筋肉ヒーローは今日も報われない。

無限飛行

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マッスル…

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強大な筋肉を持つ男、マッスル大谷。
彼はヒーローである。


一般人から見れば彼の筋肉は、神話や伝説に登場するような美しく完成された芸術品である。

そして今日は、因縁の悪の秘密組織【 ツボヤ】の動きを察知し、警察と連携して一網打尽に捕まえる大捕物が予定されていた特別な日だ。

大谷は、緊張しながらも自分の筋肉を準備する。
彼の筋肉は、悪事を働こうとする犯罪者達の思念やその動きを大気中の僅かなオーラの乱れから感知し、その現場に誰よりもいち早く辿り着く事が出来るのだ。


怪人「へっへっへっ、そこの道行くお嬢さん?この幸運のつぼ、買いまへんか」

女子高生「壺?間に合ってます、放して下さい!」


日が傾いた、とある町の裏通り。
頭につぼを被った異様な怪人が学校帰りの女子高生を捕まえていた。

女子高生「変態、放して下さい!」

怪人「ほう、お断りになる。不味いですなぁ、貴女、このままだと不幸になりますがな」

女子高生「はい?」

怪人「女難の相が出とりますがな」

女子高生「はあ?私、女ですけど!」

怪人「おっと、これは失礼。実はこの幸運のつぼ、魔法のつぼで擦るとなんと……」

女子高生「?」

怪人「緑の顔の大魔人が現れるんです」

女子高生「怖いから要りません!」

怪人「ま、待ってくれなまし、い、今なら埴輪はにわをセットに付けますがな」

女子高生「放して!」

怪人「ぬう、こっちが下手したてなって話してれば付け上がりやがって!買え!壺を買うんだ!」

「きゃあああ、誰か!変態が壺の押し売りをしてきます。誰か、助けてぇ!!」


「待て、そこまでだ。怪人ツボ押し売りマン」

まさに壺を被った変態に、女子高生が要らん壺を買わされそうになった時、さっそうとマッスルポーズにマニキュアを塗ったような白い歯を見せて笑う筋肉が現れ、いや、ヒーローが現れた。

怪人「な、お前は!?」

驚く壺怪人、女子高生はその間に逃げ出し、裏通りには二人の変態……いや、ヒーローと怪人が残る。

「はあああ、マッスルジャパン、マッスルジャパン、マッスルジャパン!」

さらに大谷は、様々なマッスルポーズをする事により、いっそう強く、いっそうパワフルになるのだ。

怪人「貴様、変態だな!?」

「頭から壺を被った変態に、変態呼ばわりされる云われはない!!」

女子高校生の通報により、二人の周りには警察が囲み街は騒然としていた。



ここで睨み合っていた二人に動きが現れた。

怪人、ツボ押し売りマンが持っていた壺を撫で始める。
すると壺からもくもくと煙が上がるではないか。

対してマッスル大谷は、両手を広げ自身の筋肉に呼び掛ける。

「必殺、二刀流」



あら不思議。

マッスル大谷の呼び掛けに応えるかの如く、筋肉の間から現れたのは2本の日本刀。

まさに筋肉ヒーローと壺怪人の戦いの火蓋が切って落とされようと………



「「「「「「容疑者確保!!」」」」」」


その瞬間、二人は沢山の警官に覆い被され、手錠をかけられ、警察署で臭いめしを食べてる事になった。

彼らの罪状は、放火未遂罪と銃刀法違反であった。


警官「ほら、釈放だ。もう、戻ってくるんじゃないぞ。大谷 筋肉太郎」

「私の名はマッスル大谷、筋肉太郎などと」


警官「もういいから。早く帰れ……」


マッスル大谷は、筋肉を後ろに強く引きつけて警察署を立ち去る。

こうしてヒーロー、マッスル大谷の筋肉は今日も不発に終わった。

だが、彼はめげない。

彼は今も定職に就かず、日々地球を守り続けているのである。


のだが、その活動が報われる日は、まだ先なのかも知れない。


頑張れ、マッスル大谷。
強いぞ、マッスル大谷。
正義だ、マッスル大谷。
ヒーローマッスル大谷。


とりあえず定職に就こう、マッスル大谷。




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