巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

文字の大きさ
上 下
14 / 30
4

犬騒動の果て

しおりを挟む
 俺達は目当ての八百屋の前に移動した。
「すいません、ちょっと聞きたいんですけど…」
 俺が声をかけると、店の奥からハチマキを巻いたおじさんが出てきた。
「なんだい、おすすめかい? 今日は春キャベツや新じゃがいもなんかが…」
「いえ…聞きたいのはおすすめではなくて、最近、赤い首輪をつけたトイプードルが来てませんでしたか?」
「赤い首輪をつけたトイプードル…? ああ! 確かに来てたよ。」
「俺達、飼い主に頼まれてその犬を探してるんです。一昨日から行方不明になってるみたいで。」
「そうだったのかい。確かに昨日来た時もこっちをじっと見つめてくるから、腹が減ってるのかと思って大根を少し分けてやったんだよ。やけに毛並みのいい野良犬だと思ったら飼い犬だったのかい。」
 おじさんは壁にかかった時計にちらっと目をやった。
「そう言えば、昨日うちの店に来たのもこんな時間だったなぁ。もし味を占めていたらまた来るかもしれないな。」
「それは本当か!?」
 ラフェが興奮したように身を乗り出してきた。
「おや、嬢ちゃんも犬を探してるのかい。兄ちゃんの手伝いをしてえらいなぁ。」
 どうやらこのおじさんにはラフェが小中学生くらいに見えるらしい。ラフェはわなわなと体を震わせた。
「こいつは兄じゃないし、私も嬢ちゃんではない! 私は魔界ムグゥ…」
 慌ててラフェの口元を押さえる。
「まかい?」
 おじさんは首を傾げた。これはまずい…!
「ま…まるいです! 『私は丸い野菜が好き』って言ってるんです!」
「そうかぁ。野菜が好きとは嬉しいな。」
 そう言っておじさんが笑う。ふぅ…何とか誤魔化せたらしい。
「探してる犬が来るかもしれないし、しばらくここで待つかい?」
「ありがとうございます。そうします。」
 おじさんの許可が出たため、店の中で待たせてもらうことにした。
 しかし、一時間待っても犬は現れなかった。

「見つからなかったな…」
「ああ…」
 俺達は最初にいた河川敷に戻ってきた。もうすぐ日が落ちそうで、あたりに人はいなくなっていた。
「あの人の家族、見つけてあげられなかった。」
 ラフェは悲しそうに俯いた。
「そう言えば、ラフェは魔法で探したりできないのか?」
「半径十kmの範囲にある建築物を全部破壊して、更地にすることは出来る。」
「おお…それはやめてくれ…」
「大体、そんな簡単に探せるならもうとっくにやってる! それが出来ないから、こんなに必死になって探してるんだ!」
「そうだな…悪い。」
 沈黙が流れる。ラフェがこんなにしゃべらないってことは相当落ち込んでるんだな。
「依頼人には俺から連絡する。本当はなんでも屋なんかじゃないって正直に話して、お金も返す。なんでも屋はプロだから、犬もすぐに見つかるんじゃないか。」
「本当か…?」
 ラフェがすがるような目で俺を見つめてくる。
「ああ。だからとりあえず、八百屋のおじさんからもらったジャガバタ食べて元気出せよ。ほら。」
 俺はラフェの手を取って、まだほんのり温かいジャガバターを持たせた。
「うん…そうする。いただきます。」
 ラフェは一口齧った。
「おい、しい…」
 ラフェが呟くと、優しい風が吹いた。隣を見ると、角と尻尾が現れている。
「メンチカツよりも気にいったのか?」
 シュークリーム食べた時も出てたし、気に入った食べ物を食べると出る仕組みなのか?
「んー、どっちも美味しかったぞ。…ってまた私の角と尻尾見ただろ!」
 そう言って俺を睨みつけてくる。
「いや、そっちが勝手に出したというか…」
「言い訳なんて見苦しいぞ!」
「…理不尽だ。」
 俺はジャガバターを齧った。
「ちょっと、日生! 尻尾を見るのも大罪なのに触るなんて…!」
「いや、俺触ってないけど…」
 俺達は尻尾に目を向ける。そこには赤い首輪をつけたトイプードルが尻尾にじゃれついていた。
「あー!?」
「いたー!」
 俺らの声に犬がビクッと反応する。そして回れ右をした。
「いけラフェ! 絶対に逃すな!」
「指図するな!」
 ラフェは綺麗な身のこなしでスタートダッシュを決め、見事に犬を捕獲した。

「本当に…本当に…ありがとうございます…」
 依頼人は犬を抱いて、俺達に何度も礼を言った。
「なんてお礼をしたらいいか…」
「依頼料はすでにいただいています。仕事ですので。」
 依頼人と別れた後、ラフェは俺の脇腹をつついた。
「なーにが、『仕事ですので』だ! あんなに乗り気じゃなかったくせに。」
「だってさっきはそう言わないと更になにか渡してきそうだったから! それにラフェだって、最初は好奇心で首突っ込んだだけだろ!」
「そ、それは…でもちゃんと見つけられたんだからいいじゃないか!」
「…だな。俺もそう思うよ。」
 その時、俺のスマホが鳴った。
「もしもし?」
『もしもしじゃない! いつまで外にいるんだ! 早く帰ってこい!』
 そう言って一方的に切られた。
「誰だ?」
 ラフェが尋ねる。
「高木先輩。帰りが遅いってご立腹。」
「うわぁ…潔はマズいな…」
「急いで帰るぞ!」
 俺達は学校まで約二kmの道のりを全力疾走で帰った。

 翌朝、いつものようにラフェの部屋に入ると、ラフェが興奮気味に話し始めた。
「日生、聞いてくれ! たまってるんだよ!」
「乳酸か?」
 確かに昨日はかなり走ったもんな。おかげで朝から全身が筋肉痛だ。
「全然違う! 魔力がいつもより多くたまってるんだ!」
「ほんとか!?」
 ラフェによると昨日部屋に戻ってふと魔力のゲージを見ると、いつもは一日で数%しかたまらないのに、昨日は十%以上も増えていたんだという。昨日と言えば、たくさん走ったから、もしかするとランニングが魔力をためるのに効果があるんじゃないか…?
 でも昨日みたいに外に出て毎日ランニングするのはもうこりごりだ。高木先輩にランニングマシンを導入できないか交渉してみようと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメンストーカーに目を付けられましたが全力で逃げます!

Karamimi
恋愛
中学卒業間近に、ラブレターを晒されるというトラウマ的出来事を経験した渚。 もう男なんて大っ嫌い!絶対彼氏なんか作らない! そう決意したはずなのに。 学年一のイケメン、片岡隆太に告白される。 これはきっと何かの間違いだ… そう思っていたのに… どんどんストーカー化する隆太、周りもどんどん固められていき、追い詰められる渚! この絶体絶命の自体に、渚は逃げ切れるのか!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...