推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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旅立ち編

第三話 ボス戦

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 スライム達の強襲を抜け、ニブル平原を抜けた森で休息をとっていたクロム達。
 そこに森の背景とは異質な二人組がクロム達の目に入る。
 全身に鎧を纏い、おとぎ話に出てきそうな騎士のような風格があった。

「あそこいるのは…ルーナ城の衛兵でしょか?」

 レズリィは見た事あるのだろうか、そして何故その衛兵がこんな森にいるのか。二人組の謎を知るため俺達は二人に近づく。

「すいません、何かあったんですか?」
「君達は旅の者か?」
「はい、私達はルカラン王国からやって参りました、勇者パーティーです。」

 レズリィがルカラン王国の勇者パーティーだと説明すると、二人組は姿勢を正しく、言葉使いも敬語に変わって接してきた。

「なんと!あなた達が報告にあった勇者様御一行でしたか。先ほどの無礼な問答をお許しください!」
「いえ!別に気にしてません。私達はただ興味本位であなた方に近づいただけですので。」

 彼らが言った報告にあった勇者という事は、やはりルーナ城の衛兵で間違いなかった。衛兵達は軽い紹介を済ませると、ここに来た目的を俺達に伝えた。

「この先のメブキの遺跡で、冒険者の行方が分かっていないと情報が入り我々が調査に出向いたのです。」

 そう話すともう一人の衛兵が口を開き俺達に呼びかけた。

「もしよろしければ、救助のご支援を頂けないでしょうか?我々二人とあなた達がいれば救助者も助けやすくなります。」

 頭を下げ事情を説明した衛兵、確かにたった二人で遺跡の調査と救助者の捜索は大変な仕事となるだろう。となれば、俺達も断る理由なんてない。

「それは大変です。私達も協力しましょう!」
「賛成だな、冒険者が行方不明だなんて見過ごす訳にはいかないからな。」

 二人は救助者を助けに行くと張り切っているが、俺はそれよりも別な心配に着目していた。

「メブキの遺跡か…初めてのボス戦だな。パーティーメンバーが3人なうえ、俺も未熟、はたしてクリア出来るか…」

 原作をやっている俺だから分かる、メブキの遺跡はストーリー上、避ける事は出来ないボスイベント。ゲームじゃなく生身の人間で太刀打ち出来るかと不安感が込み上げてくる。

「急ぎましょうクロムさん!」

 レズリィの言葉にはっとした、今ここで不安に押しつぶされている暇はない。スゥーと深呼吸し覚悟を決めて皆に宣言した。

「行こう!救助者を探しにダンジョンへ!」

 衛兵二人を連れて俺達は森の奥深くにあるメブキの遺跡へ向かった。

 道中の道は険しくなく魔物もあまり寄ってこなかったため、途中で衛兵達は救助者の情報とパーティーから聞いた遺跡内部の構造について俺達に共有した。
 捜索者はコハクという獣人族の少女であり、紺色の服の上に白いワンピース、翡翠色の髪に頭には狼のような耳が生えているのが特徴のようだ。
 彼女は冒険者と遺跡を探索していたところ、落石にあいメンバーと離れ離れになってしまったそうだ。おまけに探そうにも、何か巨大な魔物の気配がして離脱してしまったというのがこの一連の流れのようだ。
 もちろん俺は原作でここを通った為、話の内容も巨大な魔物の気配の正体も分かっていた。

「獣人族コハク…原作ではパーティーのために錬金素材や食材など集めてくれる奴だった。共闘するのはイベント上で二回ほどしかない、だが一緒に戦えるとなれば…欠損した俺達のパーティーに大きなアドバンテージになるはずだ。」

 この世界はゲームのように必ず4人で冒険しろとは言っていない、複数の仲間を連れて行けばこの先の戦闘も幾分楽になる。
 なんならこの先に現れる敵も仲間に…と頭の中で思ったが流石にそれはこの二人が許してはくれないだろう。
 俺はこの先の展開を思い出しながら最適解なルートを考えていた。

