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ノーマルモードがデスモード
ペンギン可愛いです
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昼食を終え、私達は再び順路に戻った。斗真君が館内マップを開く。
「次は海獣のコーナーみたいですね」
「いいねいいね! 斗真君は何好き?」
「ペンギン可愛いです」
「あー」
脳内に斗真君とペンギンの姿が浮かぶ。一羽のペンギンにじゃれつかれて、困ったように、でも嬉しそうに笑う斗真君。可愛いと可愛いの組合せって最強すぎるでしょ……!
「斗真君、何羽も集まっちゃったら私がどうにか対処するからね!」
斗真君が揉みくちゃにされるのは流石にペンギンといえども許可できない。
「何の話ですか?」
不思議そうに首を傾げる斗真君。そうだ、普通はペンギンと触れ合ったり出来ないんだった。つい妄想が爆発してしまった……
「ごめん、何でもない。ペンギン楽しみだね」
「?……そうですね」
順路に沿って進んでいくと、ペンギンがいるコーナーについた。岩場のある水槽には30羽以上いそうなペンギン達が、歩いたり泳いだりしている。
「可愛い……!」
「ここにも音声案内があるみたいですよ」
「それは聴かないと!」
私はヘッドホンを装着し、ボタンを押した。
『ここは私、大沢愛実が紹介するよ。この水槽にいるのはケープペンギン。ペンギンって南極とか、寒い場所に住んでいるイメージがあるかもしれないけど、このケープペンギンは南アフリカ大陸の沿岸部に住んでいるの。名前についている「ケープ」っていうのも、南アフリカのケープタウンからついたって言われているんだ。パタパタ歩く様子が可愛い……で、でも! 私の一番可愛いは小鳥遊らむねちゃんだもん!……って、本人に聞こえてたらどうしよう!』
愛実ちゃん……いつかその想いを素直に伝えられる時は来るのかな……?
私はヘッドホンを外した。そして斗真君の方を見る。
「もう少し、ここの水槽を見ててもいい?」
「もちろんです」
その返事を聞いて、視線を水槽に移す。こういう場所はいろんな物語があって見ていて飽きない。
「ねえ、斗真君見て! あっちの岩にいる三羽、ポーズ取ってるみたいじゃない?」
「本当だ。面白いですね」
「そっちのプールにいる子は岩場に上がれなくてバタバタしてる!」
「うわぁ、惜しいですね。頑張れ!」
「おお! よかった上がれて。ふふ……みんな可愛いなぁ」
「僕はそんな菜々子さんが一番可愛いです」
完全に油断していて一瞬言葉は耳から通り過ぎて行った。
「……え!?」
「もう少し見ていきますか? それとも先に進みます?」
「え、あ……えっと、じゃあ進みます」
「分かりました。次はイルカのプールみたいですよ。楽しみですね」
「そ、そうだね……」
これだから天然人たらしは……突然放たれた弾丸に、鼓動が早くなった。
順路に沿って館内を見て回り、さらにはらむねちゃんの音声案内をおかわりするためにもう一周し、そろそろ出発しようという話になった。ガラス張りのエントランスホールには夕陽のオレンジ色が差し込んでいる。
斗真君がスマホから顔をあげた。
「もうすぐバスが来るみたいです」
「了解。それならちょっと急ごうか」
そう言って踏み出したその時、右足のかかとがジンジンと痛むのを感じた。見るとパンプスに血がついている。
あー、やっぱり慣れない靴なんて履いてくるんじゃなかったなぁ……さっきまではアドレナリンがばんばん出てたから気づかなかったけど、一度意識に入ると踏み出すたびに痛む。
「どうしたんですか?」
歩みの遅くなった私を不思議に思って斗真君が立ち止まる。
「いやぁ……ちょっと靴擦れしちゃって」
カッコ悪いなぁ……勝手に張り切って、結局こうやって迷惑をかけている。大人なのに、恥ずかしい。
斗真君は私の足元に目を向けた。
「え、うわぁ! 血、出てるじゃないですか! 痛いですよね!?」
「あー、大丈夫。絆創膏持ってるし、大きい方のバッグにはスニーカーも入ってるから。とりあえず、そこのベンチで絆創膏貼ろうかな」
私はちょうどすぐ近くにあったベンチに腰掛けた。ボストンバッグは水族館の入り口にあったロッカーに預けてるから、後で履き替えよう。ハンドバッグから絆創膏を取り出すと、斗真君が目の前に跪いた。そして私に向かって手を差し出す。
「僕がやります」
「え!? いいよそんなの!」
「僕がもっと気を付けていれば……菜々子さんは熱中すると他に意識が向かなくなるって知ってたのに……」
それはちょっとひどくない?
