推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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旅立ち編

第六話 適否

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 戦いは一時間にも及んだ。
 襲ってきた悪魔族の規模が少なかった事と、戦闘前から彼らが手負いだった事が功をなし、ルーナ城は帝国の襲撃を阻止する事に成功させた。
「うぉぉぉぉぉ!」と皆が歓喜する、戦いの勝利の雄叫び、自分が生き残った事の喜び、様々な思いがその大勢の声から伝わってくる。
 だが一人の衛兵が大声で喚起を起こし、場を静めさせた。

「喜ぶのはまだだ!ここにいたのが全てとは限らない!この国の隅まで悪魔を1匹残らず駆逐しろ!俺達の勝利は完全勝利しか認めない!」

 衛兵達の喜びあいも束の間、衛兵の指揮官の発言により街中で残党がいないか調査をするため各々散らばって行動した。

「私も行ってくる、お前も行くだろクロム。」

 腰を上げ、衛兵達と悪魔の掃討に協力的な態度を見せるアルノア、俺も賛成だがそれよりもまず片付けなきゃいけない事が残っている。

「俺はコハクと少し用事があってな、こっちで悪魔を探しながらその用事を済ましていくよ。」

 俺はアルノアが向かう反対方向に指を指す、また二手に分かれてしまうが衛兵達も近くにいる、戦力は申し分ないだろう。

「分かりました、コハクさん、クロムさんの事お願いしますね。」
「面倒事は起こすなよ、コハク、クロムが馬鹿な事しないよう見張ってやれ。」
「子供か俺は!」

 完全に揉め事を起こす人だと思われる言い方に不機嫌な笑みを浮かべてつっこんだ。
 俺の返事を聞くと、二人は笑顔を見せて衛兵達が進む方向に歩いて行った。

「ふふっ、まるで親子みたいな関係ですね。」
「はぁ…あんまりからかわないでくれ、俺達だって今から面倒事を起こしに行くんだろ?」
「そうですね…では急ぎましょう!捕えられた仲間を助けるんです!」

 コハクはそう言うと俺の手を引っ張り早足で仲間が捕らえられてる建物に向かった。

 時を同じくして、城内のある部屋ではテレサ女王と衛兵二人が城の窓から見える街並みを見ながらこの襲撃の現状を話し合っていた。

「今回の件で街の被害はどれくらいだ?」
「中心街にかなり悪魔が密集した事で、建物の半壊や倒壊は多数で…」
「建物など魔法でいくらでも直せる、お前達がそんなに暗い原因は別にあるな?」

 衛兵の報告を遮り、女王は彼らを心情を見透かすよう真意を問いただした。衛兵は少し驚き返事をした後、淡々と話だした。

「バッコス商人が見知らぬ剣士に殴られ檻の鍵を奪われたと騒いでおり、この不始末を我々が処理しろと…」
「適当にあしらっとけ。」

 衛兵はまたしても話を遮られ、否定的な態度をとった女王に「なっ…」と反論してしまった。幸い気にしていないのか女王は彼らに背を向けたまま話を続けた。

「この件はさほど重要な事じゃない。その本人をここに連れて来ればいいだけの話だからな。話は以上だ、退がれ。」
「では、そのように…。」

 衛兵達は静かにその場を去った、女王は衛兵達に顔を向けずただ悪魔達に壊された街並みを眺め続けていた。

「勇者クロム…お前の正義はここでは通用しない、私がいる限りな…。」

 その表情はどこか影があるような微笑みをしており、夕焼けに照らされた薄暗い部屋がその闇を掻き立たせた。

 中心街から大通り、裏道を進みながら俺とコハクは奴隷商人のいた建物に向かっていた。ゲームと同じマップかと思っていたが実際歩くとかなり広く迷路のような構造になってる。俺だったら一度行った場所に戻ってこいと言われても絶対に迷う自信がある。
 そんな迷路状の街を迷わず進み続けるコハクの能力はすごいと言える、改めて獣人族は探索の中で他の種族より優れているといういのが見てわかった。
 走り続けて5分くらい経っただろうか、見覚えのある道に戻って来た。この先を曲がれば奴隷商人のいた建物だ、コハクが先に先行し状況を把握しようと物陰から身を乗り出した。

