巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

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うさ耳の変質者

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 俺はノートをパタンと閉じた。
「ふぅ…」
 小さく息をついて後ろを振り返る。そこには布団で気持ちよさそうに眠るラフェの姿があった。
 ランニングマシンの導入は置く場所がないと却下された。代わりに三十分ほど学校のトレーニングルームを貸し切って、ランニングマシンを使わせてもらうことになった。「外に出たいのに!」と文句は言うが、この前みたいにボイコットはしないからそれはありがたい。さっきもきっちり三十分走って、今は疲れて眠っている。ただ、魔力をためるのに効果があったのはあの一回きりだった。
 その時、机に置いていたスマホが振動した。見ると、成瀬先輩からの着信だった。
 俺はラフェを起こさないように、静かに部屋を出た。
「もしもし。」
『もしもし! よかった、繋がって! 急いで体育館倉庫に来て! じゃ!』
 そう言って、一方的に電話は切られた。

 仕方なく体育館倉庫へ向かった。中からはうめき声が聞こえる。
「成瀬先輩! 大丈夫ですか!?」
 勢いよく扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。倉庫の空間にバレーボールくらいの黒い穴が開き、そこからちょび髭とうさ耳の生えた細身のおじさんが頭の先から肩まで飛び出している。そして成瀬先輩はその頭を全力で押しこんで穴の中に戻そうとしている…
「どういうことですか!?」
 思わず叫んだ。
「日生君…くっ…穴に戻すの、手伝って…!」
「ええ…?」
 その時、うさ耳ちょび髭男が叫んだ。
「わたくしは魔王様の使者ですぅ! 魔王様から姫様に言伝を預かってきたんですぅ!」
「変質者じゃなかったの?」
 そう言って成瀬先輩が力を緩めると、男は勢いよく穴から飛び出した。
「いてて…人間というのはずいぶん乱暴なんですねぇ。」
 そう言って男は服についた埃を払う。魔王の使者というだけあって、執事みたいなかっちりとした服装をしている。ただしうさ耳が全体のバランスを狂わせている。
 男が出てきた穴は真っ暗で、中には何も見えない。
「どうなってるんだ…?」
 吸い寄せられるように俺は手を伸ばした。
「やめた方がいいですよ。」
 男の言葉に動きを止める。
「あなた、こちらの世界に戻れなくなりますよ。」
 冗談ではないトーンに背筋が寒くなった。
「校舎の見回りでこの倉庫に来たら、空間に黒い点?みたいなのが現れて、それがどんどん大きくなっていって…そしたらうさ耳の変質者が出てきたから、とりあえず追い出さなきゃ!と思って、日生君に連絡したんだ。」
 そう言って成瀬先輩が笑う。何もないところから人が現れたのに、その程度で済んでいるのはすごいというかなんというか…
「それで、姫様はどこにいるんですか?」
 そう言って男はあたりを見回す。
 俺は成瀬先輩に耳打ちした。
「連れてきますか?」
「うーん…ラフェちゃんはお父さん、つまり魔王と喧嘩してこの世界に逃げてきたんだよね? この伝言の内容によっては、ラフェちゃんの反抗心をより煽ることになるかもしれない。どうするかは、まず私達が内容を聞いてからにしよう。」
「分かりました。…ところで高木先輩は呼ばなくていいんですか?」
 俺なんかより先に呼ばれていそうな高木先輩の姿が見えないのが不思議だった。
「潔は今、最高級の羽毛を買い付けに行ってるから、すぐには戻ってこれないんだ。」
「そうですか…」
 あの先輩は何でこんな大事な時にいないんだ。それにしても羽毛って、まだラフェの布団を探してるのか? いや、もしかすると『飛行者』の再現のためかも…どうか前者であってくれ…!
  男が口を開く。
「こそこそ話していないで、早く姫様に会わせてほしいんですけどねぇ。」
「伝言は私達からします。どういった内容ですか。」
 成瀬先輩が答えた。その返答に男は眉をひそめる。
「私は魔王様から姫様に直接お伝えするように命じられています。姫様の状態を確認するのも私の役目ですから。魔王様は姫様を大変心配されているのです…」
 その言葉に、気づけば口を挟んでいた。
「心配してるって…ラフェが魔界から逃げてきたのはその魔王サマが原因じゃないんですか。」
「何です?」
 そう言って男は俺を睨んだ。
「ラフェは父親が自分の意見を親の総意として話してくるところが嫌だって言ってましたよ。それで魔界から逃げてくるあいつもどうかと思いますけど、魔王だって直した方がいいんじゃないですか?」
「ずいぶんな言い方をしますねぇ。君はまだ子供だから分からないと思いますが、親は子供の将来のために先回りして動いてあげるものなんですよ。」
「そういうのをこの世界ではありがた迷惑っていうんですよ。」
 男はため息をついた。
「仕方ないですねぇ。この手はあまり使いたくなかったのですが、あまり時間がないものでしてね。無理やりにでも姫様のところへ案内してもらいましょうか。」
 そう言って胸の前で指をクロスさせた。これは前に見たことがある。ラフェが魔法で殺人級の風を起こしたときと同じだ。
 まずい…
 その時、勢いよく扉が開いた。
「姫様…」
 男が呟く。見るとラフェが息を切らして立っていた。
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