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サブクエスト 協力プレイ
相当クレイジーだな…
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「あー、負けたー!」
そう言って亮介君は天を仰いだ。
「でもすごいよ。あの後、もう一点決めるなんて。」
結果は3-2で僕たちのチームの負けだった。僕はパスを空振りしたり、相手チームにパスしたりと散々だった。僕が足を引っ張っちゃったのに、僕を責める人は誰もいなかった。むしろ手も足も出なかった時より、「ドンマイ!次は出来る!」とか声をかけてくれて、やっぱりいい人たちなんだと思った。
「まあ、それは良かったんだけど。最後の最後に相手のゴールを止められてたら引き分けだったのに!それに、『俺がどうにかしてやる』なんて言ったのに上手くフォロー出来なかったし…」
亮介君が珍しくいじけている。僕が下手すぎるせいだから気にすることないんだけど、そんな新しい一面が見れてちょっと嬉しい。
「十分助けてもらったよ。」
「そうか。じゃあ、いっか!」
僕たちは顔を見合わせて笑った。
今日の練習はこれで終わりみたいだ。不安はたくさんあったけど、終わってみればここに来てよかったと思う。
「お疲れ、お2人さん。」
先輩たちが声をかけに来てくれた。
「斗真君!最初の一点取った時、ナイスアシストだったよ!」
「そうそう!その後もガッツがあってよかったよ。」
「あ、ありがとうございます。」
その時、僕の顔をじっと見ていた先輩が口を開いた。
「斗真君ってさ、可愛い顔してるよね。」
「え…」
僕の頭の中はぐるぐるして上手く言葉が出なかった。
「それ、思った!最初は気づかなかったけど、ヘアバンドで前髪あげたら女の子みたいに可愛い顔してるって!」
「うち女子マネージャーいないから、華があっていいよな!」
「ちょ、先輩達、そのくらいに…」
亮介君が先輩たちを止めようとするが、話は止まらない。
「そうだ!斗真君、うちの部員にならない?フットサルは練習すれば上手くなるし、マネージャーでもいいからさ。その顔で休憩の時にドリンクとか渡してくれたら、めっちゃ頑張れるんだけどな。」
「そこらへんの女子マネよりも可愛いよな!肌は白いし、華奢だし…」
そう言って先輩が僕に手を伸ばしてくる。
「先輩!」
亮介君が大きな声を出すと、先輩たちが動きを止めた。
「俺ら、この後用事があるので帰ります!お疲れ様でした!…帰るぞ、斗真。」
「う、うん…」
僕の方を振り向いた亮介君は怒ったような顔をしていた。
更衣室で着替えてフットサルコートを離れても、亮介君はずっと黙ったままだった。無言のまま、駅に向かって歩く。
怒ってる…よね。さっきは僕を気遣って先輩たちから離してくれたんだ。今、怒っているのも多分僕のため。
駅に着いたらそこでお別れだ。亮介君とは家の方向が違うから。このまま別れるなんて嫌だ。何か、言わなきゃ…
「亮介君…」
「ごめん!」
亮介君が言った。
「嫌な気持ちにさせたよな。あれは先輩達、調子に乗りすぎてた。後でちゃんと謝ってもらうから。」
「謝るなんていいよ!…ちょっとびっくりしたけど、軽い冗談みたいなものだと思うし…」
亮介君にはそう言ったけど、本当は心が重たかった。初めは自分に対して「可愛い」なんて言葉が使われることに理解が追い付かなくて、でも段々と先輩たちの言っていることが分かってくると、同性に女の子を見るみたいな目で見られていることが、なんか、気持ち悪かった。
「いいや!それじゃあ俺の気が済まない!さっきはあの場にいたら俺が先輩達と喧嘩になりそうで強引に帰ることにしたけど、落ち着いたら自分たちが俺の友達にどれだけ失礼なことを言ったか、理解してもらわないと。」
帰ることにしたのは僕のためというより自分がケンカになりそうだったからなんだ。先輩たちのことは苦手になったけど、怒ってはいないし、こんな風に自分よりも怒ってくれる人がいるって、嬉しさが心を上書きするよ。
「本当にいいってば。」
「そうか…」
