【完結】未来から来た私がもたらしたもの

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今、私は一さんと近藤勇と凛ちゃんと4人で大阪城に向かってる。将軍様に呼ばれたから。将軍様の目的は私の無事を確かめるため。あとはもう1人の未来から来た人間を確かめるために。

数日間、連絡がなかったことに将軍様が心配になり理由を聞いてきた。流石に犯されてましたなんて言えなくて誤魔化していたんだけど、将軍様は質問の先を一さんにした。一さんは将軍様の質問に嘘は言えなくて本当のことを告げてしまう。

凛ちゃんのことも見たいと思ってたから、私も一緒に来るようにと言われた。

「疲れましたぁ」
「凛君、あと少しだ」
「それ、さっきも聞きましたぁ」

車や電車に慣れた未来人には辛いものがあるよね。凛ちゃんのペースに合わせながら進んだ。だけど、それはあまりに遅すぎて将軍様との約束の時間に間に合いそうにない。結構、余裕もって出てきたんだけどね。仕方ないので遅れるむねをLINEで伝えた。近藤勇は将軍様が怒ってないかと何度も聞いてくる。なので、LINE上では怒ってないですよと答えておいた。将軍様の心の内は知らないけどね。

何とか大阪に着き、登城用の着物に着替える。

「麗奈ちゃん、着せてくださぁい」

え?着れないの?

「今までどうしてたの?」
「土方さんに着せてもらってましたぁ」

土方歳三、甘えさせすぎではない。子供ではないのだから、1人で着れるようにしないと。私は着方を説明しながら着させて行く。髪も結うことできないというのでやってあげた。

準備が整い、大阪城に。

将軍様の足跡がして頭を下げる。

「面を上げよ」

ゆっくりと上げると将軍様と目が合った。そしてニッコリと微笑まれる。

「麗奈よ。直答を許す。息災であったか?」
「はい」
「ん?嘘はいただけない。余に本当のことを話すのだ」
「麗奈ちゃんは元気ですよぉ。元気に男とぉ」
「無礼者!!」
「きゃっ!!」

話に入ってきた凛ちゃんを将軍様の側仕えが叱責した。凛ちゃんは一さんの後ろに隠れる。近藤勇?凛ちゃんに作法教えなかったの?

近藤勇を盗み見ると顔を真っ青にしていた。彼自身も思わぬ凛ちゃんの行動のようである。

「麗奈よ。近う」
「はい」

少し近付くがもっとと言われ、将軍様の目の前まで来てしまった。将軍様に手を取られたかと思うと引き寄せられ、将軍様の腕の中に収まる。

「辛かったであろう?」
「……はい」

将軍様は私を慰めようとしてくれてるのかな?

「次、斎藤が麗奈を守れなければ余が麗奈をもらう」

私だけに聞こえる声量で将軍様はそう告げた。驚いて将軍様の顔を見るとニッコリと満面の笑みが返ってきた。将軍様の腕が解かれたので元の場所に戻る。

将軍様!?将軍様には御台所という奥さんがいらっしゃるではないですか?しかも天皇の妹さんよね?そんな状態で私を連れていけるはずないですよね?心の中でそう将軍様に質問した。

「凛。未来ではどんな身分でどんな事をしておった?」
「えーっとぉ!」
「無礼者!!」
「きゃっ!!」

凛ちゃん、直答許されてないからね?

将軍様はこれでは話が進まないと思ったのか、直答を許した。

「凛はぁ、東京の私立のぉお金持ちが通う高校でぇ、パパはぁ、ちょっーと大きい会社の社長さんでぇ、ママはぁちょーっと偉い看護師さんですぅ」

側仕えの人がワナワナしてる。将軍様の命があれば今すぐにもお縄につきそうだ。

「そなたは余のことを知っておるか?」
「えぇー!? 江戸幕府はぁ徳川家康なら知ってますぅ。今って幕末ですよねぇ。幕末と言えば黒船でしょぉ。それからぁ新撰組に坂本龍馬でしょぉ。あとは誰だろぉ」

凛ちゃんはうーんうーん言いながら考えてる。凛ちゃん未来人でなかったら命ないからね。近藤勇なんて青通り越して真っ白になってるからね。将軍様なんて普通お目通り出来ないからね?私たちが未来から来たということで特別に会えてるだけだからね。この辺りの常識は誰も教えなかったのかな?

「それで、そなたは何が出来る?」
「凛ゎ、可愛いので何でも出来ますぅ」

その答えに全員が固まった。可愛いから何でも出来るって何?凛ちゃん、何も出来てないでしょう?料理も洗濯も掃除も私任せじゃない。着物も着れないみたいだし……。だからといって歴史に詳しいわけでも剣術の使い手というわけでもない。そこら辺にいる甘えた女子高生だ。

「……麗奈よ。これが未来の女子の普通なのか?」
「申し訳ございません。私は異国生活が長く日本のことはほとんど知り得てません」

多分、普通じゃないと思うけどハッキリしないことは言えない。

将軍様の謁見は終わり、城を出た。そこで近藤勇がヘナヘナと尻餅をつく。

「……これで新撰組も終わりだ……」

そうね。そうなってもおかしくないわね。凛ちゃんを教育できなかった責任は誰かが取らないといけないだろう。それも上の人間が……。

宿で1泊してから京に帰るが、夕餉も楽しむことは出来なかった。

「麗奈君。公方様に抱き寄せられた時、何か言われてただろう。何と言われおった?」
「戯れごとですよ?」

近藤勇にはそれで通じたが一さんには通じなかった。部屋に戻ると、

「次、俺が麗奈を守れなかったら麗奈をもらうとでも言われたのだろう」
「うん。よくわかったね」
「公方様の目が俺に対して挑発してきたからな」

そうだったのね。

「次こそは守る」

一さんの決心は強いものだった。

案外、守られる者というのも悪くないかも……。私にヒロインは似合わないけどね。そんなことを思いながら寝る準備をしていたら、スマフォを弄っていた一さんに呼ばれた。

見せられた画面にはーー。

文久3年10月15日、山南敬助、士道不覚悟にて切腹。

と、書いてあった。

「これって……」
「此度の始末を山南副長に押し付けるのだろう」
「そんな……」

山南敬助に何の不手際があって?凛ちゃんの上司は土方歳三でしょう?責任取るなら土方歳三かその上の近藤勇のはず。山南敬助は関係ないでしょう?