「待ってください…!」

 後から走ってきたクロムを静止するよう抑えた声で手を挙げた。

「どうした?」
「様子が変です、見てください。」

 俺もその様子を伺おうと物陰からその建物を拝見する。建物の周りでは二人の衛兵が入口を背に立っている、いかにもこの先へは行かせないと守るように。

「ちっ、一足遅かったか…」
「遅かったとはどういう事ですか?」
「あいつらは俺を捕えに来たんだ、こいつを取り返すためにな。」

 懐から商人から取った鍵束をコハクに見せた、俺はこの場面をゲームで見た事がある、この鍵が無ければ地下にいる奴隷を出すことは出来ない。そしてあの衛兵達が俺達の味方になってくれない事も…

「どうしてですか?あの人達は私達の味方じゃないんですか?」
「聞いた事がある、この国の政治資金にあいつら商人の稼ぎも含まれているって。でもそういう金の流れは女王も認知されないと受け入れる事が出来ない。」
「まさか…テレサ女王率いる衛兵達全員この奴隷売買に賛同しているという事ですか!?」

 コハクは目を見開いて俺に問いただした。当然だ、国を背負ってる者達がこんな事をして許される筈かないのだから。
 でもここで真相を喋れば余計な混乱を招く、ストーリーと同じならこのまま進めば徐々に真相へと導けるはずだ。

「真意を聞いてみないとこればかりはわからないな。ただ今出ていくのは駄目だ、折角手に入れた鍵を奪われるのは避けたいし、相手が衛兵だと殴ったら俺達の立場が危うくなる。」

 とりあえずの引き際を作った台詞でこの場を去ろう。俺は「きっとまだチャンスがある今は堪えるべき」だと、小声で付け足しコハクの肩に手を置いた。俺達が狙われているということも忘れてしまうような、嫌な沈黙が少しの間流れた。

「はい…そうですね。」

 ゆっくり首を縦に振り、弱々しい笑みを浮かべた。
 俺はコハクを起き上がらせ、薄暗い小道から大通りに戻っていった。
 二人は大通りを歩きながら隠れている敵がいないか捜索していたが、二人にとってそれは建前であり頭の中では別な事で一杯だった。

「こっちの方も気がかりだが、一番の問題はこの戦いが終わっちまった事だよな。」

 俺はゲームで見たストーリーと違う結末に頭を悩ませていた。
 帝国がルーナ城の襲撃に失敗した?誰かがセーレを倒したっていうのか?いやありえない…セーレの封印魔法は城に貼っているバリアでさえ効果を発揮するはず…。
 怖くなってきた…原作通りにならない事じゃない、これから起きる事が予測不能だから迂闊に手が出し辛くなった。
 反撃のために軍を再編成しに一時撤退したのか?それともどこかに潜んで封印魔法を撃つ機会を伺っているのか?
 どちらにせよこれで解決なんて言えない、セーレの動向を見るまではここから出られなさそうだな。

「…さん…クロムさん!」
「うわっ!」

 コハクが歩いている俺を引き止めた、その衝撃で我に返ると目の前には馬車が止まっていた。

「危ねえな!気をつけろ!」

 そう運転手が罵声を上げた後、馬車は通り去って行った。どうやら俺は考えすぎて周りを見ずに歩いて轢かれそうになっていたようだ。

「クロムさん、考え事しながら歩くのは危ないですよ。」
「ちょっと戦いもあって疲れてるみたいだ…。」

 よろよろしながら近くの広場にあるベンチに傾れ込んだ。
「あぁ…これからどうしようか…」と小声で呟き、首を上げながらげんなりする。
 何も考えずに遠い目で風になびく木を下から眺めていると、枝や葉とは似つかない大きな影があった。夕日に照らされ、木々の色が影の黒で染まっていたためよく見えなかった。
 俺は不思議な光景の正体を確かめるべく目を凝らす。黒?いや、夕日のせいでそう見えてる、枝?いや大きさがおかしい、小枝が密集してる場所にあんな太い枝があるわけがない、それどころか何かこちらに向かって突き出している。
 二つの白い果実…いや…山?いや…あれは…
 突然突風が吹き出し、その影が少しだけ下に落ちてきた。夕日がそれを照らし、ようやくその謎が解けた。

