冷酷王子が記憶喪失になったら溺愛してきたので記憶を戻すことにしました。

八坂

文字の大きさ
上 下
2 / 33

前世の暮らし

しおりを挟む
 今思えば日本での生活は楽しかった。特別美人という訳でもお金持ちという訳でも無かったが両親は優しかったし、友達もそれなりにいた。頭はちょっと悪くて勉強は上手くいかなかったが自分なりに努力した成果は出ていたと自負している。恋愛もぼちぼちしていたし、死ぬ直前にも彼氏はいた。

 「絵里!!!」

 前世の彼氏が当時の私の名前を叫んでいる声は今でも思い出せる。何気ない普通の日だった。

 「そろそろ受験も近いけど絵里は勉強してる?」
 「え、してるわけないじゃん!馬鹿なの?」
 「馬鹿はどっちだよ。」

 そんな他愛もない会話を楽しんでいた。

 「俺コンビニで買いたいものあるわ、ダッシュで買ってくる。」
 「おっけ~、外で待ってるね。」

 今思えばここで一緒にコンビニに入っていれば未来は違ったのかもしれない。
 ここでスマホをずっと見ていないで少し周りを見ていたら未来は違ったのかもしれない。

 「絵里!!!」

 彼氏の叫ぶ声と同時にとても大きい爆発音、身体が焼けるような熱風が私を襲った。
 その場で吹き飛んだ私は意識が朦朧とする中、周りを見渡した。車から燃え盛る炎、コンビニから人が逃げる姿、救急車や消防車を呼ぶ人、SNSにあげるであろう動画を撮っている人。あぁ、車が爆発して巻き込まれたんだなと容易に想像がついた。

 「絵里…!おい!しっかりしろ!」

 彼氏の呼ぶ声がする。
 大丈夫だよ、平気だよ。
 そう言いたかったけれど声が出なかった。
 私は血だらけになった手で彼の手を握る事しか出来なかった。
 18歳にして死んじゃうのか、まあ楽しかったからそれでもいいのかな。
 そう考えながら周りの騒音と反して私の心は異常に穏やかで静かに眠りについた。




 目を開けると数億円はかかるであろう大きなシャンデリアとゴージャスなレースのカーテンが目に入る。さっきまでの地獄絵図とは打って変わっていることにほんの少しの安堵しながらも前世の寂しさを抱えながら私は身体を起こした。

 「はぁ、懐かしい夢。」

 異世界に転生したと分かったのは生まれてすぐであった。
 周りより遥かに言葉を覚え、喋るのも早かった。幸いな事に数字や計算、記号は日本と変わらなかったのである程度は問題無く解けていた。当時の私は自分が天才なのではないかと考えながらも違和感を感じていた。
 何故知らない記号なのに解けるのだろうか。習ってないのに分かるのはおかしいんじゃないか?そんなことを幼いながらに考えていたら知恵熱を出した。その日の夜に今日と同じ夢を見て全て思い出したのだ。
 まあ、思い出さなかった方が幸せだったなと思う。自分天才!最高!と思うことは出来なくなってしまった。
 この世界では魔法が使えて、私もいずれ使えるだろうと期待されていたがその才能は無く、計算も語学もある程度の年齢にまでなるの対応出来なくなり、いつの日か天才から小さい頃は天才だった。と過去の人となった。

 「あー、婚約相手にはあんなこと言ったし私には才能ないし、婚約破棄も近いかな」

 そんなことを考えているといきなり部屋の扉がバンッ!と開かれた。

 「お嬢様!大変です!」

 私のお世話係のリゼが汗だくで息を切らしながら部屋に入ってきた。

 「え、何?どうしたの?」
 「お嬢様、落ち着いて聞いてくださいね…。実は、ガロン様が……」
 「ガロン様が?」
 「婚約破棄をするという噂が立っているのです!」
  「・・・へぇ」

 びっくりするほど間抜けな声が出たのだけはよく覚えている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】伯爵令嬢はハンサム公爵の騎士団長に恋をする

朝日みらい
恋愛
ホーランデ伯爵家のエドナは、乗馬好きな活発な令嬢である。 彼女は、ひ弱な貴族ではなく、騎士のようなたくましい令息との恋にこだわっていた。 婚約が決まらない中、伯爵領内で騎士団の訓練があることを知る。 就任したばかりの、若き騎士団長 ウィリアム。 さっそくエドナは偵察に内緒で野営地に忍び込むのだが……。 公爵でハンサムのウィリアムとの恋と、騎士団長になった過去を巡る物語。

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

処理中です...