【完結】未来から来た私がもたらしたもの

ぅ→。

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一、士道に背き間敷事
一、局ヲ脱スルヲ不許
一、勝手ニ金策致不可
一、私ノ闘争ヲ不許

右条々相背候者
切腹申付ベク候也


朝、隊士がザワついてると思えば、こんな張り紙がされていた。

局中法度

これによって沢山の人が亡くなる。

山南敬助だってそうだ。それを土方歳三は知ってるのに作った。

「俺は鬼になるぞ」
「土方副長」
「俺が小娘に現を抜かしてると思ってたか?」

ええ。半分以上思ってたわ。

「あの小娘には山南さんが脱走する意思がなくなるように仕向けてむけれれば、それでいい。それ以外は求めない。それが叶わぬ時はあの小娘も用済みだがな」

なるほど。凛ちゃんの勝手を許してたのは全て山南敬助のためなのね。

でも、山南敬助の脱走を防ぐことは簡単よ?土方歳三が山南敬助の意見に耳を傾ければいいだけなのでは?

まあ山南敬助が脱走のキッカケになった屯所移動場所については私が屯所を建てることにより消えたけど。それだけで脱走するとは思えないよね。

「一緒に寝起きしていて、手出ししてないのですね?」
「色気のない小娘に欲情でもすると?まぁ、お前なら別かもしれないがな」

土方歳三が顎クイをするが、私の表情は変わらず。これが一さんだったら嬉しいし、顔も赤くなるだろうな。

「私は一さんの妻よ。お戯れはほどほどに」
「頬ひとつ染めてみろ」
「素敵な殿方ならば頬も染まるでしょうが……」
「お前……」
「私はこれにて」

土方歳三の手を振り払って、朝餉の準備をする。

「あんさん最高!」
「山崎さん」
「あの土方副長を袖にするとは!」

見た目はいいと思うよ?イケメンだよね。でもね。私、俺様系って好きじゃないのよね。一さんを好きになって思ったけど、私ってギャップ萌えらしいのよ。一さんは生真面目で堅物だけど、サラッと甘い言葉を吐くし、私のことを些細なことでも気が付くし、閨事は情熱的だしで。皆の前では無表情が私の前では微笑んだりするのが堪らないのよね。

「ほお。なるほどな」

後ろに土方歳三がいた。勿論、知っていて口に出していたけど。

「私、女の敵は好みではありませんの」

恋文を実家に送るなんて趣味の悪い男は好きじゃないわ。

「そんな女を落としてみるのも良いかもな」
「士道不覚悟で切腹の準備はよろしくて?介錯なら致しますわ」

土方歳三のコメカミがピクピクしてる。本気でお怒りのようだ。

「……茶」

お茶ね。ご自分の小姓に頼めばいいものを。

私はお茶をいれて土方歳三に渡す。

「お前の茶はうまいな」
「どうも」
「局中法度は不満か?」
「新見錦を始末する方法が他にないのでしょう?」
「ーーチッ。全て分かってるやつはやりずれぇ」

ならば、聞かなければいいのに。

夜、一さんが難しい顔をしながらスマフォを弄っていた。

「これは近藤局長たちが芹沢局長たちを一掃するための策か?」
「私にも分からないわ」

真実を知るのは近藤勇と土方歳三の2人だけだと思う。

「それが真実ならば誠はいずこにある」

私は何も答えられず、後ろから一さんを包み込むように抱きしめた。

「この局中法度のせいで山南副長も……」

未来を知ってる。それはいいことばかりではない。

私が山南敬助の心を変えることは出来ないだろう。人殺しや閨事なら得意だけど、それ以外しか私にはない。人の気持ちを変えるような大それたことは出来ないのだ。

「武士といふは死ぬ事と見つけたり」
「麗奈」
「と、言うけど生きていなければ何にもならないわ。死ぬ方はいいかもしれないけど、残された方はたまったものではないわ」

そんな簡単なひと言で済ませて欲しくない。だけど、武士道とはそういうもの。それは第二次世界大戦でも同じだった。外国の軍隊は生きて帰ることを誉とする。捕虜になっても生きてることが大事なのだ。それに対して日本では捕虜を恥とする。

私だって死を選んだけど、それは逃げ場所がなかったから。教育では生きることを第一に教わった。けど、私が潜入した組織は裏切り者には死あるのみだった。情報を渡した代わりに生きることが可能であれば情報を渡して生きたが、情報を渡しても死あるのみ。それならば最後の抵抗とばかりに情報を渡さず死を選んだ。

