上 下
38 / 46
ノーマルモードがデスモード

あはは……

しおりを挟む
 バスの中はがらんとしていて、私達は二人掛けの席に座った。
 う、わぁ……距離が、距離が近い! バスが揺れると肩が触れて……これは合法ですか!?
「今日はいい天気ですね」
 窓側の斗真君が言う。
「う、うん! そうだね」
 窓の外に目を向けると綺麗な秋晴れが広がっている。
「もし雨だったら行けない場所もあったのでよかったです」
「そうだったんだ。今日はどこに行くの?」
 今日まで二人で会って相談する時間が取れなかったから、旅行プランはほとんど斗真君が考えてくれた。「せめてなにか仕事を……」をお願いして宿の予約は私に任せてもらった。指定された温泉街はうちから電車で二時間くらいの場所で、プランの詳細は聞いていない分、手がかりはそれだけだ。
「秘密です。でも、きっと気に入ってもらえると思います」
「そっか。じゃあ楽しみにしてるね」
「はい」
 その時、バスが大きく揺れた。バランスを崩して斗真君の肩に寄りかかってしまう。
「ごめん!」
 慌てて距離を取る。
「大丈夫ですよ」
 そこで会話が途切れる。こんなドキドキした気持ちのまま黙ってなんていられないよ。せめて何か話して気持ちを紛らわせないと……何か話……
「そ、そうだ斗真君、これからどこに行くの?」
「その話、さっきしたばっかりですよ?」
 斗真君が不思議そうに私の顔を見る。私のバカ!
「そんなに楽しみにしてもらえて嬉しいですけど、着いてからのお楽しみです」
「そうだよね。つい気になっちゃって。あはは……」
 こんな調子で一泊二日、本当に大丈夫なんだろうか…

「次で降りますよ」
 斗真君に促されてバスを降りると、そこには横に長い灰色の建物があった。きっと奥行きもあるから、建物の中は相当広いんだろう。ショッピング施設……? いやでも建物の壁にお店の看板とか何にも出てないし……
「入り口はこっちです」
「あ、うん!」
 入り口の前に行くと、上に看板がついていた。
『アクアピアへようこそ!』
「もしかして水族館?」
「はい。菜々子さんと一緒に来たくて」
 水族館かぁ……確かにデートの定番スポットだよね。昔は家族でよく行ってたし、生き物見るのは好きだけど、何話したらいいのかなぁ!? 世の男女は水族館で一体どんな話をしてるわけ!? 「ペンギン可愛い♡」「君の方が可愛いよ♡」的な!?
いやいや、それは流石にオタク的思考すぎ……
「コラボチケット大人二枚でお願いします」
 チケット窓口で斗真君は言った。
「コラボチケット……?」
「はい。これが菜々子さんのチケットとパンフレットとヘッドホンです」
 渡されたパンフレットには『アクアピア×アイドルバトル フレッシュガールズ ~ドキドキ職業体験~』と書かれていた。
「ぬわぁんですって!?」
 急いでパンフレットをめくる。各学科アイドルの2年生、らむねちゃん、すずこちゃん、聖那ちゃん、涼ちゃん、羽瑠ちゃん、瑠佳ちゃん、愛実ちゃんの7人は職業体験でアクアピアにやってきた。そんな7人の働きぶりをこっそり見にきたペリドット、soropachi、@ほーむ、seek red sweetの1、3年生達。同日、クローバーパレットとBlütenblattの6人は新曲のイメージを膨らませるためにアクアピアを訪れていた……って結構強引に総出演させてる! 私としたことがこんなスペシャルなイベントを見逃してたなんて……
「どうですか。気に入ってもらえましたか?」
「最っ高!」
「よかったです」
 そう言って斗真君が嬉しそうに微笑む。
「さあ! いこいこー!」
 私達は入場ゲートを通って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

処理中です...