上 下
31 / 50

女神も人の子 ールシアーノー

しおりを挟む
バサっと書類の束を自分の執務机に置いた。
便利だから使ってた部屋が御令嬢の部屋になる事はわかってたのについつい置いてしまっていた。
ふう、と一息つく。
おかげで頭が冷えた。
わかっている。女神のようだが公爵令嬢だ。よし。

そう思いながら、ふと窓の外を見ると少し向こうに護衛が整列しているのが見えた。
公爵家の護衛らしい。
皆立ち姿が美しい。なるほど手練れ揃いだな。

感心していると、光が飛び出すように女神が現れた。
なぜかのけぞりそうなくらい驚いてしまった。

しかしさっきまでとは随分様子が違う。
女神が護衛たちに縋るように歩み寄っていく。
すると護衛達は皆膝をつき、リーダーであろう男が女神の手を取り宥めているようにも見える。

「へえ。悪役令嬢で噂になるような御令嬢でも、1人で残されるとなると不安なんだな。」
いつの間にかアレクが俺の横にきて一緒に下の光景を見ていた。

確かにそうだ。まだ17歳だったはずだ。
ずっと親の庇護下で学園に通っていたのに、急に1人で知らない土地に置いて行かれるのだから、不安がないわけがないのだ。

「散々女性で浮き名を流したお前なら悪役令嬢でも乗りこなせるんじゃないのか?今なら随分気も弱っているようだし。さすが北の辺境伯!あの悪役令嬢をも落としてしまった!なんてな。」アレクはハハと笑ってからハッとしたように
「今のはアメリア様には内緒な。言わなかったことにしてくれ。」と撤回した。

俺は「最初から不敬な事を言わなければいいんだ。」と呆れ声をあげつつも考えていた。
あんな風に不安を見せてくれたらと。
縋られて1人じゃ心細いと、一言頼られたら俺だって。
その時はエリザベス嬢の瞳が不安に揺れる総てを俺が取り払おうじゃないか。



気持ちも新たに応接室に戻るとエリザベス嬢はまだ戻っていなかった。
母上の横に座ると
「どこにいってたのよ、エリザベス嬢を1人にして。」と責めるような目で見られた。
「アレクに呼び出されたんだよ。」嘘じゃない。
とそこまで言ったところで扉が開いた。
部屋に入ってきたエリザベス嬢を見て思わず驚いてしまった。
さっき窓から見た御令嬢は別人かと思うくらい何事もなかったような素振りだったからだ。

なんだか振り回されているような気分になった。
しかし俺も貴族の顔をしてジェンティルダ城でのきまりのようなものを説明する。

「今日はもうお疲れでしょう。夕食は部屋に運ばせます。ごゆっくりなさってください。今お部屋に案内させますわ。」
と母上がいう。
そしてそのまま「落ち着きましたら城内を案内させましょう。ルシアーノに。」と続けた。

?!

思わずバッと母上を見てしまった。
交流の有無は俺に任せるんじゃなかったのか!

それを見たエリザベス嬢は慌てたように
「辺境伯閣下はお忙しいかと思いますので、お気遣い無用でございます。」
と言った。
しまった。そうじゃないんだ。
「あら婚約者なのですから私たちのことは名前でよろしいのですよ。ねえルシアーノ」

!!

「ええもちろんです。私のことは名前でお呼びください。」
動揺は隠し俺が言う。
「では私のこともリズとお呼びください。ルシアーノ様アメリア様」

リズって‥‥いきなり呼ぶのか?俺が?
もうどういう顔をしていいのかわからなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

牽制してくる不倫女は、本当に存在しますか?

ぽんぽこ狸
恋愛
 公爵子息である夫に嫁いではや半年、ローズは、政略結婚であってもそれなりに仲の良い夫と、それなりの夫婦生活を送っているつもりだった。  しかしある夜、彼との時間を終えた後、今まで体を重ねていたベットで見覚えのない派手な下着を見つけてしまう。桃色の布地に柔らかなフリルがあしらわれた扇情的な下着はどう思い返してもローズの物ではない。  ほかにも浮気を疑う怪しい点が出てきて、ついにローズは牽制してくる浮気相手を突き止めようと行動を起こすのだった。  アップテンポで進みます。五万文字いかないぐらいのお話です。  ぜひぜひさくっと読んでいってくださいませ。😊  文章が肌に合った方は、よろしければ長編ものぞいてみてくれると飛び跳ねて喜びます。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

お前は保険と言われて婚約解消したら、女嫌いの王弟殿下に懐かれてしまった

cyaru
恋愛
クラリッサは苛立っていた。 婚約者のエミリオがここ1年浮気をしている。その事を両親や祖父母、エミリオの親に訴えるも我慢をするのが当たり前のように流されてしまう。 以前のエミリオはそうじゃ無かった。喧嘩もしたけれど仲は悪くなかった。 エミリオの心変わりはファルマという女性が現れてからの事。 「このまま結婚していいのかな」そんな悩みを抱えていたが、王家主催の夜会でエミリオがエスコートをしてくれるのかも連絡が来ない。 欠席も遅刻も出来ない夜会なので、クラリッサはエミリオを呼び出しどうするのかと問うつもりだった。 しかしエミリオは「お前は保険だ」とクラリッサに言い放つ。 ファルマと結ばれなかった時に、この年から相手を探すのはお互いに困るだろうと言われキレた。 父に「婚約を解消できないのならこのまま修道院に駆け込む!」と凄み、遂に婚約は解消になった。 エスコート役を小父に頼み出席した夜会。入場しようと順番を待っていると騒がしい。 何だろうと行ってみればエミリオがクラリッサの友人を罵倒する場だった。何に怒っているのか?と思えば友人がファルマを脅し、持ち物を奪い取ったのだという。 「こんな祝いの場で!!」クラリッサは堪らず友人を庇うようにエミリオの前に出たが婚約を勝手に解消した事にも腹を立てていたエミリオはクラリッサを「お一人様で入場なんて憐れだな」と矛先を変えてきた。 そこに「遅くなってすまない」と大きな男性が現れエミリオに言った。 「私の連れに何をしようと?」 ――連れ?!―― クラリッサにはその男に見覚えがないのだが?? ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★6月15日投稿開始、完結は6月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...