「麗奈は一度、死を選んだであろう。怖くなかったのか?辛くはなかったのか?」
「怖くないと言えば嘘になるわ。毎日、怖かった。素性が露見すれば死あるのみ。熟睡出来た日はないわ」

幸いだったのが、家族や友達がいなかったこと。残される人の気持ちを考えなくて良かった。そう一さんに言ったら抱き返された。

「今は俺がいる。決して死を選んではダメだ」
「一さんもですよ?」
「ああ」

歴史が変わってるから、定期的に一さんの死についてもチェックしてる。

そして土方歳三の望み通りに新見錦が料亭山緒にて切腹となった。介錯は一さんがしたという。そのことを伝えた芹沢鴨は「そうか」のひと言だけで済ました。

「貴様は何を知ってる?」

洗濯をしてたら背後から芹沢鴨に話しかけられる。

「何とは?」
「お前らが来てから土方が変わった。何をした?」
「何もしてませんよ」

前の土方歳三がどうだったかなんて知らないし。

「局中法度が出来た日、お前ら2人の顔はとうとうこれが出来たのかといった顔をしていた。特にもう片方はな」

凛ちゃんのことは芹沢鴨に話しかけてるから気にするのは分かるけど、ただの女中の私の事まで見てるとはね。

「私は何も知らないので、凛ちゃんに聞いて見ればどうですか?」
「何故、もう片方が凛だと分かった」

はあ……。ミスったわ。確かに芹沢鴨はひと言も凛ちゃんの名前を出してない。最近は平和な日々を過ごしてるから気が緩んでるのね。

「ここには女は2人しかおりませんし……」
「旦那である斎藤の可能性もあっただろう?」
「一さんは近藤派。知っていてもおかしくないことでしょう?それならば、この場合、芹沢局長がおかしいと思う者の中で私と結び付きがあるのは同じ女中の凛ちゃんぐらいしか思い付きません」
「……まぁ良い」

良いなら最初から聞かないでほしいものね。

「で?わしはいつ死ぬ?」
「知りませんよ」

飛んできた鉄扇を受け流し、芹沢鴨の腕を後ろ手に拘束した。

「くっ……。貴様……」

殺気があったから反射的に体が動いた。さて、この後どうしようか?

とりあえず、解放して芹沢鴨から距離を置く。

「やはり、普通の女子ではないな?」
「……」
「答えろ!! 貴様は何者だ!!」

芹沢鴨の殺気のこもった怒鳴り声。それに怯むことなく芹沢鴨の目を見据える。

「私の正体が知りたいならば、公方様の許可を得てください。さすればお答えしましょう」
「容保公ではなく公方様だと?」
「ええ。公方様です」

将軍様とはLINE友。困ったことがあったら名前を使っていいと許可をもらってる。まさか、本当に使う日が来るとは思ってなかったけどね。

「貴様のような女子が公方様と繋がりがあるわけないだろう!」

仕方ないな。

懐からスマフォを取り出し将軍様にLINEする。今LINEのテレビ通話が出来るかどうか。OKだったので公方様に通話をした。すぐに出てくれた。

『いかがした?』
「今、正体を問い詰められまして……。公方様の許可があればと答えたのですが、私のような女では公方様と関係はないだろうと言われまして困りましたので……」
『そやつは誰だ?』
「芹沢鴨です」

そう言って芹沢鴨を映す。芹沢鴨にも将軍様のお顔が確認出来たのか、慌てて平伏した。

『芹沢鴨よ』
「ははー!」
『麗奈は余の命の恩人ゆえ、困らせるでない』
「ははー!」

流石、将軍様。

『麗奈よ』
「はい」
『余に助けを求めてくれて嬉しく思うぞ』
「私も感謝しております」
『困ったことあればまた連絡してくるように』

通話を終えてスマフォを懐に戻した。

「その道具は何だ?」
「公方様に頂いたものです」

嘘だけど。

「そうか……」

それ以上、何か言うことはなく芹沢鴨は去っていった。

芹沢鴨への助言は私では無い。未来を知ってる土方歳三や一さんがしないのであれば、私がとにかく言うことでもない。

凛ちゃんの言うことを聞いてれば、もしかしたら暗殺という未来はなくなるかもしれないけどね。
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