こんな世界にありふれた、俺と彼女の話

亜瑠真白

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彼女の話

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 外に出ると、空にはたくさんの星が見えた。
「寒くない?」
「いえ、大丈夫です……」
 ファイルを漁っているところを支部長に見られたのは良くない。処罰もありえるかも……
「私達のことが気になっていたみたいだから、まずは私の話を聞いてもらおうと思ってね。他の隊員の事情を私から勝手に話すことはできないからさ」
 武田支部長の目線に促されて私は近くのベンチに腰掛けた。支部長も隣に座る。
「私は前まで自衛隊に所属していたんだ。でもPBNの襲来があって、自衛隊の戦力ではPBNに対抗できないって分かると、混乱も相まって自衛隊は事実上の解散になった。その後、特組が発足することになって、私はすぐに入隊を決めたんだ。自衛隊にいた頃から多くの人を守りたいっていう思いはずっと持っていたからね。トレーニングを終えて、配属の希望を聞かれたとき、私はこの第六支部を志望したんだ。同期からは嘲笑されたよ。そんな腰抜けだとは思わなかったってね。知っての通り、第六支部の管轄地区は東京の全支部の中で最もPBNの出現率が低いから」
 武田支部長は乾いたように笑った。
「私はね、別に命が惜しくてここを志望したわけじゃないんだよ。特組に入隊した時からとっくに覚悟はできていた。そうじゃなくて……第六支部の管轄内に妻と娘がいるんだ。同じ命を懸けるなら、自分の大切な人を守っているんだって誇りをもって戦いたい。そう思っているだけなんだ。だから周りから腰抜けだなんだって言われても、そんなことはどうだっていいんだよ」
 そう言って少し寂しそうに微笑んだ。
 この人は……私と同じなんだ。
「私も同じです。恋人がここの管轄内にいるかもしれなくて、それで志望したんです」
 言葉にしたら抑え込んでいた思いが止まらなくなった。
「突然行方が分からなくなって、心当たりもなくって……」
 五月の暖かい日だった。いつものように待ち合わせ場所に行ったら成海の姿はなくて、代わりに紙袋が置いてあった。中にはボイスレコーダーとお菓子が入っていた。  
 ボイスレコーダーは何故か録音中になっていて、仕方なく録音を止めて再生してみるとたった一言だけが残されていた。一体どうしたんだろう。それにこのお菓子だって……配給が始まってから一度も目にしたことはなかった。成海のシェルターでも配給はなかったはず。そう考えるとわざわざどこかのシェルターまでもらいに行ってくれたんだ。そうだ……きっと私の誕生日が近いから。成海の考えそうなことだ。
でもそれなら直接渡してくれればいいのに。
 嫌な予感がした。翌日、私は成海のいるシェルターへ向かった。成海の婚約者だと嘘を言ってシェルターの管理者に成海の情報を調べてもらった。成海は……もうそこにいなかった。
「彼がシェルターを出るときに手続きをした管理者の人が教えてくれたんです。山井県までの地図はないかと聞かれたって。だから彼は山井県にいると信じて、彼を守るためにここにいます」
 第六支部は東京都の西部と山井県の一部を管轄している。武田支部長が言っていた通り、ここの管轄はPBNがそう現れないし、山井県は一度も被害を受けていない。だから成海が本当に山井県にいるなら、少し安心できる。
 成海は機械が苦手だった。もしかしたらボイスレコーダーには別れの言葉を残そうと思っていたのかもしれない。でも操作を間違えて、一番愛しくて一番残酷な言葉を残していった。
 ずっと前だけを向いてここまでやってきたけど、時々不安になるよ。私のしていることは本当に成海を守ることに繋がっているのかな。早く会いたいよ……
「そっか、それは辛かったね」
 武田支部長は私の頭の上にポンと手をのせた。
「話してくれてありがとう。一緒に頑張ろうね」
「……はい」
 私は涙がこぼれないように星空を見上げた。
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