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一章 災霊の契約者
三話 俺たちの目的
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願いを叶える。そう言われた瞬間、心臓が跳ねるのを感じた。
魔女が……俺の願いを叶える?
「……どういうことだ?」
はやる気持ちを抑えながら、問いかける。
ソファ遊びに飽きて本棚を漁っていたキュールが、手にした本を開いたまま俺たちを凝視していた。俺の願いはすなわち彼女の願いでもある。
俺たちの悲願を叶えると言われて気にならないわけがないのだ。
「先月のことだ。カンナギ ユウジを見つけた。リアルタイムで居場所も把握している」
これがやつの居場所だ。魔女が指を鳴らすと、空中にモニターが浮かび上がる。
これも亜空間魔法と同じ超高位の魔法。複写魔法だ。自分の記憶に残った映像、または自分の知っている場所を写すことが出来る。
今写っているのは後者の映像。どこかの街だった。
しかし問題はそこではない。その中央に写る剣を背負った一人の少年。
背はとりわけ高いわけではないが低くもない。透明度が高く白金に近い金髪で、若干幼さの残る顔はうっすらと笑っていた。
俺が知っているそいつよりもずっと成長していたが、間違いない。
映像越しにも伝わってくる狂気がそうだと告げていた。
「ユウジ!!!」
ダンっ!と机をたたき、俺は立ち上がる。
一口も飲んでいないティ―カップの中身がこぼれた。
「落ち着け。これは映像だ」
いきり立つ俺は、どこからか吹く風に押され、再び座らされる。
イルフィリアが放った風魔法だ。
「イルフィちゃん。これがユウジくんなのはわかったよ。でも、ユウジくんの居場所をどこで知ったの?私達が五年かかっても見つからなかったのに」
冷静さを取り戻せていない俺に代わり、キュールが尋ねた。
こちらは逆に、いやに落ち着いていた。声がいつもよりワントーン低く、喋り方に抑揚がない。だが長年連れ添ってきた俺にはわかる。この状態のキュールは冷静ではないことを。
いつものテンションを維持することが出来ないほど、気持ちが逼迫しているのだ。
彼女がこうなるのは非常に珍しい。
だが。それも致し方ない。だってカンナギ ユウジは俺たちがずっと探し続けていた敵。
俺たちはこいつを殺すために旅をしていたのだから。
「先月、急に消息がつかめたんだ。今までは私や守護災霊が全力で探そうとも気配すら悟らせなかったというのに、不思議なものだ」
魔女が困ったように息を吐いた。
「消息がつかめたって。あいつが見つかったら、いの一番に俺に知らせるっていう話じゃなかったのか。どうせ消息を掴んだのはあいつらなんだろ?」
魔女の情報網は大陸でも随一のものだろう。しかし、大陸全土を監視する守護災霊にはかなわない。情報の種類にもよるが。探し人で魔女が知っていることをあいつらが知らないとは思えない。
「そうだな。そのとおりだ」
否定しきるのは難しいと判断したのだろう。
魔女は下手な言い訳をすることなく首肯した。
「じゃあ、なんであいつらは俺にそれを言わない?」
抑えようとしても、声に怒気がはらんでしまう。
俺が渇望しても得られなかった情報をこいつらが知っていること。ましてやそれを明かすことなく、交渉の材料として使ってくる魔女に憤りを禁じ得なかった。
守護災霊はユウジの居場所を知った場合、俺に報告する義務があるのだ。
なぜなら、それが俺の願いだからだ。
災霊祭決勝戦でエルシアを破り、願いを叶える権利を得た俺は守護災霊に向けてこう言ったのだ。
『ある男の居場所を教えてほしい』と。
高いリスクを犯して叶えたい願いが、ただの探し人。
守護災霊が「本当にその程度のことでいいのか」と確認を取ってくるほど簡単な願いだったはずだ。
しかし。やつらにその願いを叶えることは出来なかった。
数日経ってもカンナギ ユウジの行方がわからないと言い出したのだ。挙句の果てに「言いにくいのだが。その者はすでに死んでいるのではないか」などとふざけたことを抜かす始末。
ありえない。アイツは俺の知らないところで野垂れ死ぬようなタマじゃない。
アイツはたった一人で俺の故郷を滅ぼしたのだ。俺の家族から複数いた災霊契約者まで。ひとり残らず皆殺しにして姿を消したのだ。俺が生き残っているのも、奇跡以外の何物でもない。
そんなやつが簡単に死ぬと思うか?ありえないだろ。
だが、どれだけ粘ってもアイツが見つかることはなかった。
だから仕方なく、『今後。もしユウジが見つかるようなことがあったら真っ先にカルラ・キュートに報告する』という願いにして妥協したのだ。
だから俺に何も言わない守護災霊共に腹が立つ。
魔女はユウジの消息がつかめたのは先月だといった。つまり、あいつらは一ヶ月以上も情報を秘匿していたということになる。
許しがたい事実だった。
「アイツの居場所が知りたい。それが俺の願いだったはずだが?」
「そうだな。だから、あいつらは約束通り、お前に伝えようとしたらしいぞ」
「どういうことだ?」
わけが分からず、俺は首をかしげた。
まさか。あいつらは俺を見つけることも出来なかったのか?