 けもの道を通りながらまっすぐ進むと、巨大な大木と石造りの建物が混ざった遺跡が見えてきた。辺り一面大木の根で覆われた遺跡は、まるで食らいつくされたような風貌をしており、いかにも自然の力が強大なのか思い知らせる。

「ここがメブキの遺跡か…」
「とにかく中に入りましょう、先導をお願いします。」

 俺と衛兵一人が先頭に立ち、後方はアルノアとレズリィ、一番後ろを衛兵が守るという陣形を作り遺跡内部へと潜入した。
 歩いてすぐ衛兵は疑問に思っていたのか、クロムの防具が薄い事に着目した。

「あの…勇者様、防具はどうしたんですか?まさかそのままで行くと?」

 クロムの胴の防具は焼かれて使い物にならなくなり、今は黒いインナーだけがクロムを守る防具となっていた。

「前の戦いで仲間を守るために防具を犠牲になるしかなかった…。危険なのは分かっているが俺には仲間がいるんだ、全然怖いと感じた事はないな。」
「なんと…。仲間を守る為にそのような事が、私達のためとはいえそのような状態で向かわせてしまった事をお許しください。」

 衛兵は申し訳なく俺に謝罪の念を示したが、気を遣わないよう軽いノリで返事を返した。

「そんな大層な事じゃないだろ、何自分は大変だったみたいな面してるんだ。」
「大変だったじゃないですか、クロムさんだって私を守るために酷い火傷を負ってまで庇い続けたんですよ。」

 後ろでそれを見ていたアルノアは呆れた物言いでクロムを責めたが、レズリィの言葉で諦めつき改めてクロムを賞賛した。

「にしてもあいつ行動力はすごいが、相当頭吹っ飛んでるぞ。普通考えるか?仲間を庇いながら敵と一緒に焼かれるなんて。」
「……。」

 レズリィも内心不安を感じていた、彼のような感情と根性で動くような人は、きっと自分を犠牲にしてまでもやり遂げる覚悟がある、そんな事を常に思っているといつか壊れてしまう。
 せめて私が支えないと全力でサポートをすると決めたじゃないか!と、そう心の中で決意し前を向こうと歩き出した時…

「前方から二体!プラントベビーだ!」

 クロムの注意の指示が飛び、一気に緊張感が体を巡った。
 目の前にはプラントベビーという木の形をした魔物が道を阻んでいた。

「アルノア、火炎魔法を頼む!」
「私達も手伝います!」

 衛兵達も前に出てアルノアと共に火炎魔法を魔物に向けて放った。

「「火球《ファイア》!」」
 ゴォォォォ!
 ギィギャャャャ!

 けたましい奇声と共にプラントベビーは燃え尽き炭となって消えていった。

「やっぱり木には炎だよな、斬撃で近づく事なくてホッとした。」

 自分の防具からみて安易に近づけば大ダメージは避けられないだろう。ここは魔法攻撃で退治するのが得策と考えていると、アルノアは何かに気がついたのか、すぐさま衛兵に前パーティーの情報を聞き出した。

「衛兵、ここの遺跡ってもしかして木の魔物が多かったりするのか?」
「コハクさんがいたパーティーでは、先程の魔物以外に存在を語っていないのでおそらくは。」

 アルノアのフードの中からニイッと笑い出し、クロムに提案を持ちかけた。

「クロム、私いい事思いついたぞ。」

 遺跡の中腹辺りだろうか、入り口と比べて木の根が蔓延らない石造りな壁が広がる。
 その先の広間には先程のプラントベビーが大量に湧いていた。

「火球《ファイア》!」

 先手を切り出したのはクロムの火炎魔法だ、一体の魔物が燃えて苦しんでいる事に気づいたのか魔物達は仕返しと言わんばかりにクロムのもとへと駆け寄ってきた。

「よっしゃ来たー!まとめて殲滅してやるぜ!」

 クロムは先程までいた通路に戻り、魔物達を誘導させた。そして再びクロムは、魔物に向けて火炎魔法を放った。

「火球《ファイア》!」
 ゴォォォォ!
 ギィギャャャャ!

