めての経験みたいね、一体どういう経緯でこうなったか説明してくれる?」
「能力を使っても無駄だぞ、俺を操ってもそれを打ち消せる人がいるんだ…」
「ハイハイ分かってるわよ、こんなんじゃ埒があかないわ。で、どうして私を捕えたわけ?言っておくけどお前達が何をしようが私は口を割らないわよ。」
うーん…と唸りながら彼は目を閉じて過去の状況を思い出していた。だが彼の脳内では彼女の衝撃の出会いが強く印象に残っているのか、彼女の真っ白なパンツしか記憶に残らなかった。
「お前と会った時は俺も驚いたよ、パンツ丸出しで木の上に吊るさられていたんだから…」
「ちょ!ちょっと待って!それ私?私の事言ってるの!?」
俺が言い終わる前にセーレは慌て驚き自身が経験した事なのか問いただした。
「大丈夫だって、俺は人のパンツ見て興奮する変態じゃない…」
「お前の心配なんてしてないわ!ていうか見るんじゃないわよ!」
「お前がこんな姿になった経緯を教えろって言ったから言ったんだぞ。」
「パンツの話しか入ってこなかったわよ…」
彼女は耳まで顔が赤くなり、彼にその顔を見せないように限界まで顔を埋めた。その影響だからなのか最後の言葉はクロムに聞こえるかわからないくらいの小声だった。
「ああもう!で、私を拘束してどうするつもりよ?まぁ、展開は読めてるけど…」
吹っ切れたかのよう顔を上げ、キッと目つきを鋭く俺を睨みつけた。俺も先程のような気の抜けた表情から真面目な表情に移り変わった。
「お前の予想通り、帝国の情報をもらいにきた。でも俺達だって馬鹿じゃない、お前は死んだってその情報を教えたりなんてしない事くらいわかってる。」
そうだと言わんばかりにセーレはそっぽを向いた、彼女の表情から見て、騙して情報を取ることも出来そうだが種族間の秘密はそう簡単に口を割らない。悪魔族なら尚更だ。
だから俺は、人間達が今までやってこなかった…いや、やろうともしなかった事をする。
「だから…セーレ、お前を俺達の仲間にする!」
「はっ…ハァァァァァ?」
さすがに彼女も同様を隠せないだろう、困惑な叫びが牢獄中に響き渡った。
彼女の表情を見ていると、パーティーも同じリアクションをとっていたなと俺は少し過去にふけた。
時は少し遡り、ルーナ城応接室。
奴隷売買の裏取引の話題が白熱する中、その証拠たる物がクロムの口から発せられた。
「奴隷売買の真相を知るにはある資料が必要だ。」
「ある資料?」
「商人達の売り上げ表、追加で売ろうとする人物の詳細表、この二つだけは処理せずにとっておかないといけない。」
「では、その商人の仕事場からそれらを取って女王に届ければ悪質な奴隷売買も終わるという事ですね。」
「だったら話は早い、早くそこに乗り込んで頂いちまおう。バックに女王が命じてるって伝えたらあいつらだって好き勝手できないさ。」
「それは無理だ。」
女王はアルノアの話に待ったをかけた。
「より数多くの国との交渉のために商人の数は十数人はいる、そして奴隷達の管理のために雇い兵も数人いる、そんな場所に乗り込めば誰かがその証拠を隠す事は十分ありえる。だからといって私が出向いたり名前を出して脅せばより逆効果だ。」
「逆効果?どうしてですか。」
「もし私が関われば問題はすぐ解決するだろう、だがそれは私がそれを知っていたから来たという事になってしまう。知っていたのに何故止めなかった?そんな批判が表れれば衛兵も住人も私との関係性は地に落ちる。」
さりげなく自身の地位を心配している事を聞いて、パーティーの全員は心配するところはそこじゃないと心の中で感じた。かくいう俺もそうだが、冷静に考えればこれは一番最悪なパターンといえる。信頼を失った国民は、例え今代の王が辞めてもその不信感は次代に継がれても消える事がない。女王は今、国の衰退という棺桶に片足が入っている。これを防ぐには、女王はこの密売事件に関与しないと言うしかないだろう。
だが今はそんな事を考えるほうがおかしい人だと思われる、ほとんどの人はやった事には責任を取れと思うのが常識なのだから。それを体現するかのようにコハクは女王に自身のやった事の重大さを述べた。
「今更自分地位を心配するんですか!?元はと言えばあなたが奴隷売買なんてしなかったら、私達のような市民が売り飛ばされる事は無かったんですよ!」
「その不備を認めようとも、この制度による稼ぎで私達は何不自由なく生きられるんだ。お前ならよく知っているだろう?この国の者でもない者達に朝食を無償で渡してくれることに。」
「うっ…」
女王は表情を変える事なくコハクの怒りの叫びを論破した。たしかにこの国の者でもない人に無償で朝食を食べさせてくれるのはここしかないだろう。この国で犯罪が起きても、誰かが飢えて死ぬという貧しさは起こっていない。
言葉では駄目だと定義しても、見えないところでそういう恩恵を受けている時点で俺達に撤廃の権利などないのだ。
