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犬騒動の果て
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俺達は目当ての八百屋の前に移動した。
「すいません、ちょっと聞きたいんですけど…」
俺が声をかけると、店の奥からハチマキを巻いたおじさんが出てきた。
「なんだい、おすすめかい? 今日は春キャベツや新じゃがいもなんかが…」
「いえ…聞きたいのはおすすめではなくて、最近、赤い首輪をつけたトイプードルが来てませんでしたか?」
「赤い首輪をつけたトイプードル…? ああ! 確かに来てたよ。」
「俺達、飼い主に頼まれてその犬を探してるんです。一昨日から行方不明になってるみたいで。」
「そうだったのかい。確かに昨日来た時もこっちをじっと見つめてくるから、腹が減ってるのかと思って大根を少し分けてやったんだよ。やけに毛並みのいい野良犬だと思ったら飼い犬だったのかい。」
おじさんは壁にかかった時計にちらっと目をやった。
「そう言えば、昨日うちの店に来たのもこんな時間だったなぁ。もし味を占めていたらまた来るかもしれないな。」
「それは本当か!?」
ラフェが興奮したように身を乗り出してきた。
「おや、嬢ちゃんも犬を探してるのかい。兄ちゃんの手伝いをしてえらいなぁ。」
どうやらこのおじさんにはラフェが小中学生くらいに見えるらしい。ラフェはわなわなと体を震わせた。
「こいつは兄じゃないし、私も嬢ちゃんではない! 私は魔界ムグゥ…」
慌ててラフェの口元を押さえる。
「まかい?」
おじさんは首を傾げた。これはまずい…!
「ま…まるいです! 『私は丸い野菜が好き』って言ってるんです!」
「そうかぁ。野菜が好きとは嬉しいな。」
そう言っておじさんが笑う。ふぅ…何とか誤魔化せたらしい。
「探してる犬が来るかもしれないし、しばらくここで待つかい?」
「ありがとうございます。そうします。」
おじさんの許可が出たため、店の中で待たせてもらうことにした。
しかし、一時間待っても犬は現れなかった。
「見つからなかったな…」
「ああ…」
俺達は最初にいた河川敷に戻ってきた。もうすぐ日が落ちそうで、あたりに人はいなくなっていた。
「あの人の家族、見つけてあげられなかった。」
ラフェは悲しそうに俯いた。
「そう言えば、ラフェは魔法で探したりできないのか?」
「半径十kmの範囲にある建築物を全部破壊して、更地にすることは出来る。」
「おお…それはやめてくれ…」
「大体、そんな簡単に探せるならもうとっくにやってる! それが出来ないから、こんなに必死になって探してるんだ!」
「そうだな…悪い。」
沈黙が流れる。ラフェがこんなにしゃべらないってことは相当落ち込んでるんだな。
「依頼人には俺から連絡する。本当はなんでも屋なんかじゃないって正直に話して、お金も返す。なんでも屋はプロだから、犬もすぐに見つかるんじゃないか。」
「本当か…?」
ラフェがすがるような目で俺を見つめてくる。
「ああ。だからとりあえず、八百屋のおじさんからもらったジャガバタ食べて元気出せよ。ほら。」
俺はラフェの手を取って、まだほんのり温かいジャガバターを持たせた。
「うん…そうする。いただきます。」
ラフェは一口齧った。
「おい、しい…」
ラフェが呟くと、優しい風が吹いた。隣を見ると、角と尻尾が現れている。
「メンチカツよりも気にいったのか?」
シュークリーム食べた時も出てたし、気に入った食べ物を食べると出る仕組みなのか?
