年増令嬢と記憶喪失

くきの助

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まだ走馬灯の途中

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「ローズ!」

また低い声が響く。
誰……?


視界がぼやけてる。
体が重い。
見慣れない天井が見える。

私寝てたの?
ここは?
軽くパニックになりそうになる。
起きあがろうと思うも、体が動かない。

「ローズ!!目が覚めたのか!」

声がする方に視線をやると若い端正な顔の男性がすぐそこにいる。

「……ここは……」

部屋中が慌ただしい雰囲気に包まれて出した。

しかし頭がモヤがかかったようにはっきりしない。

「ローズ!」

今度は違う声で名前を呼ばれる。
ふとそちらの方を見ると、ラムスター公爵夫妻だった。

「ああ!目が覚めたのね!」

ぼんやりとしているからだろうか。

「私達が誰かわかるかね?」

公爵様が言う。

「ラムスター……公爵……様……」

駄目だわ。力が出ない。
公爵様はホッとしたような顔をした。

「ああ、喋らなくていい。すまなかったね。ゆっくりしておくれ。」

途切れ途切れにしか喋れない私を気遣ってくれたのだろう。
それにしても現状が把握できない。

「俺は!俺のことはわかるか!?」

先ほどの美丈夫が興奮したように私に話しかける。

そうして気付いたのだけれど手を握られている気がするわ。
どうなってるの

「エリックだ!エリックだよ!」

なかなか答えないからだろうか。
泣きそうな顔でそう言う彼は立派な成人男子のように見える。
正直誰かわからない。
どういうサプライズだろうか。

ふ……と自分の口元に笑みが浮かぶのがわかる。

「エリック様は……10歳でしょう……?」

自称エリック様の顔がひどく驚いた顔をした。
公爵夫妻の顔も先ほどの安堵した雰囲気から一転、青ざめた。

「ローズ……君は今……何歳かね?」

緊張したように硬い声で公爵様が私に問う。

ああ、駄目だわ……瞼が重い……
公爵様に問われているのに答えずに眠ってしまいそうだ。

「私は……15に……なりまし……」

そう言いながら瞼を閉じた。





「あんな膨れっ面とお茶なんかして楽しいの?」

私17歳、エリック様12歳の時に正式に婚約が成立した。
それからは月に一度エリック様とのお茶をして交流を深めていた。

大体終わればリタが誘いに来て彼女ともお茶をする。

その時に言われたのだ。

実際12歳のエリック様はいつも怒ったような顔をして、でも律儀にお茶の席に座っていてくれる。
まだ学園に入る前のエリック様は幼く、婚約者としてきちんと交流をしろと言う方が酷ではないだろうか。
本当は学園に入る年になってから交流をと言う話だったのだが、リタと私はしょっちゅう家を行き来していたので、婚約者の交流もすることになったのだ。

エリック様はムスッとしながらも律儀に返事はしてくれる。
お菓子を焼いてくれば食べてくれるし幼いなりに頑張ってくれているのがわかる。

「いいえ、そんな事はないわ。最近は私の弟もあまりお茶に付き合ってくれないのよ。弟よりも年下だと言うのにエリック様は付き合ってくれて嬉しいわ。」

そういうとリタはホッとしたようにお茶を飲んだ。
姉として、友人として、気にかけてくれたんだろう。

「まあ、エリックも学園に入って交友関係も広がれば交流も上手くなるかしらね。いやだ、でもエリックが入ってくる年には私達卒業していないわ!」

「ええ、まだ先だと思っていたけれどもうすぐねえ。」

と話題は変わっていった。


しかし反してエリック様が学園に入学し交友関係が広がるとともに私達の関係も悪化していった。


月一のお茶会は律儀にきてくださる。
しかしいつも横を向いていた。
これは小さい時から変わらないのだけれど、入学してからも変わらなかった。

誕生日にも毎年カードとプレゼントが渡される。
しかしカードはエリック様の字ではなかった。

「素敵な髪飾りをありがとうございます。」
とお礼を言えば
「え?ああ、今年は髪飾りにしたんだ。へえ、本当にセバスはセンスが良いな。」
と返される。

セバスは公爵家の執事長。
代わりにプレゼントを選び用意するのは特別なことではないけれど、毎年この調子で返される。
しかしお礼を言わないわけにはいかない。

こちらから送る誕生日プレゼントは開けられてすらいなかった。
「カフスは趣味に合いましたか。」と聞けば
「カフス?なんの話だ?」と返された。

それからはプレゼントの感想を聞く事は野暮だと自覚し、聞かぬことにした。


そうしていつ頃だろうか。

エリック様は王命で年増の令嬢と婚約されているが本当はいい仲の令嬢がいる。

そう学園で噂されるようになった。
学園と院は同じ敷地にあり、意外だったが学園内の噂も通通だった。

しかし軽い噂ではないと気付いたのは、エリック様が16歳。私が21歳の時だ。
その日の2人のお茶会ではエリック様は珍しく上機嫌だった。

「友人にいい仕立て屋を紹介してもらったんだ。今度一緒に行かないか。」

行く?屋敷に来てもらうのではなく?

そう思ったものの、お出かけに誘ってもらえるなど初めてのことだった。
なかなか距離の埋まらない私達の関係も少しは近付くかと二つ返事で了承した。

そうして当日仕立て屋に到着し私は凍りついた。

明らかに学園に通うような御令嬢が行くような店構えだった。

21歳の私が着るのはギリギリではないかしら……

しかしエリック様に促されるまま中に入る。
そうすればもうエリック様によって服は選ばれているようだった。
満面の笑みをたたえた店員に店の奥に連れて行かれ着替えを手伝ってもらう。
出してきたのは案の定、10代の令嬢が似合いそうなデザインだった。

「ちょっと私にはこのデザインは若すぎるわ。」

「大丈夫ですよ!ローズ様は少しあどけない顔をされていますし、何よりエリック様が何回もお店に通って決めた服なんですよ!」

フフフと嬉しそうに笑う。

「ローズ様に似合うものを店のもの総出で考えたんです!何よりエリック様の熱心さと言ったら……ようやくローズ様にお召しになってもらえると思うと私達も感無量です。」

意外だった。

私の服を選ぶために何度も店に通うエリック様など想像も出来なかった。
しかし彼女が嘘をついているとも思えない。

「今日を楽しみに非番の人まで出勤しているくらいなんですよ~!」

躊躇う私ににこにこと言葉をかけてくれる。
そこまで言われれば着るという選択肢しかないだろう。

「エリック様!ローズ様のお着替えが終わりましたよ!」

そう言われて恥ずかしながらも出ていくと、ギョッとしたようにこちらをみるエリック様。

(ほら……だから若い格好だと……)

選んだものの似合わなかったのだろう。
恥ずかしくなり形だけ見せてすぐ引っ込もうと思った時だった。

「ローズ様、本当にこんな若い格好されたんですね。驚きましたよ!」

エリック様じゃない声がした。
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