「私はその稼ぎを私利私欲に使用したりしない、この国が豊かに過ごせるならこの制度を止める気はない。」
「ですが…!」
コハクと女王の間で話が平行線になってきている、これでは協力するどころか話が進まない。気持ちは痛むが俺はコハクの話を呼び止めた。
「コハク、話がズレてるぞ。」
「ズレてるって、だって私達の仲間が…」
「そう、仲間が囚われている。コハクがあの時動いたのは仲間を助け出したいって気持ちだろ?国の制度を止めることなら後ででも出来る。」
「あっ…」
「今は協力し合うのが一番、女王だって被害者の一人なんだから。」
俺はコハクの昂る感情を抑えて本来の目的を思い出すよう話した。コハクが一番悔しいのは当事者の俺だからわかる、手を伸ばせば助けられる所にいたんだ、俺でも仲間を助けたいという気持ちでいっぱいになるだろう。
俺は改めて女王に協力を申し出た、俺が予言したからじゃない、助け出したいという皆の気持ちは一緒だからというのを示したかった。
「女王、もしあなたが俺達と同じ気持ちなのなら協力してくれませんか?あなたは元の制度に正すために、俺達は囚われた人を助けるために…。」
女王は黙って俺の話を聞き、少し頷くように顔を縦に動かすと覚悟を決めたかのように口を開いた。
「分かった、お前達の話に賭けようじゃないか。」
「ありがとうございます。」
「だが、さっきも言ったがその仕事場には何人の人がいる、その中でどうやってその証拠を見つけ出すというんだ?」
ここまで来るのにかなり話が伸びてしまったが本題はここからだ、最初から俺達と商人との関係性があった以上ゲームシナリオのように仕事場に侵入して数人倒すというわけにはいかないだろう。
でも、ゲームシナリオではなかったイレギュラーを考えて対策すればそこに隙が生まれる、俺はその生まれる隙について皆に話した。
「沢山いるなら、その数を減らせばいいんです。」
「拳でわからせるのか?」
「うん、違うよ。」
拳を握った手を上げたアルノアの話を軽く流した。
「女王、ここには冒険者達の腕試しとして対人闘技場が設備されてますよね?」
「ああ、本来冒険者達の決闘大会が行われている、そこでどうする気だ?」
この国で開催される冒険者の腕試し大会に使われる闘技場、ゲームの背景では観客席に攻撃の余波が届かないように特殊な防壁が設置されていたはず。あの場所なら一般人は恐ろしい相手でも、酒を片手に悠々自適に観戦するだろう。
俺はそれを考え、人間の好奇心を逆手にとった危険な作戦を口にした。
「女王、商人や雇い兵にカマかけてくれませんか?今日、闘技場でどちらかの人生を賭けた狂気の試合があると、相手は…俺と捕まえた悪魔だ。」
彼女達は俺の話に目を大きく見開いた、最初に口火を切ったこはアルノアだった。彼女は全員の気持ちを代弁するかのよう俺に不安の心情を伝えた。
「なっ…本気かよ!」
「本気だ、例え商人がその気でなくてもそんな前代未聞な戦い見ない訳はないだろ。それに俺が悪魔と戦っている間なら仕事場にいる人は極力減ることになるし。」
「違う、私が言いたいのはどうして悪魔と戦う必要があるのかって話だ…」
アルノアは瞬間思い出した、クロムが牢獄にいた時に言っていたのは奴隷の救出でもこの国を良くしようとする事じゃない。帝国の情報を手に入れる、最初からクロムのやる事は変わらなかった。
そして人生を賭けた狂気の試合という話でようやくクロムのやりたい事がわかるようになった。
「まさか…お前あいつと契約決闘《エンゲージバトル》をやるっていうのか?奴をこっち側に引き寄せるために…」
「契約決闘?」
コハクとレズリィは、アルノアが話していた契約決闘という単語が分からず、それは何かと聞き出そうとしていた。
だがクロムとアルノアは二人の質問を耳にしておらず、二人だけの世界で会話していた。
そしてクロムの放った話が、アルノアとその会話の世界を外から見ていた二人を驚愕させる。
「察しがいいなアルノア。そうだ、俺はあいつを従順な奴隷にする。いわば、パーティー五人目の仲間はあいつだ。」
「えええっーー!?」
少し誇張させすぎたのかもしれない。そう心の中で思ったが、逆に妙な好奇心が奥底で芽を出した。
(仲間…あっ、仲間に出来るじゃん!)
敵は仲間にする事は出来ない、というゲームのシナリオの都合上出来なかった事が今出来るようになろうとしている。
こんな場面なのに、出てきてしまった興味と好奇心は抑える事は出来なかった。
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タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
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