 まとまって通路に押し寄せた為、魔物についた炎がみるみるうちに他の魔物に広がっていく。だが、ただ燃えただけでは止まらない、一歩づつ確実にクロムに近づいていた。
 それでもクロムの余裕の表情は消えない。また火炎魔法を撃ち込み、魔物達を退かせた。
 クロムは分かっていた、ゲームではこの魔物の攻撃手段が長い枝で攻撃する事を。一定の距離さえとっていれば枝がここまで伸びてくる間に火炎魔法で仕留められる。

 ゴォォォォ!
 ギィギャャャャ!

 3回の火炎魔法で広間にいた魔物の半分は消えただろう、だが奥からまた次と魔物が押し寄せる。どうやら他のエリアからここに集まってきているようだ。

「どんどん来いよ!俺特製の炭にしてやる!」

 クロムの破壊的衝動にその後ろで見ていた衛兵達は唖然としていた。

「あの、敵を殲滅してくれるのはありがたいんですが…はたからみれば森を焼き尽くす悪役にしか見えないのですが…」
「これでいいのさ、お前達からの情報だとこの遺跡にはプラントベビーしか湧かない。そして前のパーティーが言っていた、巨大な魔物の気配となるとここのボスにあたる。きっとここのボスはこいつらと同じ木で出来た魔物。なら魔力の高い私達はボス戦まで温存しておくって作戦、名付けるなら【勇者だけガンガンいこうぜ】だ!」

 アルノアのイカれた作戦に衛兵はつっこんだ。

「それもうただのパシリですよね?勇者様をそんな粗末に使っていいんですか!?」
「あっ…よく見たらあの勇者笑ってる!?なんか遠く見つめて敵を殲滅してる、すごい怖いですあれ!」

 指を指した方向には狂人みたいに笑い、ただ目の前の魔物を焼き払う勇者がいた。傍から見ればただの放火魔だろう。

「おそらくクロムさんは、アルノアさんに焼かれ続けた鬱憤を晴らしているのかと…焼かれたダメージが癒えても、心のダメージは癒すことは出来ないということですね…」

 目にウルっと涙を浮かべて哀傷を味わうレズリィに衛兵達はつっこんだ。

「だったらフォローしてあげましょうよ!なんだか可哀想に見えてきたんですけど!」
「ていうか仲間に焼かれたってどういう事ですか!?あの人の防具がないのってそういう理由?一体旅の途中で何があったの!」

 しばらくして炎が治まるのと同時に魔物も姿を消した。そして役目を終えたクロムが戻ってきた。

「仲間に怪我は出させない…俺が全部守ってやる。」

 格好よく決めた彼に浴びせられたのは歓迎や称賛の声でなく心配の声だった。

 魔物を殲滅した事により、これ以降魔物が出てくる事はなくスムーズに遺跡の最深部に到着した。

「この遺跡は広いが一本道だった、探すとしたらもうここくらいだな。」
「にしてもここら一帯は酷く荒れてるな、まるで巨大な何かが通ったような…」

 最深部は岩がごろごろと広がり荒れていた、先程までいたフロアとは違い、敵一人もいない空間は不気味さを増していた。
 そんな無音の中、突如少女の声が小さく聞こえた

「誰か…誰かそこにいるんですかーー」

 声がした方向に駆け寄るとガレキの下に埋もれていた少女がいた。汚れた白いワンピース、土埃で輝きを失った緑髪に頭には狼のような耳、彼女が救助者のコハクで間違いないだろう。

「ここです!助けてください!」
「コハクさんですか?今助けますのでもう少し頑張ってください!」

 ガレキには人一人分の空間が出来ており奇跡的に押し潰されていなかったが、体力的に危ない状況だろう。

「よし、このガレキを引き上げるぞ!」

 クロムの号令と共に皆でガレキを持ち上げようとしたその時…

 ドスン…ドスン…ドスン…

 周期的に発生する揺れに皆の手が止まる。

「なっ…地震?」
「いや…これは地震じゃねえ!」

 俺が武器を手に取った瞬間、それは奥の通路から現れた。巨大な大木を思わせるような巨体、歩くたびにフロアが少し揺れる振動…
 皆が確信した、この魔物こそメブキの遺跡のボスなんだと。

