冷酷王子が記憶喪失になったら溺愛してきたので記憶を戻すことにしました。

八坂

文字の大きさ
上 下
29 / 33

その少女

しおりを挟む
 カリーナがエリーゼの所に行き婚約破棄を促したという情報はすぐに俺の耳に届いた。その便りを聞いた瞬間に俺は落ち着けるわけもなくカリーナの所へ向かった。カリーナの自室に向かったがそこにはいなくて、何故か王宮の実験室のような所に居た。廊下から見えたカリーナは実験室の窓の近くにいて手には何やら持っているようであった。俺はそのドアを勢いよく開けるとカリーナは少し驚いたようにこちらに振り返った。

 「カリーナ様、どういうつもりですか。」

 「あらガロン様?何のお話でしょうか?」

 「とぼけるな!」

 カリーナは何もわからないという顔をして俺の方を見た。俺は怒りに任せて近くにあった机をドンッと叩いてしまった。しかしその様子にカリーナは驚きもせずに淡々と話し始めた。

 「もしかして婚約破棄の話でしょうか?」

 「貴様、分かってやっているだろう!」

 「あらガロン様。母に向かって貴様なんてお言葉使うなんて...!」
 
 「茶番はいい、それより...」

 あの噂は何のつもりだ!と問いただそうとした瞬間にカリーナは俺との距離を詰めてきた。そして不意に俺の顔を手で覆い隠し、なにやら布のようなものを俺の口に当てた。

 「私はガロン様を解放させてあげたいだけなのです。さあ、目を閉じて。その身を委ねて。」

 「何、を...する、の、だ...。」

 俺は唐突な眠気に襲われて眠りについてしまった。


 目を覚ますと俺は医務室に居た俺の周りには専属の医師と看護師、そして俺の側近がいた。俺はゆっくりと身体を起こした。

 「ガロン様。お加減はいかがでしょうか?」

 「エリーゼ...」
 
 「エリーゼ様がどうかなさいましたか?」

 「えっ...。」

 俺の口からは自然とエリーゼの名前が出ていた。

 「エリーゼに会いたい。」
 
 「「「え?」」」

 そして俺の意思に反してその言葉が口から出てきてしまっていた。
 

 俺は幼い頃からエリーゼのことが好きだった。あれは五歳になる少し手前での出来事であった。俺は第二王子であったこともあり騎士を目指すことを義務付けられていた。俺は自分の未来が勝手に決められていることが嫌で嫌で仕方なく、騎士になるための稽古にサボリ気味であった。それを見かねた父上が将来守る国を見てみようと俺を王宮から出して頂いたことがある。馬車に乗りながら俺は様々な場所を見て回っていたがそれに疲れてしまっていた。そろそろ飽き始めてきた頃には馬車は国の境界線まで来ていた。そこには古き良き建物が建っていた。

 「父上、ここには誰が住んでおられるのでしょうか?」

 「私も把握していないがここまで古い屋敷なら代々引き継がれている良い家柄なのだろう。ガロン、そろそろ戻ろうか。」

 「分かりました父上。」

 そうして俺たちが引き返そうとしたときにその少女は屋敷から出てきたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】伯爵令嬢はハンサム公爵の騎士団長に恋をする

朝日みらい
恋愛
ホーランデ伯爵家のエドナは、乗馬好きな活発な令嬢である。 彼女は、ひ弱な貴族ではなく、騎士のようなたくましい令息との恋にこだわっていた。 婚約が決まらない中、伯爵領内で騎士団の訓練があることを知る。 就任したばかりの、若き騎士団長 ウィリアム。 さっそくエドナは偵察に内緒で野営地に忍び込むのだが……。 公爵でハンサムのウィリアムとの恋と、騎士団長になった過去を巡る物語。

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

【完】箱庭の王妃はモフモフに包まれ真綿の夢を見る~婚約無効からの真実~

桜 鴬
恋愛
私公爵令嬢たるアリエルは昨日、婚約者たる王太子様のエドウィン様と、ともに高等貴族学園卒業しました。そして本日は卒業パーティーです。これから楽しいイベントが始まります。もちろん自称ヒロインさんが主役です。そしてどうやら私は、いわゆる悪役令嬢で当て馬らしいのです。 実は我が国は大変お堅い国です。貴族世界では未だに『男女七才にて席を同じゅうせず』という風習がございます。婚約とは家同士の契約であり、高位貴族は全て政略結婚のため、お互いに顔をあわせることが殆どございません。通常なら絵姿の交換のみで、本日のパーティーが初の顔合わせ、そして初の協同作業となります。もちろん学園も男女別でした。 こんなお堅い国での婚約破棄劇。いえ、正確には婚約無効ですね。婚約無効喜んで!下克上?しませんよ?では『ざまぁ?』いえいえ。私は『ざまぁ』するようなことはされてませんし、してもいませんから!市政に紛れてスローライフ?前世チートで大活躍?いえいえ。私に前世はございません。ヒロインさんのように、前世もちはいらっしゃいますけど。 あ……チートはありますね。一応。 静かに退場させてくださいませ。私はモフモフちゃんと生きまーす! それがどうしてこうなった?

処理中です...