まさか。俺は別にコソコソと隠れたりはしていない。そりゃ旅をしていたのだからひっきりなしに居場所を変えていたが。守護災霊なら見つけられないこともないはずだ。
真剣に考察を繰り広げる俺を見て、魔女がニヤリと唇の端を吊り上げた。
「どうやら。カルラ・キュートの行方がつかめなかったらしい」
「……は?」
「だから。カルラ・キュートがどこにいるかわからなかったんだ。それで、あの大会にカルラを推薦した私に情報が回ってきたんだ。彼女の行方を知ってるなら、代わりに伝えてくれってね」
言い終えると。魔女はこらえきれない笑いが堰を切ったように吹き出した。
俺は呆けた声を漏らしたきり、何も言えなかった。
「つまりだな。カルラとカラサワ トーガは別人ということだ」
「別人?」
「ああ。どうやら奴らはお前の女装を本物と思い込み、そのまま成長したと勘違いしたんだ。本当はこんなごつい男なのにな」
ククク。と歯を見せて笑う魔女。
「守護災霊ですら見破れないほど、お前の女装が似合っていたということだろう」
「……そんな馬鹿な」
軽く金槌で頭を殴られたような気分だった。
「それにだ。私が本気で変声魔法に変形魔法。錯覚魔法までかけて化粧までしてやったんだ。いくら守護災霊といえど、見破れないさ」
魔女が自慢気に言った。
あの頃の俺は、魔女に弟子として世話になっていた。
災霊祭について知ったのも、魔女に聞いてのことなのだ。ついでに言えばユウジを追うなら俺が死んでいると思わせた方が良いとアドバイスしてくれたのも魔女だ。
あのときは「女装なんて……」と不満に思っていたが。
今はそうしてよかったと思っている。
もしあそこでカラサワトーガとして優勝してしまっていたら、その後の旅もやりにくかっただろうから。
しかし、まさか。それが今になって裏目に出るとは微塵も考えていなかった。
「っと。話が脱線してしまったな。とにかくだ。私はカルラにカンナギ ユウジの居場所を伝えなければならない。しかし目の前にいるのはトーガ。お前だ」
嫌な予感がする。
「何が言いたいんだ?」
この後言われることをなんとなく察しながらも、俺は尋ねた。
「情報がほしければ災霊祭に出ろ。ということだ」
予感が現実となってしまった。
魔女が……俺の願いを叶える?
「……どういうことだ?」
はやる気持ちを抑えながら、問いかける。
ソファ遊びに飽きて本棚を漁っていたキュールが、手にした本を開いたまま俺たちを凝視していた。俺の願いはすなわち彼女の願いでもある。
俺たちの悲願を叶えると言われて気にならないわけがないのだ。
「先月のことだ。カンナギ ユウジを見つけた。リアルタイムで居場所も把握している」
これがやつの居場所だ。魔女が指を鳴らすと、空中にモニターが浮かび上がる。
これも亜空間魔法と同じ超高位の魔法。複写魔法だ。自分の記憶に残った映像、または自分の知っている場所を写すことが出来る。
今写っているのは後者の映像。どこかの街だった。
しかし問題はそこではない。その中央に写る剣を背負った一人の少年。
背はとりわけ高いわけではないが低くもない。透明度が高く白金に近い金髪で、若干幼さの残る顔はうっすらと笑っていた。
俺が知っているそいつよりもずっと成長していたが、間違いない。
映像越しにも伝わってくる狂気がそうだと告げていた。
「ユウジ!!!」
ダンっ!と机をたたき、俺は立ち上がる。
一口も飲んでいないティ―カップの中身がこぼれた。
「落ち着け。これは映像だ」
いきり立つ俺は、どこからか吹く風に押され、再び座らされる。
イルフィリアが放った風魔法だ。
「イルフィちゃん。これがユウジくんなのはわかったよ。でも、ユウジくんの居場所をどこで知ったの?私達が五年かかっても見つからなかったのに」
冷静さを取り戻せていない俺に代わり、キュールが尋ねた。
こちらは逆に、いやに落ち着いていた。声がいつもよりワントーン低く、喋り方に抑揚がない。だが長年連れ添ってきた俺にはわかる。この状態のキュールは冷静ではないことを。
いつものテンションを維持することが出来ないほど、気持ちが逼迫しているのだ。
彼女がこうなるのは非常に珍しい。
だが。それも致し方ない。だってカンナギ ユウジは俺たちがずっと探し続けていた敵。
俺たちはこいつを殺すために旅をしていたのだから。
「先月、急に消息がつかめたんだ。今までは私や守護災霊が全力で探そうとも気配すら悟らせなかったというのに、不思議なものだ」
魔女が困ったように息を吐いた。
「消息がつかめたって。あいつが見つかったら、いの一番に俺に知らせるっていう話じゃなかったのか。どうせ消息を掴んだのはあいつらなんだろ?」