「でっ、でか!なんだこの魔物!」

 プラントゴーレム、メブキの遺跡のボス。ゲームでもデカいとか言っていたが、実際に見てみるとかなりの迫力を感じる。普通の人がこいつの動くところを見れば恐怖で足が動かなくなるだろう。
 実際俺もそうだ、中身が現実世界のニートな時点で敵わないと心の中で感じてしまった。

「衛兵!こいつは私達に任せてコハクの救助を!」
「わかった!こっちに目をつけられないよう誘導してくれ!」

 アルノアが衛兵達にコハクの救助をお願いしているところを見て、クロムは自分の役目を今一度思い出していた。

「馬鹿!こんなところで怖がってどうすんだ、それは皆同じ気持ちだろ!デカい図体だからどうした?こっちは魔物と戦える勇者だぞ!」

 改めて気を引き締め、プラントゴーレムの攻略情報を思いだした。
 こいつはたしか、ガレキ落としというスタン攻撃を持っている。レズリィにばかり頼らないで回復をこまめにやらないと詰みになる。でも所詮こいつは…

「やっぱりこいつも雑魚同様木のタイプだな、行くぞクロム!レズリィは後方でサポートを頼む!」

 アルノアが最初に切り出し、巨体に向けて火炎魔法を放った。

「火球《ファイア》!」

 ゴォォォォ!
 火炎魔法が効いたのか、体の一部が焼け焦げ一瞬怯んだ。

「足を斬ってバランスを崩す!スラッシュ!」

 一瞬の隙を狙い、クロムはプラントゴーレムの足元に近づき剣術を振るわせた。
 だがその程度では動じず、木々を集めたような巨大な塊状の拳をクロムに叩きつけた。

「やべっ!」
 ドガッ!バキバキ!

 事前に気づいた事で回避はしたが、叩きつけた床はその衝撃で凹んでいた。

「危ねえ…やっぱり近づくのは危険か…」
「何やってんだよクロム、火炎魔法を撃てば危険な戦闘は避けられるだろ!?」
「アルノア…」

 俺はアルノアの方を振り向き、青ざめた表情で理由を切り出した。

「魔力切れて魔法撃てない…」
「何やってんだ馬鹿野郎!ボス戦前にアタッカー潰してどうすんだよ!」
「ボス戦のために温存させたんだから文句言うんじゃねぇよ!っていうかお前が考えた作戦だろ!」
「ちょっとニ人共、こんな時に喧嘩はやめてください!」

 口喧嘩を始めた二人を止めようとレズリィが駆け寄ったその時、プラントゴーレムが唸り声を上げ高く飛び上がった。

 ドカァァァァン!
 ガラガラドゴォォン!

 着地した衝撃でフロアが大きく揺れ、天井からガレキが降り注いできた。

「危ねえ!」

 一瞬の出来事で口では分かっていても体が動けずガレキに被弾してしまった。

「いっ、痛え…落ちるガレキに当たるとか現実世界なら死んでるぞ…」

 体全体に衝撃が走った感覚、鈍器で殴られるとはまた違う痛み、勇者の体だから怪我で済んだという事に安堵したが…

「クロムさん!アルノアさんがっ!」

 レズリィの声で一気に血の気が引いた感じがした。アルノアが動かない…

「レズリィ回復を急げ!おいアルノア!しっかりしろ!」

 レズリィは回復と同時にアルノアの脈を測った。

「脈はある、気絶してます!」

 無事な事に一時の絶望は免れたが、クロムの緊迫感は止まる事はなかった。

「まずい…一番のアタッカーがここで潰れたらダメージを稼げない!攻撃してヘイトをかけないとコハク達に…」

 一方、コハクを救助するために奮闘していた衛兵は先のガレキ落としにより救助活動が困難に見舞われた。

「くっ…さっきの攻撃でガレキが!」
「まだ大丈夫だ、防壁《リフレクター》でなんとかガレキのショックを防いだ。それでも危険な事に変わりはない、上から慎重にもう一度掘り起こすぞ!」

