冷酷王子が記憶喪失になったら溺愛してきたので記憶を戻すことにしました。

八坂

文字の大きさ
上 下
30 / 33

綺麗な瞳

しおりを挟む
 「お父様、あれは何?」

 その少女は馬車を見たことがないのだろう。物珍しそうにこちらを覗いていた。その綺麗な瞳に俺はまるで吸い込まれる感覚を覚えていた。

 「エリーゼ!あれは王宮の馬車だ。あまり無礼なことをすると良くないことが起きるから早く中に帰っておいで。」
 「へ~!」

 するとエリーゼという少女は父親の意向に背きこちらに近づいてきたのだ。

 「こんにちは!」
 「やあ、お嬢さん。こんにちは。」

 国内外問わず恐れられている父上だがそんなのも知らないのだろう、物怖じもせずに話しかけてきたのだ。俺は何故だか胸が苦しくなってしまい、父親の背中の後ろに隠れてしまった。

 「ああ申し訳ございません!うちの馬鹿娘が!!」
 「いや気にするな。随分と幼子だが言葉を流暢に喋るのだな。」
 「そうなんですよ!何故か語学は堪能でして...」

 父上とエリーゼの父親が談笑を始めていた。俺は父上に隠れてしまったけれどもう一度エリーゼを見たいと思って父上の背中からチラッと覗いてみた。しかしそこにエリーゼの姿はなかった。もうすでに戻ってしまったのではないのかと考えて落ち込んでいると俺がいる側のドアがコンコンと叩かれた。俺はそっとドアを開けるとあの少女がこちらを見ていた。

 「わっ!」
 「貴方は王子様なの?」
 「ま、まあそうだな...。」
 「ここの王子様はかっこいいね!」
 「え。」
 「こらエリーゼ!もう王様方はお帰りになるのだから邪魔するんじゃない!」

 いつの間にやら談笑が終わったエリーゼの父親はエリーゼを叱った。エリーゼは満足そうに微笑みながら

 「じゃぁね王子様!」

 と俺に手を振って見送ってくれた。俺はその姿を目に焼き付けながら王宮へと帰っていった。


 俺はあの日からエリーゼの瞳を忘れることが出来ないまま日が経った。ある時に父上から舞踏会へ招待された。今までは訓練や筋トレなどに時間を使っており、舞踏会や宴などには時間を割いていなかった。しかしそんな俺を不安に思った父上は半ば無理やり俺を舞踏会に連れて行ったのだ。
 舞踏会では騎士団の同期であるウェンと会った。

 「あれガロン!こんなパーティーに来るのは珍しいね?」
 「ああウェンか。父上に連れてこられたのだ。」
 「じゃあ僕とお話ししようよ。僕もうつまんないからさ!」
 「知らん。俺は来たくて来たわけではない。」
 「ちぇ。つまんないの~。」

 そう言ってウェンは違う所へ向かって行った。どこに行くのか少し気になったので軽くウェンを目で追っていたらとある少女の所へ向かっているのを見た。その少女を見て俺の心臓はドクンと大きく跳ね上がった。あの子は俺がずっと想い焦がれている少女だったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】伯爵令嬢はハンサム公爵の騎士団長に恋をする

朝日みらい
恋愛
ホーランデ伯爵家のエドナは、乗馬好きな活発な令嬢である。 彼女は、ひ弱な貴族ではなく、騎士のようなたくましい令息との恋にこだわっていた。 婚約が決まらない中、伯爵領内で騎士団の訓練があることを知る。 就任したばかりの、若き騎士団長 ウィリアム。 さっそくエドナは偵察に内緒で野営地に忍び込むのだが……。 公爵でハンサムのウィリアムとの恋と、騎士団長になった過去を巡る物語。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

処理中です...