冷酷王子が記憶喪失になったら溺愛してきたので記憶を戻すことにしました。

八坂

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前世の暮らし

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 今思えば日本での生活は楽しかった。特別美人という訳でもお金持ちという訳でも無かったが両親は優しかったし、友達もそれなりにいた。頭はちょっと悪くて勉強は上手くいかなかったが自分なりに努力した成果は出ていたと自負している。恋愛もぼちぼちしていたし、死ぬ直前にも彼氏はいた。

 「絵里!!!」

 前世の彼氏が当時の私の名前を叫んでいる声は今でも思い出せる。何気ない普通の日だった。

 「そろそろ受験も近いけど絵里は勉強してる?」
 「え、してるわけないじゃん!馬鹿なの?」
 「馬鹿はどっちだよ。」

 そんな他愛もない会話を楽しんでいた。

 「俺コンビニで買いたいものあるわ、ダッシュで買ってくる。」
 「おっけ~、外で待ってるね。」

 今思えばここで一緒にコンビニに入っていれば未来は違ったのかもしれない。
 ここでスマホをずっと見ていないで少し周りを見ていたら未来は違ったのかもしれない。

 「絵里!!!」

 彼氏の叫ぶ声と同時にとても大きい爆発音、身体が焼けるような熱風が私を襲った。
 その場で吹き飛んだ私は意識が朦朧とする中、周りを見渡した。車から燃え盛る炎、コンビニから人が逃げる姿、救急車や消防車を呼ぶ人、SNSにあげるであろう動画を撮っている人。あぁ、車が爆発して巻き込まれたんだなと容易に想像がついた。

 「絵里…!おい!しっかりしろ!」

 彼氏の呼ぶ声がする。
 大丈夫だよ、平気だよ。
 そう言いたかったけれど声が出なかった。
 私は血だらけになった手で彼の手を握る事しか出来なかった。
 18歳にして死んじゃうのか、まあ楽しかったからそれでもいいのかな。
 そう考えながら周りの騒音と反して私の心は異常に穏やかで静かに眠りについた。




 目を開けると数億円はかかるであろう大きなシャンデリアとゴージャスなレースのカーテンが目に入る。さっきまでの地獄絵図とは打って変わっていることにほんの少しの安堵しながらも前世の寂しさを抱えながら私は身体を起こした。

 「はぁ、懐かしい夢。」

 異世界に転生したと分かったのは生まれてすぐであった。
 周りより遥かに言葉を覚え、喋るのも早かった。幸いな事に数字や計算、記号は日本と変わらなかったのである程度は問題無く解けていた。当時の私は自分が天才なのではないかと考えながらも違和感を感じていた。
 何故知らない記号なのに解けるのだろうか。習ってないのに分かるのはおかしいんじゃないか?そんなことを幼いながらに考えていたら知恵熱を出した。その日の夜に今日と同じ夢を見て全て思い出したのだ。
 まあ、思い出さなかった方が幸せだったなと思う。自分天才!最高!と思うことは出来なくなってしまった。
 この世界では魔法が使えて、私もいずれ使えるだろうと期待されていたがその才能は無く、計算も語学もある程度の年齢にまでなるの対応出来なくなり、いつの日か天才から小さい頃は天才だった。と過去の人となった。

 「あー、婚約相手にはあんなこと言ったし私には才能ないし、婚約破棄も近いかな」

 そんなことを考えているといきなり部屋の扉がバンッ!と開かれた。

 「お嬢様!大変です!」

 私のお世話係のリゼが汗だくで息を切らしながら部屋に入ってきた。

 「え、何?どうしたの?」
 「お嬢様、落ち着いて聞いてくださいね…。実は、ガロン様が……」
 「ガロン様が?」
 「婚約破棄をするという噂が立っているのです!」
  「・・・へぇ」

 びっくりするほど間抜けな声が出たのだけはよく覚えている。
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