巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

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魔界から来た超危険生物

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「ああ! この穴! この穴があればラフェは魔界へ帰れますよね?」
 いろいろありすぎてすっかり忘れてたけど、この穴は魔界へと繋がっているはずだ。これがあれば、ラフェの魔力回復を待たずに魔界へ帰せる。
 ソーマさんは悲しそうに目を伏せた。
「残念ながら、この入り口では私しか入れません。私のように魔力の少ないものや、あなた達のように魔力を全く持たないものは入れますが、姫様は元々持つ魔力の質が強すぎるのです。先ほどは魔術で無理やり姫様のところへ案内させるなんて見栄を張ってしまいましたが、私が本当にできるのはこの程度なんです。」
 そう言って指をパチンと鳴らすと、何もなかったところから一本の赤いバラが現れた。これは魔術というよりマジックみたいだ…
 それはさておき、ソーマさんが出てきた穴を再利用してラフェを魔界に帰すのは無理そうだ。期待した分、ショックが大きい。
「お待たせ!」
 倉庫の扉が開き、成瀬先輩がラフェを連れて帰ってきた。成瀬先輩は俺に近づき、耳元に顔を寄せた。
「ラフェちゃんの家出の原因は聞いた?」
「はい、大体は。」
「そっか、それなら説明が省けるね。」
 そう言って、成瀬先輩は離れた。
「ソーマさん。私達としてもラフェちゃんはなるべく早く魔界へ帰るべきだと考えています。それは私達の住むこの世界の秩序を守るためです。ラフェちゃんが魔界に帰るその日まで、私達は大切にお世話すると約束します。だからその点は安心してくださいとお伝えください。」
「私からもお願いする。この通り、この世界に来て私は元気にしている。それはこの世界の人間たちが親切にしてくれるからだ。…正直、まだ父さんのことは許せていないし、魔界に帰りたいとは思わない。でも、ずっとこの世界にいたいわけじゃない。いつか必ず魔界へ帰って父さんと話をつける。だからそれまで待っていてほしいと伝えてくれ。」
「…かしこまりました。」
 そう言って深々とお辞儀をしたソーマさんは穴へ入って行った。
 足先まで穴に吸い込まれていくと、穴はだんだん小さくなって、やがて何も無くなった。
「ソーマさん…帰りましたね。」
「うん…」
「ああ…」
 ラフェの方を見ると少し寂しそうに見えた。成瀬先輩が口を開く。
「ラフェちゃん、寂しい?」
「べっ、別にそんなんじゃ…ただ…」
「ただ?」
「久しぶりに魔界の時の知り合いに会って、魔界にいた頃をいろいろ思い出したというか…」
「なんだ、やっぱり寂しいんじゃーん。」
「うるさいっ。」
 ラフェはそっぽを向いた。
 その時、スマホの着信音が鳴った。成瀬先輩が電話に出る。一、二分ほど話して電話を切った。
「潔が帰ってきたみたい。じゃあ私は先に行くね。バイバイ!」
 そう言って倉庫を後にした。
「さて、俺達も部屋に戻るか。」
 そう声をかけるが反応はない。隣を見ると、ラフェは一点を見つめて立ち尽くしていた。
 まあ放心状態になっても仕方ないか。突然昔の知り合いがやってきて、気持ち的にも整理がつかないだろう。
 それにしても決闘ってすごいよな…現代じゃまず考えられない。そんなことを勝手に父親から決められるなんて、それは逃げ出したくもなるか。やっとこいつの気持ちが理解できた気がする。
「ひ、日生…あれは何だ?」
「ん?」
 ラフェが指を差した先にはカサカサと動く灰色の物体がいた。
「ああ、あれはネズミだな。どっから入ってきたんだろ。」
「うぅ…なんか、あれ、嫌だ…いや…」
「嫌なら早く出ようぜ。部屋に…」
「同じ建物にいるだけで嫌ぁぁぁ!」
 そう言って半泣きのラフェは胸の前で指をクロスさせた。
「おい、待てっ!」
 俺の制止も虚しく、指をクロスしたところからピンク色の光線がぶっ放される。
「当たれぇっ! 当たれぇぇー!」
 半狂乱のラフェが放つ光線はちょこまかと動きまわるネズミにはかすりもせず…倉庫に置かれたマットや卓球台に穴をあけた。
「ほんとにやめろって!」
 ラフェを止めようと一歩踏み出したとき、目の前をピンク色の光が流れていった。え、今、命の危機でした…?
「はぁ…っ、はぁ…」
 息を切らしたラフェは攻撃をやめ、その場に座り込んだ。
「いや…いやぁ…」
「嫌なのはどっちかな、ラフェ?」
「ひぃっ!」
 俺の顔を見て、ラフェが青ざめる。
「ねずみがいたくらいで騒ぐんじゃねぇ! こっちはそのせいで死にかけたんだぞ!? 魔界から来た超危険生物匿ってる俺達くらいお前も寛大になれ! それになぁ…」
 俺は一歩詰め寄った。
「こんだけ魔力無駄使いして、タダで済むと思ってるのか!? 倉庫の備品もこんなに壊して! 高木先輩達にも報告するから、存分に絞られてくるんだな!」
「そ、そんなぁ…」
「ほら、帰るぞ。」
「うん…」
 後日、高木先輩からこの件の請求書を見せられた。マットが意外と高額だというこの先一切役に立たないムダ知識がついた。
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