魔女の情報網は大陸でも随一のものだろう。しかし、大陸全土を監視する守護災霊にはかなわない。情報の種類にもよるが。探し人で魔女が知っていることをあいつらが知らないとは思えない。
「そうだな。そのとおりだ」
否定しきるのは難しいと判断したのだろう。
魔女は下手な言い訳をすることなく首肯した。
「じゃあ、なんであいつらは俺にそれを言わない?」
抑えようとしても、声に怒気がはらんでしまう。
俺が渇望しても得られなかった情報をこいつらが知っていること。ましてやそれを明かすことなく、交渉の材料として使ってくる魔女に憤りを禁じ得なかった。
守護災霊はユウジの居場所を知った場合、俺に報告する義務があるのだ。
なぜなら、それが俺の願いだからだ。
災霊祭決勝戦でエルシアを破り、願いを叶える権利を得た俺は守護災霊に向けてこう言ったのだ。
『ある男の居場所を教えてほしい』と。
高いリスクを犯して叶えたい願いが、ただの探し人。
守護災霊が「本当にその程度のことでいいのか」と確認を取ってくるほど簡単な願いだったはずだ。
しかし。やつらにその願いを叶えることは出来なかった。
数日経ってもカンナギ ユウジの行方がわからないと言い出したのだ。挙句の果てに「言いにくいのだが。その者はすでに死んでいるのではないか」などとふざけたことを抜かす始末。
ありえない。アイツは俺の知らないところで野垂れ死ぬようなタマじゃない。
アイツはたった一人で俺の故郷を滅ぼしたのだ。俺の家族から複数いた災霊契約者まで。ひとり残らず皆殺しにして姿を消したのだ。俺が生き残っているのも、奇跡以外の何物でもない。
そんなやつが簡単に死ぬと思うか?ありえないだろ。
だが、どれだけ粘ってもアイツが見つかることはなかった。
だから仕方なく、『今後。もしユウジが見つかるようなことがあったら真っ先にカルラ・キュートに報告する』という願いにして妥協したのだ。
だから俺に何も言わない守護災霊共に腹が立つ。
魔女はユウジの消息がつかめたのは先月だといった。つまり、あいつらは一ヶ月以上も情報を秘匿していたということになる。
許しがたい事実だった。
「アイツの居場所が知りたい。それが俺の願いだったはずだが?」
「そうだな。だから、あいつらは約束通り、お前に伝えようとしたらしいぞ」
「どういうことだ?」
わけが分からず、俺は首をかしげた。
まさか。あいつらは俺を見つけることも出来なかったのか?
まさか。俺は別にコソコソと隠れたりはしていない。そりゃ旅をしていたのだからひっきりなしに居場所を変えていたが。守護災霊なら見つけられないこともないはずだ。
真剣に考察を繰り広げる俺を見て、魔女がニヤリと唇の端を吊り上げた。
「どうやら。カルラ・キュートの行方がつかめなかったらしい」
「……は?」
「だから。カルラ・キュートがどこにいるかわからなかったんだ。それで、あの大会にカルラを推薦した私に情報が回ってきたんだ。彼女の行方を知ってるなら、代わりに伝えてくれってね」
言い終えると。魔女はこらえきれない笑いが堰を切ったように吹き出した。
俺は呆けた声を漏らしたきり、何も言えなかった。
「つまりだな。カルラとカラサワ トーガは別人ということだ」
「別人?」
「ああ。どうやら奴らはお前の女装を本物と思い込み、そのまま成長したと勘違いしたんだ。本当はこんなごつい男なのにな」
ククク。と歯を見せて笑う魔女。
「守護災霊ですら見破れないほど、お前の女装が似合っていたということだろう」
「……そんな馬鹿な」
軽く金槌で頭を殴られたような気分だった。
「それにだ。私が本気で変声魔法に変形魔法。錯覚魔法までかけて化粧までしてやったんだ。いくら守護災霊といえど、見破れないさ」
魔女が自慢気に言った。
あの頃の俺は、魔女に弟子として世話になっていた。
災霊祭について知ったのも、魔女に聞いてのことなのだ。ついでに言えばユウジを追うなら俺が死んでいると思わせた方が良いとアドバイスしてくれたのも魔女だ。
あのときは「女装なんて……」と不満に思っていたが。
今はそうしてよかったと思っている。
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しかし、まさか。それが今になって裏目に出るとは微塵も考えていなかった。
「っと。話が脱線してしまったな。とにかくだ。私はカルラにカンナギ ユウジの居場所を伝えなければならない。しかし目の前にいるのはトーガ。お前だ」
嫌な予感がする。
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