僕の返事を聞いて亮介君は不満そうだった。
「あー、思い出したらまた腹が立ってきた!斗真を女子の代わりみたいな言い方して!斗真は斗真だってのに。ほんと、ごめん!」
「亮介君が謝ることないよ。」
「だってさあ、試合終わった後は斗真、笑ってたじゃん。だからちょっとは楽しめたんだな、よかったって思ったのに!あー、もう!こんな気分じゃ帰れないわ!これからなんか美味しいもん食べに行こうぜ!」
それは嬉しい…でも、今日は金曜日。今日だけはだめだ。
「行きたいけど、ごめん。今日はこの後予定があって。」
「そっかー…残念だけど、しょうがないな。今度、暇なときに行こうぜ。」
「うん。」
家に帰ったらまずお風呂に入らないと。今着てる服、汗臭くなってないかな。菜々子さんの家に行く日だから良さそうな服を選んだんだけど、心配だから別の服に着替えようかな。
そういえば、菜々子さんは僕のことをらむねちゃんに似てるって言って、らむねちゃんのことを可愛いって言うんだから、僕のことも、その、可愛いって言ってることになるのかな。でも、さっきみたいに嫌な気持ちにはならない。先週も一緒にアニメを観てすごく楽しそうにしてたし、らむねちゃんへの愛情が純粋だから嫌って思わないのかも。
そうだ。先週のアニメで一つ思い出したことがあった。
「ねえ、亮介君。」
「ん?」
「オートクレーブって知ってる?」
らむねちゃんが言ってた決め台詞。農業科特有の用語なのかと思って、農学部の亮介君に訊きたかったんだ。
「あー…あれね。なんか、高温の蒸気で圧力をかけて実験器具とかを滅菌する機械だったかな。研究室見学で見せてもらったわ。それがどうした?」
「えーっと、その…」
アニメキャラクターの決め台詞ってちょっとややこしいから、簡単に言うと…
「し、知り合いの女の子が『悪い子たちはみーんなオートクレーブしちゃうぞ』って言ってて、どういう意味かなって…」
「その子、相当クレイジーだな…」
オートクレーブは滅菌する機械なんだもんね。確かに、意味を考えると怖い事言ってるんだな…
知ってるか分からないけど、このことは菜々子さんに秘密にしておこうと僕は思った。
そう言って亮介君は天を仰いだ。
「でもすごいよ。あの後、もう一点決めるなんて。」
結果は3-2で僕たちのチームの負けだった。僕はパスを空振りしたり、相手チームにパスしたりと散々だった。僕が足を引っ張っちゃったのに、僕を責める人は誰もいなかった。むしろ手も足も出なかった時より、「ドンマイ!次は出来る!」とか声をかけてくれて、やっぱりいい人たちなんだと思った。
「まあ、それは良かったんだけど。最後の最後に相手のゴールを止められてたら引き分けだったのに!それに、『俺がどうにかしてやる』なんて言ったのに上手くフォロー出来なかったし…」
亮介君が珍しくいじけている。僕が下手すぎるせいだから気にすることないんだけど、そんな新しい一面が見れてちょっと嬉しい。
「十分助けてもらったよ。」
「そうか。じゃあ、いっか!」
僕たちは顔を見合わせて笑った。
今日の練習はこれで終わりみたいだ。不安はたくさんあったけど、終わってみればここに来てよかったと思う。
「お疲れ、お2人さん。」
先輩たちが声をかけに来てくれた。
「斗真君!最初の一点取った時、ナイスアシストだったよ!」
「そうそう!その後もガッツがあってよかったよ。」
「あ、ありがとうございます。」
その時、僕の顔をじっと見ていた先輩が口を開いた。
「斗真君ってさ、可愛い顔してるよね。」
「え…」
僕の頭の中はぐるぐるして上手く言葉が出なかった。
「それ、思った!最初は気づかなかったけど、ヘアバンドで前髪あげたら女の子みたいに可愛い顔してるって!」
「うち女子マネージャーいないから、華があっていいよな!」
「ちょ、先輩達、そのくらいに…」
亮介君が先輩たちを止めようとするが、話は止まらない。
「そうだ!斗真君、うちの部員にならない?フットサルは練習すれば上手くなるし、マネージャーでもいいからさ。その顔で休憩の時にドリンクとか渡してくれたら、めっちゃ頑張れるんだけどな。」