斗真君は靴に手を添えて私の右足を優しく持ち上げた。
「あっ、そんな! 汚いから!」
「本当に嫌ならやめます。でも菜々子さんスカートですし、自分でやるよりも早くできますよ」
ぐぅ……そう言われると弱い。
「……じゃあ、お願い」
「はい」
斗真君は私の靴を脱がせ、自分の膝の上に乗せた。わ、私の足が、斗真君の上に…!
そして絆創膏を傷口に添えた。
「菜々子さん……」
丁寧にテープを貼りながら口を開く。
「今日、とっても綺麗です。もっと早く言いたかったんですけど、なかなか言い出せなくて……」
その声はいつもより低く響いた。私から斗真君の表情は見えない。ねえ今、どんな顔してるの……?
吸い寄せられるように手を伸ばした。
「よし、出来ましたよ!」
その時、斗真君が顔をあげた。伸ばしていた手が止まる。
「どうかしました?」
「ううん、何でもない! ありがとう!」
うわぁ、自分、今何しようとしてた!?
靴を履いて立ち上がった私に、斗真君が閃いたような顔を向けた。
「そうだ! 僕がカバン持ってきましょうか? ああ、でもそれだと菜々子さんを一人にしておくことになっちゃうな。知らない男の人に声かけられたりしたら困るから……」
さすがにナンパはないんじゃないか?
「それならいっそ、僕が菜々子さんをお姫様抱っこして……」
「歩けるから! 大丈夫!」
斗真君が絆創膏を貼ってくれたおかげで、歩いても痛みはなくなった。過剰に心配する斗真君だったが、私の歩く様子を見てひとまず落ち着いたらしい。
水族館を後にし、私達はいよいよ目的の旅館へ向かった。
「次は海獣のコーナーみたいですね」
「いいねいいね! 斗真君は何好き?」
「ペンギン可愛いです」
「あー」
脳内に斗真君とペンギンの姿が浮かぶ。一羽のペンギンにじゃれつかれて、困ったように、でも嬉しそうに笑う斗真君。可愛いと可愛いの組合せって最強すぎるでしょ……!
「斗真君、何羽も集まっちゃったら私がどうにか対処するからね!」
斗真君が揉みくちゃにされるのは流石にペンギンといえども許可できない。
「何の話ですか?」
不思議そうに首を傾げる斗真君。そうだ、普通はペンギンと触れ合ったり出来ないんだった。つい妄想が爆発してしまった……
「ごめん、何でもない。ペンギン楽しみだね」
「?……そうですね」
順路に沿って進んでいくと、ペンギンがいるコーナーについた。岩場のある水槽には30羽以上いそうなペンギン達が、歩いたり泳いだりしている。
「可愛い……!」
「ここにも音声案内があるみたいですよ」
「それは聴かないと!」
私はヘッドホンを装着し、ボタンを押した。
『ここは私、大沢愛実が紹介するよ。この水槽にいるのはケープペンギン。ペンギンって南極とか、寒い場所に住んでいるイメージがあるかもしれないけど、このケープペンギンは南アフリカ大陸の沿岸部に住んでいるの。名前についている「ケープ」っていうのも、南アフリカのケープタウンからついたって言われているんだ。パタパタ歩く様子が可愛い……で、でも! 私の一番可愛いは小鳥遊らむねちゃんだもん!……って、本人に聞こえてたらどうしよう!』
愛実ちゃん……いつかその想いを素直に伝えられる時は来るのかな……?
