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初心者クエスト その1
それは変わっ…特徴のある子ですね
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「えっとね、ゲームでは私達プレイヤーがこの学園の転校生になって、好きな学科に入学するの。それでその学科のアイドルのマネージャーになって、サポートしていくって感じなんだ。」
「なるほど。じゃあ、菜々子さんは農業科の転校生なんですね。」
「そうそう。農業科のシナリオは『ペリドット』メンバーの3人を中心に進むの。私の推しである2年のらむねちゃんと、植物大好き1年の玻璃ちゃんと、実家が牧場で3年の真央ちゃんね。らむねちゃんは生物部所属で菌が好きなの。部屋に乳酸菌のぬいぐるみを飾ってるんだよ!」
「へ、へぇー…それは変わっ…特徴のある子ですね。」
「そうなのー!私は文系だったから生物の授業はあんまり受けてなかったんだけど、好きな子の好きなものって知りたくなるじゃない?実家から高校で使ってた生物基礎の教科書引っ張り出してきて読んだりしたよー。まあ、知識はまだまだ勉強中だけどね。…そう言えば、斗真君は大学で何の勉強してるの?」
「僕は工学部で、主に物理系の勉強をしています。」
「工学部…ってことは理系だよね。じゃ、じゃあ…!」
私の気配を察知したのか、斗真君は食い気味に手をかざした。
「僕は物理と化学を選択していたので生物は教えられません!」
「そっかぁ…残念。」
「菜々子さんは…そう言えば何してる人なんですか?大学生…ですか?」
斗真君がうかがうように覗きこんでくる。
「あ、そうだ!まだ言ってなかったね。私はこの春から社会人1年生。私達、1年生同士だねっ!」
「そうですね」
そう言って斗真君が笑ってくれた。ちょっと、いや、だいぶ嬉しい。
「菜々子さんはクラスの中心にいるようなタイプですよね。きっと人気者だったんだろうな…」
「んー、どうかなぁ。まあ、人は好きだし、話すのも好きだし…結構楽しかったな…」
今でも鮮明に思い出せる。中学高校と毎日汗を流したテニス部での日々。練習後は家まで我慢できなくてよく仲間とたい焼き買い食いしてたな。大学では学祭の実行委員になったけど張り切り過ぎて前日に熱出したりとか。あの時は大変なこともたくさんあったけど、今思い返せば全部が羨ましいくらい大切な時間だったな。みんなは今どこで何してるんだろ。
「僕は話すの得意じゃないので、羨ましいです。実家から離れた大学に進学したので知り合いもいませんし…自分で選んだんですけどね。」
斗真君が自嘲気味に笑う。そんな顔してほしくないのに。
「じゃあ、私と話す練習しよっか。」
「え?」
「何事も練習が一番だよ!うーん、そうだなぁ…授業でたまたま隣の席になったっていう設定で、斗真君はなんて話しかける?」
「そう、ですね…『趣味は何ですか?』」
「なんか、お見合いみたい。」
「た、確かに…」
「最初はあんまりプライベートに踏み込まないで、共感できることとか、答えやすいことの方がいいと思うよ。例えば…『あの先生、有名人の誰々に似てない?』とかね。」
「それは、ちょっとハードル高いですよ…」
「うーん、それじゃあ…」
私は斗真君をちらっと見た。
「そのシャツかっこいいね。服はいつも自分で選んでるの?」
「え?あー、はい。服はいつも自分で選んでいます。あんまりこだわりとかはないんですけど。」
「へぇー、そうなんだ。よく似合ってるね。」
「あ、ありがとうございます。」
「…っとまあ、こんな風にその人の身に着けているものとかを話題にするのも手だよね。…あれ、どうかした?」
「何でも…ないですっ!」
斗真君は片手で顔を押さえているけど、耳が真っ赤だ。
「でも、今のはお世辞じゃなくで本当に思ったことだからね。前に着てた服もセンスいいなって思ってた。」
「ありがとうございます…」
顔がいいから格好いい系の服はもちろん似合うんだけど、可愛い系の服も絶対似合うと思うんだよな…らむねちゃんのコスプレ姿が待ち遠しいっ!
時計を確認すると22時を指していた。
「もうこんな時間か。長いこと引き留めてごめんね。そろそろお開きにしよっか。」
名残惜しいけど、年下の男の子をこれ以上拘束しておくわけにはいかない。私は斗真君を玄関まで送った。
「今日は楽しかったよ。気を付けて帰ってね…って、家は隣か。」
「はい、気持ちだけ受け取っておきます。…また、来週来ます。」
その言葉で沈んでいた気持ちが一気に急上昇した。
「うん!…おやすみ。」
「おやすみなさい。」
隣の家の扉が閉まる音が聞こえるまで、私は玄関で余韻を噛み締めていた。
「なるほど。じゃあ、菜々子さんは農業科の転校生なんですね。」
「そうそう。農業科のシナリオは『ペリドット』メンバーの3人を中心に進むの。私の推しである2年のらむねちゃんと、植物大好き1年の玻璃ちゃんと、実家が牧場で3年の真央ちゃんね。らむねちゃんは生物部所属で菌が好きなの。部屋に乳酸菌のぬいぐるみを飾ってるんだよ!」
「へ、へぇー…それは変わっ…特徴のある子ですね。」
「そうなのー!私は文系だったから生物の授業はあんまり受けてなかったんだけど、好きな子の好きなものって知りたくなるじゃない?実家から高校で使ってた生物基礎の教科書引っ張り出してきて読んだりしたよー。まあ、知識はまだまだ勉強中だけどね。…そう言えば、斗真君は大学で何の勉強してるの?」
「僕は工学部で、主に物理系の勉強をしています。」
「工学部…ってことは理系だよね。じゃ、じゃあ…!」
私の気配を察知したのか、斗真君は食い気味に手をかざした。
「僕は物理と化学を選択していたので生物は教えられません!」
「そっかぁ…残念。」
「菜々子さんは…そう言えば何してる人なんですか?大学生…ですか?」
斗真君がうかがうように覗きこんでくる。
「あ、そうだ!まだ言ってなかったね。私はこの春から社会人1年生。私達、1年生同士だねっ!」
「そうですね」
そう言って斗真君が笑ってくれた。ちょっと、いや、だいぶ嬉しい。
「菜々子さんはクラスの中心にいるようなタイプですよね。きっと人気者だったんだろうな…」
「んー、どうかなぁ。まあ、人は好きだし、話すのも好きだし…結構楽しかったな…」
今でも鮮明に思い出せる。中学高校と毎日汗を流したテニス部での日々。練習後は家まで我慢できなくてよく仲間とたい焼き買い食いしてたな。大学では学祭の実行委員になったけど張り切り過ぎて前日に熱出したりとか。あの時は大変なこともたくさんあったけど、今思い返せば全部が羨ましいくらい大切な時間だったな。みんなは今どこで何してるんだろ。
「僕は話すの得意じゃないので、羨ましいです。実家から離れた大学に進学したので知り合いもいませんし…自分で選んだんですけどね。」
斗真君が自嘲気味に笑う。そんな顔してほしくないのに。
「じゃあ、私と話す練習しよっか。」
「え?」
「何事も練習が一番だよ!うーん、そうだなぁ…授業でたまたま隣の席になったっていう設定で、斗真君はなんて話しかける?」
「そう、ですね…『趣味は何ですか?』」
「なんか、お見合いみたい。」
「た、確かに…」
「最初はあんまりプライベートに踏み込まないで、共感できることとか、答えやすいことの方がいいと思うよ。例えば…『あの先生、有名人の誰々に似てない?』とかね。」
「それは、ちょっとハードル高いですよ…」
「うーん、それじゃあ…」
私は斗真君をちらっと見た。
「そのシャツかっこいいね。服はいつも自分で選んでるの?」
「え?あー、はい。服はいつも自分で選んでいます。あんまりこだわりとかはないんですけど。」
「へぇー、そうなんだ。よく似合ってるね。」
「あ、ありがとうございます。」
「…っとまあ、こんな風にその人の身に着けているものとかを話題にするのも手だよね。…あれ、どうかした?」
「何でも…ないですっ!」
斗真君は片手で顔を押さえているけど、耳が真っ赤だ。
「でも、今のはお世辞じゃなくで本当に思ったことだからね。前に着てた服もセンスいいなって思ってた。」
「ありがとうございます…」
顔がいいから格好いい系の服はもちろん似合うんだけど、可愛い系の服も絶対似合うと思うんだよな…らむねちゃんのコスプレ姿が待ち遠しいっ!
時計を確認すると22時を指していた。
「もうこんな時間か。長いこと引き留めてごめんね。そろそろお開きにしよっか。」
名残惜しいけど、年下の男の子をこれ以上拘束しておくわけにはいかない。私は斗真君を玄関まで送った。
「今日は楽しかったよ。気を付けて帰ってね…って、家は隣か。」
「はい、気持ちだけ受け取っておきます。…また、来週来ます。」
その言葉で沈んでいた気持ちが一気に急上昇した。
「うん!…おやすみ。」
「おやすみなさい。」
隣の家の扉が閉まる音が聞こえるまで、私は玄関で余韻を噛み締めていた。
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