 もう一度ガレキの撤去に取り掛かる衛兵達の前で、アルノアを必死に起こすレズリィの姿があった。

「アルノアさん!アルノアさん!」

 ピクリとも動かないアルノア、衛兵達もコハクの救助に苦戦してる…戦えるのは俺だけ…
 怖気付くな…一度勝った相手だろ?ゲームの最初のボスだろ?楽勝だろこんなの!
 クロムは自身を奮い立たせ、プラントゴーレムの前に立ちはばかった。

「レズリィ、アルノアを何とか起こしてくれ、俺が時間を稼ぐ。」
「無茶ですよ、一人で戦える相手じゃないです!」
「だからだよ、パーティーにはアルノアの火力が必要なんだ。出来るだけ早く頼む、全力でサポートしてくれるんだろ!?」

 そう言い、クロムは剣を持ち替え走り出した。レズリィはそれを見守る事しか出来ず、労いの意を込めてクロムを鼓舞した。

「クロムさん!負けないでください!」

 巨体から放たれれる拳にも死角がある、クロムは魔物から見えない足元を重点的に狙った。

「スラッシュ!」

 鋭い横振りを喰らわせたが、まるで木こりが木を切るように木の硬さに阻まれ切れ込みが入っただけだった。
 足の違和感に気づいたのか、魔物は足を動かしてクロムを払いのけようとした。

 ドスン!ドスン!ドスン!

 巨大な足を避けるクロムだったが、突然自分の足元から生え出た根に足をとられ空中に投げ飛ばされた。

 ビュン!
「うわっ!」

 やられた…足に生えている根を地面にのばして見えない所から捕まえに来るなんて…
 相手の行動を分析している場合じゃなかった、空中では身動き取れず巨大な拳が俺の体に直撃してしまった。

 ドガァァ!
「ぐぁぁぁ!」
「クロムさぁぁん!」

 レズリィの悲痛な叫びと同時に、俺は投げ出された。

「いっ…痛ぇぇ…。」

 痛々しく体を起こし、自身が持っていた薬草で回復をとった。殴られる前に受け身の姿勢をとっていた為、ダメージは半減させたが全身に痺れるような痛みがまだ続いていた。

「くそっ!薬草だけじゃ傷は癒えない…」

 クロムを倒したと確信したのか、魔物はレズリィ達の方向に顔を向いた。
 レズリィは魔物から少しでも遠ざかるよう衛兵達の方向にアルノアを引きずって運んでいた。
 追撃をしようと魔物が歩き出そうとしたその時…

「待てよ…!」

 背後で殺気を感じたのか再びクロムの方へ振り返る。

「何勝った気でいやがるんだ?俺はまだ立ってるぞ!」

 俺は体を剣で支え、不屈の闘志を立ちながら魔物に向けて叫んだ。それに感化されたのか魔物は再び地面に根を生やし、俺にめがけて攻撃してきた。

 ダッ!

 俺は魔物に向けて駆け出した。地面からの根に足を取られないようガレキの上を飛び移りながら近づく。

「こいつのバランスさえ崩せれば、攻撃の隙とガレキ落としを封じる事が出来る!」

 先程スラッシュで切り裂いた傷跡に気づき、その上からまた攻撃をくらわした。

 ズバッ!ビシャ!

 大きな切り口から少量の体液が飛び出てきた、それは緑色をしておりクロムは直感的に人間で言うところの血液ではないかと確信した。

「ビンゴ!こいつはただ表面が硬いだけ、中身が露出すれば斬撃でもダメージが入る!」

 ズバッ!ズバッ!
 グォォォォォ!

