冷酷王子が記憶喪失になったら溺愛してきたので記憶を戻すことにしました。

八坂

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その少女

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 カリーナがエリーゼの所に行き婚約破棄を促したという情報はすぐに俺の耳に届いた。その便りを聞いた瞬間に俺は落ち着けるわけもなくカリーナの所へ向かった。カリーナの自室に向かったがそこにはいなくて、何故か王宮の実験室のような所に居た。廊下から見えたカリーナは実験室の窓の近くにいて手には何やら持っているようであった。俺はそのドアを勢いよく開けるとカリーナは少し驚いたようにこちらに振り返った。

 「カリーナ様、どういうつもりですか。」

 「あらガロン様?何のお話でしょうか?」

 「とぼけるな!」

 カリーナは何もわからないという顔をして俺の方を見た。俺は怒りに任せて近くにあった机をドンッと叩いてしまった。しかしその様子にカリーナは驚きもせずに淡々と話し始めた。

 「もしかして婚約破棄の話でしょうか?」

 「貴様、分かってやっているだろう!」

 「あらガロン様。母に向かって貴様なんてお言葉使うなんて...!」
 
 「茶番はいい、それより...」

 あの噂は何のつもりだ!と問いただそうとした瞬間にカリーナは俺との距離を詰めてきた。そして不意に俺の顔を手で覆い隠し、なにやら布のようなものを俺の口に当てた。

 「私はガロン様を解放させてあげたいだけなのです。さあ、目を閉じて。その身を委ねて。」

 「何、を...する、の、だ...。」

 俺は唐突な眠気に襲われて眠りについてしまった。


 目を覚ますと俺は医務室に居た俺の周りには専属の医師と看護師、そして俺の側近がいた。俺はゆっくりと身体を起こした。

 「ガロン様。お加減はいかがでしょうか?」

 「エリーゼ...」
 
 「エリーゼ様がどうかなさいましたか?」

 「えっ...。」

 俺の口からは自然とエリーゼの名前が出ていた。

 「エリーゼに会いたい。」
 
 「「「え?」」」

 そして俺の意思に反してその言葉が口から出てきてしまっていた。
 

 俺は幼い頃からエリーゼのことが好きだった。あれは五歳になる少し手前での出来事であった。俺は第二王子であったこともあり騎士を目指すことを義務付けられていた。俺は自分の未来が勝手に決められていることが嫌で嫌で仕方なく、騎士になるための稽古にサボリ気味であった。それを見かねた父上が将来守る国を見てみようと俺を王宮から出して頂いたことがある。馬車に乗りながら俺は様々な場所を見て回っていたがそれに疲れてしまっていた。そろそろ飽き始めてきた頃には馬車は国の境界線まで来ていた。そこには古き良き建物が建っていた。

 「父上、ここには誰が住んでおられるのでしょうか?」

 「私も把握していないがここまで古い屋敷なら代々引き継がれている良い家柄なのだろう。ガロン、そろそろ戻ろうか。」

 「分かりました父上。」

 そうして俺たちが引き返そうとしたときにその少女は屋敷から出てきたのだ。
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