「んー、どっちも美味しかったぞ。…ってまた私の角と尻尾見ただろ!」
そう言って俺を睨みつけてくる。
「いや、そっちが勝手に出したというか…」
「言い訳なんて見苦しいぞ!」
「…理不尽だ。」
俺はジャガバターを齧った。
「ちょっと、日生! 尻尾を見るのも大罪なのに触るなんて…!」
「いや、俺触ってないけど…」
俺達は尻尾に目を向ける。そこには赤い首輪をつけたトイプードルが尻尾にじゃれついていた。
「あー!?」
「いたー!」
俺らの声に犬がビクッと反応する。そして回れ右をした。
「いけラフェ! 絶対に逃すな!」
「指図するな!」
ラフェは綺麗な身のこなしでスタートダッシュを決め、見事に犬を捕獲した。
「本当に…本当に…ありがとうございます…」
依頼人は犬を抱いて、俺達に何度も礼を言った。
「なんてお礼をしたらいいか…」
「依頼料はすでにいただいています。仕事ですので。」
依頼人と別れた後、ラフェは俺の脇腹をつついた。
「なーにが、『仕事ですので』だ! あんなに乗り気じゃなかったくせに。」
「だってさっきはそう言わないと更になにか渡してきそうだったから! それにラフェだって、最初は好奇心で首突っ込んだだけだろ!」
「そ、それは…でもちゃんと見つけられたんだからいいじゃないか!」
「…だな。俺もそう思うよ。」
その時、俺のスマホが鳴った。
「もしもし?」
『もしもしじゃない! いつまで外にいるんだ! 早く帰ってこい!』
そう言って一方的に切られた。
「誰だ?」
ラフェが尋ねる。
「高木先輩。帰りが遅いってご立腹。」
「うわぁ…潔はマズいな…」
「急いで帰るぞ!」
俺達は学校まで約二kmの道のりを全力疾走で帰った。
翌朝、いつものようにラフェの部屋に入ると、ラフェが興奮気味に話し始めた。
「日生、聞いてくれ! たまってるんだよ!」
「乳酸か?」
確かに昨日はかなり走ったもんな。おかげで朝から全身が筋肉痛だ。
「全然違う! 魔力がいつもより多くたまってるんだ!」
「ほんとか!?」
ラフェによると昨日部屋に戻ってふと魔力のゲージを見ると、いつもは一日で数%しかたまらないのに、昨日は十%以上も増えていたんだという。昨日と言えば、たくさん走ったから、もしかするとランニングが魔力をためるのに効果があるんじゃないか…?
でも昨日みたいに外に出て毎日ランニングするのはもうこりごりだ。高木先輩にランニングマシンを導入できないか交渉してみようと思った。
「すいません、ちょっと聞きたいんですけど…」
俺が声をかけると、店の奥からハチマキを巻いたおじさんが出てきた。
「なんだい、おすすめかい? 今日は春キャベツや新じゃがいもなんかが…」
「いえ…聞きたいのはおすすめではなくて、最近、赤い首輪をつけたトイプードルが来てませんでしたか?」
「赤い首輪をつけたトイプードル…? ああ! 確かに来てたよ。」
「俺達、飼い主に頼まれてその犬を探してるんです。一昨日から行方不明になってるみたいで。」
「そうだったのかい。確かに昨日来た時もこっちをじっと見つめてくるから、腹が減ってるのかと思って大根を少し分けてやったんだよ。やけに毛並みのいい野良犬だと思ったら飼い犬だったのかい。」
おじさんは壁にかかった時計にちらっと目をやった。
「そう言えば、昨日うちの店に来たのもこんな時間だったなぁ。もし味を占めていたらまた来るかもしれないな。」
「それは本当か!?」
ラフェが興奮したように身を乗り出してきた。
「おや、嬢ちゃんも犬を探してるのかい。兄ちゃんの手伝いをしてえらいなぁ。」
どうやらこのおじさんにはラフェが小中学生くらいに見えるらしい。ラフェはわなわなと体を震わせた。
「こいつは兄じゃないし、私も嬢ちゃんではない! 私は魔界ムグゥ…」
慌ててラフェの口元を押さえる。
「まかい?」
おじさんは首を傾げた。これはまずい…!