「パンツだァァァァァァァ!!」

 突然大声で下着を叫んだ事で周りの人達は何事かとこちらを振り向く。コハクもそれに驚き、頬を赤らめさせながらクロムに注意した。

「えっ?ちょっ!こんなところで何言ってるんですか!」
「あれ!あれ!」

 目を見開きながら椅子に座った状態で真っ直ぐ上に指を指す、コハクが立っている場所からは何も見えない、彼女はその謎を確かめるべく木の下を覗き込んだ。

「こっ、この人って!」

 彼女は一瞬青ざめた、枝の中には人が挟まっていた、いや…人にはない翼が生えている。

「あっ…悪魔!?」
「馬鹿!声が大きい!住民の奴らがパニックになる!」

 俺は慌ててコハクの口を抑えた、どうも様子がおかしい…隠れて機をうかがうのならあんなパンツ丸出しで仰向けに隠れるか?それにあいつ…暗くて分からないが、まさか…。

「コハク…もしかしてこいつ、隠れてるんじゃなくて気を失ってないか?パンツ丸出しだぞ。」
「確かに変ですね、もし倒したのなら塵になって消えるはず。それに全然動こうとはしませんね、パンツ丸出しなのに隠そうともしないなんて。」

 二人は目を細めて木に挟まっている悪魔を眺めていた。これだけ破廉恥な言葉を言われても動じないという事は、確実に気を失っているのだろう。

「コハク、木に登ってあの悪魔を下に落としてくれないか?」
「えっ、始末しないんですか?」
「下に落とした後でも出来る、それに確かめたい事があるんだ、頼めるか?」
「分かりました、やってみます。」

 コハクは自身の脚力を活かし、椅子から隣の木に飛び移ったかと思えば一瞬で悪魔のいる木の上にまで跳躍した。上から入り、枝をかき分けながら進むと確かに「それ」はいた。
 赤いロングコートは所々すす汚れており、枝で引き裂かれたのだろうか色々な箇所が破れている。一番酷いのはスカートの部分だ、太ももから端まで真っ直ぐ破れて布が垂れているため、下から見れば下半身が丸出しになっている。とはいえ悪魔の特徴たる翼が無ければ人間にしか見えない、本来倒すべき悪魔がこのような姿なんだとコハクは彼女の状態を観察しながら呟いた。

「この人の風貌、戦ってきた悪魔達と違う…あの時みたいな野蛮さが感じない、まるで騎士のように凛としてる。」

 コハクは申し訳なさそうに彼女の腹に足を乗せて「ふん!」と力強く蹴ると、彼女の重さと比例して支えていた枝達が折れ彼女の体は落下した。

「よっと…!って重っ…!」

 俺は落下してきた彼女を腕で抱えた、持つと分かる…顔が近い!腕で女性に触れてる!いい匂い(ちょっと焦げ臭い)!生涯初めての経験で自分の情緒がおかしくなりそうだ。鏡を見なくても分かる今の俺はニヤついてる。

「クロムさん!早くトドメを刺しちゃいましょう!」

 上からコハクが降りて来て、俺は即座にいつも顔に戻った。さっきは気がおかしくなってよく観察しなかったが、きちんと見ればこの悪魔が誰であるのかすぐ分かった。

「やっぱりそうだ、この特徴的な赤いコートに可愛い顔つき…帝国幹部のセーレだ!」
「帝国幹部!?今、幹部って言ったんですか!?」

 コハクは衝撃の事実に一瞬体が後ろに下がった。俺も衝撃だった、ストーリーのボスが出会う前からこんなに負傷している事に。

「負傷して逃げる途中で力尽きたのか…でも相手は帝国幹部、一般兵士が束になっても勝てない相手だぞ…それになんで封印魔法を使用しなかった?城の真上じゃなくても発動すれば戦況はそっちに傾いていたのかもしれないのに…。」
「…さん…クロムさん!」

 あらゆる考察を考えている中、コハクの呼ぶ声で我に返った。隣でコハクは心配そうで少し怒っているような感情で俺を見ていた。仕留める事に戸惑っていると思われているのか?まぁあながち間違ってはいない。

「この悪魔…城に連れて行こう。」
「えっ!?」

 俺の一言で彼女は目を見開いた。

「何も助けようとしてるわけじゃない、帝国幹部だったら持ってるかもしれないだろ?帝国の情報をさ。」
「危険過ぎます!確実に情報が手に入る保証も無ければ、暴れ出したら太刀打ち出来ないかもしれないんですよ…!」