「そこらへんの女子マネよりも可愛いよな!肌は白いし、華奢だし…」
そう言って先輩が僕に手を伸ばしてくる。
「先輩!」
亮介君が大きな声を出すと、先輩たちが動きを止めた。
「俺ら、この後用事があるので帰ります!お疲れ様でした!…帰るぞ、斗真。」
「う、うん…」
僕の方を振り向いた亮介君は怒ったような顔をしていた。
更衣室で着替えてフットサルコートを離れても、亮介君はずっと黙ったままだった。無言のまま、駅に向かって歩く。
怒ってる…よね。さっきは僕を気遣って先輩たちから離してくれたんだ。今、怒っているのも多分僕のため。
駅に着いたらそこでお別れだ。亮介君とは家の方向が違うから。このまま別れるなんて嫌だ。何か、言わなきゃ…
「亮介君…」
「ごめん!」
亮介君が言った。
「嫌な気持ちにさせたよな。あれは先輩達、調子に乗りすぎてた。後でちゃんと謝ってもらうから。」
「謝るなんていいよ!…ちょっとびっくりしたけど、軽い冗談みたいなものだと思うし…」
亮介君にはそう言ったけど、本当は心が重たかった。初めは自分に対して「可愛い」なんて言葉が使われることに理解が追い付かなくて、でも段々と先輩たちの言っていることが分かってくると、同性に女の子を見るみたいな目で見られていることが、なんか、気持ち悪かった。
「いいや!それじゃあ俺の気が済まない!さっきはあの場にいたら俺が先輩達と喧嘩になりそうで強引に帰ることにしたけど、落ち着いたら自分たちが俺の友達にどれだけ失礼なことを言ったか、理解してもらわないと。」
帰ることにしたのは僕のためというより自分がケンカになりそうだったからなんだ。先輩たちのことは苦手になったけど、怒ってはいないし、こんな風に自分よりも怒ってくれる人がいるって、嬉しさが心を上書きするよ。
「本当にいいってば。」
「そうか…」
僕の返事を聞いて亮介君は不満そうだった。
「あー、思い出したらまた腹が立ってきた!斗真を女子の代わりみたいな言い方して!斗真は斗真だってのに。ほんと、ごめん!」
「亮介君が謝ることないよ。」
「だってさあ、試合終わった後は斗真、笑ってたじゃん。だからちょっとは楽しめたんだな、よかったって思ったのに!あー、もう!こんな気分じゃ帰れないわ!これからなんか美味しいもん食べに行こうぜ!」
それは嬉しい…でも、今日は金曜日。今日だけはだめだ。
「行きたいけど、ごめん。今日はこの後予定があって。」
「そっかー…残念だけど、しょうがないな。今度、暇なときに行こうぜ。」
「うん。」
家に帰ったらまずお風呂に入らないと。今着てる服、汗臭くなってないかな。菜々子さんの家に行く日だから良さそうな服を選んだんだけど、心配だから別の服に着替えようかな。
そういえば、菜々子さんは僕のことをらむねちゃんに似てるって言って、らむねちゃんのことを可愛いって言うんだから、僕のことも、その、可愛いって言ってることになるのかな。でも、さっきみたいに嫌な気持ちにはならない。先週も一緒にアニメを観てすごく楽しそうにしてたし、らむねちゃんへの愛情が純粋だから嫌って思わないのかも。
そうだ。先週のアニメで一つ思い出したことがあった。
「ねえ、亮介君。」
「ん?」
「オートクレーブって知ってる?」
らむねちゃんが言ってた決め台詞。農業科特有の用語なのかと思って、農学部の亮介君に訊きたかったんだ。
「あー…あれね。なんか、高温の蒸気で圧力をかけて実験器具とかを滅菌する機械だったかな。研究室見学で見せてもらったわ。それがどうした?」
「えーっと、その…」
アニメキャラクターの決め台詞ってちょっとややこしいから、簡単に言うと…
「し、知り合いの女の子が『悪い子たちはみーんなオートクレーブしちゃうぞ』って言ってて、どういう意味かなって…」
「その子、相当クレイジーだな…」
オートクレーブは滅菌する機械なんだもんね。確かに、意味を考えると怖い事言ってるんだな…
知ってるか分からないけど、このことは菜々子さんに秘密にしておこうと僕は思った。
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