re:バレットインソード

黒飛翼

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一章 災霊の契約者

一話 湖での災難

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災霊。はるか昔、突如として現れた特殊個体である。
彼らは生物として決まった形を持たず、各々が犬や猫などの様々な動物を模した姿を持っている。
彼らの最大の特徴は霊力と呼ばれる力を用い、様々な奇跡を起こせることだ。水を作り出したり炎を生み出したり。誰が言い出したのか、その力は魔法と呼ばれるようになった。
そしてもう一つ。彼らは気に入った女性と契約を結び、その力を貸し与えることがある。
なぜ女性限定なのか。その理由は明らかになっていない。
確かなのは、災霊と契約できる者は女性のみということである。


そして、本当なら絶対に存在しないはずの男の契約者である俺ーーカラサワ トーガは、とある湖の前で災厄に巻き込まれていた。

あぁ……なんでこんなことになってんだろ?
俺は今から憂鬱な奴に会いにいくために憂鬱なところに行かなきゃいけないからひどく憂鬱だったってのに。

だから、その前に綺麗な湖を見つけたからリフレッシュのつもりで水浴びしようと思っただけなのにさ。
なんでそこに先客がいるんだよ。

「お、男………?」

ちょうど陸に上がろうとしていた女の子が、自分の裸体を隠すこともなく呆けた様子で呟く。

腰くらいまでの湿り気を帯びた透き通るような赤い髪の毛と、ルビーのように赤い瞳が特徴的な女の子だ。
年の頃は十代半ばといったころか。やや子供っぽい顔つきだが、間違いなく美少女の類に入るだろう。
そんな美少女が全裸で目をぱちくりさせている。
まずい。非常にまずい。

「………悪かった。じゃ、またな」

事態が悪化する前に、俺は手を振って歩き出した。
こういう時、問答無用で悪者扱いされるのは必ず男だから、すぐ逃げるに越したことはない。

「待ちなさいっ!」

しかし、怒号と共に飛んできた石がそれを許してくれなかった。

「………おいおい、あぶねーだろ。いきなり石なんて投げてくんじゃねーよ」

見事なコントロールで後頭部めがけて飛んできた拳くらいの石を、俺は軽く首をひねって避ける。

………今の、下手したら死んでたぞ。
確かに水浴び。つまりは風呂を覗いた俺が全面的に悪いと思う(悪気はない)
でも、殺すのはやり過ぎだろ。何事も命あっての物種なんだからさ。

「避けてんじゃないわよ! なんで男がいるのよ!? 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ!」

少女は裸体が丸見えなのも構わずに石を拾っては投げてを繰り返した。

その一投一投が、俺の顔面めがけて正確に、かつ早く飛んでくる。
どうやら運動神経がかなりいいようだ。
今は逆に、そのおかげで避けるのは容易だった。

「お前、自分の状態考えろよ! 今やるべきことをしろよ!!」

ひょいひょいと石をかわしながら、俺は叫んだ。

「うるっさいわよ! 魔災霊と男は抹殺って教わってるんだから! ………んにゃぁああ!!! 避けてんじゃないわよ!」

しかし、少女は全く聞いてくれない。


それどころか、湖のそばに置いてあった撃剣を拾って少女が切りかかってきた。撃剣とは銃と剣の両方の機能が備わったハイスペックな軍用武器である。
丸腰の俺の脇腹をめがけて、躊躇のない一閃。
急所は外されているあたり、一応殺してはまずいという常識があるのだろう。もちろん、まともに喰らえば重傷を追うことに変わりはないが。

「………おお、いい太刀筋だ」

俺は最小限の動きで避けた。

「避けないでよ!」

叫びながら、少女は更に斬撃を重ねてくる。無駄が少ない良い剣筋ではあったが、惜しい。そのすべてが急所を外されていた。
俺から言わせれば、その配慮がすでに無駄な動きだ。
落ち着いて、ひとつひとつ躱していく。

「なんで……当たらないの!?」

空を切る太刀が増えていくごとに、少女の顔に焦りの色が現れる。
彼女の腕は素晴らしい。そもそも銃と魔法が幅を利かせるこの時代に、剣を使える者自体が珍しいのだ。

だが、俺にとってはこの程度の剣である。ましてや殺さぬよう手加減された剣など、当たるはずもない。

「………はい、終了」

「死ねぇっ………っ!? きゃあ!!!」

攻撃を避けながら少女を近くの木までおびき寄せると、オレはあえて隙を見せることで力のこもった斬撃を誘発した。

そしてそれをギリギリで躱すことで、撃剣を大木にめり込ませる。

見事に木にめり込んだ剣を抜こうとしてしまった少女の両手と柄を、水浴び用に持っていたタオルで縛る。

残念。そこは剣を捨てて間合いを取るべきだったのに。
とにもかくにも、これで拘束完了である。

「ほ、解けない!」

気が動転している少女は気づいていないが、少し頑張れば解けるほどの緩めの拘束なので、落ち着いて対処すればすぐに抜け出せるだろう。

「ほら、これやるからそこでしばらく大人しくしてろ」

さすがに裸の少女を縛ったまま置いてくのは気が引けたので、ちょうど羽織っていた上着を少女に被せてやる。
もう二度と会うこともないだろうが、服の代わりはたくさんある。落ち着いたら捨てるなり何なりしてもらえばいい。

そして俺は何も見なかったことにして歩きだした。

「ちょっ! 待ちなさーーっ!? いやぁああああーーーー!!!!!」

ようやく自分がどういう状態かを把握したらしい少女の悲鳴が背中に突き刺さった。
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