 コハクが俺の腕を掴み、やめてほしいと懇願するよう顔を上げ訴えた。そこに水を差すよう一つ声が背後から響いた。

「おいお前達!そこで何をしている!」

 二人が振り返るとそこには、4人の衛兵達が並んでいた。今まで協力し合っていた衛兵とは違う、その兜の中から俺達を敵視している目で見られているような気がした。

「衛兵か…タイミングが良いのか悪いのか…」
「勇者クロムか、その手に持っているのは悪魔だな。さっさとそいつを始末して我々にご同行願おうか?」

 俺は衛兵の話聞くような姿勢を見せながら隣にいるコハクに聞こえるくらいの小声で対話した。

「コハク…俺のポケットから鍵束を持って逃げろ、俺がこいつらの相手をする。」
「クロムさん!?」
「ここで二人捕まったら終わりだ、俺がなんとか視線をこっち向けさせるからその内に…」
「一体何をしている?余計な事はしないほうがいいぞ、女王からはどんな手を使ってでも連れてこいと指示されているのだ。穏便に済まされるとは思わない事だな。」

 二人の挙動が不自然に見えたのか衛兵達はこちらに歩みよりながら二人に注意勧告をうながした。
 コハクは俺の背に隠れるのと同時に服のポケットから鍵束を抜いて自分の懐にしまいこんだ。それに気づいた俺は少し余裕な表情をして歩いてくる衛兵達に近づいた。

「別に俺はお前らと対話なんてする気はない、ただ丁度女王とは直接会いたいと思っていたんだ、こいつを連れてな。」

 声を合わせたかのように衛兵達は驚きの声をあげ、悪魔を毛嫌うようにクロムに考えを否定するよう指摘した。

「ふざけてるのか?悪魔を城内に連れて行くわけにはいかない、さっさとここで始末しろ!」
「そうだ!目覚めて暴れ出す前に始末してしまえ、これ以上この街に被害は与えさせるわけにはいかないんだ!」
「始末は後だ、俺はこいつを利用する。」
「なんだと!?お前何を言ってるのかわかっているのか?」

 相手の怒号が飛び交う中でも、俺はまっすぐ衛兵達を見て自分の奇行の理由を話した。

「こいつは少なからず帝国の情報をもっている、それを聞き出せば俺達にとって有利になるだろ。何も知らずにただ消すだけじゃ何も進展はしないんだ、リスクなしで帝国に勝てると思うな!」

 衛兵達は互いに顔を見合わせて、クロムの放った言葉に困惑していた。

「情報を聞き出すってそんな事出来るのか?相手は悪魔だぞ?」
「だが…認められない!そんな前代未聞な用件をのむわけにはいかない!」 
「お前の指示なんて聞いてない、俺は女王と話がしたいんだ。」
「こいつ…本気か!?」
「減らず口が達者な奴だ…わかった、お前と悪魔を城に連れていく、お前の言うとおりテレサ女王に判断を仰いでもらおう。」
「話がわかって助かったよ。」

 話を終えた俺は悪魔を背中に背負い、女王がいる城に向かって歩き出した。そこには二人しかおらず、違和感に察した衛兵の一人が問いただした。

「おい、お前の隣にいた獣人はどこに行った?あいつも共犯なんだろう!?」
「いないのなら逃げたんじゃないのか?お前らと話していたから気づかなかった。」
「お前…どこまで私達をコケにする気だ!?」

 完全に悪役みたいな立ち位置になった、もう後には引けない。これがこの国の…俺が出来るグッドエンドになれるということを信じるしか…

「はぁ…早速問題起こしちまったな…」

 ため息混じりに呟き、衛兵、街の住人に変な目で見られながら重い足取りで城に向かった。その姿もコハクは家の屋根上から見ていた、クロムを黙って見送ると彼女は屋根から屋根へ飛び移りながら仲間のもとへ駆け出した。

「クロムさん…待っててください!」

 俺が城にたどり着くとすぐさまセーレと俺は引き離され、俺は後ろに手を縛られ女王がいる部屋に向かわせられた。セーレは担架に運ばれ俺とは別な場所に運ばれた。
 俺は女王がいる部屋につくと衛兵は俺を押し出し這いつくばるような姿でテレサ女王と再会した。

