【完結】未来から来た私がもたらしたもの

ぅ→。

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掃除をしていると楠小十郎に話しかけられる。

「女子を殴るとは土方副長も酷いですね」
「きっとお酒に酔われていたのですよ」

何故、私が土方歳三を庇わなくてはならないのだ。でも、相手は長州藩の間者だ。ここで下手なことは言えない。

「本当にそれだけですか?」

私に何かあると思って探ってきてるのだけど、私は何も言わないわよ?

「私も何故、私が殴られたか分からないのです」

少し悲しめに目を伏せた。

「あの日、土方副長は芹沢局長を暗殺しに行ったのではないですか?それをどうにかして、あなたが防いだ。そのことで土方副長の怒りを買って殴られたのでは?」

まさにその通り。でもここでYESなんて言うはずないでしょう?

何のことかわかりませんという風に頬に手を当て首を傾げた。

「流石、土方副長をも欺いた人だ。なかなか図太い神経の持ち主のようですね」
「あの……、先程から何のお話をしてるよですか?暗殺とか……。芹沢局長は幕府のお縄についたのですよね?」
「一緒に来てもらいますよ?」

そう言い、楠小十郎は何かを私に嗅がせてきた。多分、気絶するやつかな?私、そういうの一般、聞かないんだけどな……。とりあえず、気絶したフリをしよう。

彼らは近々、成敗されるが、ここで避けたり変な行動を起こして、その情報が長州側に流れる方がやっかいだ。ここは普通の女子。普通の女中のフリをしよう。しかし、恨むよ?土方歳三。あなたのせいでこんな面倒なことになったのだから。

「桂さん、連れてきました」
「へえ。美人さんだね」
「斎藤一の妻です」
「俺、人妻を略奪するの好きなんですよね」
「稔磨、まあ待て。まずは何者か調べないとな」

桂小五郎に吉田稔麿と……。結構、大物がいるところに連れて来られたじゃない?

「起きろ!」

頬を叩かれたので、目を開ける。そして怯えた目で男たちをみやった。

「楠、普通の女子に見えるが?」
「しかし、暗殺失敗したあと、土方がこの女を殴ったのです。その時、土方と何やら話してました。それで土方は大きく舌打ちしたあと投げつけたのです。何かなければ、そのようなことになりません」

楠小十郎、あなた優秀ね。その通りよ。でも私はシラを通すわ。

「それは何かありそうだね。話してくれるかな?女子に手荒な真似はしたくないんだよね」
「私にも分からないのです。どうして殴られたか……」
「じゃあ、殴られた後、土方に何を言ったの?」
「これ以上、手荒な真似をするならば土方副長が詠んでる句をここで大声で言いますよと言って止めました」

未来から来てるから土方歳三の豊玉発句集のことも知ってる。

「君は土方の句を知ることが出来るくらい仲が良いのかな?」
「いや。土方とはそれほど仲良くしてないですよ。もう1人の方の女中の方が土方と仲がいいです」

楠小十郎よ。よく見てるじゃない。あなた優秀よ

「どういうことかな?」
「沖田さんに聞きました。何でも故郷に土方副長が置いてきた発句集をわざわざ持ってきたみたいで詠ませてもらったのです。それで沖田さんが書いたのかと問いましたらそれは土方副長ので。これで天女さんも同罪ですね~と言われました」

途中、沖田総司のモノマネをしながら話した。そんな会話はしたことないけどね。

「では、君は訳も分からず殴られたのかい?その理由を問いたださなかったのかい?」
「多分、本当に酔ってただけだと思いますよ?」
「酔って女子を殴るね?そんな人間には見えないけどね」

そんな人間では無いね。土方歳三、殴るのはいいけど間者の前で殴ることはなかったじゃない。土方歳三だって間者がいることは知ってたはずよ。もしかして、ここまでが罰ということ?それならば大したものだわ。

