巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

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ここが最後の目的地

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「ぷはっ!」
 水面から顔をあげると、ラフェが仰向けで浮かんでいた。幸いこの川は流れが穏やかで、俺達も船も流されずに済んだ。
 俺は反動をつけて船に乗り込み、ラフェに手を伸ばした。
「ほら、掴まれ。」
「うん…」
 ラフェを船に乗せ、俺は急いで漕ぎだした。
「ごめん…また勝手に魔力使っちゃって。」
 ラフェは俯き加減で言った。
「いい…って言ったら高木先輩達に怒られるんだろうけど、正直スカっとした。他に目撃者はいないし、怪我人や破損も出してないし、今回はいいんじゃないか?」
 まあ、もしもあいつらが岸に着いた後ギャーギャー騒いでたとしても、それくらいはどうにか揉み消してやろう。あとは仕返しされそうになったら逃げる。ここで追いかけっこをするなら、地の利がある俺達の方が圧倒的に有利だろう。
「でも、服もびしょびしょにしちゃって…」
「大丈夫。着替え持ってるから。」
 今日は念のため、ラフェの分の着替えも持ってきていた。邪魔になるかと思って貸ボートの受付に預けていたのがこんな形で役に立つとは思わなかったけど。
 船を返して、服を着替えた後もラフェは落ち込んだ様子だった。今回、俺は怒ってないし、いつもならもっと言い返してくるのに…
「ラフェ、魔力はたまりそうか?」
 ラフェは静かに首を振った。
「そうか。じゃあ最後の場所へ行こう。ここから近いんだ。」
「うん…」
 ラフェは弱々しい足取りで俺の後ろに続いた。
 バス停から道沿いに少し歩くと、「森の小路」と書かれた小さな看板が立っている。その小路に入り、左右に木々が生い茂る坂道を進んでいくと、途中で開けた場所に出る。
「ここが最後の目的地。」
「わ…」
 視界が開けたその場所は、下に街並みを一望できる展望デッキみたいになっている。
「ここは俺が一番好きな場所で、この景色を見ると元気がもらえるんだ。だから連れてきたくて。」
 元気が出ると思うのは俺の感覚でしかないから、あんまり期待はできないけど。
 すると、隣から鼻をすする音が聞こえた。
「お前…っ!? なんで泣いて…」
「私はダメな子だ…っ…魔界から逃げ出してソーマや…父さん、母さんに迷惑をかけ…っ…そしてこっちの世界でも、日生達に迷惑をかけている…」
「迷惑って…」
「だってそうだろう!? 私が船に乗ろうなんて言わなければ、あんな奴らにひどいこと言われたり、水に落ちたりしなくて済んだ! そもそも私と会わなければ! 日生はもっと自由に、好きなことをして過ごせただろ!?」
 ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら俺に迫ってくる。
「私は自分が嫌いだ。我がままで自分勝手で…この世界でもう二度と魔法は使わない。誓う。だから…もう放っておいてくれ…」
「バカ言え。」
 俺はラフェの肩を掴んだ。
「え…」
 驚いたように目を丸くする。初めてであった日と同じ、赤みを帯びた綺麗な瞳だ。
「今さら放っておいてくれなんて、そんな都合のいい話はないだろ。俺はお前を魔界へ帰らせるって決めたんだ。最後まで付き合ってくれないと困る。」
 俺は肩から手を放し、下に広がる街並みに目をやった。ラフェもつられて街に目を向ける。
「それに、俺はお前がわがままで自分勝手だなんて思わない。自分のためじゃなくて他人のために怒れる奴は自分勝手じゃないだろ。」
 面倒だとあきらめていたのに、こいつは怒ってくれた。俺が捨ててしまった感情をこいつが拾い上げてくれたんだ。
「…ありがと。」
 ラフェが掠れた声で呟く。
 その時、ふわっと優しい風が吹いた。そして、背中に温かくて柔らかいものが当たるのを感じる。俺の身体に巻き付いたふさふさのソレを撫でてやると、小さく揺れた。
 
 ラフェが落ち着くまで、しばらく黙って景色を眺めていた。
「…私が泣いたって、誰にも言うなよ。」
「お、そんなこと言えるならもう元気だな。」
「誰にも言わないって約束しろ!」
「じゃあ、ねずみが怖くて半泣きだった方は言ってもいいのか。」
「お前っ! 意地悪だぞ!」
 ラフェは腕を激しく振って抗議した。
「はいはい。じゃあ、帰るか。」
 一縷の望みをかけて連れてきたけど、この様子じゃここもダメみたいだ。今日は成果なしか…
「あ…あああ!」
 ラフェが突然声をあげた。
「びっくりした…どうした、またネズミか? 山なんだから仕方な…」
「違う違う! そんなことと一緒にするな! たまってるんだよ! 魔力が!」
「ええ!?」
「今、気がついたら百%になってた! この場所はすごいぞ!」
 ラフェは目を輝かせた。
 ようやくここまできた…今回の目的を果たせた喜びと同時に、なぜが胸の奥が冷たく感じた。
「これで魔界へ帰れるな。」
「すぐ帰るとは言ってないけどな。」
「はいはい。」
「なんだぁ! その言い方はぁ!」
 抗議してくるラフェをスルーして、俺は空を見上げた。オレンジ色の綺麗な夕焼け。もうすぐ日が落ちてしまう。
本当は今すぐ魔界へ帰るように説得したほうがいいんだろうけど、日没後の山道は危ない。そろそろ学校へ戻らないと。
「今度こそ帰ろうな。」
「うん!」
 この場所を教えてくれたのはじいちゃんとばあちゃんだった。小学生の頃、巻き込まれて嫌な思いをして泣いていた時、二人がこの場所に連れてきてくれた。見下ろすと、そこには小さな家々が無数に広がっていた。
 さっきまでいた場所があんなにも小さく見える。自分の住む世界はこんなにも狭くて、そしてこの世界はこんなにも広いんだって、感動したのを覚えている。二人は過度に励ましたりはせず、ただ「いい事ばかりじゃなくても大丈夫。優しささえ手放さないでいれば、いつか必ず手を握ってくれる人が現れる」って言ってくれた。
 今日、ここに来てよかった。じいちゃんとばあちゃんが俺を導いてくれたような気がした。
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