「ま…まるいです! 『私は丸い野菜が好き』って言ってるんです!」
「そうかぁ。野菜が好きとは嬉しいな。」
そう言っておじさんが笑う。ふぅ…何とか誤魔化せたらしい。
「探してる犬が来るかもしれないし、しばらくここで待つかい?」
「ありがとうございます。そうします。」
おじさんの許可が出たため、店の中で待たせてもらうことにした。
しかし、一時間待っても犬は現れなかった。
「見つからなかったな…」
「ああ…」
俺達は最初にいた河川敷に戻ってきた。もうすぐ日が落ちそうで、あたりに人はいなくなっていた。
「あの人の家族、見つけてあげられなかった。」
ラフェは悲しそうに俯いた。
「そう言えば、ラフェは魔法で探したりできないのか?」
「半径十kmの範囲にある建築物を全部破壊して、更地にすることは出来る。」
「おお…それはやめてくれ…」
「大体、そんな簡単に探せるならもうとっくにやってる! それが出来ないから、こんなに必死になって探してるんだ!」
「そうだな…悪い。」
沈黙が流れる。ラフェがこんなにしゃべらないってことは相当落ち込んでるんだな。
「依頼人には俺から連絡する。本当はなんでも屋なんかじゃないって正直に話して、お金も返す。なんでも屋はプロだから、犬もすぐに見つかるんじゃないか。」
「本当か…?」
ラフェがすがるような目で俺を見つめてくる。
「ああ。だからとりあえず、八百屋のおじさんからもらったジャガバタ食べて元気出せよ。ほら。」
俺はラフェの手を取って、まだほんのり温かいジャガバターを持たせた。
「うん…そうする。いただきます。」
ラフェは一口齧った。
「おい、しい…」
ラフェが呟くと、優しい風が吹いた。隣を見ると、角と尻尾が現れている。
「メンチカツよりも気にいったのか?」
シュークリーム食べた時も出てたし、気に入った食べ物を食べると出る仕組みなのか?
「んー、どっちも美味しかったぞ。…ってまた私の角と尻尾見ただろ!」
そう言って俺を睨みつけてくる。
「いや、そっちが勝手に出したというか…」
「言い訳なんて見苦しいぞ!」
「…理不尽だ。」
俺はジャガバターを齧った。
「ちょっと、日生! 尻尾を見るのも大罪なのに触るなんて…!」
「いや、俺触ってないけど…」
俺達は尻尾に目を向ける。そこには赤い首輪をつけたトイプードルが尻尾にじゃれついていた。
「あー!?」
「いたー!」
俺らの声に犬がビクッと反応する。そして回れ右をした。
「いけラフェ! 絶対に逃すな!」
「指図するな!」
ラフェは綺麗な身のこなしでスタートダッシュを決め、見事に犬を捕獲した。
「本当に…本当に…ありがとうございます…」
依頼人は犬を抱いて、俺達に何度も礼を言った。
「なんてお礼をしたらいいか…」
「依頼料はすでにいただいています。仕事ですので。」
依頼人と別れた後、ラフェは俺の脇腹をつついた。
「なーにが、『仕事ですので』だ! あんなに乗り気じゃなかったくせに。」
「だってさっきはそう言わないと更になにか渡してきそうだったから! それにラフェだって、最初は好奇心で首突っ込んだだけだろ!」
「そ、それは…でもちゃんと見つけられたんだからいいじゃないか!」
「…だな。俺もそう思うよ。」
その時、俺のスマホが鳴った。
「もしもし?」
『もしもしじゃない! いつまで外にいるんだ! 早く帰ってこい!』
そう言って一方的に切られた。
「誰だ?」
ラフェが尋ねる。
「高木先輩。帰りが遅いってご立腹。」
「うわぁ…潔はマズいな…」
「急いで帰るぞ!」
俺達は学校まで約二kmの道のりを全力疾走で帰った。
翌朝、いつものようにラフェの部屋に入ると、ラフェが興奮気味に話し始めた。
「日生、聞いてくれ! たまってるんだよ!」
「乳酸か?」
確かに昨日はかなり走ったもんな。おかげで朝から全身が筋肉痛だ。
「全然違う! 魔力がいつもより多くたまってるんだ!」
「ほんとか!?」
ラフェによると昨日部屋に戻ってふと魔力のゲージを見ると、いつもは一日で数%しかたまらないのに、昨日は十%以上も増えていたんだという。昨日と言えば、たくさん走ったから、もしかするとランニングが魔力をためるのに効果があるんじゃないか…?
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