「アレと仲良くしていたことを理由に申し付けるのだろう」
「こじつけじゃない」
「そうだな」

しかもと一さんは続ける。一さんが指したところには介錯が沖田総司ではなく、何故か凛ちゃんになってる。

「どういうこと?」
「分からん」

凛ちゃんに出来るわけないし、剣の使い手じゃないと苦しませるだけよ。凛ちゃんが実は剣術してましたなら分かるけど……。凛ちゃんのことだから出来るならば最初から言ってそうよね?

隅から隅まで読んだけど、何故、そんなことになったのか書いてなかった。ただ、永倉新八の書いた手記に「あの惨劇は今でも夢に見る」と記されてる。それ以外に山南敬助に関することは何も書いてなかった。

将軍様にも相談した。将軍様は不問に付すよう既に申し付けてあるとのこと。

それならば、山南敬助の切腹は今回と関係ない?そう思いたいが……。

だが、私たちの思いは裏切られた。

大阪に赴いた私たちと幹部が集められる。

「此度の大阪城でのこと誰かしらが責任を取らねばをならぬ」

大阪城の出来事を知らない人たちは、何のことか首を傾げていた。

「何があったんだよ?近藤さん」
「分かりましたぁ。麗奈ちゃんが上様に抱きついたことですねぇ」

一斉に私に視線が集まる。

抱きついたのではなく抱き寄せられたんだけどね。

「そのことではない!」

近藤勇の言葉に皆の視線が外れた。

「麗奈君は関係ない。凛君の数々の無礼のことだ」
「えぇ?凛?凛ちゃんと答えましたよぉ」

凛ちゃんの態度で大体のことを周りは察した。

「まさか……、このままの状態で謁見させたのか?誰か作法を教えなかったのか?」

原田左之助の疑問に誰も答えない。ようやく、皆何のために責任を取るのか理解出来たようだ。

「公方様からは不問に付すという申し付けもありますけどね」

私が将軍様の言葉を付け加える。これで責任を取るという話が流れればいいけど。

「そんなことで良い訳があるか!?公方様に無礼を働いたのだぞ!?ここは新撰組として責任を取るべきだ」

近藤勇の意思は固いようだ。それならば自身が責任を取って切腹すればいい。人に責任を押し付けるようなやり方は間違ってる。

「で、だ。山南さん」
「何です?土方君」
「あんたが責任を取ってくれないか?」
「な、何を……?」

山南敬助は驚いてる。それは山南敬助だけではない。全員が驚いていた。ここで責任を取るのならば、土方歳三か近藤勇だ。

「凛君は土方君の小姓でしょう!?」
「凛はあんたと仲良くしてたではないか?凛に作法を教える機会はいくらでもあったよな?凛はほとんど小姓の仕事もせず隊員と仲良くしていた。副長であるあんたはそれを咎めないといけない立場にあったにも関わらず凛とお茶してたりしていただろう?」

土方歳三は自分が教えたくても、小姓の仕事もせずに遊び歩いてた凛ちゃんには教える機会がなかったという形をとるわけね。それで凛ちゃんと話してた山南敬助へ責任を押し付けるわけか……。

山南敬助も話の経緯が分かったのか目を瞑った。

「分かりました。では介錯は」
「待ってくださぁい。おかしいですぅ。何で脱走してない山南さんが切腹しないといけないんですかぁ?山南さんが切腹するというならば、私が介錯しますぅ。それが嫌ならば撤回してくださぁい」

凛ちゃん、何を言うの?何故、その思考回路に至った?

「凛、待て。介錯というのはとても大事なんだ。刀も持ったことのない人間が出来るわけない」

藤堂平助が凛ちゃんを説得しようとするが、凛ちゃんは譲らない。

「嫌ならばぁ、切腹を撤回してくださぁい」

凛ちゃんの素行のせいで山南敬助が切腹するの理解してるのかな?ここは強制的にでも凛ちゃんを退場させて誰が介錯するか決めた方がいいと思うよ。

「凛。外でよ。この話は」
「分かりました。凛君にお願いします」
「「「山南副長!?」」」
「これもまた、私の運命でしょう。もう死は決定したもの。それならば最期に残せることをするまで。私の命を持って凛君が変わってくれるのならば。それが今まで仲良くしてくれた凛君への感謝の気持ちです」

山南敬助は最期の命を凛ちゃんのために使うのか。凛ちゃんが変わるため。この幕末で生き抜いていくために。凛ちゃんが変われば同じ出来事は二度と起きない。それは新撰組のためにもなる。

山南敬助の切腹は幹部たちのみが立ち会いもと行われることになった。

私は部屋で一さんの帰りを待ってる。

結構、時間がかかってから一さんが戻ってきた。その顔色は心配するぐらい悪かった。

「大丈夫?」
「……何も聞かないでくれ」

それほど、酷い有様だったのだろう。その日、一さんは何度も魘されては起きていた。
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