 攻撃が効いているのか痛々しい声を叫ぶ魔物、手で捕まえようとするが、ガレキの上を飛び移りながら回避するクロムを捕まえる事が出来ず、今度は反対側の足にも同じ傷を作らされてしまった。

「スラッシュ!」

 捕まえられず、ただ足の肉を斬り続けられる事に憤怒したのか、魔物は突然飛び上がった。俺は瞬間察した、ガレキ落としを仕掛けてくることに。

「まずい!またガレキが降ってくるぞ!」

 ドカァァァァン!

 着地した瞬間強烈な地響きと共に大量のガレキがフロア全体を埋めつくした。
 俺は魔物の下敷きにならないよう回避したが、仲間の安否を目視出来ていなかった。声はかけた…でも一瞬だ…ガレキの量がさっきの比じゃない…
 俺は恐る恐る仲間がいる場所を振り向いた。
 そこには、ガレキの山と白い模様が隙間から浮き出ていた。

「あれは…氷?」

 ガレキが支えを失い崩れると、中から仲間が現れた。そしてその中にはアルノアが魔法を展開させていた。

「はぁ…間に合ったみたいだな…」
「アルノアさんの氷結魔法で助かりました、あのガレキの量は私達のリフレクターでは防ぎ切れませんでした。」

 皆は命が無事だった事に安堵していた。それもそのはず、アルノアの氷結魔法で作ったドーム状の氷の壁がガレキを流し、大きなガレキは衛兵達の防御魔法で守ったのだ。あの一瞬でここまでの対応、何かが欠けていたら全員下敷きだっただろう。
 フードで顔が少ししか見えないがアルノアの顔色は少し悪い、それでもレズリィに抱えられながら気力を振り絞って魔法陣をもう一度展開し始める。

「まだちょっと頭がクラクラするが、あのデカブツに魔法を当てられるくらいなら出来る。おいクロム!早いところ決着つけよう、まだ戦えるんだろ?」

 アルノアの復活により、俺は再び闘志を燃やした。

「ははっ!絶好調だね!お前こそ遅れるんじゃねえぞ!」
「治癒《ヒール》!」

 レズリィの回復魔法がクロムの傷だらけになった体が少しづつ治っていく。彼女も再起し、二人を鼓舞した。

「仕切り直しましょう!あともう少しです!」
「もうガレキ落としはさせない!アルノア、あいつの足に火炎魔法を!」
「オーケー!火球《ファイア》!」

 アルノアの火炎魔法が魔物の足に直撃し、硬い木の根に阻まれていた足は黒焦げになり柔らかい部分が剥き出しになっていた。

「焦げて脆くなったな、これなら通るだろ!ダブルスラッシュ!」

 俺はスラッシュと同じ威力の斬撃を瞬時に二回打ち込んだ。その斬撃で魔物の足の肉を大幅に削り落とし、魔物はバランスを崩し膝を抱えた。
 その隙を見逃さず、俺は魔物の胴体に剣を突き刺し仰向けに倒した。
 すると突き刺していた部分が赤く光始めた。中は十中八九魔物の心臓、魔石だろう。

「そこ…弱いんだろ!」

 俺は飛び上がり、勢いよく剣を振り下ろす。その後ろでアルノアの火炎魔法であろう火球が迫っていた。おそらくアルノアも考えるのは同じ、胸部で光っている部位の攻撃だ。

「畳み掛ける!火球《ファイア》!」
「終わりだ!スラッシュ!」

 ドゴォォォォ!

 同時に繰り出した二つの技は魔物の胸部を貫き、魔石諸共破壊した。
 プラントゴーレムは魔石を失い、早送りしたかのように体に生えた木の根が枯れていき、最後には何も残らなくなった。