私はヘッドホンを外した。そして斗真君の方を見る。
「もう少し、ここの水槽を見ててもいい?」
「もちろんです」
その返事を聞いて、視線を水槽に移す。こういう場所はいろんな物語があって見ていて飽きない。
「ねえ、斗真君見て! あっちの岩にいる三羽、ポーズ取ってるみたいじゃない?」
「本当だ。面白いですね」
「そっちのプールにいる子は岩場に上がれなくてバタバタしてる!」
「うわぁ、惜しいですね。頑張れ!」
「おお! よかった上がれて。ふふ……みんな可愛いなぁ」
「僕はそんな菜々子さんが一番可愛いです」
完全に油断していて一瞬言葉は耳から通り過ぎて行った。
「……え!?」
「もう少し見ていきますか? それとも先に進みます?」
「え、あ……えっと、じゃあ進みます」
「分かりました。次はイルカのプールみたいですよ。楽しみですね」
「そ、そうだね……」
これだから天然人たらしは……突然放たれた弾丸に、鼓動が早くなった。
順路に沿って館内を見て回り、さらにはらむねちゃんの音声案内をおかわりするためにもう一周し、そろそろ出発しようという話になった。ガラス張りのエントランスホールには夕陽のオレンジ色が差し込んでいる。
斗真君がスマホから顔をあげた。
「もうすぐバスが来るみたいです」
「了解。それならちょっと急ごうか」
そう言って踏み出したその時、右足のかかとがジンジンと痛むのを感じた。見るとパンプスに血がついている。
あー、やっぱり慣れない靴なんて履いてくるんじゃなかったなぁ……さっきまではアドレナリンがばんばん出てたから気づかなかったけど、一度意識に入ると踏み出すたびに痛む。
「どうしたんですか?」
歩みの遅くなった私を不思議に思って斗真君が立ち止まる。
「いやぁ……ちょっと靴擦れしちゃって」
カッコ悪いなぁ……勝手に張り切って、結局こうやって迷惑をかけている。大人なのに、恥ずかしい。
斗真君は私の足元に目を向けた。
「え、うわぁ! 血、出てるじゃないですか! 痛いですよね!?」
「あー、大丈夫。絆創膏持ってるし、大きい方のバッグにはスニーカーも入ってるから。とりあえず、そこのベンチで絆創膏貼ろうかな」
私はちょうどすぐ近くにあったベンチに腰掛けた。ボストンバッグは水族館の入り口にあったロッカーに預けてるから、後で履き替えよう。ハンドバッグから絆創膏を取り出すと、斗真君が目の前に跪いた。そして私に向かって手を差し出す。
「僕がやります」
「え!? いいよそんなの!」
「僕がもっと気を付けていれば……菜々子さんは熱中すると他に意識が向かなくなるって知ってたのに……」
それはちょっとひどくない?
斗真君は靴に手を添えて私の右足を優しく持ち上げた。
「あっ、そんな! 汚いから!」
「本当に嫌ならやめます。でも菜々子さんスカートですし、自分でやるよりも早くできますよ」
ぐぅ……そう言われると弱い。
「……じゃあ、お願い」
「はい」
斗真君は私の靴を脱がせ、自分の膝の上に乗せた。わ、私の足が、斗真君の上に…!
そして絆創膏を傷口に添えた。
「菜々子さん……」
丁寧にテープを貼りながら口を開く。
「今日、とっても綺麗です。もっと早く言いたかったんですけど、なかなか言い出せなくて……」
その声はいつもより低く響いた。私から斗真君の表情は見えない。ねえ今、どんな顔してるの……?
吸い寄せられるように手を伸ばした。
「よし、出来ましたよ!」
その時、斗真君が顔をあげた。伸ばしていた手が止まる。
「どうかしました?」
「ううん、何でもない! ありがとう!」
うわぁ、自分、今何しようとしてた!?
靴を履いて立ち上がった私に、斗真君が閃いたような顔を向けた。
「そうだ! 僕がカバン持ってきましょうか? ああ、でもそれだと菜々子さんを一人にしておくことになっちゃうな。知らない男の人に声かけられたりしたら困るから……」
さすがにナンパはないんじゃないか?
「それならいっそ、僕が菜々子さんをお姫様抱っこして……」
「歩けるから! 大丈夫!」
斗真君が絆創膏を貼ってくれたおかげで、歩いても痛みはなくなった。過剰に心配する斗真君だったが、私の歩く様子を見てひとまず落ち着いたらしい。
水族館を後にし、私達はいよいよ目的の旅館へ向かった。
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