4 / 11
彼女の話
1
しおりを挟む
『愛してる……』
最愛の彼はその一言を残して姿を消した。
「本日から東京第六支部に配属になりました、麻生佳奈です」
私は先輩隊員らに敬礼した。
「ようこそ第六支部へ。君の噂は聞いているよ。トレーニングを首席でクリアしたんだってね。そんな優秀な君がうちの支部に来てくれて嬉しいよ。私はここの支部長の武田和弘だ。よろしくね」
武田支部長は30代前半くらいで体格もいい。支部長クラスにわりに温厚そうな雰囲気で、トレーニングの教官たちとは大違いだ。
私は差し出された手を取る。
「よろしくお願いします」
「武田さんよぅ、そんな当たり障りのない挨拶はいいから、ズバッと聞いちゃえばいいじゃないですか。そんな優秀なのになんでうちの支部を志望したのかってね」
そう口を挟んだ男は私と同い年くらい。プリン色の頭をした、いかにもチャラチャラした男。
「それは……」
「はいはい。人には色々事情があるんだから、詮索しないようにね。杉野君だってつつかれたくない過去の一つや二つくらいあるでしょ」
武田支部長にそう言われて、杉野さんは黙った。
「失礼なところがあってごめんね。彼は杉野英斗君。こんな見た目でも腕は確かだから安心して。そして彼女は……」
「小森みさとです。よろしくお願いします」
黒髪の美しい女性がお辞儀をした。こんな時代じゃなかったらモデルにスカウトされそうだ。
「さて、全員の自己紹介が済んだところでこの建物の案内をしようかな。小森さん、頼んだよ」
「はい。では案内します」
私は後に続いた。
「一階は支部室とお風呂場とお手洗い。二階は寝室です」
一階を見て回り、最後に訪れた寝室は布団が二組置かれた洋室だった。二組ってことは今日から小森さんと相部屋か。まあシェルターでは女子部屋で十数人と雑魚寝してたわけだから、今更気にすることもないんだけど。
それにしても小森さんって華奢で美人だなぁ……腕も細いし。あんな腕で剣を振れるのかな。それに杉野さんだって、チャラチャラしてて戦闘する姿が想像できない。武田支部長は褒めていたけど、優しそうだし持ち上げているだけかも。いくら第六支部の管轄地区が他と比べて特殊だからって、まともに戦力になりそうなのが支部長だけって本当に大丈夫なのかな……この支部にいて、私は強くなれるのかな。
その夜、私は隣で寝ている小森さんを起こさないようにこっそり布団から起き出し、一階の支部室へ向かった。懐中電灯で照らしながら壁際の本棚を探していると、目的のファイルが見つかった。
『東京第六支部隊員情報』と書かれたそのファイルを開くと、一番に杉野さんの情報が見つかった。
杉野英斗。23歳。東京第一支部所属であったが、規律違反により四月から東京第六支部へ移動。
東京第一支部って、PBN駆除の最前線、湾岸地区を管轄しているところだ。
戦闘回数56って……すごい。武田支部長が言っていたことも嘘じゃなかったのか。それにしても『規律違反により移動』って一体何をしたんだろう。
ページをめくると、小森さんの情報があった。
小森みさと。24歳。三月から東京第六支部所属。
「戦闘回数、ゼロ……」
その時、顔にライトが当たった。
「詮索しないようにって昼間に言ったんだけどね」
そこには武田支部長の姿があった。
「少し外で話そうか」
最愛の彼はその一言を残して姿を消した。
「本日から東京第六支部に配属になりました、麻生佳奈です」
私は先輩隊員らに敬礼した。
「ようこそ第六支部へ。君の噂は聞いているよ。トレーニングを首席でクリアしたんだってね。そんな優秀な君がうちの支部に来てくれて嬉しいよ。私はここの支部長の武田和弘だ。よろしくね」
武田支部長は30代前半くらいで体格もいい。支部長クラスにわりに温厚そうな雰囲気で、トレーニングの教官たちとは大違いだ。
私は差し出された手を取る。
「よろしくお願いします」
「武田さんよぅ、そんな当たり障りのない挨拶はいいから、ズバッと聞いちゃえばいいじゃないですか。そんな優秀なのになんでうちの支部を志望したのかってね」
そう口を挟んだ男は私と同い年くらい。プリン色の頭をした、いかにもチャラチャラした男。
「それは……」
「はいはい。人には色々事情があるんだから、詮索しないようにね。杉野君だってつつかれたくない過去の一つや二つくらいあるでしょ」
武田支部長にそう言われて、杉野さんは黙った。
「失礼なところがあってごめんね。彼は杉野英斗君。こんな見た目でも腕は確かだから安心して。そして彼女は……」
「小森みさとです。よろしくお願いします」
黒髪の美しい女性がお辞儀をした。こんな時代じゃなかったらモデルにスカウトされそうだ。
「さて、全員の自己紹介が済んだところでこの建物の案内をしようかな。小森さん、頼んだよ」
「はい。では案内します」
私は後に続いた。
「一階は支部室とお風呂場とお手洗い。二階は寝室です」
一階を見て回り、最後に訪れた寝室は布団が二組置かれた洋室だった。二組ってことは今日から小森さんと相部屋か。まあシェルターでは女子部屋で十数人と雑魚寝してたわけだから、今更気にすることもないんだけど。
それにしても小森さんって華奢で美人だなぁ……腕も細いし。あんな腕で剣を振れるのかな。それに杉野さんだって、チャラチャラしてて戦闘する姿が想像できない。武田支部長は褒めていたけど、優しそうだし持ち上げているだけかも。いくら第六支部の管轄地区が他と比べて特殊だからって、まともに戦力になりそうなのが支部長だけって本当に大丈夫なのかな……この支部にいて、私は強くなれるのかな。
その夜、私は隣で寝ている小森さんを起こさないようにこっそり布団から起き出し、一階の支部室へ向かった。懐中電灯で照らしながら壁際の本棚を探していると、目的のファイルが見つかった。
『東京第六支部隊員情報』と書かれたそのファイルを開くと、一番に杉野さんの情報が見つかった。
杉野英斗。23歳。東京第一支部所属であったが、規律違反により四月から東京第六支部へ移動。
東京第一支部って、PBN駆除の最前線、湾岸地区を管轄しているところだ。
戦闘回数56って……すごい。武田支部長が言っていたことも嘘じゃなかったのか。それにしても『規律違反により移動』って一体何をしたんだろう。
ページをめくると、小森さんの情報があった。
小森みさと。24歳。三月から東京第六支部所属。
「戦闘回数、ゼロ……」
その時、顔にライトが当たった。
「詮索しないようにって昼間に言ったんだけどね」
そこには武田支部長の姿があった。
「少し外で話そうか」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。



社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる