巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

文字の大きさ
上 下
26 / 30
7

合宿の夜

しおりを挟む
「はぁ…」
 泊まる教室に戻った俺は布団にドサッと倒れこんだ。
今日はいろいろあって疲れた。明日、本当にシノは魔界に帰ってくれるだろうか。そこはラフェを信用して任せるしかないけど…もしかするとシノの説得に負けてラフェも一緒に魔界へ帰る、なんて可能性もある。なんだか胸の奥の方がざわっと冷たくなった。
 まただ…最近こういうことがたまにある。カレー食べ過ぎたか…?
 その時、廊下からヒタヒタと足音が聞こえた。…おかしい。ラフェ達がいるのは下の階だし、俺たち以外に人はいないはず…
 その足音は段々と速度を増し、この部屋に近づいてくる。そして、ゆっくりと扉が開く音がした。恐る恐る扉の方に目を向けると、白い布団のようなものから二本の足が出た生物が立っていた。
「ぎゃあああ!」
「日生、夕方ぶりだな。」
 布団の脇から顔を出したのは高木先輩だった。
「用具室から布団を一式借りてきた。今晩は俺もここに泊まる。」
「…心臓に悪いんで、もっと普通に来てくれませんか?」
 夜の学校っていうお決まりのシチュエーションなんだから、もう少し配慮してほしい。
「? なんか悪いな。」
 状況を理解していない高木先輩は首を傾げながら言った。
「そう言えば夕方は様子がおかしかったですけど、大丈夫なんですか?」
「ああ、もう大丈夫だ。ついさっきまで勉強して来たからな。」
 今度は俺が首を傾げた。
「ラフェの従妹の様子はどうだった? 明日帰りそうか?」
「まだ分かんないですけど、ラフェに心酔してるみたいなんで上手く説得すれば帰ると思いますよ。」
「そうか。まあ俺達の仕事は明日の朝からでいいだろう…今日は明日に備えて早く休もう。」
「そうですね。」
「…なあ、日生。」
 高木先輩が神妙な面持ちで切り出した。
「なんですか。」
「なんでお前はラフェやその従妹と普通に話せるんだ。」
「なんでって…」
 質問の意図がよく分からない。
「言葉は通じるし、すぐに危害を加えてきそうな感じもないし…会話が成立するからですかね。」
「そういう事じゃなくてだな…俺が聞きたいのはどうして女子と普通に話せるのかってことだ!」
 よく見ると耳まで赤くなっている。いつも仏頂面だけど、そんな一面もあるんだ。
「高木先輩、かわいー。」
「うるさいっ! お前に聞いた俺がバカだった!」
 そう言って布団に入ってしまった。電気を消し、俺も自分の布団に入る。
「ラフェとは普通に話してるし、そもそも高木先輩には成瀬先輩がいるじゃないですか。」
「ラフェは俺の姉に似てるんだ。だからまあ、大丈夫。乙女はもう女子とかじゃないからなぁ…」
「それ、絶対成瀬先輩に言ったらだめですよ?」
 最初に二人を見た時から、何となく成瀬先輩は高木先輩のことを好きなんじゃないかって思ってた。高木先輩はそういう風に見てないみたいだけど。
「ああ。特別だって言っておいた。」
「うわぁ…」
 天然って凶悪だ…
「日生は俺のことをからかえるくらい、女子に慣れてるんだな。」
「慣れてるっていうか…多分他人に興味が薄いんです。」
 小さい頃からいろんなことに巻き込まれてきて、男も女も関係なく、裏の嫌な顔をたくさん見てきた。だから俺は、表面上は普通に振る舞いつつも心の中では無意識に距離を取ってきたんだろう。
「俺には関係ないって思ってるから、女子とも適当に相槌をうって話せるんです。」
「そうだったのか…俺は随分ラフェに肩入れしてると思ってたんだけどな。」
「そんなこと、ないですよ。」
 思いもよらない指摘にうまく返せなくて、俺は思考を遮るように目を瞑った。

「じゃあ、電気消すぞ。」
 パチンと電気を消して布団に入ると、先に中に入っていたシノがすり寄ってきた。
「えへへ、お姉さまと一緒のお布団、嬉しいです。」
「そうか。」
 そんな風に言われるとちょっと照れる。
「せっかく二人きりになれたので、会っていない間のお話聞きたいです。お姉さまはこの百年くらい、どうやって過ごしていたんですか?」
「ほとんど眠っていたんだ。」 
 私は目覚めるまでのいきさつを説明した。
「そう、だったんですね…」
「父さんやソーマ達を撒くのに魔力を使っていたし、魔界から入り口を開くのでもかなり消費したからな。魔力を一度使い切るとそれから回復するには普段よりも時間がかかるみたいだ。覚えておいた方がいいぞ。」
「お姉さまが言ったことは一言一句、全て頭に焼き付けています。」
「全て覚えておく必要はないんだが…まあいい。そう言えば、よく一人で魔界から出てこられたな。」
 前に会った時は物を浮かせるくらいしか魔法は使えなかったはず。
「しばらく会っていない間にシノも成長したんですよ。エッヘン!」
「そうだったのか。偉いな。」
 私はシノの頭を撫でた。
「…すいません見栄を張りました。本当はお姉さまのパパの力をお借りしました。」
「正直に言えて偉いな。」
 しくしくするシノの頭を撫でてやる。
「うえーん、お姉さまが優しいですぅ…やっぱりあやつらに何か変な薬を…」
「じゃあ、やめておくか?」
 私は頭から手を離した。
「嘘です嘘ですぅ!」
 そう言って私の手に頭を押し付けてくるから、再び撫でてやる。
「でも信じてください! シノは別にお姉さまのパパに言われてここに来たわけじゃ…」
「分かってるって。」
 父さんはシノが私を説得するって分かってたから手助けしたんだ。シノに泣きつかれたらなびくかもしれないと思って。
「シノは私がどうして魔界を出てきたか、知ってる?」
「人づてに何となくは…お見合いの話、ですよね?」
「そう。父さんに勝手にお見合い話を進められて、しかも母さんも認めてるみたいな言い方するから腹が立って出てきたんだ。それに、この世界での生活はなかなか楽しい。」
「楽しい、ですか?」
 シノは信じられないという顔をした。
「シノだって、さっき今まで知らなかったものを食べて感動してただろ? ここには私の知らなかったものがたくさんある。それを教えてもらったんだ。」
「…もしかして、尻尾についた匂いの人間にですか?」
「…え?」
「お姉さまなら匂いなんて魔法で簡単に消せるはず。どうでもいい人間ならなおさらです。…でもそれをしないってことは、それだけお姉さまがその人間に心を開いているってことです。悔しいですけど。」
 飛躍した考えだけど、知らないものを教えてくれたのも尻尾に匂いがついているのも日生だから答えだけはあっている。
「魔法で匂いを消せるってことを忘れてただけで…」
「それが心を開いてるってことです! お姉さまは嫌なことなら何としてでも排除しようとするはずです! それで、それはいったい誰なんですか!?」
「そ、それは…」
「それは?」
「秘密で…」
 それからしばらくシノからの追求が続き、私は寝たふりをした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメンストーカーに目を付けられましたが全力で逃げます!

Karamimi
恋愛
中学卒業間近に、ラブレターを晒されるというトラウマ的出来事を経験した渚。 もう男なんて大っ嫌い!絶対彼氏なんか作らない! そう決意したはずなのに。 学年一のイケメン、片岡隆太に告白される。 これはきっと何かの間違いだ… そう思っていたのに… どんどんストーカー化する隆太、周りもどんどん固められていき、追い詰められる渚! この絶体絶命の自体に、渚は逃げ切れるのか!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...