「桂さん、もういいだろ?ここは体に聞いてみればいいんだよ」
「しかし女子に手をあげるのは……」
「桂さん、手をあげるだけが手段ではない」

そう言った吉田稔麿の目には欲情が現れていた。なるほど、強姦するつもりね。私は後ずさりし、首を横に振った。さぞ怯えて相手には見えるだろう。

そこからは数々の男に好き勝手にされた。何も感じないが嫌がるふりをする。本当は嫌だけど。一さんに会うまでは平気だった行為も今では嫌悪がするぐらいだ。自身が穢れてしまった気がする。

「桂さん、この女、本当に何も知らないんじゃねぇか?ここまでして何も言わないとなると」
「……否。この女、一度も涙を見せてない」

あら?騙されなかった?

涙か……。それは仕方ない。私の泣く場所は一さんの腕の中だけだから。

「桂さん、新撰組です」

ナイスタイミング!もっと早くてもいいけど、次の誤魔化し考えるの難しかったから助かる。逃げようとする桂小五郎の裾を引っ張り転ばした。そして一瞬のうちに縛り上げる。

「桂さん!貴様!」

吉田稔麿が刀を抜いた。こちらは真っ裸。でも武器はある。桂小五郎のね。桂小五郎の刀を抜き取り、吉田稔麿と向き合った。

銃ばかり習ってきたから刀の扱いは分からない。私の目的は相手を斬ることではない。桂小五郎を捕まえて引き渡すこと。逃げの小五郎と言われるぐらい桂小五郎は捕まえるのが難しい人だ。ここで捕らえるのは大きい。

「稔麿!逃げろ!」
「しかし!」
「我々の目的を忘れるな!ここで皆が捕まってしまえば無に帰する!」

吉田稔麿は桂小五郎を置いて逃げていった。

「やられましたよ?あなたは何者ですか?」
「新撰組の女中ですよ?」
「ただの女中ではないでしょう?」
「私の正体が気になるならば公方様にお聞きになって?」

倒幕派の彼らが公方様の名前で引き下がるとは思わないけど、私の後ろには将軍様がいると示した。

「君と公方様の関係性は分からないが、芹沢鴨捕縛は君が関わってるですね?それで暗殺しようしていた土方歳三は阻止されて殴ったということでしょうか?」

答えは出てるが、私はさあ?と首を傾げた。

そこに一さんが来る。

「入ってくるな!」

後続の隊士を一さんが止めた。

そして羽織りを脱ぐと私に巻き付け抱きしめる。

「すまぬ。また守ってやれなかった」
「それより褒めてね。桂小五郎を捕まえたよ?」
「そんなことより、麗奈のほうが大事だ」

歴史的に考えて桂小五郎を捕縛できたことは私がされたことを考えてみても重要だと思うのだが……。

「一君~。まだですか~」

そう言いながら、沖田総司が入ってきた。沖田総司は私の姿を見るなり、刀を抜き桂小五郎の肩を突き刺した。

「天女さんに手を出したのはあなたですか~?」
「沖田、殺してはならぬ。麗奈が体を掛けて捕まえた相手だ」
「分かりました~」

私は一さんに横抱きにされ外に出る。そこには土方歳三もいた。土方歳三のところで足を止めてもらう。

「土方副長のせいですよ?あなたが皆の前で殴ったから間者に不信感を与えた結果です」

きちんと土方歳三に罪悪感をあたえることも忘れない。流石に土方歳三も悪いと思ってるのか何も言わなかった。

屯所に戻ると風呂に入れさせてもらう。

体を洗っても洗っても穢れて気がして仕方ない。擦り切れて赤くなっても擦る手が止まらなかった。

「麗奈、いつまでーーっ!?麗奈!!」

入ってきた一さんに手を掴まられる。

「一さん、綺麗にならないの?何でだろう?今まで平気だったし……。今回だって前とそんなに変わらないのに……」
「麗奈」

一さんが宝物を扱うかのように私の髪を撫でた。私の目から涙が溢れる。

「うう……」
「泣いていい」

その言葉を皮切りに私は声をあげて泣いた。
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