「倒した…これが勇者パーティーか。」
「すごい…」

 二人の衛兵は口をポカーンと開けながら勇者パーティーを称賛した。

「アルノア…」

 俺はアルノアに真面目な眼差しで見つめ、叫ぶような怒りで自分の状況を言い放った。

「お前俺に当てようとしてただろ!今日一日何回お前に燃やされなきゃならないんだよ!」

 反対にアルノアもクロムに自慢気な態度で言い返した。

「うるさいな!活躍したのは私なんだから負け惜しみ言ってんじゃねえよ!」
「何を!魔石を破壊したのは俺だぞ!」
「お前燃えカスしか斬れないもんな。」

 ブチッ!
 俺の頭の中で何かが切れたような音がした瞬間、二人は子供らしく揉み合いになった。

「ちょっと!二人共重傷なんだから喧嘩しないで!」

 レズリィが仲裁に入ろうと二人の中に入るが、二人が重傷なことにより彼女が二人の腕を抑えると簡単にバランスを崩し、一緒に倒れてしまった。

「なんか…報告されていたのと違うな…」
「本当にあの人達が、帝国の手先をうち破れるのか不安になってきた…」

 強大な敵を倒した実力とは反面、子供のような喧嘩をし始める勇者パーティーに困惑する衛兵達。だが一人だけそのパーティーを見つめて認めていた。

「うち破れるよ、あの人達なら…」
「コハクさん?」
「だって…あんなに面白そうじゃん。」

 彼女の言葉の心意はわからなかったが、どこかで安心感が芽生えたのか、衛兵達の中にあった不安は無意識のうちに消えていた。
 喧嘩が収まり、無事コハクを遺跡から出した頃には夜になっていた。彼らは衛兵達が乗ってきた馬車に乗り込み、ルーナ城に到着するまで束の間の休息をした。

 一方その頃…クロム達が休息をとっていたキャンプ跡地に、一人の影が現れた。月明かりが暗闇を裂き、その人物の顔が浮かびあがる。
 それは、出発式で捕まるはずだったアズマだった。

「ほら、約束の物だ。」

 アズマが木の切り株の上に置いたのは、煌びやかな青い剣、ルカラン王国が宝として保管されていた聖剣ドレイクだ。

「確認する。」

 ここに待っていたかのよう人影が奥から現れる、そして切り株の上に置かれている聖剣を掴み、本物かどうか鑑定している。そして見え終えたのか、聖剣を地面に刺し持ってきた人物に向けて口を開いた。

「間違いなく聖剣ドレイクだ、よく盗めたものだな。約束の報酬だ、受け取れ。」

 月が雲に隠れ、お互いの顔が見えない暗闇の中、アズマの足元に大量のお金が詰まった袋が投げられる。アズマはそれを拾い上げ中身を確認する。

「2000エルカ?報酬では1000エルカのはずだが…」

 この世界では金額単位を《エルカ》と言い表される、1000エルカがあれば三日は飯が食えるだろう。
 依頼者なのだろうか、契約された料金の上乗せが説明された。

「お前はこの剣がどんな代物か知っているのか?それを盗み、私達に渡すという事がどういう事なのか。その追加の金は雇用契約の分だ。」
「雇用契約?」

 怪しげな取引にアズマは警戒心を見せる。

「聖剣ドレイクが盗まれたとなれば、お前もお前の家族も危機が訪れる。私達の仲間になるなら、お前の家族の安否をこの私、ベリスが保証しよう。」

 しばらくの沈黙が続いた後、アズマが口を開いた。

「安否を保証というが、どうやって私の家族を守るつもりだ?」
「王国内部に私の仲間が大勢いる、この一件の犯人ももみ消せるだろう。」
「本当なんだろうな…?」

 雲が流れ、月の光がキャンプ跡地を照らし出す。依頼者であるだろう人影が徐々にその輪郭が見えてきた。
 赤色の長いストレートヘアを両側に垂らした女性で、表情は乏しく見るだけで恐ろしい紅い目でこちらを見ている。全身を黒を基調とした騎士風の戦闘服に包み、背中には黒い翼が生えていた。
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「本当も何も、もうお前に拒否権はない。この剣を私達に渡した時点で共犯だ。」
「お前は…悪魔!」
「逃げてもいいんだぞ、その時には王国内部の仲間がお前の家族を血に染める。」

 ベリスは地面に刺さった聖剣をアズマに向け脅迫する。

「お前は…こっち側の人間だ。」






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とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

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