「はぁ…国を守った奴がお尋ね者扱いされるとはなぁ…ゲームみたいに上手くいかないものだ。」
「ははっ…お前は本当に私を驚かせてくれる、陰口の次はこの国の裏仕事に足を突っ込み、さらには悪魔と一緒にご同行とはな。」

 女王はそう言うがその顔は最初に会った時のような人を見下すような目つきに変わっていた。

「この手錠はどういうことですか?別にこれがなくてもあなたと話せますよ。俺はあなたより弱いですから。」
「手錠の意味は分かるだろう?お前はこの国でやり過ぎたんだ。」

 そう言うと女王は椅子から立ち上がりこちらに向かって歩きながら事の状況を説明した。

「まず一つ、お前は帝国との戦闘中に一般市民を殴り、その者の私物を奪った。これは紛れもない窃盗罪だ。」
「隠さなくてもいいですよ、奴隷商人ですよね?確かに俺はその人から鍵束を奪いました。」
「何故そんな事をした?お前は他国の勇者だ、私達の国で犯罪を犯すなどルカラン王国の恥だと思うが?」
「犯罪?奴隷を売り飛ばすことが犯罪じゃないってことですか?俺じゃなくても他の奴がそれを聞けば同じ事を言いますよ。」

 俺が話終えるのと同時に横から氷塊が飛んできた、俺が気づく時にはもうその衝撃で横に吹き飛ばされた時だった。

「ぐはっ!」
「いいか勇者これはビジネスだ、この国で存在意義を無くした者、犯した罪で人生を虚無に過ごす者に救済を与えているんだ。それを奴隷として使って何が悪い?他国で働ける人材を増やしている事のどこが間違いだと言うんだ?」

 手を後ろに固定されているため上手く立ち上がる事が出来なかった。俺は横に倒れた状態で顔を女王に向け、哀れむような表情で言い返した。

「あなたはそう思っているのでしょうけど、現実っていうのはもっと歪な形をしているようなものですよ。」
「なんだと?」
「テレサ女王、無礼な事を聞きますが…あなたとその下で働いている商人、ほんとうに同じものを見ているんですか?」

 ビュン!
「うがっ…」

 女王の魔法により再び氷塊が俺に向かって叩きつけられた、女王は無表情で影があるような声色でクロムを問いた。

「お前は何を知っている?この国の者ではないお前がどうして私達の裏稼業に足をつっ込める。」

 キィィィィィン!
 女王の右目が紅くそまり思考透視の能力が発動した。

「お前の魂胆はわかっている…私のやり方に不満を持って自分の考えを主張しているだけ、そのために多少の嘘でその話に合わせているただの妄言。私の目からは逃れられないぞ!正直に吐け!」

 能力により女王の目の前にはクロムの脳内が映し出される、本来なら相手の本心を読み取りその主導権を奪うはずなのだが…

「うっ…なんだこの記憶は…。」

 テレサ女王の脳内に流れるクロムの記憶、それは今回の事件ではなく、この世界で起こる数々の出来事が表れていた。その情報量の多さに女王は咄嗟に顔を背けた。
 俺は痛みを我慢し踏ん張りながら体を起こした、そして立ち上がりよろめきながら女王のもとへ歩み寄る。

「この人の前で隠し事なんて無理だ、セーレの事、今の帝国の情報、奴隷達の解放、一気に解決できる方法はこの人を味方につけるしかない。そのためにはこの人の中に、俺の必要性を刻み込む!」

 俺に足りないのは信頼だ、この人を納得させるためには自分が持てるこの世界(ゲーム)の事を言うしかない。ただそれは、俺がこの世界の住人ではなく別な世界から来た人間だと言う事になる。
 これは賭けだ…信じても信じさせられなくても俺の旅はここで終わる確率はかなり高い。
 だが…俺の行動でこのルーナ城が変わるなら、コハクの思いが成就するなら、たった1%の成功に希望を願う!

「テレサ女王…俺と賭けをしませんか?俺の全てと女王の権力、この国を良い方向に変えるチャンスがあります。」

 女王は俺を睨みつけながらドレスの袖で口元を隠した、一番見られたくない奴に自分の驚く顔はさらけ出したくないようだ。
 数秒の間、俺と女王の間で沈黙が流れ緊張感が高まる。窓の外は暗く夜の帳が下りる、まるで俺の行く先を暗示しているかのように何も見えなかった。
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